第41話 中層探索②
やると決めたからには、やるしかない。
しかし、いつの間にここまで囲まれたんだ?
影が差すまで、まったく気配がしなかった。
それに『危険予知』スキルさんも反応しない、ってどういうことだよ。
こっちはこういうときにこそ、『危険予知』の能力を信頼していたのに。
こうやって中層のようによく知らない場所でも、ある程度アクティブに行動していたのはこのスキルがあったからこそだ。
それが発動しない可能性もあるとなると、今後の行動を大分見直す必要があるぞ。
兎にも角にも、まずは何で囲まれたかの要因特定をしながら、どうやって対処するか考えよう。
こういう場合でもある程度情報を収集できるのが、『鑑定』スキル様である。
本当にこのスキルを最初に保持していて良かった-。
しかし、いきなり掛けてもいいものなのか。
今の所、この茨達はこちらを攻撃してくる気は無いようで、ただ俺たちを囲うのみだ。
そこで『鑑定』をすることで、刺激してしまわないかということだけが懸念点だな。
ただこのバクの鼻先のとげの傷は、明らかにこいつが付けたものだと思われる。
絶対に攻撃してこないという保証が無いし、ここまで防御に特化した相手に手傷を負わせる程の能力があるということだ。
このバクがどのような状況で、どうしてここに居るのかは分からない。
今の所ぱっと思いついているのは、茨のことを知っているバクはここで休憩している間、彼らに守って貰っているという可能性。
傷が付いているので、この茨は無差別攻撃をするということはあるかもしれないけど、このバクならば致命傷にはなり得ないだろう。
とそれ込みで休憩しているのかもしれない。
もう一つの考えとしては、この茨と争った中で倒れてしまったということだ。
その場合この茨の脅威度は前者の考え方と比べると、格段に跳ね上がる。
さすがにそこまではのやつではないと、そう願いたいところだが・・・。
うーん、現状他になにかできることがあるわけではないしなー。
一応反応に警戒しながらも、『鑑定』を行ってみる。
【ステータス】
種族:ソーンド・パイナップル
性別:-
HP:25000/25000
MP:35000/35000
SP:19800/19800
レベル:21
ATK:12000
DEF:2500
INT:1500
MND:2500
SPE:35000
スキル:
『吸収:レベル4』
『刺突:レベル9』
『貫通:レベル7』
『射出:レベル5』
『拘束:レベル5』
『鞭術:レベル6』
『成長:レベル5』
『再生:レベル6』
『陸棲:レベルー』
植物型の魔物も居るのか。
そりゃそうだよな。
今まで遭遇したことが無かったからか、その可能性を完全に失念していた。
植物型のやつ相手とは当然戦ったこともないので、どういったように攻めれば良いのか見当がつかない。
だがスキルのビルドを見る限り、かなりやっかいそうではある。
てか名前見て思ったけど、パイナップル!?
パイナップルって、あのパイナップルですか?
ちょっとした酸味とジューシーな果汁、そしてちょっとくせのあるしっかりとした甘み。
名前を聞いて、元の世界のその味を思い出してしまい、なんだか無性に食べたくなってしまう。
観察してみると、一際トゲトゲの葉っぱが密集した場所があり、その上にはあのスーパーなどでよく見るパイナップルが、あの形で鎮座していた。
よくよく見渡してみると、パイナップルたくさん生えているぞ。
ひとつやふたつどころではない。
【ソーンド・パイナップル】
パイナップル型の魔物。
実の周りには非常にとげとげとした葉っぱやツタを持ち、その大事な果実を守っている。
自ら移動をすることはなく、自生した場所から一定の範囲内でしか活動出来ない。
その食事方法は茨で近づいてきた魔物を捕らて直接食事をすることもあれば、甘い果実につられてやってきた魔物同士による、争いのおこぼれをもらったりすることで生息している。
もしかしたらこのバク、単にパイナップルを食べたかっただけだったり・・・。
あの状態のものをそのまま食べようとすれば、口に入れる時にバクのように鼻先や、口の周りにとげが刺さってもおかしくはない。
まさか最初に立てた推論が、二つとも外れてたなんて・・・。
まぁ、そういう時もあるよな。
なんにせよこのバクのせいで、俺はどうやらこのパイナップル達の縄張りに、ひょこひょこと誘われてしまったようだ。
それがバクの思惑通りかは置いておいて。
気持ちを切り替えて、とっととこの場所を抜け出さなきゃいけないよな。
最初にも言ったように、まだ俺はこいつらと戦う気は無い。
パイナップルに対しては少し後ろ髪を引かれるような気持ちはあるが、それはまた次の機会にしたいと思う。
少なくとも、今じゃない。
ひとまず茨にギリギリまで近づいて、その包囲網を出ることが出来るか、試してみようとしたんだが・・・。
ぎゅるぎゅるっと音を立てながら、他の部分よりもその箇所に茨が密集して来て、通り抜けられるような隙間があっという間に無くなってしまった。
うん、これはやっぱり素直に逃がしてくれる気はなさそうである。
どうしたものかと悩んでいたところ、それまでぐっすりと眠っていたバクが目を覚まし、その大きな身体をのっそりと起こした。
茨同士の擦れた音が、案外耳に付いたのかもしれないな。
これは戦闘が始まるかも、と意識をピリつかせていたのだが、肝心のバクは起きた後にトゲで囲まれているのも気にせずに、外側に向かって歩き出した。
もちろん逃がさないようにバクの周りにも茨が集まるのだが、それをごく普通のことのように引きちぎって、そのまま出ていってしまう。
あの硬い皮膚には、茨のトゲもまったく影響が無いのだな。
このパイナップル畑から見えなくなってしばらくしたら、再びあのいびきが遠くから聞こえてきたので、どうやらまた別の場所で寝直しているようだ。
簡単に抜けられた上に、茨をブチブチと千切られたはずのパイナップルはというと、特になんのリアクションもせず、がら空きになった場所へと淡々と補充していた。
植物だからなのか、感情とか無いのか。
それとも別に止められないやつは、別に無理して止めないのか。
果たしてどちらなのだろうな。
さて俺の場合、バクと一緒のような方法を使って強引に突破、というのも難しい。
こちとらバクのように皮膚が頑丈なわけではないし、身体が大きく力が強いわけでもないのだ。
茨を引きちぎりながらなんて、とてもではないが無理である。
だが引きちぎることは無理でも、攻撃して破壊ならどうだろうか。
ひとまず物理的な攻撃は茨のトゲが刺さって痛そうなので、『毒魔法』で攻撃してみることにする。
「ポイズンボール」や「ポイズンランス」を茨の壁に打ち込んでみると、割と簡単に破壊する事が出来た。
このパイナップルのDEFやMNDは、中層地帯の魔物にしてはかなり低めだ。
これを鑑みるとさっきのバクのやつも、案外力が特段強い訳ではなかったのかもな。
これなら意外と簡単に抜け出せるかも、と思ったのだが破壊した後からすぐさま茨が再生されていった。
スキルに『再生』があったことから、予想できなくは無かったけれど、まさかここまでの速度とはな。
バクの時は、あの大きな身体でぶち破りながらだったからあんまり気にならなかったのだろうが、俺みたいなのだと再生を阻害するのは難しいぞ。
さっきの簡単、っていうのは撤回だ。
今の感じだと、こんなものにいくら打ち込んでも徒労に終わりそうだな。
HPの減り具合を見るに、茨が破壊されても痛くも痒くもないらしい。
とはいえ、では果たしてどの部分に攻撃したら良いのか、と言われると皆目見当が付かない。
実なのか根なのか、他にもなんかしらのコア的な部分があったりするのか。
今まで植物型の魔物と戦ってこなかったから、その弱点とかについて見当が付けられない。
あったとしても他のやつとこいつが一緒の可能性がどれぐらいあるかは分からないけど、少なくとも参考にはなっただろうから。
しかし弱点が実以外の場合は、それがどこにあるのかも分からない。
俺にはそういう探し出す系のスキルや、感知系のスキルが乏しいし。
『隠密』スキルによって獲得した「索敵」では、敵の居場所がなんとなく分かる程度の効果で、こんな一面囲まれている状況では役立たず。
『鑑定』スキルもテキストに書いてあること以上のことは分からない。
元より逃げる寄りの思考ではあったが、やはり無理矢理倒すプランは諦めた方がよさそうだ。
しっかりと、逃げることだけに注力しないとだめだな。
よし、次は『跳躍』スキルを試してみることとしよう。
まずは、今の自分の限界まで垂直に跳び上がってみる。
垂直に跳ぶ分、今までにやっていた跳躍よりも純粋に高くなる。
茨はそれでも追って来ようとしたが、それよりもこちらの飛び上がる速度の方が速い。
そして、包囲網から抜けられそうになる。
おっ、このまま脱出出来るか?、と思ったのも束の間のことだ。
なんと、茨から生えていたトゲが勢いよく射出される。
いきなりの事に驚き、空中で無理矢理避けようとして体勢が崩れたため、着地をミスして地面にむかって叩きつけられた。
痛っ~。
おいおい、遠距離攻撃も持ってるのか。
ステータスもATKはDEFなんかと違って、普通に高かった。
今のでも掠っただけとはいえ、結構なダメージを貰ってしまったな。
ひとまずは保存してあった「HP回復薬」を摂取するが、このトゲの数を見るに弾数は相当なものだ。
今の攻撃を受け切る前提での立ち回りは、辞めておいた方が賢明だろう。
最近は水中で活動しすぎて、避け方にも影響が出てしまっている。
一度抜け出されそうになったからか、包囲網がますますきつくなり、今度は上方にも張り巡らされ始めた。
・・・。
あれから色々と試してはみたが、全て失敗に終わった。
これは、今の自分ではここから抜け出せそうにない。
・・・ならば、これからの可能性に賭ける!
パクっ。
今食べたのは、先程レシピを作成したばかりである、「成長促進薬」。
ひとまず10分間待ってみるとしようか。
この薬の効果は種族レベルの経験値だけでなく、スキルの熟練度の経験値にも効果があるはずだ。
念願の薬の効果、さっそく試させて貰うとしよう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます