くそったれ
「悪意はなくても言い方で相手が悪意って受け取る可能性だってあるんだから。里中はいつも意地悪だよ」
こんなこと言うつもりなかったのに、と濡れた手で口を押さえ俯いていると。
「なんだ、岡田、そういうことも言えるんだ?」
里中の笑った顔は柔らかいというよりも弱々しい、って言ったほうがしっくりくる笑い方だった。
私はさっきまで、ひとりぼっちで惨めでどうしようもない気持ちが揺らめいてずっと胸が苦しかった。
でも、ひとりぼっちに自分を陥れたのは紛れもなく自分で、何をやっているんだ、って。
こんなの青春とやらをする以前の問題だ、って。水を掬って、考えていた。
だけど、でも、私は一体どうしたら。どうやったら私が憧れるあの子達みたいになれるの?
——ああ、私は一体、何をやっているんだ、って。
でも、里中の言葉でほんの少しだけ救われた。ほんの、少しだけ。あの一瞬だけ。
里中とはその後、皆がよく言う「いい感じ」だったように思う。
私は里中になら思った事を言えたし、何より不器用なその笑顔を見るのが好きだった。
でも、突然、いなくなった。転校した。私には何も言わず。もちろん、お別れの挨拶とかはあった。
先生からも里中からも黒板の前でどこに転校するだとか、何月何日に引っ越すとか、そういう事を聞いたけれど。
里中が個人的に転校すると、私に言ってくることはなかった。
なんだ。そっか。って、私はただそれだけ、思った。
——そういう事を思い出しながら私は蛇口のへりに腰掛け、校庭で泣いているいろんな集団を眺めていた。
此処に里中がもしいたら、何て言っていただろう。
『卒業式なのにまた一人なの?成長しないんだから、本当に』とか?
『また輪に入ってないの?何で?』とか。
きっと私は、好きだったんだ。
これって青春なの?綺麗なまま、誰にも触れられないまま私の中で勝手に恋が終わっていく、これが?
最低だ。
これをもし、
大人の私が青春だった、なんて言葉で片付けたとしたら、
そんなの、くそったれだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます