第33話 スキルについての考察


おーい!


起きやがれ!!


ぐっすりと眠っていることをいいことに、ヘビの顔を何度も水かきの着いた手の平で軽くビンタしてみたが、全く起き上がる気配が見えない。


それだけあのちょうちょのスキルが強力なものだった、ってことかよ。


まじで俺にその効果が及ぶ前に、倒すことが出来て良かったよ。


ヘビはこのまましばらく起きそうにないし、当分の間ここでこいつのお守りをするしかねぇなぁ。


まったく世話を掛けさせやがって。


はぁはぁ、それにしても今回の敵は非常に厄介だった。


いつもいつも、毎度戦いがギリギリすぎるぞ。


「ポイズンレイン」はその効果が極悪で強力な分、消費するMPが大変多い。


『跳躍』スキルでの移動は先に述べたようヘビからちょうちょを引き離すための移動、という意味ももちろんあったが、ナマズを倒したすぐあとだったために消費していた分のMPの回復時間を稼ぐという面もあった。


その分大量のSPを消費することにはなったが、あいつへの有効打が「ポイズンレイン」くらいしか無かったと思えば、必要なものだったししょうがない。


『MP高速回避』スキルにより、思っていたよりも比較的早めに必要な分のMPが溜まって良かった。


とはいえ、俺も消耗が激しい。


ヘビのお守り云々関係なく、しばらくここからは動けそうにないな。


それにしても、ナマズ野郎の時よりもレベルが多く上がったのは、単純に今回のこのちょうちょはほぼ俺一人で倒したからなのかな?


