自覚


予告が終わり、フッと一瞬だけ真っ暗になる。作品の上映が始まろうとしていた。



 ——私は、自分が青春とやらを謳歌できない人間だとわかっていたんだ。


だから謳歌したであろう大人達に、無責任に、その言葉をかけられることが疎ましくて、いつも胸がざわついた。





***


「じゃあ文化祭はミニゲームで!ブースを4箇所くらい作ってスタンプラリーしていって、最後に景品を配るって感じかな」



 委員長が黒板の前で高い声を出し皆の意見をまとめた。



教室の窓は全て閉まり、クーラーの音が話の裏側で聞こえていた。


真っ白なブラウスと紺色のプリーツスカートから出ている手足は、今思えば、白くて艶めきがあって、揺れる髪の毛は潤っていた。



 私はクーラーの風の角度をもう少し上げて欲しい事を言えずにいた。


直接当たる風は肌の表面を冷たくさせ、その風は体の内側にだんだん染み込んでいくようで。




「はいっ!私、受付する!」


「えっ、じゃあ俺も!」



 無難。無難が一番だ。平和に、何事もなく、この三年間をやり過ごす。




ああいう、S N Sとかやっていて、クラスのほとんどの連絡先も知っていて、自分の思った事やしたい事をちゃんと言えるあの人達と私は違うんだから。



 係り決めはどうやら挙手制のようだった。


どんどん決まっていく黒板の文字を見ながら、うるさい心臓の音を感じながら、私は夏にどうして寒がっているのか混乱していた。



 咲はどうするんだろう、と思って席の方を見ると近くの子と話しているようで私の視線には気づかない。



 青春。そんなに、いいもんかな。



 途轍もない孤独感。寒い。俯いて、ちょっと眠そうなフリをする。



 青春を謳歌って、何だよ。うるさいよ。



 私には、だって、ない。部活に一生懸命になれたり、放課後に大勢で遊んで写真をアップしたり、好きな子ができて恋愛をしたり、勉強を頑張って将来を考えたり。そういうことが私には、ないんだよ。




「岡田、いいの?手、挙げなくて」




 とんとん、と肩に触れる手。里中はその時、壁側に座る私の隣に座っていた。




 里中は頬杖をついていたけれど、俯きがちに里中の顔を私が見たのをいいことに、顔を傾けて自分の手首に耳の上あたりをつけて、覗き込んできた。


だから驚いて目を逸らしてしまった。



「残り物で、いいの」



 聞こえるか聞こえないかの声で返答した。



 里中は、中性的な男の子だった。


誰とでも臆せず話せるような人で、でも何事にも興味がなさそうに唇をムッとさせている。

けれど、誰かに話しかけられると少しだけ表情を和らげていた。


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