第34話 『収納』
『収納』スキルを習得出来るかもしれない、とは言ったものの、ことはそう簡単じゃあない。
今までの説明は全て、あくまでスキルを後天的に獲得できる可能性が高い、という話でしかないし、そんなことがそもそも出来無い場合も、もちろん考えられる。
また、もしかしたら努力をして覚えられるスキルとそうでは無いスキルがあり、『収納』というスキルが、その覚えられないスキルの方のカテゴリーに含まれているかもしれない。
それらの場合、完全に今からする努力は無駄なわけだが、『収納』というスキルにはたとえそうだとしても、試してみるくらいの価値はある。
もし『毒魔法』の弾のストックや、『薬毒錬成』スキルによって生成する物のストックが出来れば、バカみたいに多い現状の消費MP量を、あまり抑えなくても残MP量を気にせず戦えるようになるだろう。
俺の今後のことを考えるならば、習得するのは速ければ速いほど吉だ。
先程ちょうちょの持つスキルから見た説明によれば、容量とスキルレベルが比例する。
その容量を増やすためにも、スキルのレベルは当然出来るだけ上げておきたい。
しかし、問題もある。
これまでに習得出来た、恐らく後天的に獲得したと思われるスキル達と、これから意図的に習得しようと思うそれらのスキルでは、その難易度が天と地ほど違う。
今までのものはこの状況では何となくこうした方が良いんじゃないか?と思ったものが、たまたま運良くスキルとして発現していたにすぎない。
しかしこれからのものは自分で始めに、このスキルを習得するにはどういうことをすれば良いのか?を意識しながら、それに沿って行動しなければならないだろう。
これが一体どれほどの差があるのか。
後者はまずどういう行動が必要か考えつかなければならず、さらにそれが自分で行動を取ることが出来る範囲内であることが絶対条件なのだ。
いきなり『飛行』スキルが欲しいからといって、その獲得方法で「空を飛ぶこと」を思いつくことはあっても、翼も何も無ければそんなことは出来ないはずだからな。
そして肝心なのは、現在の時点で『収納』スキルの習得するための道筋が、全く思いついていない所だろう。
習得方法について全く思いついてもいないくせにそんなことを言い出したのか、と思うかもしれないが、ヘビの寝てる間何もやらないのは時間がもったいないし、これくらいは許して欲しい。
状況としては完全に0からのスタートだし、まずやることとしてはスキルについての分析だ。
どのようなスキルなのかを理解していなければ、進む方向すら見えてこない。
『収納』スキルの分類は・・・。
うーん、全く分からないな。
強いていえば、空間操作系になるのかな。
空間を操作するような同系統のスキルを見ていない(そもそもこの世にどれだけの量のスキルがあるか不明なため、そんなにスキルの種類を見ていないのかもしれないが)し、スキルにどんな分類があるかもよく分かっていないが。
俺が自信を持って分類を言えるのは、魔法系統であるかどうかぐらいだ。
名前に~魔法と付いているし、あれはもう分類として確定だと思ってもいいだろう。
それぞれ何かしら属性を司っていて、MPを使用することで魔法を発現することが出来る。
その全容は把握できていないが、今まで見てきたもので言うと俺自身も持っている『毒魔法』。
それに、ヘビの『氷魔法』にナマズの『雷魔法』、それにワシが『風魔法』なんかを使ってたっけな。
俺が知っているところとしてはこんなところところだが、よくあるファンタジーの世界観から言って「炎」か「火」のどちらかくらいはありそうだ。
他にもテンプレで言うと「水」や「土」とかいった、俗に言う系に四元素などに分類されるようなものの魔法もありそうだが、残念ながらまだお目にかかることができていないな。
って、話が逸れてしまったので、一旦戻すとしようか。
分類のことはあまり分かっていない上に、仮に空間系だったとして、じゃあ何を習得するためにトライすればいいのか見当もつかないので、他のアプローチの仕方を試そう。
『収納』スキルがどういうスキルだったか、その説明文をよく思い出すんだ。
俺はすでに『鑑定』スキルで、ちょうちょの持っていた『収納』スキルが、一体全体どういうものなのかを見たことがある。
それをヒントにどういう道筋を辿れば良いか、考えることだってできるはずだ。
仮に現状までの仮説が正しく、試行錯誤によってスキルを後天的に入手することが出来るとしたら、俺の『鑑定』スキルは超絶強力なスキルになるよな。
ただでさえ相手の戦闘情報を確認出来るというだけでもかなり強力なスキルだが、そこから狙って取得したいスキルの手がかりやきっかけを得られる、ともなればまさにチートといえるだろう。
そういえばなんで『鑑定』スキルを俺は最初から持っていたのかな?
