閑話 1-2 スタート


この世界の名前はラスティア。


誰がそう呼び始めたのか定かではないが、数百年前の文献からもうすでにそう記されている。


元の世界の知識からすれば、世界全体に名称がついているというのもなんだか変な感じだ。


意味としては地球というニュアンスに近いのだが、規模的にはヨーロッパってぐらいであるし。


そしてラスティアにはたった5つだけしか国が存在していない。


その5つの国だが・・・


まずは僕自身が生まれた国である、王国<メガロス>。


その名の通り政治体系として王権制が採用されていて、昔の話などでよく出てくる貴族なんかも存在する。


比較的豊かな大地を誇り、少し街の外を出ると大きな麦畑を一望することができた。


食糧生産量が5つの中で最も高く、他国への輸出も多い。


気候は穏やかで治安も悪くなく、5つの国の中でも最も暮らしやすい国だとも言われているそうだ。


二つ目に紹介する国は聖国<アーィオ・フォス>。


善行を積むことで、自身が死んだ時に天使が迎えに来てくれることを信じる、天使教という宗教を重んじている所謂宗教国家だ。


国のど真ん中にはとても荘厳な大聖堂が鎮座しており、毎日毎日他国からの観光客で非常に賑わっているらしい。


王国とは異なり国のトップとして王の代わりに教皇が国を治めており、全体的にみて様々なところで教会が強い権力を持っている。


天使教という名称はあるものの幾つかの宗派が存在しており、その宗派によっては過激な人たちもどうやらいるそうだ。


そこだけ聞くと割と元の世界とも一緒かもと思ってしまうな。


国の至る所を綺麗な川が流れていて、その綺麗な水は瓶などに詰められ聖水として売られることもあるそう。


次に紹介するのは獣国<アポリト>。


ここは国全体が深い森の中にすっぽりと収まった国であり、木々の間へ家を引っ掛けたツリーハウスの中で暮らしているそうだ。


そしてなんといっても一番の特徴は国の名前の通り、暮らしている住民のそのほとんどが獣人と呼ばれる身体に耳や尻尾などが生えた人種であることだろう。


その身体能力は非常に高く、肉弾戦においてはこの世界に暮らす全種族の中でも最強と目されているほどだ。


国全体としては主に林業が盛んで、その反面畜産や農業といった産業が全くといっていいほど無い。


そのような事情もあってか王国とは、輸出入などの国交が最も盛んな国である。


次に霊国<ドゥロパロス>。


国の周りを峰が覆ってしまっており、湿気とその立地の関係から年がら年中、街の中を霧が立ち込めているそうだ。


そんないかにも聞いただけでも気が滅入ってしまいそうな辺鄙な場所を好んで暮らしている種族があって、その名も不死族と呼ばれるものだ。


不死族は食事というものを一切必要とせず、大気中に漂う魔素と呼ばれるこの世界特有の物質を吸収して生きているという。


また、彼らには加齢という現象がなく、それゆえ魔素の吸収器官である内臓を破壊されない限り、ほぼ永久的に生きることができるらしい。


きっと細胞の劣化というもの自体が存在せず、新陳代謝も行われないのだろう。


外見はというと肌は青白く、年を取らない代わりに太陽の光を浴びるとたちまち体が燃え上がってしまうと言われているため、基本的に霊国の外へと彼らが出てくることは無いそうだ。


