閑話 1-3 クラス分け試験①
さて今日から学園が始まる。
そして学園で最初に行うことといえば、クラス分けだ。
先にも説明をしたように、この施設は一応学校のようなものという扱いはされてはいるものの、実際にはすでにある程度家庭教師を雇っている家もあれば、全く今までそういったことに触れてこなかったような家もある。
つまりはその時点でそれぞれのスタートラインが異なるわけだ。
そしてそういったものが全くのバラバラである状態で、みんながクラスに配属されると一体どうなるのか。
理解内容に差ができ、お互いに不満が噴出してしまう。
どちらにとっても不幸になるような状況は、はっきり言って学園側にとっても好ましくはない。
そのようなわけで、学園はまず始めに新入生に対して一斉に試験を行い、それぞれの理解度や習熟具合によってクラスを分けている。
試験の項目は主に学科と実技の2種に分類され、学科は数学・共通語・元素学・魔物学・政治/経済・地理/歴史・神話の7科目、実技は体術・剣術・槍術・魔術の4科目を受けさせられる。
学科の方の7科目はこの世界における基礎教養科目とされていて、これらを満遍なく学習していることが上位階級の者として当たり前のステータスであるとされている。
そして貴族やなんかの場合はこれらの科目に加えて、礼儀作法とかを教わることが多いかな。
実技の方に関してだが、こちらは魔術の方は本人の素質がかなり大きく作用されるため、魔術の成績が悪かったとしても大きくクラス分けに影響することはない。
もちろんクラス分けの際に順位が付く関係上、他の分野が大体同じ程度であれば魔術の成績が良い者の方が上となってしまうが、他のものほど影響は大きくはない。
また、体術・剣術・槍術だが、これらは3つの総合成績によって最終的な判断がなされる。
大体の場合はどれかが突出しているということはないため、大丈夫だと思われるが、仮に体術だけがずば抜けて高かったとしても他がダメダメであればその結果は平均的なものとして換算されるそうだ。
逆にこれらが低い場合でも、魔術の成績が良い場合は評価される場合もある。
流石に全部低いともなれば、実技分野の評価は悲惨なことになるだろうがな。
さて、ここでなぜこのようなことを入学前にあらかじめ済ませておかないのかと思う人もいるだろうが、それもしょうがない理由があるのだ。
この時期に学園が始まる理由の説明として、各国から生徒が集まるためそれぞれの到着を待つためということを言ったのだが、それがまんまこの試験をこれから実施する理由にもつながる。
各国から事前テストをやらせるためだけに、一度呼ぶことの方が単純に考えて非効率なのがわかるだろう。
入学試験ならば学力が満たないものを足切りするためにも事前にやる意味があるのだろうが、この学園はそう言ったことはしていないし。
さて王族である俺は当然このクラス分け試験において、国の代表のような目で見られるわけだが・・・。
そうである以上、万が一にでも成績下位のクラスに入るわけにはいかない。
もしも仮にそのような事態になったならば、当初の目的であった各国間での友好関係を築くかどうかの話どころではない。
王国が一瞬で嘲笑の的になること間違いなしの、大失態になってしまうだろう。
だからこそこの時のために俺は今日まであまり好きではない勉強を、必死に頑張ってやってきたんだ。
さて、試験開始だな。
まず試験を受けるグループに分けられ、そこから更にそのグループ単位で全て順に回っていくことになる。
これは数日単位で分けて行われる非常に大掛かりなものだ。
俺が所属している試験のグループは初めは学科を全て回ってから、最後に実技を行うルートを通るようだ。
うーん、緊張するな・・・。
全員が机に座ってから試験の監督官が現れ、みんなに向かって問題用紙を配っていく。
一番始めに受けたのは数学。
これは割と元の世界の知識を流用することができたので、家庭教師に教わっていた時から理解が早いと褒められていた分野だ。
難易度で言っても、いわゆる鶴亀算のようなものが最高で、高校数学レベルのものは全くと言っていいほど出ず、正直言ってそんなに苦ではなかった。
ケアレスミスを警戒して何度も見直しはしたものの、手応え自体はバッチリだったかな。
もちろんこの世界の数学が低次元であるとかそう言うことではなく、この世界でいういわゆる一般的に使えていた方が良いレベルというのがこのくらいの難易度であるというだけの話だ。
数学系の学者や専門家にでもなれば、当然これよりもずっと難しい問題も出てくることだろう。
俺は元々数学系は学校でもそんなに得意ではなかったので、そっち系の道に進む気はないのだが、幼少の教師にはあまりにスラスラとできるものだから、何度も薦められたものだ。
さて、気持ちを切り替えて次に受けたのは共通言語の試験。
これは元の世界に当たる国語や英語に当たる分野。
元の世界では英語はからっきしで数学よりもできず割と苦手分野であったのだが、流石に幼少のころから使い続けていれば流石になんとかなるものである。
そして一度ある程度意味が理解できれば、元の世界の国語ほど文法も複雑ではないためどんどんと学習を進めることができた。
とはいえ試験の内容は楽勝と言えるほどでもなく、高身分のもの同士が手紙でしたためる文の言い回しはまさしく謎を読み解くかのようなものであり、非常に回りくどいものもある。
また、古語と呼ばれるものも存在し、そちらはさながら暗号のようなものであった。
正直言って満点であるとなんて、自信をもって言えないな。
共通語は数学よりも教養を測るラインが上であるためか、かなり踏み込んだ内容も出してきたみたいだ。
そしてお次の内容は魔物学。
ここから先の科目はかなりこの世界特有の色が強い教科が多く、結構元の世界の知識を活かすことが難しいところでもあった。
なんせ元の世界には魔物なんてものはいなかったからな。
とはいえ、小さいころからはっきりとした自我があるというのは十分なアドバンテージにはなるだろうから、そこは依然他の人たちよりも有利な点には変わりない。
魔物というのはこの世界特有の生物であり、非常に凶暴な生物だ。
こちらの世界にも元のとは少し姿形が違うが動物もいる。
しかし魔物は動物とは明確に区別されるものがあり、それは身体の中に魔石と呼ばれる結晶のようなものが存在することだ。
魔石とは高濃度の魔素と呼ばれるものが結合して石状になったものであり、この魔素というものは人が魔法を使うのにも用いられる不思議エネルギーである。
それにより魔物の中には魔法を使えるようなものも数多く生息しているのだ。
一体一体が高い身体能力を持っていたり、魔法を使えたりするため、魔物は人族にとって非常に警戒しなければいけない相手だ。
その形状や能力は非常にバリエーションが多く、その特性ごとに適切な対応を知っておかなければ、かなり悲惨なことになるケースが多い。
というか実際に魔物によって集落が滅びたという事件が報告されるのは、全世界で一度や二度の件数ではない。
そう言ったわけで、魔物学というのは一般教養科目の中でもかなり重要な分野とされている。
王国では一集落につき最低一人はこの分野について勉強しなければいけないと言う決まりがあり、流石に先で説明したように国民全員への補助はできないものの、部落の後継なんかにはこの学園に強制的に通わせるような援助システムがあるのだ。
この世界で生きていく中での必須科目と言い換えても差し支えない。
試験形態としては羅列されている名前からその外見を模した絵を指定するものや、その魔物について注意しなければいけないことを列挙したり、またそいつについての適当な対処法を記述せよというような問題が出てきた。
こちらの試験もなんとか無事にクリアすることができたな。
勉強する感じは小さい頃によくしていた恐竜図鑑を見るような感覚が一番近かった。
また教科書自体がなんかのゲームのモンスター図鑑のような感じがして、この科目の場合は勉強自体が結構楽しかったような印象がある。
ああいうのって特に意味もないけれど、なんかワクワクするよね。
そして本日最後の試験は元素学。
これは先ほど魔物について説明するときにも登場した、魔素についての学問である。
魔術が魔法を実践的に用いることを目的としているの科目なのに対し、こちらは原理とかがどうなっているのかとかそういう分野自体に対しての科目である。
あんまりこれについては上手い例えではないかもしれないが、銃の扱いが魔術で元素学が物理学や化学だと思って貰えばどうだろうか。
銃の仕組み自体を正確に把握していなくても打つこと自体はできるし、それを誰かからより良い打ち方を教われば命中度などが向上する。
対して、空気抵抗についてや銃の仕組み自体を勉強すれば、自分に最も適した銃を選んだり、新しくより性能が良いものを開発できたりするだろう。
この場合魔術が前者、元素学が後者にあたる。
銃自体に対してそこまで詳しくないのだが、2つの違いをざっくりと説明するとこんな感じなのかな。
魔素には属性というものがあり、火・水・雷・風・土・木・氷の7種類が主要属性それ以外のものが亜属性と呼ばれている。
亜属性には毒や金、力などがあり、他にも色々あると言われているようだ。
主要属性と亜属性の違いは単純に世界中に存在する魔素の中の属性分布の違いであり、世界中の魔素のおよそ99.9%はその主要9属性だけで占めているかららしい。
魔法を扱うのにも人それぞれ扱いやすい魔素の属性が異なっていたりして、それが才能に直結するのだ。
さて魔素の概要についてはそれくらいにしておいて、試験的にはやはりかなり難しいかな。
まるで化学に近しいような内容であり、そのレベルも数学とかと比べるとかなり元の世界の高校クラス寄りだ。
原理的な説明はとにかくフル暗記、こういうことをした場合にどのようになるでしょうか系の問題は事前の、過去問傾向とその対策でなんとか乗り切るしかなかった。
こういう学習方法は本当に身になった気がしなくて個人的にはあんまり好きじゃないんだけれど、背に腹はかえられない。
少なくとも今日受けた試験の中では一番自信が無いな。
「ハァ〜、づがれだ〜ぁ」
学校の試験というものを久方ぶりに行ったためか、精神的にもかなり消耗したため、小声でそう漏らしながら机に向かって突っ伏する。
昨日までも今日のためにみっちりと練習はしてきてはいたものの、やはり練習と本番の緊張感というのはかなり違う。
そう思うのは自分だけではないようで、周りには何名かが自分と同様に顔に疲労の色を滲ませていた。
反対に全く気にした様子がない人たちも一定数おり、果てして彼らは点数に対して特に気負う必要性がないだけなのか、とんでもなく自身の結果に自信があるのか・・・。
「全くリョーマ様、はしたないですよ」
本日の試験が終わったことで、ディーンがこちらまで駆け寄ってきて、苦言を言ってきた。
このディーンというのは俺と同い年の世話係であり、今朝のベッド周りで世話をしていたやつと同一人物である。
いくら学園の試験のためとは言え、要人に対して付き添いを全くつけさせないというわけにはいかないので、要望があれば常識的な範囲の人数に限り、申請した人物と同じグループを組むことができる。
その分不正ができないように監督官側の目が他の人達よりも厳しくなったりするらしいけれど。
実際に一年に何人か従者を使って不正をする人は現れるようで、しょうがない措置なのだろう。
俺としては不正をするつもりはさらさらないので、逆に濡れ衣を着させられないように疑わしい行動をしないように気をつけよう。
「これくらい許してはくれないか?」
「ダメです、いつでも誰からでも見られるということを意識してくださいませ」
そうは言っても彼も試験を同様に受けていたので、疲れは見える。
おかげでめちゃくちゃ責められるということもなかった。
その後テストの手応えがどうだったかだのあの問題はどう解くのかだのと、割と元の世界での学生に近い会話をディーンとしながら、寮への道を歩くのだった。
試験1日目終了。
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