第27話 無口なカノジョ

 しゅうと友達になった週の日曜日。

 千宮せんのみやさんのお言葉に甘えて自宅に秀馬のカップルを呼ぶことにした。今、その旨を伝えるため電話をしている所だ。


『おぉ、琉生るい。どうした?』

「あ、秀馬。今日時間空いてる?」

『大丈夫だけど、何だ?』

「この間言っていたやまさんの話だけど、解決出来るかも知れないから家に来てくれる? 場所を教えるから」

『ホントか! 行く行く』


 友になって数日経つのだが、反応が怖くて千宮さんとの同居についてはまだ語っていない。でも、きっと秀馬なら納得してくれると信じている。


『で、どうやって解決するんだ?』

「女子を家に呼んだから直接鵜山さんに聞いてもらうことにしたんだ」

『えっ、琉生って女子友いるん?』

「ま、まあ、一応」

『見かけによらず、結構遊んでるんだな』


 勘違いしている。僕をハーレムの貴公子か何かと。これはマズい。弁解しないと。


「違うんだ。そのうちひとりはたけさんだし、もうひとりは妹で。あとのふたりは……」

『おいおい、そんないるのかよ。多すぎないか?』


 確かに多い。言っていて自分で思った。ハーレムとされてもおかしくない状況だ。だが、ふたりとのことだけは誤解されては困る。


「いや、あとのふたりはちょっと事情があるんだ」

『えっ!? 二股!? 琉生、ダメだぞ』

「いやっ、違うんだっ」

『まあ、良いわ。兎に角予定時間に行くから。それじゃ』


 あ、電話切られちゃった。何にも解決していないというのに。僕は説明下手だな。

 時計を見ると午前九時。予定時刻は午後一時としている。昼食を食べてからの合流だ。

 先に千宮さんと理衣りいにそのことを伝えないといけない。決断をして一階におりる。


「あ、お兄ちゃんも食べる?」


 見るとふたりでアイスを食べている。先程朝食を食べたばかりだというのに。


「いや、僕はいいよ。それよりふたりに話があるんだ」

「えっ、琉生くん、愛の告白?」

「ち、違いますよっ。前に千宮さんに相談した件について今日頼みたいんです」

「なんだっけ?」


 もう忘れているようだ。あれだけ約束したというのに。


「僕の友達の彼女さんのことですよ。無口なタイプが何を考えているのか判断して欲しいと」

「あぁ、そんな話あったね。良いよ別に」

「えーー、何か面白そー。私も聞きたい」

「是非お願いするよ。理衣にも頼もうと思ってたから。ひとりでも意見が多い方が良いし。あっちは真剣に悩んでるから」

「で、あとは誰呼ぶの?」


 ちょっと! きょうどうさんを呼ぶって自分で言っておきながらそれも忘れている。一度寝たら全部吹っ飛ぶのだろうか。


「経堂さんも呼ぶって千宮さんが言ってたじゃないですか」

「そうだっけ? んじゃ、あとで電話しとくぅ」

「お願いします。僕は武樋さんに電話をして呼びかけますんで」

「あ、良いよ良いよ。優芽ゆめちゃんにも私から電話しとくぅ」

「いえ、これは武樋さんとの約束でもあるので僕が」

「電話しないで! 私がするのぉー!」


 何で怒っているんだ? まあ、僕としては好都合だけど。


「じゃあ、お願いします」

「ほい」


 機嫌を直し、アイスを食べ進めていく。


 それから数時間が経過し、その時がやってきた。

 まず最初にやってきたのは経堂さんだった。時間に正確なタイプだからだ。


「あら、冨倉とみくらくん、こんにちは」

「今日はすみません。僕の頼みでこんな」

「あなたの頼みなら聞くわ」


 余程信頼してくれているようだ。良い友達関係だ。


「あっ、美心みこちゃんあがってあがって」

「ええ」


 リビングに千宮さんと経堂さん、そして理衣が固まっている。あと三人だ。

 次に到着したのは武樋さん。こちらも時間には正確なタイプだ。


「あ、武樋さん。すみません、わざわざ」

「いえいえ、私の幼馴染の件ですから。それに冨倉くんの家に一度来たいと思っていたので」

「あ、そうですか。なら良かったです」


