第32話 状態異常の遣い手
!!!?
一体何が起こったんだ?
俺よりずっと強いはずのヘビが、急に倒れるなんて・・・。
とんでもない速さでどこかから攻撃されたか?
いや、それだったなら俺も直ぐにやられていないとおかしいだろ。
となると、このキラキラとした粉が原因か?
ばっと、上へ視線を向けてその後キョロキョロと辺りを見回すと、俺らよりも少しだけ離れた場所で、その粉を撒き散らしているやつを発見することが出来た。
【ステータス】
種族:ドンジュルーパピヨン
性別:♂
HP:2555/2555
MP:6760/8000
SP:2150/2300
レベル:32
ATK:400
DEF:839
INT:4500
MND:1045
SPE:2536
スキル:
『飛翔:レベル5』
『状態異常耐性:レベル6』
『貪吸:レベル6』
『回避:レベル4』
『眠りの粉:レベル7』
『誘惑の粉:レベル3』
『幻惑の粉:レベル5』
『収納:レベル3』
『危険予知:レベル4』
『鱗粉:レベルー』
そこに居たのは、まるでちょうちょや蛾のような姿をした魔物だった。
たしかちょうちょや蛾にほぼ違いは無かったはずだが、昼間にいるので一応ちょうちょということにしておこうか。
ゆったりと俺らの上空を羽ばたきながら、同じ場所でクルクルと旋回を繰り返している。
そして、大きな羽を揺らす度にキラキラと日を反射して光った粉が、こちらへ向かってゆっくりそして大量に落ちてきていた。
最初綺麗だと思ったこの粉は、どうやらあいつの羽から零れ落ちる鱗粉だったらしい。
それを知った途端汚く見えるのは、恐らく俺だけではあるまい。
スキルの名前からして、ヘビが倒れたのはこの『眠りの粉』っていうスキルが原因っぽいな。
ヘビの姿を視界に収めて『鑑定』をし、種族名の横に《状態異常:睡眠》の文字があることを確認したことで、その推測がほぼほぼ間違いないことを悟る。
ヘビが死んだ訳ではなく、ただの状態異常に罹っただけという事実に一安心したものの、それからさらに警戒心を引き上げる。
なぜなら、俺は勿論ヘビも一応『状態異常耐性』のスキルを所持しているからだ。
ヘビは俺よりも耐性スキルのレベルが低いとはいえ、その耐性の効果を易々と貫通させてくるなんて、とても信じられない。
俺は先ほどまで『薬毒錬成』スキルで、色々な状態異常の効果を調べまくっていた。
そしてその中には《状態異常:睡眠》についても含まれており、その時に睡眠の状態異常について沢山の情報を知ることが出来ている。
それにより分かったことは、《状態異常:睡眠》関連のスキルは効果が強力な分、他の状態異常よりも使いにくさであったり、デメリットが存在しているということだ。
《状態異常:麻痺》よりも動けないという面において勝る《状態異常:睡眠》は、使用するMP量だけでなく、状態異常の特性そのものに制限がある。
『薬毒錬成』スキルで確認出来たものとしてあったのは、1つは「状態異常を付与するための攻撃または物を、相当量摂取させなければいけない」ということ、そしてもう1つが「状態異常の効果が現れるまでの時間が、他の状態異常よりも長く掛かってしまう」ことだった。
「相当量摂取させる」の方は、それだけ相手に攻撃が当てられる実力があるまたは、警戒されていないような状況しかないので、そもそもコストパフォーマンスが使用MP量に見合ってない。
だって、それって相手をわざわざ《状態異常:睡眠》にするまでもなく勝てる相手か、圧倒的信頼を得ているかってことだろう。
前者はそもそも眠らせる必要が無く、後者は眠らせる必要性はあるかもしれないが、そんな関係をこのジャングルで築くことはきっと無いだろう。
そして、「効果が現れるまで時間がかかる」の方は単純に状態異常の中で扱いが難しそうだったため、俺は1つ目のレシピの効果を《状態異常:睡眠》ではなく、《状態異常:麻痺》を付与するものを選んだんだが・・・。
そんな大きなデメリットがあるはずなのにも関わらず、俺らが粉を視認できた直後くらいには、ヘビはもうその効果を受けている。
「相当量摂取する」と「効果が現れるまで時間がかかる」の両方ともに、該当していない事態だ。
これは通常の《状態異常:睡眠》では、とても考えられないことだろう。
きっと何か普通の状態異常付与系のスキルではないに違いない。
ヘビが寝てしまって俺が起きられている理由は、単純に『状態異常耐性』のスキルレベルが俺の方が高いからだと思われる。
だが時間が掛かれば掛かるほど摂取量も多くなり、それにより俺にも効いてくる可能性は高い。
通常ではありえない強力さの理由を解明して、急いでそれに対処をしないと手遅れになってしまう。
強力な状態異常を引き起こすスキルである事から、『薬毒錬成』と同様に粉系のスキルもかなりのMPを消費すると思われる。
というかそうでないなら、あまりにも強すぎるだろう。
時間経過でMPが切れることを期待するか?
