卒業






***



「由宇!卒業しても仲良くしてねえ。書かせてえ」


 高校卒業の日。咲は涙目になりながら私の卒業アルバムの最後のページを開いた。


真っ新な白いページにピンクのペンで「いつも一緒にいてくれてありがとう!卒業してもずっと友達だよ!」と周りにハートや花のイラストまでつけてくれた。



「私も!ありがとう」


 と、笑って、オレンジのペンで由宇のアルバムに私もメッセージを書いた。



「咲、私のも書いてよ!」

「私のもー」

「いいよ!私のも書いてほしい!」



 クラスの女子が咲にアルバムを渡すのを見て、さっきまで感じていた気持ちが沈んでいくのがよくわかった。



 私は咲以外の子達とは知り合い程度で、クラスメイトにもなれているかどうかわからなかった。



 ブレザーで覆われた手首を見つめてから歩き出す。ふと、里中の頬杖をついてこちらを見る気怠げな顔が思い出される。



 外は寒くて、腕を摩った。


校庭まで歩いていくと私と同じように思い出に浸る人達が何人か固まっていた。

私が向かう場所は校庭の水道。そこには誰もいなかった。




 夏のある体育の日、女子はハードル、男子はサッカーをしていた。


 水道で水をすくって、じっと手の中を見つめていると、足音が近づいてきて。


「岡田」


 その声は私の耳にスッと届いた。


「女子の輪、何で入んないの?」


私は手の中の水を全部溢してしまった。


休憩時間になった男子達の中で、里中だけが私に話しかけてきた。


「何で、って」


 その日は嫌なことばかりある、そういう日だった。


嫌なことばかり何故か重なる日。


宿題をやったのに家に忘れ、咲が休みで話し相手がいなくて、その日に限ってペアを作らなきゃいけない授業があって、難しい問題で当てられたりもした。


 そういう日は「嫌なこと」の中に里中の何気ない言葉も入ってしまうわけで。


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