第43話 中層探索④
『収納』スキル・・・、ジェットパック・・・。
俺がその2つにより思いついたこととは・・・。
もしかしたら、『収納』スキルって空気を収納することができるんじゃないのか?ということ。
空気を格納し、そしてそれを取り出す際に噴射のようにさせることができれば、ジェットパックの模倣になるかもしれない。
現状俺が『収納』スキルによって胃の内に入れているものは、主に「麻痺薬」と「成長促進薬」、そして「身体強化薬」。
あとは「HP回復薬」などの回復系が、少々だ。
『薬毒錬成』スキルで生成した薬は、タブレット型とガス状のものしかないので、その重さは全部合わせてでも1gちょいぐらいだと思う。
回復薬系は液体だが1回分につき約3mLであり、それを加味して合計すると大体全部で15gぐらいか。
『収納』スキルはレベル×自身の体重分の容量を持つ。
今現在のスキルレベルは2。
俺の体重がこの体の体積から考えると大体30g前後だと言えるから、最大容量はその2倍の60g。
そこから諸々の薬の重さを引いた45gが、今の残りの空き容量と言えるだろう。
単純に計算して、自身の体重のおよそ1.5倍だな。
一応空気の方の重さも計算しておこう。
ここを地球とほぼ同じくらいの重力の影響であることを考えると、1気圧の値も変わらなさそうだ。
ということは標準空気における1Lあたりの重さも変わらないはずで、その重さは確か1.2gだった。
ここはその条件である一般的な空気より温度も湿度も高いので、同じ1Lあたりの空気の重さは軽いと思われる。
その事を加味すれば、この場の1Lあたりの重さは約1gと定義しても良さそうだ。
つまり俺の容量MAXまで入れれば、大体45L入る計算になる。
2Lのペットボトルが20本以上と言われたら、その量がイメージしやすいか。
カエル程の大きさなら、それほどの体積の空気が動けば、空中で飛ぶことも出来そうだ。
とりあえず、時間が無い今はやってみるしかない。
一度空気を自身の中に、限界まで収納してみる。
いきなり周囲の空気がごっそり無くなったことで、軽い真空状態が形成されて、若干の間そこに向けて風が流れ込んだ。
少しだけ風が止むまで待ち、心を十分に落ち着けて、いよいよデモンストレーションを行う。
まずは20%程の力でしっかり今度は上方向に向かって『跳躍』スキルを発動した後、先ほど格納した空気を一気に吐き出した。
瞬間的におよそ45Lもの空気を放出したことで、俺の身体は大気中で押し流される。
ひゅんっ、グシャァ
・・・ひとまずは成功と言っていいだろう。
結構な勢いで地面にぶつかった所は前と変わらないが、着地点は空中でかなり大きく動いた。
問題は制御がまるで効いていないところか。
まあそれは口から空気を吹き出しているだけなので、仕方があるまい。
しかし今回の目的でもある空中での緊急回避としては、十分活用できるレベルなのではないだろうか。
改善点としては今の所で思いつくのは、空気の吐き出す量の調整だとかそういうものだろうが・・・。
『跳躍』スキルとは違ってこぅいったやり方は、『収納』スキル本来の使用用途ではないだろうからな。
スキルというこの世界の仕組みそのものを使ったことがないと、中々体感しづらいことではあるが、想定通りの使い方をしないという行為は、それだけで力加減の調整のレベルを格段に跳ね上げる。
それで言うと『収納』は、自身で作成した異空間の中に物をしまっておくだけのスキルだ。
それはしまうという行為と、取り出すという行為の、2つの単純な行動をするだけのスキルにすぎない。
その解釈をどうするかは、多少使用する者に若干委ねられているものの、基本的にはそこから外れることはないだろう。
既に収納してある薬類を例に出して言うと、固体のものは対象の物を一粒取り出す・しまうということができる。
これは一番オーソドックスなものだろう。
次に液体状のものは少しばかし難易度は上がるが、いつも作成する際の量をイメージすることで、大体一回分を取り出すことが出来る。
これをやる場合はかなり、集中力がいるな。
量がイメージ出来ていなかったとしても、何かしらの容れ物に入れておくことで、それの単位で区切って取り出す・しまう事も可能だ。
俺は割と普段はそっちのやり方を採用しているよ。
このように液体でも正確な量を、全くの区切り無しで取り出すことは難しい。
計量カップも何も無しで、指定された量の水を正確に毎回同じくらい取ってくるのが難しいのと同じだ。
そして気体の場合は、もっと難しくなる。
色がついていればまだ別だが、元々目に映りっらく、イメージがつきにくいものであり、液体と違って感触も薄く、その存在を実感することは少ない。
『収納』スキルで扱う時も、格納自体は腹の中にされているが、そのプロセスには俺の身体を経由することはないからだ。
そのため「麻痺薬」を実際に使用する時も、正確な分量を取り出すというよりも、十分に敵の周りに充満させる分だけ放出、という風になっている。
きっと空中で身動きするには結構な量の空気が必要になるはずだし、それよりも吐く量を出し渋ってあまり飛ばないほうが問題だ。
現状のままだとしても、緊急回避として空中で行う択の一つ、と考えれば十分に合格点をあげられるレベルだろう。
そういう訳で、空気の量を微調整するだとかはきっとできないと思うし、今はそんな小細工をする必要も無い。
さてそんなこんなで、こうやって練習してきたが、そろそろ流石にヤバそうだ。
本当の意味でのリミットが近いな。
脱出に必要なパーツも揃ってきたことだし、そろそろ始めないと!
辺りは既に、すっかりと一面茨で埋まってしまっていた。
脱出すること自体は勿論望むところなのだが、せっかくだからパイナップルを食べたかったな。
とはいえ流石に、今の自分ではきついだろう。
また強くなったら食べに来よう。
トゲに触れるギリギリにまで近づき、その隙間からどのように進んでいくかの道筋を、あらかじめ立てておく。
諸々のスキルは先ほど入手したばかり。
完全に慣れている、使いこなしている状態、とは言いがたいだろう。
そうなると、なるべく複雑なルートであったり、集中的に狙われやすいような場所は避けるべきだ。
こことここを通って・・・、ここは複数の茨があるので止めた方が良いな。
・・・よし、始めるか。
この身体が小柄なおかげで、こんなにも密集した中でも抜けられる。
この世界ではステータスのおかげ?、せいであまり体格で便利・不便ということはないのだが、今回ばかりはこの体躯にも感謝だな。
最初は順調。
普通の移動スピードですらも『高速移動』スキルにより強化されているので、そこまで力まなかったとしても、従来よりも遙かに速いスピードを出せているからだ。
だが、やはり素通りにはさせてくれない。
パイナップルも俺が抜け出そうとしていることに気がつき、再び地面に叩き伏せようと茨を動かし始める。
複数のつるの鞭が、容赦なくこちらへと振るわれる。
なるべく避けたとはいえ、これだけの数だ、全部が全部を避けることはできない。
いくつかのものが掠り、表皮を浅く削られる。
うっ、本当たりでないとはいえ、痛いものは痛い。
そして鞭のうちの1本のこと。
地面すれすれを狙われ、空中に跳び上がざるを得ない。
そこを待っていました、とばかりに今までの倍以上の本数が襲いかかってくる。
俺はぶぅ、と『収納』スキルに入れていた空気を思いっきり放出して、その難を何とか逃れる。
くそ、もう早速使わされるなんて・・・。
コントロールはやはり出来ないので、思い切り地面へと激突してしまい、その痛みで少しだけ動きが止まってしまった。
だが、意表を突けたようで、茨も追い打ちはしてこない。
先ほどはこれで仕留めることが出来たのにもかかわらず、今回は逃れられたことに動揺しているようだな。
植物に動揺なんて言葉、違和感しか感じないけれど。
その間に緩くなった攻撃のおかげで、距離も結構稼げた。
パイナップルのテリトリーの外と思われる、開けた所も見えてきた。
あとちょっとで。
なんて、油断だったんだろう。
ステータスのINTが俺よりも大分低かったので侮っていたが、こいつのINTは最初に出会った魔物達と比べればかなり高め。
つまり、その程度の知恵はあるということなのだろう。
俺の向かう先、出口に茨を集中させるといった単純な思考くらいは行ってくることくらいはするのだと、考えつかなかった。
所詮植物だろうという考えが抜けなかったのか、その動きに咄嗟に反応することができなかった。
思わず一発くらってしまったあと、さらに襲いかかる茨の鞭を残りの空気の放出で避けるも、そのちょっと移動した先にも茨が待ち受けている。
ぐっ、万事休す。
ここで賭けるしかないか・・・。
そして次の瞬間、俺はパイナップルのテリトリーの外側にいた。
はぁはぁ、どうにか成功したな。
何をやったのかというと、なんのことはない。
『収納』スキルによる空気の格納と放出を、超瞬間的に繰り返しただけだ。
空気の格納・放出は見かけ上では大きく息を吸って吐くといった様相を呈しているが、前の説明のように、スキルによって収納先に直接入れているにすぎない。
なのでそこに息を吸い込む動作や、吐き出す動作自体は必要無いのだ。
つまり一瞬でその動作を繰り返し行う事も、理論上では可能なのである。
とはいえスキルの発動ら結構意識して利用しなければならないし、それ以外の余裕がないので大きく隙を晒してしまうことになるが。
さらに言うなら他のことに一切意識を裂けないので、まっすぐにしか進めない。
ここ一番で、しかもあまり距離を必要としていない場所でしか使えなかった手法だ。
無事に脱出することができて本当に良かったよ。
気圧の変化も激しいので、めちゃくちゃ身体にも負担が掛かる。
練習で出来るだろうと思っても、なるべく使いたくなかった。
本格的な戦闘は行っていないのにも関わらず、この疲労感はやばいな。
一度囲いの外へと出てしまえば、攻撃の密度もそこまででは無い。
へとへとになりながらも、なんとかしてヘビの居る場所にまで戻ってくる。
そんな状態になっている俺を一瞥しただけで、それどころか飯は?みたいな催促しているヘビに、本当に神経が図太いんだよなぁと思わず呆れてしまう。
そんなヘビの為に、今日の所は諦めろと俺は身体を休めようと縮こまるのだった。
ガシガシ尻尾でいくらどつかれても俺は知らんぞ~!
【『跳躍』のレベルが7になりました】
【『高速移動』のレベルが4になりました】
【『収納』のレベルが3になりました】
【ステータス】
種族:ドラッグ・ダート・フロッグ
性別:♂
HP:2790/9500
MP:4453/8317
SP:3545/8278
レベル:2
ATK:8012
DEF:8012
INT:9057
MND:8012
SPE:9507
スキル:
『鑑定 :レベル10』
『状態異常耐性:レベル9』
『貪吸:レベル8』
『体術:レベル10』
『猛毒攻撃:レベル10』
『毒生成:レベル10』
『薬生成:レベル10』
『薬毒錬成:レベル3』
『毒魔法:レベル10』
『隠密:レベル10』
『危険予知:レベル9』
『跳躍:レベル7(+2)』
『高速移動:レベル4(+1)』
『念話:レベル6』
『MP高速回復:レベル6』
『収納:レベル3(+1)』
『毒武装:レベル1』
『警戒色:レベル1』
『水棲 :レベルー』
『陸棲:レベルー』
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