第4話
それから、颯太は病院へ運ばれ緊急手術がなされた。
どうにか一命を取り留めたのだが、昏睡状態に陥るいつ目覚めるかもわからない状態になったのだ。
それから月日が流れていき、私は華を育てながら、颯太の面会を続けている。それができるのは、私や彼の両親や兄弟の協力があってのことだった。
颯太がこんな状態になったとはいえ、恵まれた環境にいることに心から感謝した。
「颯太。もしかしたら、今年は色づくかもしれないわ」
私はいつものように話しかける。
もう九月になった。
あれから三年。
去年も一昨年もシチメンソウが赤く色づくことはなかった。
枯れたシチメンソウ。それをどうにかよみがえらせようと努力がなされているのだが、一向に芽が出ない状況がづ付き、希望さえも失いたくもなる。それでもがんばっている人たちがいる。いつか蘇ることを願って、必死にやっていることを知って、私も希望を捨てたくないと思った。
いつか目覚めてくれる。
いつか蘇ってくれる。
それだけを願って、颯太に話かける。
そういえば、シチメンソウの面倒を見ている女性がこんなことをいっていた。
「植物も生きているとよ、いまは枯れとるけど、必死に生きようとしとるとおいは信じとる。だから、いつも話かけるとよ。かんばれ、がんばれってさ。人間も同じばい。生きとるかぎり、どがん状況でも元気になれるはずばい。だから、あきらめたらいけん。おいたちは、いつか蘇らせるけん。あんたの旦那が目を覚ますころには赤いじゅうたんが見れるはずやからな」
そういって、笑っていた。
そうだ。
あきらめたらいけない。
颯太もきっと必死に生きようとしている。
信じるんだ。
ぜったいに颯太は目覚める。
そして、よみがえったシチメンソウを颯太と華の三人で見に行くんだ。
「颯太。頑張れ。ぜったいに目を覚ませるわ。そしたら、シチメンソウ見に行こう。そうだわ。颯太が言っていたよね。あそこで挙げよう。あそこで私たちの結婚式あげようね」
颯太の手を握ろうとする、けれど、手を止める。
握りたい。
でも、握れない。
もどかしい。
どうしてこうなってしまったのだろうか。
いつ感染症がなくなるなか。
颯太が目覚めたら、その手を握ることができるのだろうか。
「大丈夫。絶対に大丈夫よ。颯太も目覚める。感染症も終息するはずよ。大丈夫」
私は自分に言い聞かせた。
「あ、もう10分たったわ。また明日くるわね」
私はいつものように病室を去った。
だから、私は気づかなかった。
かすかに希望の光が照らされていることに……。
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