他の兄弟達はどいつも持っていなかった。
最初は個体差であるかもしれないとも思っていたが、先程までの俺の推論通りだと、個体差ではスキルの内容自体には差が出ないんだよなぁ・・・。
かと言って、『鑑定』スキルを取得することに関連したことをやったっていう記憶も特にないし、謎だ。
うーん、いやこれは考えても詮無いことだし、とりあえず今は『収納』スキルの方に集中するか。
すぐ脇道に逸れてしまうのは悪い癖だ。
たしか『収納』のスキル説明文には、自身の身体を媒介にして空間を作り出す、みたいな感じの一文があった気がする。
この後天的にスキルが獲得出来るという推論自体は、結構前から俺の心の中で立てていたものだし、その推論を立てて以降は気になったスキルの説明文章はなるべく覚えるようにしていた。
今回の『収納』スキルも一語一句とはいかずとも、当然覚えている。
その時はあまり言葉の意味がわからなくて、戦闘に力を入れるために後回しにしてしまっていたが・・・。
しかし身体を媒介にしているっていうのは、一体どういう意味なんだろう。
端的に言葉の意味だけで捉えようとしているから、あまり理解が出来ていないのかも知れない。
元よりスキルなんて超不思議現象だぞ?
言葉の意味をそのまま読み解こうとするなんて、分からないことがあって当たり前だろ。
そうだ、観測できた事実と一緒に考えろ・・・。
あいつはおそらく粉を『収納』スキルから放出することで、消費MPを抑えていた。
これはおそらく事実だろう。
状態異常系のスキルを連発している割には、MPが全然減っていなかったからな。
そんな事はこっちに来てからの経験的に有り得ないだろ。
状態異常の中でも消費MP量に差はあるけれど、あいつの扱う状態異常は軒並み高くなる傾向がある状態異常ばかりだったし。
《状態異常:呪い》とか《状態異常:魅了》とかまだ実際に受けたことはないが、字面だけでも凶悪そうだ。
《状態異常:睡眠》と同じ位の消費MPであっても不思議では無い。
そしてちょうちょはそれらの粉を『収納』スキルから取り出していた場所は・・・、そう羽だ。
つまり説明にある身体の一部とは羽であり、羽を媒介にしてあいつは『収納』スキルを使っていたということになる。
よし、これでまた一つ『収納』について理解を進めることが出来た。
だけど、まだまだだ。
カエルである俺の身体には、当然ちょうちょのように羽は無い。
なぜちょうちょが『収納』スキルを使う上で、媒介とした身体の一部が、「羽」だったかを理解しないと、おそらく俺は一生習得出来ないだろう。
だが、さっきまでよりも進んだことは確かだ。
この調子でやっていこう。
次にちょうちょの羽と言えば、という所から切り込み、頭の中で鱗粉を思い浮かべる。
鱗粉が元の世界と一緒のものであるとするならば、その由来はたしか一つ一つが鱗のような形状をしていて、触ったりすると粉がボロボロと剥がれることからだったはずだ。
まあそぅいった特性から諸々の状態異常系の粉スキルを強化するような、特殊スキルに派生したんだろうがな。
いや、まてよ・・・。
逆に言い直せば、ちょうちょという生物は元来粉状の物質を、羽に格納していたとも言えるのか?
そう言われればちょうちょの羽から鱗粉を全部剥がすと、細かな細胞の空間が多数集合しているように見える画像を、ネットだが教科書だかで見たことがあるような気がする。
つまり、身体を媒介にするということはそういうことなのか!
『収納』スキルとはすなわち、元々ある身体のどこかしらに存在する、何かを収納するスペースを核として、拡張するようなものというわけだ。
当然ながら、カエルにはそんな特殊な身体の器官・パーツは無い。
でも、そこで諦めるなら最初からこんな突拍子もないチャレンジはしていないだろう。
無いならば無いで、無理矢理にでも作り出せば良い。
何か俺の持っている知識で、それに使えるものは無いだろうか。
・・・。
そういえばカエルはお腹に空気を貯めこんで、そこから舌でピストンをする肺呼吸を一般的に行っているよな。
よく聞く「ゲコゲコ」という鳴き声の元になる行動だ。
そしてそれは、俺も例外ではない。
時折無意識にやってしまっていることがある。
そしてその時お腹は元々の体積の数倍程に膨れ上がるのだ。
つまりカエルとは、空気をかなりの体積分貯めておけるだけの、拡張性を持ったお腹を所持していることになる。
お腹を媒体にして『収納』スキルを習得出来ないか?
