第30話 グループ集め
それからしばらく経ち七月がやってきた。
ロッカー事件に関してはからかわれることを避けるため、
そんなある日のホームルーム。
今後の予定を
「はーい。聞いて。来週から二泊三日の修学旅行があるからそのつもりで。まず一日目に奈良を回って京都で泊まります。次の日、京都を観光して大阪で泊まります。そして最終日、大阪を観光して帰ります。宿泊施設ではクラス毎の男女で分けますが、観光の際は全クラス合同移動となるので観光用の六人組を作ってください。その組はこのクラス以外のメンバーでも構いません」
説明を聞くと教室中が色めき立つ。
そしてホームルーム後の休み時間に千宮さんとふたりで話す。
「修学旅行かぁ。楽しみぃ」
「そうですね。六人って言ってましたから、家に集合した六人にしましょうか?」
「そうだね。私でしょ、
「今日の昼休みにでも誘ってみましょう」
「そうだね」
ワクワクしながら昼休みを待つ。
その時間になり、まずは隣のクラスへ。
「美心ちゃん、ちょっとちょっと」
呼ばれてこちらへ来てくれる。
「なに?」
「修学旅行の組、一緒に組も?」
「誘いに来てくれたのね。良いわよ」
「やった。じゃあ、あとの三人の所に行こー」
経堂さんも付いてきてくれた。あとのメンバーに関しては説明しなくても察しがついているようだ。
更に隣のクラスへ。
「玲羅ちゃん、ちょっと」
ゆっくりと歩いてくる。
「修学旅行の組、一緒に組も?」
黙って頷いている。
「望岡くんも誘うからイチャイチャできるよ?」
「……」
あ、無言だけど顔が赤い。喜んでいるようだ。
その
「優芽ちゃーん、ちょっと」
読んでいた本を机にしまい、こちらへ。
「その様子だと修学旅行の組ですか?」
「そうそう」
「是非、ご一緒したいです」
「よしっ、あとひとりだ」
「おーーい。望岡くーーん」
あ、今何か急いで机の中にしまったような……。何だろう。
気まずそうにこちらへ。
「な、何?」
「ねえ、望岡くん、何読んでたの?」
「えっ!? あ、アレだよ、ファッション誌だよ。玲羅に似合う服ないかなぁって」
「ホント?」
下から千宮さんが覗き込んでいる。何故か
「読んでるとこ、見たことない」
突然、無口なはずの鵜山さんが少し浮かない顔で話し出す。一応、会話は出来るのだと分かった。
「さ、最近、読むようになったんだ。ほら、誕生日近いだろ?」
「私八月。まだ一ヶ月もある」
「いやいや、ほら、アレだよ。事前準備だよ。プレゼントは長く検討した方が良い物を選べるし」
秀馬、顔に汗が滲んでいるよ。嘘をついているんだね。どこまで持つだろうか。
「この前……家で……ベッド下……見た」
「――ッ!」
秀馬が真っ青な顔をしている。
「え、なになに? 何があったの?」
すごく喜んで千宮さんが聞いている。悪代官だ。
「え、えっちな……本」
「うわあ、望岡くんやらしーんだー」
「ちょ、ちょっと玲羅言うなよっ。琉生、助けてくれっ」
この状況、ムリです。
「まあ、男の子だったら仕方ないと思いますよ」
「え、琉生くんも隠してるの?」
「僕は一冊もないです」
「琉生、まさか男が好きなんじゃないだろうな?」
「「えっ!?!?」」
何故そこで千宮さんと経堂さんが同時に叫ぶの? そんなわけないでしょ。秀馬とラブロマンスを送るとでも言うんですか?
