第26話 男友達
ある日の放課後、
だが、図書室で借りたい本を思い出し、踵を返す。
図書室のドアを開けると、受付で誰かが話をしている。片方が
「あっ、
「えっ」
不意に武樋さんから呼び止められる。そして、男子生徒がこちらを振り向く。茶髪の爽やかな美男子だ。僕とは正反対だ。モテそうだ。
「何ですか?」
「あ、
「はぁ」
僕と何の関係があるのだろうか。
「秀ちゃんには彼女が居て、あ、その子も私の幼馴染なんですけど、その子のことで悩んでて、男同士の方が分かり合えるかなと思って」
いやいや、絶対ムリですよ。僕モテませんから。どうやって断ろう?
「とりあえず、あっちで話そうか」
「あ、はい」
何かカツアゲに遭うみたいで怖いんだけど。僕男友達ひとりも居ないからなぁ。
ふたりで図書室奥の席に座る。周りには誰もない。
「とりあえず自己紹介だな。俺は
「あ、僕は冨倉
「じゃあ、琉生。相談しても良いか?」
え、即呼び捨て? 馴れ馴れしくない?
「はい、どうぞ」
「俺の彼女なんだけど、ああ、
「幼馴染と聞きましたが、昔から無口なんですか?」
「そうなんだ。そのミステリアスな感じに好意を持ったんだけど、本当に俺のこと好きなのかすら分かんなくなってきて」
意外にも純情な悩みだった。無口なタイプは確かに辛い。千宮さんや経堂さんは結構話すタイプだからこちらは受け身で居られるが、こちらから行くとなると僕なら無理だな。ずっと無言になるだろう。
「直接言ってみてはどうですか? 何を考えているの、とか?」
「そんな恥ずかしいこと出来るわけ無いだろっ。俺はシャイなんだから」
あら、こんな美男子が何を言っているの? ガンガン行けばおモテになるのに。僕なんてシャイだなんて言ってたら一生ぼっちですよ。
「じゃあ、何かをあげてみて反応を見るというのは?」
「それはやった。財布をあげても服をあげても、何をあげても無表情でありがとっていうだけだった」
「それは辛いですね。お互いにシャイということもあるかもしれません。女子の前では饒舌だとか」
「いいや、
「そう……ですか」
武樋さんの前でも無口とは辛いな。同性異性に関わらず無口は生まれながらにしてということだ。なかなか改善しにくい。
「だから……その……なんだ、小学生の頃からの幼馴染なのに未だに一線を越えられないままっていう感じなんだ」
「それは長いですね。男性恐怖症ではないんですよね?」
「たぶん大丈夫だと思う。俺と手はつなぐから」
手はつなぐが、そういう行為にはならない。さっぱりわからない。こういう相談って男子よりも女子に聞いた方が分かる気がするのだが。
「武樋さんは幼馴染だからその鵜山さんのことを知り過ぎて分からないということがあるかもしれません。僕の知り合いに女子がふたりいるので聞いてみます。同性から見てその子のことをどう思うか参考になると思うので」
「あ、それは名案だな。じゃあ、一回聞いてくれるか?」
「はい。また明日、ここで会いましょう」
「じゃあさ、連絡先交換しとこう」
「良いですよ」
武樋さんの幼馴染なら悪い人では無いはずだ。それにこれで初めての男友達ができるかもしれないし。親友にまでなれたら良いなぁ。
ポケットからスマホを取り出し、お互いに交換した。
「それでは」
「なあ、その敬語やめようよ」
「えっ、僕はこのスタンスなんですが」
「俺たち友達だろ?」
えっ!? 良いの? 僕と友達になってくれるの?
