第36話 今までで一番のピンチかも
まえがき
この話は一部生々しい表現が含まれます。
苦手な方は飛ばしてください。
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一概に同じ種族・見た目であるからといって、全く同じ個体であるとは言えない。
ましてやカエルも含めて、俺は人間以外の動物の顔なんて未だに見分けが付かないのだから、本来ならばそうと分かるはずも無い。
だがなぜだがそいつが、俺を生んだあのカエルであるということを、心のどこかしらで確信していた。
これがいわゆる生物的な勘、本能だろうか。
それについてはどうなのか正直な所分からないが、これは分類としては一応感動の再会になるのかな?
⬛︎マザーフロッグ
繁殖に特化したカエル型の魔物。
どのカエル型の魔物とも交尾をすることが可能で、その際に孕む卵の数はおおよそ数億個にも及ぶと言われている。
卵を保持している時は、その溢れんばかりの量により、お腹は通常時の数十倍程の大きさだと言う。
ただし1度で大量の子供を産む代わりに、生まれてくるのはすべて、カエル型魔物の中でも最弱のレッサー種の子。
卵の1つ1つには微量な毒が含まれており、産卵前の状態で敵に襲われた場合、攻撃に用いられる事もある。
そのため卵をお腹に所持している時と、所持していない時では脅威度が違う。
正確な日数は個体によって異なるが、卵をお腹に蓄えてから、最短3日で産卵することが出来るとかないとか。
とにかく繁殖力に特化しており、生殖行為と卵による攻撃以外に特筆するべきところがあまりない。
生存競争がより厳しいような、過酷な環境で生まれることの多いカエル種の魔物の1種である。
『鑑定』スキルの結果から察するに、これだけの意味不明な場所(環境的な厳しさという意味で)にも関わらず、あまり種族的に強くは無いカエル型の魔物が絶滅することがなさそうなのはこいつのおかげってことなのか。
一般的に一度に産む卵の数というのは、その生物の死にやすさを表わしているとも言える。
数が多ければどんなに弱くて運が悪くても、生き残れる可能性が上がるからな。
逆に種族として強くなればなるほど、その数は少なくなるとも言われている。
天敵が少なければその分絶滅したりする心配は無く、むしろ一度に生まれる量が多すぎることによって種が増えすぎてしまえば、当然食べる範囲が同じなためエサが失くなってしまうからだ。
弱いやつは多産、強いやつは少ない。
その法則は、元の世界でも同様のものとして確かにあった。
生命力の弱いと評される動物としての代名詞にもなっているマンボウは、1度におよそ2、3億個もの卵を産むのだそうだ。
ジャンプした衝撃で死ぬなどのレベルの通説はさすがにデマらしいが、それを抜きにしても苦手なものがあまりに多く、自然界では強くない方に入るだろう。
そして最終的にそれだけの卵に対して、生き延びることができるのはほんの数匹らしい。
逆に強い例だと、1番わかりやすい例で言えば人間とかになるかな。
一回の出産で生まれるのはほとんどの場合において一人だけ、生涯で生む数も多くて3人程度だろう。
たまに大家族なんてものも見かけるが、珍しいからこそメディアにも取り上げられているのだ。
医療も進化して幼児の時に死ぬ確率の低減や寿命の伸びによって、どんどん生まれる数は減ってきているし。
いわゆる少子化というやつ。
さて、それらを加味すると、俺たちカエル種のこの環境においての立ち位置としては、マンボウとあまり変わらないと言えるのではないだろうか。
カエルと、それも異世界の生物を比較するのはどうかとも思うが、単純に比べるとそうなる。
いやそれどころかマンボウの産む数の更に数倍だと思うと、カエル系統の魔物は島全体の中でも結構底辺なんだろうか。
まぁ、種族的な強さ云々は置いておいて。
こいつの攻撃手段は卵か・・・。
俺が卵の中で初めて意識を持ってから、1度だけこの母ガエルの戦闘を見た事がある。
俺が先日苦労して倒したあのワシ型のやつを、その攻撃によりいとも簡単に倒していたことから、ここら辺基準で見てもそこそこ強力な技だったのだろう。
しかし幸いな事に、今現在はどうやらお腹に卵は無いらしい。
『鑑定』スキルの説明によれば、それによって脅威度に大きく差が出るとのことだったので、これは少しだけ安心できる材料だな。
能力が種をつなぐことに特化しているからか、身体的な面のステータスはそんなに高くは無い。
その性能からして、どちらかというと防御面のステータスに配分は寄っているだろうか。
防御面では俺よりも高いにもかかわらず、ガタイは既に俺よりも小さかった。
普通とか常識的な考えでいくと、ガタイがでかい方が防御力とか高そうなんだがな。
まあ、その程度の疑問は今更か。
自然界では大体の生き物において雌のほうが身体がでかいパターンが多いのだが、俺の母に関してはどうやらそれは当てはまらないようである。
たしかヒキガエルとかの元の世界の一般的なカエル種も、雌の方がでかかったはずなんだけど。
いやでもお腹に居る時の記憶を思い出すと、卵が大量に入っていた時は、めちゃくちゃ身体が大きく膨れていたような気がする。
もしかしたら、皮膚が伸縮自在なのかもしれない。
卵が入っている時は単純な戦闘力だけじゃなくて、身体を大きく見せることでそもそも襲われにくくするとかいうこともありそうだ。
攻撃面のステータスはこの辺り居る生物たちの戦闘力ラインで言えば、ほぼ皆無と行ってもよい。
それでも最初の頃にいたしびれ草の連中と比べればある方だが、それは比べるまでもないだろう。
この島に生息してる大体の生物があいつらの攻撃ステータスを上回っているだろうからな。
もしかしたら、攻撃能力が低いのはひとえに他の魔物の敵意をなるべく買わない為なのかもしれない。
脅威ではないことをアピールすることでお腹の子供が狙われにくいとか。
それにしても移動の途中に偶然とはいえ、こっちの世界の母親に再遭遇するとは変な感じである。
向こうもこちらが息子であると気付いているのかは分からないが、こちらをじーっと見つめた後ゆっくりと近づいてきた。
その動きを見た限りどうやら敵意はなさそうで、本当に親しみを持って近づいて来ているようであった。
仮に敵意を持っていたとしても、ステータスやスキルからして卵の無いこいつの攻撃なんて、きっとたいしたことは無いだろう。
なので俺はこのとき完全に気を抜いていたのだった。
「マザーフロッグ」の生態がどういうものなのかを、確かに『鑑定』スキルで事前に確認したはずなのに。
賢明な人ならもう気付いたかもな。
この母ガエルがなぜ無防備に、こちらへ敵意を向けることなく近づいてきたのか。
その目的を。
敵意が無いからといって、こちらに害がないとは限らないのだということを俺はこの日大いに学ぶこととなった。
母ガエルは完全に俺と接触するまで近づくと、そのままひしっとしがみつきその手を俺の背中に回す。
あまりにも自然的な動きで脳が動きを止める。
そして彼女は俺の股間にめがけて腰を・・・って待て待て待てッ!!
漠然とただただ目の前の状況に流されそうになり、その事象が行われることをたギリギリでなんとか知覚すると、俺は母ガエルを突き飛ばすことにどうにか成功した。
このッ・・・、この雌カエル、俺と交尾しようとしやがったのか!?
そりゃ生態の説明にはどんなカエルとでも交尾可能って記載されていたけども。
それが実の息子だろうがお構いなしなのなかよ・・・。
こちとら精神的にはまだ高校生だぞ!
R18物はまだまだごめんだぜ、というか勘弁して欲しい。
勿論、そういったものに全く興味が無いという訳ではなく。
生殺与奪の意識は大分こっちの世界に慣れてら野性的になってきたとはいえ、性的な対象や価値観はまだまだ一般的な人間的な感性のままであると思う。
つまりカエルには性的な興奮をこれっぽっちも覚えない。
ましてや母ガエルであるということは感じているので、近親的な嫌悪感も持ち合わせている。
いやでも、この環境で生き延びてきたカエルと交尾すると言うことは、もしかしたらこいつ俺以外にもたくさんの息子ガエルと犯ってるっていうのか?
なんならそのうちの一匹との間に生まれたのが俺やその兄弟だって言う可能性も・・・、ってそれについてはこれ以上考えるのは止めよう。
なんだか気持ちが悪くなってきた。
よく見るカエルの交尾と言えば、雄が雌の身体にピタリと張り付き、雌から射出された紐状のたくさんの黒い卵子に雄が精子を振りかけるという形態を想像するところだ。
でもこいつの場合は腹に直接卵を保持する生態のためなのか、直接腹の中にあれを入れようとしてきた。
腹の中に卵を入れてキャリーするメリットとして挙げられるのは、単純に生まれるギリギリで産卵することで、すぐに動き出すまでの時間を短縮できることだろう。
産卵されてからすぐに動き出すことが出来れば、その後に無防備な状態で他の動物に狙われる可能性は低くなるだろうし。
逆に言えば、その代償として身ごもった状態では身動きが制限されることがあるけどな。
自然界では子を孕んでいる動物は格好の獲物だし。
だからこそ、このカエルは卵すらも武器に変えているのかもしれないが。
そんなどちらかというと両生類というよりも哺乳類に近い生殖形態を持つが故かどうかは分からないが、その交尾方法もどうやらそちらと似たものになっているらしい。
いわば人間のそういった行為にも近いものだ。
それだけに余計前世の知識があることにより、忌避感を感じるが。
って冷静に考えている場合じゃない!
こいつ、逃げても逃げてもしつこく追いかけてくる!
しかも動きがめちゃくちゃ早いな。
卵を大量に抱えた状態でも動けるっていうことは、フラットな状態では相当な身軽だと言えよう。
そういえば攻撃や防御面に気を取られていたが、ステータス上のSPEはかなり高かった。
中々簡単には振り切れない。
しかもこいつ俺よりもレベルの高い『状態異常耐性:レベル10』を持ってやがる。
攻撃を返そうにも俺のメインウェポンたちも効果が薄そうだ。
そうなるとあのちょうをも倒した「ポイズンレイン」が、攻撃の候補に挙げられるのだが。
あのスキルはMPを大量に消費してしまう。
今日中に中層へ到達することを目標としていたが、それをしてしまうと道中がかなり困難になりそうだ。
決意した時に出来ないと、そのままズルズルと引き延ばしてしまう気がしてならない。
出来れば使いたくないなぁ・・・。
というかこいつ自身を倒すということにも少し抵抗がある。
母だからと言うわけではなく、今現在のカエル系の魔物が今も存在できている理由の根幹の大部分をおそらくこいつが占めている。
仮にこいつが一匹しか存在しなかった場合、俺等カエル系魔物の未来は完全に終わる。
それはできるなら避けたい事態だ。
しかもこいつ自身に勝てなかったとして、恐らく死にはしないと思うんだよな。
カマキリみたいに交尾が命懸けみたいなことも、元の世界のカエルとその生態が似ているならば無いだろう。
交尾自体も1度やるだけだと思う。
そんな中で果たして、無理をしてでもこいつを殺すのかという。
逃げることはできないし、「ポイズンレイン」の他に有効な攻撃手段も持ち合わせていない。
やはり穏便にすませるには行為を受け入れるしかないのか?
しかし直接の命の危険も無いとはいえ、精神的にはきついものはきつい。
それに、特別大事にしているという訳では無いが、俺の貞操がこんな形で失われてもいいのかとも思う。
直接の命のやり取りでは無いとはいえ、かつてここまでピンチになったことがあるだろうか?
今までだって確かにきつい瞬間はあれどなにかしらの対抗手段を持ち合わせていた物だが、今回はそれすらも碌に無いぞ。
ずっと『体術』スキルも用いて何とかやつの腰の打ち付けを躱し続けてはいたが、動きに無茶が続いたのかとうとう追い詰められてしまった。
はぁ、さらばだ俺の貞操よ・・・。
と一応の覚悟を決めたところで母ガエルを突き飛ばす存在が現れた。
俺の身体を取り囲むようにとぐろを巻き、母ガエルにむかってシャーッと威嚇する。
それはまるでこれは私の所有物だと宣言するように。
え、なにそれ格好いい。
惚れちゃいそう。
なおも諦め悪く近づいてこようとする母ガエルに向かって、ヘビは氷の白い息を吐きかける。
カエルは両生類であり、変温動物だというのは授業でも習っただろう。
当然母ガエルも寒いのが苦手なはずだ。
こんな亜熱帯地方のような気候下で過ごしていたら、そんな現象はまず体験しない出来事であろう。
母ガエルにとってヘビは天敵だった訳だ。
まあそれは同じような種族である俺にとってもだけど。
ああー、あのこいつと時敵対してなくてホントによかったー。
ヘビの攻撃に驚いた母ガエルは戦闘態勢を構えることも無く、そのまま尻尾を巻いて逃げ出してしまった。
カエルだから尻尾無いけど。
・・・ごめんよ、つまらない冗句を言ったからといって怒らないでくれよ。
助けてくれたヘビにお礼の意を示すと、なぜもっと早く助けを呼ばないんだ的な感じで怒られた。
えー、そこ怒られるんだ。
最近はめっぽう戦闘に参加してこないくせに。
あ、いやすみませんでした、感謝しておりますとも、それはそれは。
『念話』スキルを所持しているから、うかつなことを考えられないよ。
なんともツンデレなヘビさんに助けられて、それにヘコヘコしながらも、俺たちは歩みを進める。
そして道中他の魔物達を何とか倒しながら日が沈みそうになる頃、ようやく中層に辿り着くのだった。
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あとがき
今回の話で投稿文字数が総合20万文字を超えました。
大体小説の単行本が一冊大体10万文字と言われているので、大体2冊分といった所ですね。
ステータスなどで文字を稼いでいる部分や昔の自分の書き物に加筆しているのはありますが、とは言えこうして目に見える達成感というのも大きいです。
改めてここまで作品を読んでいただきありがとうございます。
閲覧数はもちろん、いいねやコメントも励みになりますので、もしよろしければこの作品にもぜひ!
さて短めですが、この章は一旦これで終了です。
最近は更新ペースが週一を保てていたのですが、次の章から新たに考える箇所が増えるため、今までよりも更新ペースが落ちる可能性があります。
頑張るので、気長にお待ちいただけたら幸いです。
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