もしそうなのだとしたら、以前から考えていた経験値の方式は、貢献度による分配方式っぽいんだが。


全く同じ状況では無いので、どう考えたって確定情報にはならないけれども、貰える経験値は多い方が良い。


その効率が上げられるのは一番だ。


ってか、あのちょうちょが使っていたスキル『収納』。


羽の中に大きさと見合わない程のとんでもない量の粉を仕込んでいた、その本のスキル。


俺の今後の戦い方を考えると、絶対に習得したいスキルである。


あれがあれば回復薬系統を持ち運ぶ必要も無いし、「麻痺薬」だってストックができるようになる。


そうすれば継戦能力が高まり、MPにも余裕が生まれ、そしてそれはやがて戦闘における選択肢を広げるだろう。


そして、そのスキルは一体どうすれば取得することができるようになるのか。


この世界のスキルというものに対して、オタマジャクシに生まれ変わって、そしてスキルというものを認識してから、一体何なのかとずっと考えていた。


過酷な環境で生き抜いていく上で絶対に欠かせない要素であるにもかかわらず、その存在はあまりにも謎すぎる部分が多い。


だからこそその謎をそのままにするのではなく、どういうものか突き止める必要があると思ったのだ。


これまでにいくつも出てきた考え、その中の大半がただの何の根拠もないものになってしまうのだが、それでもなんとなく理解できたことも結構ある。


その1つが、スキルは大きく3つに分けられるという事だ。


3つに分けた1つ目が、特性的にに保持しているものであり、スキルにレベルという概念が存在していない特殊なスキル。


2つ目が、種族的な面が色濃く現れるような、同一種が大体保持しているようなスキル。


最後に3つ目、何度も同一の行動を繰り返したことにより、後天的に獲得したスキルである。


一つずつわかりやすいように、それぞれのスキルで例を挙げていくとしよう。


特性的なスキルの例を挙げると、俺がオタマジャクシとして生まれた時からあらかじめ取得していたような、『水棲』だ。


この『水棲』スキルのようなものはもう生きるのに必要不可欠なものだ。


水で棲息することができるようになる、というものにレベルという概念は勿論存在せず、あくまで特性でしかない。


それ以外で言うと、さっき倒したちょうちょが持っていた『鱗粉』スキルもそうだろうか。


こちらも同様に特性に近いものであり、レベルが存在していなかった。


個人的にこれらのスキルは、後述する後天的に獲得出来るスキルには含まれないと思われる。


なぜかと言うと、行動でどうにかできるようなものでは無いからだ。


例えば人間がどんだけ努力して水中で生活することを目指したとしても、それは無理なのだ。


努力の仕方とかそんな問題ではなく、身体の構造的に。


肺呼吸には限度があり、皮膚は浸透圧が考慮されておらず、視界は不明瞭だ。


そのように、こういった特性に基づいたスキルに限っては、後天的に獲得というのは出来ない気がする。


俺自身の場合としてカエルになった時、生まれ持ってではなく『陸棲』スキルを獲得しているが、それはあくまで両生類に限った特殊な事例だと思う。


次に種族的に持っていることが多いスキルについてだ。


最初のオタマジャクシの頃、俺や兄弟達は皆『噛み付く』、『体当たり』、『毒攻撃』のスキルを覚えていた。


これらは初めから使えていたものであり、何か特に取得するきっかけがあった訳では無い。


しかしそれらにも練度というものは存在しており、個体ごとにスキルレベルは異なっている。


また、『薬生成』スキルや『跳躍』スキル、これらはいずれも種族として進化する際に、新たに獲得したものだ。


先程のものとは違って進化というきっかけこそあれど、今までは出来ていなかったことが進化してスキルを新たに獲得し、使用できるようになったという意味では同じように思う。


またそうやって獲得したスキルの中でもレベルを上げていき、それが限界に達したときに、新たな強化されたスキルに発展することがある。


俺が見た中だと、『毒攻撃』スキルが『猛毒攻撃』スキルへと変わったり、『猛毒耐性』スキルが『状態異常耐性』スキルに変わったりした。


これは自らの能力を向上させたことにより、レベル上限以上となったものが、上位のスキルとして表現されているにすぎない。


簡単に言えばステップアップのようなものだろう。


なので『猛毒攻撃』スキルなんかは、俺が今まで見てきた兄弟達の中で保持していた個体は少ないが、この分類に含まれると思っている。


そのため完全にではないが、ほぼ同一のスキルであると看做すこともできる。


そして最後に俺が最も注目して考察していた、それまでの行動や経験により、後天的にスキルへと昇華した場合。


俺が持っている中では『隠密』スキルや『念話』スキル、『MP高速回復』スキルなどが挙げられるだろう。


いや・・・、俺が持っている中でという言い方はおかしいかもしれないな。


なぜならそのようなことが本当に起こるか、未だに確証が持てていないためだ。


スキルへの昇華というものが実際にあるとするならば、当然個体差によってある程度習得しているスキルが異なるものであると考えるべきだろう。


しかしながら、俺が今まで遭遇した同族同士の魔物達のスキルに、個体による差はほとんど見られなかった。


もちろんそれぞれの種族レベルやスキルレベルには違いがあったが、それだけだ。


スキル名が異なっていたとしても、その上位スキルに値するとおぼしきものだけ。


つまりこれだけ生物がいる中で、その程度の違いしか無いということだ。


そのため俺は、始めはそのような後天的に獲得出来るようなスキルが無いのでは無いか?と自分の考えを否定していた。


だが、一つの仮説を立てた時、その疑問はある程度解消することができた。


それは思考を行う事が出来る個体だけが、その昇華を行えるのでは無いかということだ。


前世においても動物を例に考えると、正直そこまで個体差があったようには思えない。


身体能力や頭の良さ、性格などのこっちでいうステータス面での違いはあったかもしれないが、こちらもその程度の違いは存在する。


だがそれと比べて人間はどうだっただろうか。


スキルを元の世界で技能と言い換えてみよう。


全く違うスキルが存在するというわけではないが、万人が全く同じ事が出来る、同じ事しか出来ないなんてことがあっただろうか?