「いや、僕はノーマルです。女の人が好きですよ」
「なあんだ、良かったぁ」
何故良かったぁなんですか? 千宮さんに何の利点があるというのか。
「そうだ、さっきの本を発掘しに行こー」
「あ、や、千宮さんやめてっ」
秀馬が千宮さんの腕をつかむ。しかし、うしろから鵜山さんにつかまえられ、泣く泣く手を放した。
結局、一団が秀馬の机へと歩む。公開処刑だ。可哀想に。
「流石に五組の人にバレたら可哀想だからみんな回り囲んで?」
秀馬の席に座る千宮さんの周りを秀馬も含め、五人が囲む。周りからすれば何をしているんだ状態だ。
「良い? 出すよ?」
千宮さんが机の中に手を突っ込んでいる。その本を掴んだのだろう。秀馬には可哀想だが、ドキドキする。
「ほいっ!」
取り出された本を見てみると恋愛指南本のようだ。そっち系の本ではなさそうだ。
「なんだ、やましいものじゃなーい」
「そ、そうだろ? も、もう良いかな?」
アレ? 本の表紙の右下辺りを秀馬が押さえている。何かを隠すかのように。
「あなた、手をのけなさい」
「え、何のことですか?」
「その右下よ」
洞察力に優れた経堂さんだけが見破った。他は全く気付いていなかったようだが。
「な、何もありませんよ」
「あーー、気になるぅーー」
千宮さんに火がついてしまう。本の上に置かれた手の指を一本ずつ外している。
「た、助けてっ、琉生っ!」
親友のため僕は秀馬の手の上に手を置いた。
「あっ! 琉生くんが裏切ったっ。やっぱ男が好きなんだ」
「これだから男は。浮気をした友人を男はかばいたがると良く言ったものだわ」
そんなつもりはなかったのに非難の嵐だ。
「よーしっ、それなら」
「「えっ!?!?」」
千宮さんが椅子から立ち、自分の胸を僕たちの手の上に置こうとしてきた。シャイな僕たちは一瞬にして手をのけた。
「やった! なになに……」
親友を裏切った結果となったが、僕たちはふたりとも手汗でべっちょりだった。女の子は怖い。
「彼女の誕生日に一線を越える方法……。女が喜ぶ夜のポイント……」
千宮さんが小声で読み上げた瞬間、鵜山さんの顔が火だるまになる。湯気が出そうなほどだ。
「ち、違うっ、玲羅。もしものためなだけで誘おうなどとは」
「ねえ、玲ちゃん。秀ちゃんともう長いんだからそろそろ」
幼馴染のふたりが説得をしている。僕たちは蚊帳の外で見るしかない。
「ねえ、玲羅ちゃん。好き同士なら悪いことじゃないよ? ガッと行っちゃった方が良いよ」
「あなたね。言ってて恥ずかしくないの?」
「美心ちゃんだって好き同士ならしたいでしょ?」
「えっ!?!? わ、私は……」
あの経堂さんがタジタジになっている。ギャップ萌えで可愛い。
「……秀馬に……任せる」
そう言って鵜山さんは走り去って行った。
「え、今のってOKってこと?」
震える声で秀馬が聞いてくる。
「だと、思うよ? おめでと」
「ぃやったっ! 俺もとうとう……」
喜ぶ秀馬を何故かしらーっとした目で千宮さんと経堂さんが見ている。何故だろう。上手くいったことを喜ばないの?
「良かったね、秀馬」
「ああ、琉生のおかげだ。そうだ、お礼にこの本お前にやるよ」
恋愛指南本なんて僕がもらって何の役に立つのだろう。僕はテストに関わる分野のみを勉強したいのだが。変な知識を入れて受験に支障が出ては困るから。
「いや、要らないよ」
「遠慮すんなって。良い勉強になるぞ?」
「いや、僕がこんなもので勉強をしても使う機会がないから宝の持ち腐れだよ」
「「はぁ」」
隣で千宮さんと経堂さんが溜息をついている。何故だろう。
「美心ちゃんご飯食べに行こっか」
「そうね」
「え、じゃあ、僕も」
「今日は女子だけで食べに行きたいの。あ、優芽ちゃんも行こ?」
「はい、お供します」
女子三人が食堂に行ってしまった。
「なんで?」
「琉生、だからこの本を読むんだって。お前は勉強不足なんだって」
「あ、ありがとう」
手渡された本を受け取ってしまった。恋愛について勉強不足くらいは分かっている。だって、恋愛したことないんだから。今後も恋愛する機会なんてないんだから。
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