 僕は少し怖くなっていた。狙われているのではないかという不安だ。殺すターゲットとして見定めるのではないだろうか。以前の本から男を憎んでいる感があるから。


「あ、優芽ちゃん。あがって」

「あ、千宮さん。この家にお邪魔するの初めてですね。綺麗な家ですね」

「そーでしょー」


 いや、それ僕と理衣が掃除をしているからなんだけど。千宮さんは掃除した場所にポロポロ零すんだけど。


 最後にやってきたのが秀馬カップルだ。鵜山さんとは初めて会うのでとても緊張する。


「おいっす。来たぞ」

「あ、秀馬。よく来てくれたね。さあ、あがって」

「いや、それがさ。れいが来ないんだよ」

「えっ!? 当事者が来なかったら意味ないじゃないか」

「いや、あそこから動かないんだ」

「えっ!?」


 玄関を出て外を見てみると電信柱の陰でひっそりと佇む美少女がいる。背が低く、子どものようだ。


「あぁ、玲ちゃんは人見知りですから」


 うしろから武樋さんの声が聞こえる。


「よーしっ、私に任せなさい」


 僕の横を通って千宮さんが出て行く。大丈夫だろうか?

 玄関口から僕と秀馬が見守っていた。背の大きなお姉さんに説得される妹のようだ。さあ、おいで、とでも言っているのだろうか。距離があって声は聞こえないが、彼女は首を横に振るばかりだ。千宮さんが右手を引っ張るもイヤイヤを繰り返している。


「あれじゃ、埒が明かないわね。しょうがないわね」


 僕の隣をくぐり抜け、今度は経堂さんがあのふたりの場所に向かう。だが、経堂さんでも厳しいと思われる。


 ところが、経堂さんがふたりに何かを言った途端、ふたりは素直に頭を縦に振っている。というより、なんで千宮さんもお説教を食らっているみたいになってるの? 何を言われたの?


「あの子、すごいな」

「そ、そうだね」


 三人がこちらに来る。何を言われたのですか、という質問は怖すぎてやめておくことにした。

 玄関をあがり、リビングに全員が集結する。総勢七人、かなりの人数だ。座り切れないのでダイニングの椅子に僕と理衣と千宮さんと経堂さんが座り、リビングのソファに幼馴染三人が座っている。


「ねえ、とりあえず、自己紹介してよ」


 千宮さんの掛け声で秀馬が立ち上がる。


「俺、望岡秀馬って言います。三年五組です。最近琉生と友達になりました。あと、こいつらとは小学生の頃からの馴染みです」


 近くに座るふたりを指差して言っている。


「んじゃ、彼女も」


 千宮さんが言うも一向に立ち上がらない。


「ね、ねえ、玲ちゃん。自己紹介は?」

「……」


 幼馴染の武樋さんが言っても無理のようだ。


「さっきのこと、してもらおうかしら?」

「――ッ!」


 経堂さんが言うと、急に顔色が変わり立ち上がった。だから、何を言ったんですか? マフィアみたいで怖いんですけど。


 立ち上がったその子を見たが、とても愛らしかった。だが、印象としては暗いという方が強い。背はこの中で一番低いために愛らしく見えるが、シャギーカットされたショートヘアの前髪だけが異様に長く、片目が見えないからだ。どう見ても美形なのに何故顔を隠すのだろうか。僕でも顔を晒しているというのに。


「……う、う、鵜山……れ、玲羅……三組……」


 その自己紹介から分かった。この人は秀馬にだけ冷たいのではなく、世の全ての人が苦手という印象だ。そんな人が秀馬と手をつないでいるということはそれだけで好きだと分かるのに。僕は鈍感ですけど、分かりますよ。


「ほら、もっとはきはきしなさい。あなたは望岡くんのことが好きなの? 嫌いなの?」


 経堂さんは直球で攻めてくる。まったく変化球がない。


「……言え……ない」

「はぁ、これは厳しいわね。ちょっとふたり外してくれる? 女子だけで話をするわ」


「「は、はいっ!」」


 姉御に言われているかの如く、僕たちは急いで二階にあがる。そして、僕の部屋に入った。

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