「分かりました、あ、いや、分かったよ」
「お、それが良いよ。親しいって感じがするから。俺のことは秀馬って呼んでくれ」
「じゃあ、秀馬、よろしく」
「ああ、琉生、よろしくな」
僕たちは椅子から立ち上がり、固い握手を交わす。とうとうできた。十七年間できなかった男友達が。本当に嬉しかった。まあ、天と地の差の顔面偏差値だが。僕が茶髪にしたらおサルさんになっちゃうよ。
秀馬と別れ、図書室を後にした。
そのまま帰り路を歩いていると図書室で本を借りていないことに気が付いた。何をしに図書室へ行ったんだという話だ。まあ、友達を作りに行ったと思えばお釣りが来る。今日は良い日だ。
自宅に着き、二階にあがる。玄関の靴を見たが、まだ千宮さんは帰ってきていないらしい。相談しようと思った時に限っていない。
しばらくすると玄関ドアが開かれる音がする。どっちだろうと思っているとドアがノックされる。
「はい」
返事をすると、ドアが開き、千宮さんが顔を出す。
「どもども」
制服姿に大量のお菓子を抱えている。
「えっ、何ですか、ソレ?」
「コレ買いに行ってたの。ここで食べて良い?」
「良いですけど」
夕食前にお菓子と食べるとは。歯医者での一件を懲りていないと見える。だが、好都合だ。秀馬の彼女のことを尋ねてみよう。
「あの、ちょっと良いですか?」
「何? 琉生くんも食べたいならあげるよ?」
「いや、僕は良いです。女の子のことを知りたいんです」
「えっ!? き、急だね。ちょっと心の準備が」
しまった! 何か勘違いしている。手で体を隠してモジモジしている所を見ると、そっち系のことを知りたいと言った風に取られている。
「ち、違いますよっ。性格です、女の子の性格についてです」
「え、何、好きな子でもできたの?」
え、何でそんな無表情になるの? 怖い怖い。
「そんな人は居ません」
「好きな子居ないのっ!?」
いや、話が全く進まないので、茶々を入れないでもらいたい。
「と、兎に角、話を聞いてください。知り合いからの相談なんですが、彼女が無口で困っているとのことでした。何をしゃべっても何をあげても無表情でありがとうというだけのようです。一体、彼女さんは何を考えていると思いますか?」
「鬱陶しいなぁ、じゃない?」
「え、本当ですか? でも、手はつないでもらえるらしく、小学生からの幼馴染だそうです」
「あ、そういうパターンあるある。男の子の方は幼馴染属性好きだからたぶん相手も好いてくれてるって思ってるけど、意外と女の子の方は腐れ縁だし居るけど、良い人居たら乗り換えよって思ってるのよ」
そ、そんな……。女の子怖い。秀馬に言えないよ。
「それ、見抜く方法ありますか?」
「押し倒しちゃえば? 腐れ縁でそばにいても嫌いだったら流石にはねのけるだろうし」
「それがその彼氏さんはシャイでそういう行為はできないそうです」
「それじゃあ、難しいなぁ。その子って誰に対しても無口なの?」
「はい、武樋さん、いや、同性に対してもそうらしいです」
「今、優芽ちゃんの名前言わなかった?」
しまった。まあ、秀馬に内緒だとは言われていないし、言ってしまおう。
「実は武樋さんの幼馴染のお二人のお話でした」
「へえ、優芽ちゃんにそんな幼馴染が居たんだぁ。それじゃあ、ここに連れて来てよ。その彼氏くんと彼女ちゃん。美心ちゃんも呼んで話し合うから」
「本当ですか? 助かります」
いや、そうは言ったものの、秀馬に同居の件を言わなければならなくなるが。まあ、これからずっと友達でいるつもりなら隠し通せるわけないし、仕方ない。
「ねえ、ところでさあ、好きな子いるの?」
「えっ!? まだそれ聞きますか。言いません」
「あっ、言いませんってことは居るんだぁ!」
「……」
どうしよう。目を閉じて黙ってしまったけど、僕の顔赤いだろうなぁ。
「顔赤いよ? ねーえー、教えてよー」
ほら、やっぱり。
その後は無言を通し切った。好きな子と言われた時に千宮さんと経堂さんのふたりの顔が浮かんでしまったことは内緒だ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます