閑話 1-4 クラス分け試験②
試験2日目。
今朝も昨日と同様にディーンに起こしてもらいつつ、試験会場である教室に向かう。
この教室は昨日試験を受けた教室とは、違う場所だ。
これもテスト不正防止のためだな。
試験の会場はそれぞれ前日にかつランダムに決められていて、事前に仕掛けなどを施して不正をするとったことが、なるべく起きないようにしているらしい。
なるべくと言ったのは、それでも100パーセント防ぐ事は出来ないからだ。
教室に着いた後はディーンと離れ離れに着席し、テストが始まるのをただただ待つ。
学生側が全員集まって少ししたところで、本日の試験監督感が入ってきた。
このグループで試験を受ける学生の中に、遅刻をするようなものはいない。
一応試験を受けるグループの身分というのは、学校側である程度意識して分けられている。
なぜなら身分違いによって発生しかねないトラブルを、できるだけ避けるためだ。
そして王族である自分と同一のグループということは、この教室にいる彼らもそれなりの位を持っている人物たちのはず。
そのような身分故に、当然彼らも自分と同じように家や国から相応の期待をかけられているに違いない。
そういった事情もあって試験に遅れるのもまぁ、普通に考えればありえないだろうな。
試験用紙が配られていくことで、さぁ今から試験が始まるぞという感じがして、昨日と同様に体に緊張が奔っていく。
そして開始の合図が出され、問題用紙を各々が開いていった。
2日目、1つ目の科目は政治・経済。
現在の各国の政治体系、経済状況についての問題や政策についての考え方が多く出るこの科目。
王族としての教育でも、かなり重要視されている分野である。
そして意外と貴族階級の人でも割とおざなりにする科目でもあるため、高得点を狙うのならば他の人と点差をつけるチャンスだ。
ここでついでに各国の政治体制について説明すると・・・。
俺の住んでいた王国はいわゆる王政と言われるもので、王を頂点としてその下に貴族、さらにその下に国民がいる体制だ。
その権利の受け継ぎ方は主に、血筋や家柄。
子供ができない家の場合は、養子なんかを迎えたりすることもある。
メリットとして政策を決めたりするときの動きが軽いが、デメリットとして権力が集中するため高い権力を持つものが腐敗しやすく、汚職が発生することもしばしば。
こちらの世界の父も、それについては悩みの種となっていた。
次に聖国は、それらの王国における王や貴族にあたる部分が法皇や僧に置き換わったものだな。
国のトップ的なポジションの人は別にいるが、実質的な為政者は法皇といえる。
お布施などにより資金力もそこそこ保持しており、国のトップは完全に法皇の意見を無視できなくなっているため、その政治も割と教会を優遇しているものが多い。
次に獣国、ここは数年に一度決闘のようなものを行い、そこで優勝したものが長を務める体系のようだ。
力こそが全てという認識が根底であるらしく、どんなに素晴らしい意見でも力が伴っていなければ舐められてしまうらしい。
そんな一見馬鹿らしい体制だが、逆にシンプルゆえに長に対して直接媚を売るぐらいしか中枢へ取り入る手段がなく、それも数年ごとで人員が結構入れ替わるので、政権が腐敗することが少ないようだ。
次に魔国、ここは擬似的な君主制をとっている。
王国のように明確に家柄で決まっているわけではなく、選挙によって国やそれぞれの自治体のトップが選ばれるような方式だ。
そもそもその立候補に上がれるのが一定以上の地位にいるような人物に限られているため、完全な民主制とはいえないため擬似的な君主制と言える所以だろう。
また、投票の重みなどもあり権力が高い人ほど投票の重みが多くなっているため、割と政権が操作されることもあるそうな。
さて最後の霊国であるが、ここはそもそも人口が少なく、政治と呼べるものがそもそもあると言えるかはわからないが、トップは一応形式上一番歳が上のものが勤めているようだ。
そして何かしらの政策を決める際には国民全員での多数決がデフォルトらしい。
全国民数が少ないからこそできるやり方だろう。
政治形式だけ見れば元の世界のものと一番近いのがこの霊国なのかもしれないな。
そんなこんなで1限目が終了。
手応えとしてはそこそこか。
こんな立場になるなんて夢にも思ってなかったが、もっと元の世界でも政治系の話題に対して関心を持っておくべきだったかもな。
振り返りもそこそこに、あまり休みが挟まれることなく2限目のテストが始まる。
次に受けるのは地理、歴史。
地理の方はその名の通り、各国の地名やその特産品を答えるような、そして歴史についても同様に各国の建国から今までの歴史について答えるような問いが出題される。
これについてはもう完全に暗記しか学習する方法がないので、他の教科と比べても勉強するのが相当辛かった思い出があるぞ。
でも、元の世界ではそれこそ数千年の歴史とかあったわけで・・・。
この世界ではどの国も最大でせいぜい300年程度の歴史しか存在しない。
それと比べれば幾分か気分的にマシだった。
地理の方もこの世界ではたった五つしか国が存在せず、元の世界が数百もあったのでこれも言うまでもなく楽だった。
もちろん、その分市名なんかまで覚えなければいけないことも多いが、それ含めても何とか覚えられる程の量ではある。
そんなこんなでなんとか2限目も乗り切ることに成功。
そして本日、かつ学科の最後の科目である神話のテストが始まった。
神話。
正直この科目が全学科科目の中で一番苦手な分野である。
なぜならばこの科目が全科目の中で一番意味不明だからだ。
まずことの起こりは各地に残されている5つの国が建国される前に建てられたと思われる遺跡、その壁画からと言われている。
その時代の文字自体が今の共通語とは完全に異なり、翻訳することも一苦労だと言われている。
翻訳しきれていない部分に関しては、教科書の書き手の思いが反映されるため、見る本によって内容が変わるそうだ。
さてその肝心の中身についてだが、太古の昔空や海から黒い存在が襲い掛かり、それに対して人類や神などが一致団結して戦ったというのが多くの翻訳本で共通しているエピソードである。
黒い存在とは一体なんなのか、どのように撃退したのかなどの箇所は翻訳できておらず、話の中身もふわふわとしているためはっきり言って何を伝えたいのかが非常にわかりづらい。
そもそもどうしてこのような科目が必須教養科目の中に選ばれたのか甚だ不思議だ。
だって、こんなの御伽話のようなものだろう?
なぜなら神話の科目の中では黒い存在というものに対して、竜とともに戦ったというような記載があるが、この世界で竜は発見されていない。
魔法やら魔物やらファンタジー感が強い世界ではあるが、ドラゴンだけは発見されていないのだ。
そんな内容のものをどう勉強すれば良いというのだろう。
肝心の教科書は昔のいい回しも多くて、ただ文章を読んでいるだけではなかなか中身が入ってこない。
この神話の勉強中はよく眠くなってたっけな〜。
結構記述が一語一句合っていることを要求される問いが多く、必死になって頭の中の文章を捻り出した。
結果についてだが手応えとしてはあまり自信がないとだけ言っておこう。
ふぅ、ようやく二日間に渡った学科テストが終わったな。
結果が出るのはまだ先だが、そこそこいい線いっているのを期待したい。
ずっと机に対して向かっていたせいで固くなっていた体は、伸ばしたり捻ったりすることでボキボキと骨が音を奏でる。
とりあえず学科面のテストが終わったことで多少気分が楽になった俺は、その日は結構安らかな眠りにつくことができたのであった。
そして次の日、俺とディーノはグラウンドのような場所に立っていた。
ここから先は実技科目のテスト。
項目は剣術、槍術、体術、そして魔術の4つがあり、この日は剣術と槍術のテストが実施される。
「それぞれ訓練用の剣を持てー!」
監督官のようなポジションの人物が、そうやって受験者全員に対して呼びかけた。
訓練用の剣とは切れないように刃引きがされた剣のことであり、これらは学生のように剣の扱いに不慣れな人でも怪我がしにくいように配慮されている。
とはいえ金属の塊であることになんら変わりはないので、振り回したりしたものが当たったりすれば、その重さによって大きな怪我をしたりすることはもちろんあるが。
さて、剣術のテストというか、魔術以外の3つのテストに関してのテスト方法は試験官に一人ずつ挑み、その実力を見せていくという非常に単純明快なものである。
複数人いる試験管の列の1つに並び、自分の番になるのをドキドキとしながら待つ。
前の人が徐々に捌けて行き、ついに試験開始の時が来た。
うーん、いざこうやって目の前にするとやっぱり威圧感があるな。
年齢が俺よりも上とはいえ、それだけではない確かな訓練に裏打ちされたその肉体。
この学園の試験官に選ばれているだけあって、とんでもなく強そうだ。
「よろしくお願いします!」
そう掛け声を自分が上げると同時に試験が開始する。
相手が強そうとはいえ、自分もこれまで王国最高レベルの剣術訓練を受けてきたんだ。
それなりに結果を残さなければいけないな・・・。
一つ俺に有利な点があるとするならば、これは試験であるため試験官は本気を出すことができないというところだ。
少なくとも実力を測り切るまでは、であるが。
それによって生まれた隙をなんとかこじ開けるしかない。
「はぁ〜!シッ!」
まずは息を吐きながら、剣を素早く振る。
結構自分なりには素早く動かしたつもりだったが、相手をする試験官の人はそれを難なく躱してきた。
それどころか安々と反撃を合わせてくる。
「ぐぅ・・」
対して最初の一撃が空振ったことによって体勢が崩れ気味であった自分は、剣を無理やり間に挟み込んで軌道をなんとか逸らす。
そして試験管の膂力によって押される形で後ろに飛び退くことで、再び距離を取ることに成功した。
体の軸が尋常じゃないくらいにしっかりとしていて、この人が今までにとてつもない量の修練を積んできたことを感じさせる。
これは生半可な攻めではこちらの隙を晒すだけだな。
反撃もとんでもなく重くてなんとか弾くことはできたものの、手が少しばかし痺れている。
そう何度も受けられるようなものじゃない。
さて、どうするか。
これはあくまで剣術の試験。
実戦的な能力を見ているわけではないので、剣術として高い実力を見せる必要がある。
「来ないのか?ならばこちらから行くぞ!」
こちらが攻めあぐねているのに対して、他の受験者も多くいるためとっとと試験を終わらせたいのだろう。
今度は向こうから攻撃を仕掛けてきた。
今の俺ではパワーでもスピードでも敵わない、なら相手のものをを全力で利用させてもらう!
向こうから攻めてくれるならこっちとしても好都合だ。
チャンスは油断している最初の一撃だけ・・・。
振り下ろし、切り上げ、右斜め、・・・ここだ!
とんでもない速度で繰り出される連撃の最中、ただ特定の攻撃が来ることだけを待ち望んでいた。
そして今それが来た瞬間にこちらも全力を出し切る。
相手の足元で姿勢を屈ませて、体を跳ね上げるように跳躍。
身長差も存分に利用させてもらおう。
落ちてくるような剣にこちらの剣を重ね合わせ、まるで鞘に沿わせた居合のようにギャリギャリ音を鳴らしながら加速させた。
『剣術』スキル、「払い切り」!
相手の下側からすごい勢いで首元に行った訓練用の剣だったが、体に当たる直前に肘を挟み込まれて完全に逸らされてしまった。
そして膝を鳩尾に入れられた後そのまま地面に押し倒され、更に訓練用の剣を首に当てられる。
「・・・参りました」
そうして俺の剣術での試験は終了することとなった。
自分なりには必死に頑張ったつもりだが、あそこまで綺麗に返されると何も言えないな。
少しでも良い評価をつけてくれていることを願うばかりだ。
槍術や体術については詳細は省くとする。
剣術と違って槍術はスキルすら保持していなかったので、剣術よりも悲惨な結果であったと伝えておこう。
最後の実技テストである魔術に関してだが、これは魔術の使用可能な位階、生成速度、威力、コントロールの4項目についてチェックするものだった。
そもそも魔術のテストは受ける人数自体が全体の中でとても少ない。
なぜなら魔術は貴族階級でないものに関してはそもそも自身が使用できるかどうかを知らないものも多く、そういった人物は授業で扱いを学んでいくこととなるためテストは免除されるし、また魔術に関して適性がないものもそこそこいるので、その人たちも同様に受けないからだ。
その点俺はそのどちらに該当することもなく、普通にテストをした。
使用可能な位階に関してはその魔法を実際に試験官の前で発動させることで確認し、生成速度、威力、コントロールに関しては木でできた的に向かって魔法を放つことで確認する。
これらは何を見てるのかというと、使用可能な位階に関しては魔法スキルのレベルを、それ以外に関しては魔法スキルを使うにあたってそれぞれ関連ステータスの確認になっている。
俺の場合、使用できる最大の位階の魔法は「ファイアランス」、的当ての方は10個中8個的中かつ当たったものに限っては全破壊、であった。
そんなこんなで色々な苦難もありつつ、総勢4日間にも及ぶクラス分けテストは終わりを迎えたのだった。
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