第3話

 それは、四年前の秋のことだった。


 颯太とは高校時代からの同級生で、私が告白したことから交際がスタートした。

 高校を卒業して、地元の大学にお互い進学。そのまま、地元へ就職というルートだったこともあり、彼との交際は八年ほど続いていた。


 そんなある日、

 私も颯太も就職した三年がたち、仕事がずいぶんど慣れてきたころ。

 颯太が突然『シチメンソウ』を見に行こうと言い出したのだ。


 シチメンソウというのは、赤い色をしたアカザ科の塩生植物だ。

 河川や海岸の河口付近の泥土に生息しており、絶滅危惧種に指定されているほどに珍しい花だ。

 基本、九州の北部に生息しており、私の生まれ育った佐賀県の有明海へ注がれる川沿いに生息している。

  絶滅危惧種とされているが、そこにあるシチメンソウの規模は大きく、何メートルも広がっている。別名赤いじゅうたんとも呼ばれていた。もちろん、それは自然に生えたわけではなく、地元の人たちが頑張って育て上げたものだった。


 「すごいだろ。すごいだろ」


 私がその赤くて美しい絨毯に感嘆していると、自慢げにいった。


「すごいわね。本当」


「なんか、バージンロードみたいじゃねえ」


「え?  なにそれ? どこをどうみたらバージンロードなのよ」


「いいじゃん。けど、見たいなあ。咲のウェディング姿」


「なによ。それ。あんたはおとうさんか?」


「なりたいなあ。お父さん」


「え?」


「あのさ。その……」


 颯太は顔を赤くしながら、鼻を人差し指でかいた。


「颯太?」


「よしっ。咲」


「はい」


 颯太が勢いよく振り返る。


「俺と結婚してください」


 そういいながら、指輪を差し出したのだ。


「え?」


「だめ?」


 不安そうに見る颯太。


 思わず、笑ってしまった。


「笑うなよ。俺は真面目だ」


「もう、颯太たら……」


「どう?」


「……。こんな私でよければ、お嫁さんにしてください」


「やったあああああああ」


 颯太は突然シチメンソウの周りを走り回り始めた。


「颯太。恥かしいわよ」


「だつて、うれしいじゃん。なあ、咲。今度は子供といっしょにこような」


「気が早いわよ。バカ」


 私は子供ののようにはしゃぐ颯太の姿が愛おしくてたまらなかった。



 それから、私たちは結婚した。式は挙げていない。


 その前に私の妊娠が発覚したからだ。だから、子供を産んでからということになった。


 そして、華が生まれた。


 颯太は心から喜んでくれた。

 相変わらず無邪気に笑い、華を何度も抱いた。


 幸せだった。


 その幸せが永遠に続くと思った。


 そんなある日


『シチメンソウが枯れてしまいました』


 テレビで流れるニュースに私が驚ている中で、私の着信が鳴り響いた。


 それは、颯太が交通事故にあったという知らせだった。

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