そのような事情もあってか、他の国との関係が非常に薄いため、この国の内部情報は外にあまり出回ってこない。


商人たちの個人単位のやり取りは多少なりともあるらしいが、あったとしてもそれだけ。


国同士での話し合いの場などでもそもそも表に出てくることがなく、どのような場合でも中立の立場でいることが多い。


そして最後に紹介するのが魔国<プロフィティア>。


魔族と呼ばれる、獣人族とは反対に魔素と呼ばれる空気中の物質を操作することを得意とする種族たちが暮らしている国だ。


その特徴として角や尻尾などが生えている点は獣人族とも非常に似通っているが、全員の共通事項として黒い羽が生えていることが挙げられるだろう。


天使教の教義として彼らには白い羽が生えたものを天使として扱うとされているため、天使教を信仰している人たちの中には彼らを嫌う人たちもいるそうだ。


彼の国は強力な軍隊を所持していて、5つの国の中でもその軍事力は随一といわれている。


王国としては一番敵対的な関係にはなりたくない国だな。


なんせ我が国は農業などのいわゆる一次産業に力を入れているため、こういった戦闘方面は非常に他国と比べると弱いのだ。


さて、ここまで5つの国を紹介させてもらったが・・・。


現在僕がいるのはこの5つの国が合同で作成した教育機関である場所だ。


15歳になった今、僕は親元である王城を離れ、この学園と呼ばれる場所に通うことになる。


学園は全寮制であり、卒業するまでのしばらくの間、長期休暇などを除き家族とは離れ離れだ。


ここに来るまで全く勉強や教養を身につけてこなかったのかというとそうではなく、もちろん王族であるという身分もあり僕はしっかりと王家の教育を施されてきた。


前世という経験があったから耐えられていたが、王族や貴族というものは幼年の頃からああいった大変な教育を受けるとは思っていなかった。


あれは華やかさだけでは無いんだなと思い知らされた瞬間だったな。


それはさておき、なぜそれまで教育を受けていたはずの俺がこの学園に通うことになったかという話だよね。


まず始めにこの学園の目的というのは、世界全体での知識向上である。


俺のような生まれながらにして貴族や特権階級などの人物たちは、自分たちで教師を雇うことができるが、それ以外の人たちは決してそうではない。


それらの人たちに教育を受けさせる機会を与えるというのが第一の目的なのだ。


しかし、これは俺自身が貴族の一員であるので該当しない。


それにその理念自体は非常に立派なものなのだが、実際のところはそうはなっていないのが現実でもある。


巨大な学園機関とはいえ、5つの国全ての若者に教育を受けさせることができるほどの容量の校舎や寮を有してはいない。


また学園で教育を受けるには個人で家庭教師を雇うよりも遥かに安価であるとはいえ、当然そこそこの大きさの費用が発生する。


その日暮らしの平民も多い中で、貴重な労働力を手放してまで、それを受けさせようという家はかなり少ないのだ。


次に第2の目的があり、それが俺がこの学園に通うことになったものだ。


それは5つの国の親交を深めること。


近年各国で魔物と呼ばれる動物とも異なる非常に凶暴な生物が活性化してきており、国同士での連携が重要視される事態となっている。


中でも獣国や魔国の戦力は非常に高いものがあり、仮に強力な魔物が王国内に現れた場合には協力を仰がなければならない。


そういった意味合いでも最近の学園では、すでに各々で家庭教師を雇っていた地位にいるような者でも、通うといったことが増えているのだ。


「ふぅ、疲れたー」


王国からこの学園までの長い長い馬車旅を終え、大量の荷物を運び終えたところで、それまでの疲労感がドバッと押し寄せて思わずそんな声が漏れる。


王族としての身分ゆえに、実際の荷運びをやったわけでは無いので、疲れているのはお前ではなく運んだ人の方だろうが、というのは至極真っ当な意見なのだが今日くらいは許してくれないだろうか。


この年になるまで数週間にわたっての長旅なんて経験をしたことがなく、この世界には車なんかも無いため馬車による旅路となった。


元の世界ではある程度舗装された道路が存在し、揺れも少なく速度も速いという移動手段に慣れてしまっていたのもあって、そのギャップゆえか今回の移動がものすごく辛く感じてしまったのだ。


そのような日々からようやっと解放されるということから、こんな声もそりゃ漏れるだろうと。


それにしても学園か・・・。


元の世界ではもちろん経験してきたことではあるが、この世界では同級生といったものはこの年まで経験してこなかった。


同年代の別貴族の子達とは会わされたことはあるが、そのどれもが対等な関係ではなく、明確な上下関係というものが存在している。


そういった意味で自分をある程度曝け出して仲良くできるような交友関係を築けていない。


この学園ではそういった人たちと出会えるといいな。


そんな風にまだ見ぬ出会いに思いを馳せて、学園に到着した日は疲れからか速攻で眠りに落ちていくのだった。


「起きてください、リョーマ様。朝餉の時間ですよ」


俺が学園に到着してから1ヶ月弱が経過した頃。


身の回りをお世話してくれる使用人の人が俺のことを起こしにやってくる。


「う、、、ああ分かった」


俺は彼らに服を脱がされながら寝ぼけた頭が徐々に目覚めていくのを待つ。


彼らがいるのに、自分で服を着替えようとするのはむしろ仕事を奪うことになるといわれてから、このようにされるがままになるのも随分慣れたものだ。


元の世界に帰ることができる手段を見つけると意気込んだのは良いが、このままで果たして戻った時に普通に生活ができるものだろうか。


些か不安になってきたな。


さて今日からようやく学園が始まることになる。


俺のように王族という王国の中で一番責任が重大になる立場の人間が、遅れるということは王国全体の印象に悪いものを与える要因になりかねないということで、結構余裕を持って日程が組まれていたのだった。


考え方によっては立場の偉い人物というのは一番遅くやってこなければいけないため、あまりに早く来すぎてしまうと舐められてしまうということもあるらしいが、俺自身が学園に通うということが楽しみ過ぎて、一ヶ月弱というなんともいえない日程になった。


さて今日から新しい日常がスタートだ。


【ステータス】

名前:リョーマ・イグニス・メガロス

種族:人族

性別:男

HP:2069/2069

MP:1788/1788

SP:1702/1702


レベル:11

ATK:1755

DEF:1696

INT:1900

MND:1599

SPE:1259


スキル:

『鑑定 :レベル2』

『状態異常耐性:レベル1』

『剣術:レベル4』

『体術:レベル3』

『流体:レベル2』

『疾駆:レベル2』

『解析:レベル1』

『火炎魔法:レベル3』

『危険予知:レベル1』

『火の加護:レベルー』

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