もちろんスキルなんて言うものが存在しないならば、ものをずっとお腹に貯めておくなんてことはできない。
ちょうちょの羽とは訳が違うのだ。
だが、スキルという超不思議現象なら。
それが出来てもおかしくないのでは・・・?
もし俺の推論が正しければ、後天的にスキルを獲得するには、一度その事象をスキル無しの状態で成し遂げるか、もしくは相当な負荷をかける必要がある。
『隠密』スキルしかり、『MP高速回復』しかり。
ただし、一度でも成功させてしまえば、後はどうにでもなるはずだ。
結構回復してきたMPで『薬毒錬成』により「麻痺薬」を身体の中、お腹の中で直接生成していく。
それと同時に息を少しずつ吸い込んで、徐々に腹を膨らませていく。
この時状態異常の効果の対象を俺以外にしているため、腹で直接生成したからといって俺自体が《状態異常:麻痺》になることは無い。
問題はこれがこのままだと肺に送られてしまい、「麻痺薬」を保持し続けられないことだが、気道を塞ぐことでそれを阻止する。
お腹を容れ物としているため勿論その間はまったく肺呼吸を行えないが、カエルには肺呼吸の他に皮膚呼吸という呼吸の手段がある。
オタマジャクシからカエルへと変態し、エラ呼吸から肺呼吸へとなっても、水中で活動できる時間を引き延ばすための画期的機能だ。
肺呼吸へと変化したため、オタマジャクシのように常に水中で生活するのは無理になっている。
しかし皮膚呼吸をすることで水中で肺呼吸をしなくても、活動することができるのだ。
とはいえ肺呼吸よりも酸素を取り出す効率が悪いため、そちらをずっと続けるというのは無理ではあるが。
しばらく「麻痺薬」を収納している間、肺呼吸を我慢することさえできていればそれでいい。
・・・。
それからしばらく待機するも、全く変化は起こらない。
まだか?
まだなのか?
そろそろ皮膚呼吸だけで息を続けるのも限界に近いぞ!
リミットが近いことを何となく感じ、焦りを覚える。
もしかしたらどこかで自分の推定が、間違っていたのかもしれない。
今回のトライは失敗だったんだ・・・。
そう、もう半ば諦めかけていた時のことだった。
【スキル『収納』を習得しました】
そのアナウンスが頭の中に響いてきた。
よ、よっっしゃぁーーーー!
よかった・・・、もうこの方法では無理なのかと思っていた。
でもこれで完全に俺の推論がある程度的を得ていたことが分かったし、それだけでもかなり大きな収穫だ。
これからも狙ったスキルを覚えていけるかもしれないという事だからな。
だが今は素直に『収納』スキルを獲得出来たことを喜ぼう。
何はともあれ計画通りッ!
うんこれ一度やってみたかったネタなんだよね。
まだまだ俺は強くなるぞー!!
【ステータス】
種族:メディシナルフロッグ
性別:♂
HP:3965/5600(+500)
MP: 456/4497(+500)
SP:1822/4378(+500)
レベル:33(+5)
ATK:3012(+250)
DEF:3012(+250)
INT:3667(+350)
MND:3012(+250)
SPE:4117(+350)
スキル:
『鑑定 :レベル10』
『状態異常耐性:レベル9』
『貪吸:レベル6』
『体術:レベル10』
『猛毒攻撃:レベル10』
『毒生成:レベル10』
『薬生成:レベル10』
『薬毒錬成:レベル1』
『毒魔法:レベル10』
『隠密:レベル10』
『危険予知:レベル9』
『跳躍:レベル5』
『水中高速移動:レベル2』
『念話:レベル4』
『MP高速回復:レベル3』
『収納:レベル1』
『水棲 :レベルー』
『陸棲:レベルー』
◼️『収納』
身体の一部を媒体として拡張させることで、異次元に物体を収納するスキル。
収納できる物質の大きさは、自分の身体よりも小さいものに限る。
その最大容量は自分の体重×スキルレベル。
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