今だから言えること
里中が、ゆっくり顔を上げて私をまっすぐ見つめる。
あの時の私は一人で、卒業式に一人校庭で、泣いた。黒歴史。目の前のこいつを想って泣いたなんて。
「何のこと、って」と里中は呆れたように言葉を止めて溜め息を吐き出す。
忘れたフリだって思っている顔をして、こっちを不機嫌そうに見てくるからムッとしてしまい、
「今だから言うけど、私、里中のこと好きだった」
「なっ!?」
目を丸くして、今度は里中が固まる。ゴミ袋がゆっくりと倒れていった。
「引越し、言ってくれなかったことなんてもう今更、どうでもいいよ。だってもう何年たったと、思ってるの」
「……いや、違うって。俺、高校生の時言っただろ。
岡田のこと、脚本の材料にさせてもらってたから、ちょっかい出しすぎたよ、って。
しかも勝手に登場人物にしてごめんって。引越しの直前に言っただろ。
それをさっき思い出したから、なんて言うかまた罪悪感が……っていうか、何さっきの話。初耳なんだけど」
「……は?」
今度は私が肩にかけていたバッグを床に落とした。きっと、凄い顔をしている。
そう言えば、そんなことも言われたような。
里中がフッと笑う。
「なんだ、青春できてたんじゃん」
「え?」と、顔を顰める。
まさか里中に青春という言葉で私の恋愛が片付けられてしまうなんて。
そんなの、くそったれじゃないか。
「前、俺に言っただろ。青春してみたいって」
「そう、だっけ」
里中は穏やかな声で続ける。
私は目を逸らし、あからさまに冷たく返答するのに、彼は顔色ひとつ変えない。
昔を思い出している様子で、目の前の私を見ていない——高校生の私を見ている気がした。
「高校生が青春してみたいって言うなんて、なんつーか変わってるっていうか。脚本書きたくなるっていうかさ。
そういう生きるの下手くそな岡田をさ、登場人物にどうしても書きたくなっちゃって。覚えてない?」
「私、里中にそんなこと言ったんだっけ……。」
「青春てどんなのなの?って聞いたら、あそこにいるキラキラした集団みたいなものって言うから。
それは岡田には無理だろって言ったら『知ってるよ』って怒ったじゃん」
「ええー……。」
私はそんなことまで里中に話していたんだっけ。思い出せない。
「あの時、俺にも聞いたんだよ、岡田。青春ってどんなものだと思う?って。
あの時はそんなのわかんねぇよ、現役にわかるわけないだろって言ったけど」
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