第5話

「咲ちゃん。咲ちゃん」

 義理の母が突然家に来たのは夕刻のことだつた。

 颯太の両親は私たちの暮らす同じマンションに住んでいる。 

 元々、別の場所で暮らしていたのだが、颯太があんな状況になってから実家を息子に任せて引っ越してきたのだ。

 それから毎日のように訪れては、華の世話をしてくれる。仕事もしているこちらとしては助かるのだが、はやり義理の母ということで気は遣う。

「どうしたんですか?」

「テレビだよ。テレビつけてみなさい」

「はい?」

 私はテレビをつける。

『見てください。赤いじゅうたんが広がってます』

 すると、リポーターの明るい声が響きわたり、その背後にはシチメンソウの赤く色づいた姿が映し出された。

「え?」

「色づいたとよ。まだ半分やけど、ようやくシチメンソウが復活したとよ」

「本当? 本当に?」

「ほんと、ほんと。過去の映像じゃなか。いまの映像たい」

 私は呆然とした。

「お義母さん……。華の迎えお願いします」

「咲ちゃん?」

 私は義母の返答も聞かずに家を飛び出していた。

 車に乗ると、すぐに発進させる。そのまま、シチメンソウのある公園へと向かった。

 すると、そこには確かに赤いじゅうたんが広がっていた。

 人の姿もある。テレビ局の人たちもまだいる。

 全部じゃない。

 半分。

 確かに半分が色づいている。

 本当だ。

 3年ぶりに色がついている。

『咲。ぜったいに幸せになろうな』

 そんな颯太の声が聞こえたような気がした。

『そうだ。ここでやろうぜ。結婚式、来年。シチメンソウが色づいたらやろう。そうしよう』

 目を輝かせる颯太。


 颯太

 颯太

 ようやく色がついたよ。

 ねえ。

 早く帰ってきて

 早く

 そしたら、見に行こうよ。

 ねえ


「ママ。ママ」

 その時、華の声が聞こえてきた。

 振り向くと私に飛びつく華。

「どうしたの? 華?」

「あのね。あのね」

 華は嬉しそうに私を見る。

「どうしたの?」

「たくもう。どうしてスマホ忘れるんだい」

 すると、息を切らしながら義母がやってきた。

「お義母さん」

「まったくうちの嫁は慌てもんばい。悪いがうちがとったよ。電話」

 そう言いながら、私のスマホを渡してきた。

 見ると、通話記録が表示されている。

 それは颯太のいる病院からのものだった。

「帰ってきた」

「え?」

 華が言った。

「パパがねえ。夢の世界から帰ってきたんだよ」

「え?」

 私は義母のほうを見た。

 義母はニコニコと微笑みながらうなずいている。

 目覚めた。

 颯太が目を覚ました。

 颯太も復活したんだ。

「さっき目覚めたばかりだからうまく話せないようだけど、行こうか」

「でも……」

 私は華を見る。

「知るか。面会制限がなんだ。感染症がなんだい。せっかく目覚めたんだい。娘の顔ぐらい見たいだろうよ。さあいくよ」

「はい」

 私たちは病院へと向かった。




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