いや、そんな光景は思い浮かばないし、想像しただけで気色が悪い。


人間には思考力が存在し物事に対して能動的な考えをしているからだと思われる。


動物、獣や魔物が考えないなんてことを言っているわけではない。


彼らにも「強敵が来たらこういう場所に逃げ隠れる」であったり、「相手はこういった場所に逃げ込むからこうやって追い詰めよう」といった考えくらいはしていることだろう。


本能的にそういう動きをするということもあるかもしれない。


また芸というものを覚えることはある。


これはまさしく後天的に獲得するスキルだ。


しかし、これらは「人間」がご褒美などで誘導したことであり、「人間」が覚えさせた結果でしかない。


これがしたいと考えたり、そのために何をしたら良いか、何をすればそれに関するスキルが身につけることが出来るか、というところまで行うのは人間くらいなのではなかろうか。


つまり人間から転生を行い、そういった考え方が出来る俺のみが、それらを行うことが出来たのではないだろうか。


簡単に言うとそういう仮説なわけだ。


そのように考えると、他の魔物が後天的にスキルを獲得しないことにも、ある程度説明が付けられる。


そして次に、では俺が習得したそのスキル等はどのような経緯で習得出来たのか、その状況と要因を細分化して考えてみた。


まず、一番最初に習得した『隠密』スキル。


これを習得した状況は、ナマズ野郎から身を潜めるために地面に身を隠した時だ。


あの時はまだステータスが貧弱であり、同環境内のメダカやゲンゴロウにすら怯えていた中で、あれだけの格上の相手が来たらそうするしかなかった。


ただ逃げ隠れただけなのにも関わらず、なぜ習得出来たのかと疑問に思うだろう。


俺も最初はそのように感じたし、そして次にこのようにみんなも感じたのではないか?


さっき言ってたじゃ無いか、動物や魔物も敵から逃げ隠れするくらいの思考は当然する、と。


ならば、逃げ隠れしたことのある魔物達はみんなすべからく『隠密』スキルを所持しているべきだ、と。


しかし、本当にそうだろうか。


彼らの逃げ方は自分に出来ること、その能力の中で行えることをする、までだ。


逃げ込む先もきっと別に意図しているわけでは無く、そこに行けば敵を退けられると習慣的に知っていたり、普段から移動し慣れてる場所だったり、という程度に過ぎない。


だが俺の場合、能力値の差に絶望してしまい、ただそのように隠れるだけでは不安を覚えた。


そこで俺はあの時地中に潜って隠れるということを決行したわけだが、普通のオタマジャクシは果たしてピンチの時に、逃げるためとはいえ地中に穴を掘って身を隠すか、といった話になる。


オタマジャクシはエラ呼吸をしているので、砂や土はその邪魔になるし、生態的に見てもそういった行動はあまりしないはずだ。


更に言うならば、地中ではやつに気付かれにくいように息を止めていた。


元来生物は動くためのエネルギーを、呼吸をすることによって化学反応を起こし、発生させている。


そのような原理で生命活動を維持している生物が呼吸を止めるなんてことは、ほぼありえない。


狩りをする時に気配を殺すのが上手い動物もいるだろうが、多分息までは止めていないのでは無いか?


元の世界で言えば、川や海に棲息している肺呼吸をする生物か、餌をとるために海に潜る鳥類ぐらいしか思いつかない。


それすらもあくまで生態的な話であるだろうしな。


そう考えると、あのときの俺は通常の生物では絶対にあり得ないだろう、という行動をしているわけだ。


相手から逃げるために、必死に逃げ隠れることを「考えて」実行した。


だから種族的に取得している訳では無いのに、『隠密』スキルを習得する事が出来たんだ。


他のスキルだってきっと同様だ。


MPやSPはステータスにおける生命力の項目の1つだ。


他の魔物はよっぽどのことが無い限り、それらを自分の限界近くまで使い切ることはまずない。


ましてや戦闘時以外で積極的に使う、それも1回や2回ではなく継続的に、なんて事はあきらかにイレギュラーな行動だと考えられる。


だが俺はMPは暇があれば積極的に使って、自然に回復した分が決して無駄にならないように、なんてゲーマー的思考でバンバンスキルに注ぎ込んでいた。


おそらくそのおかげで『MP高速回復』スキルは得られたのでは無いか?


野生において普通は自分とは別種族とコミュニケーションを取ろうとは思わない。


それにじゃれたりとかはしても、意思を読み取ろうとまでは思わないはずだ。


だが俺はそうした。


『念話』スキルはその行動の結果なんじゃないのか?


ここまで長々と説明したのは、後天的にスキルを獲得することが出来る、その俺が立てた仮説に対して説得力をもたせるためだ。


もしかしたら俺だって『収納』スキルを習得できるんじゃないか、ってね。

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