いやでもMP使用量が多いっていうのはこっちの勝手な憶測だし、それに頼りすぎるのは良くないな。
ひとまず見たことの無いスキル群の内容と、こいつ自身の生態を知るために、できるだけこの粉を浴びないようにしながら『鑑定』するか。
⬛︎ドンジュルーパピヨン
非常に危険な蝶型の魔物である。
発見しても決して近づかずに、遠距離から魔法などを集中して当てて倒す手法をおすすめする。
周囲へさまざまな状態異常を引き起こす粉を羽から振りまき、罹って弱った相手の脳髄に口吻を突き刺して中身を吸い取る。
高い状態異常耐性を持つ者に対しても、効果を通す能力がある。
⬛︎『回避』
敵からの攻撃を避けることができるスキル。
意識的に発動しなくても、偶然相手の攻撃を躱すことがある。
その発生確率はスキルレベルの高さに依存する。
⬛︎『眠りの粉』
吸い込んだり粘膜に接触させることで、《状態異常:睡眠》にする粉を生成するスキル。
一度の生成量はスキルレベルの高さに依存する。
⬛︎『誘惑の粉』
吸い込んだり粘膜に接触させることで、《状態異常:魅了》にする粉を生成するスキル。
一度の生成量はスキルレベルの高さに依存する。
⬛︎『幻惑の粉』
吸い込んだり粘膜に接触させることで、《状態異常:混乱》にする粉を生成するスキル。
一度の生成量はスキルレベルの高さに依存する。
⬛︎『収納』
身体の一部を媒体として拡張させることで、異次元に物体を収納しておくことが出来るスキル。
その最大容量はスキルレベルの高さに依存する。
⬛︎『鱗粉』
「~の粉」と付く名称を持つスキルの効果を、強化する特定の種族だけが持つスキル。
蛾や蝶型のモンスターが所持していることが多い。
うん、なるほど。
状態異常系のスキルがここまで強力になっている理由は、恐らくスキル『鱗粉』のせいとみて良いだろう。
いくら限られた種族しか持つことが出来ない固有スキルだったとしても、デメリット一切無しで状態異常系統のスキル強化は反則でしょうに。
そしてやつのスキル群を見てる中で、個人的に気になるのは『収納』スキルだ。
なにそれ、超欲しいんですけど。
それがあれば俺だって薬類を自由に取り出したり、しまったりできるじゃん。
俺の今現在の悩みが解決するんだが?
そしてこれらを見て、やはり時間経過を頼りにMP切れを期待するのは辞めた方が良さそうだと、悟る。
やはり最初の考え通り複数の強力な状態異常を引き起こす『~の粉』スキルが、MPをかなり消費することは間違い無さそうである。
だがしかし、どうやらやつはあらかじめ生成した粉を羽に『収納』し、戦闘時はそこから取り出すことで消費MP量を抑えているようなのだ。
こいつ、俺が先程まで想定していた理想の戦闘スタイルを、そのまんま実現していやがる・・・。
『収納』してある粉とMPが全て尽きれば、スキル構成的に何も出来なさそうではあるが、果たしてそれが一体いつになるのか。
これは当初期待していたMP切れは、かなりの時間逃げ続けなければいけなさそうだ。
それをやるとしても多分俺の『状態異常耐性』が強化された状態異常に対して、どこまで抗ってくれるかによるぞこれ。
ただ逃げ回るだけじゃなくて反撃したいのは山々なのだが、現状それは非常に厳しいと言わざるを得ない。
こいつ、状態異常を操って戦うスタイルのせいか分からないが、『早熟』スキルによってブーストしてレベルを上げた俺並みに迫る『状態異常耐性』の高さ。
俺の遠距離攻撃手段が『毒魔法』くらいしかないため、この耐性の高さの前では効果が薄そうである。
こうなりゃ近接攻撃を直接ぶち当てるしかないか?
手段がそれしか無い以上、迷っている時間は無い。
時間が経てば経つほど、状況はあいつ側に傾く。
木々の枝の間を足場にして飛び跳ね、ちょうちょに迫る。
俺も鷲と戦った時とは違って、『跳躍』スキルをある程度習熟してきている。
今なら使える!
よし、スピード感や距離のコントロールも完璧だ。
これなら空中の相手にだって、これだけ周りに木があれば十分に戦うことも可能だな。
今だ、武技「ヘッドパッド」発動!
をしたは良いものの、ちょうちょは空中でひらりと身を捻って、その攻撃は安々と回避されてしまった。
もしかしてこれがステータスにあった『回避』スキルかよ、クソっ!
地面に勢いよくぶつかりそうなところで、慌てて逆方向に身体を振って、なんとかその勢いを弱める。
うん、やっぱそんなに甘くは無いよな。
はなから空飛んでるやつと、そうでないやつが空中戦をしたら、その動きの自由度が高いのは当然前者に決まっている。
でもこれ以外の有効な攻撃方法が見つからない以上、とりあえず当たらなくてもやり続けるしか無い。
ぴょんぴょん跳んでいると、本当に普通のカエルそのものだな。
自分の今の姿を客観的に想像してみて、その印象に思わず苦笑いになる。
が、それでもやらないわけにはいかない。
あれから「掌底」、「斧刃脚」色々と武技を試してはみたものの、やはり『回避』スキルによって毎回避けられてしまう。
ふわふわとした動きで本当に掴みどころがないんだ、これが。
それにカエルの手足の長さが何と言うか・・・、あまりにリーチが短い。
いやリーチが長いからと言って当たるかどうかは分からないが、それでもきっと当てやすくはあるだろう。
だが1回も当たっていないとはいえ、明確に何度も攻撃してくる俺をちょうちょも厄介に思ったのか、完全に俺を狙う動きにシフトした。
飛び跳ねている間は被る粉の量は減らせたが、そうして狙いを定められたことにより、さすがにそろそろ摂取量の限界が訪れようとしている。
うっ、瞼が重くなってきた。
きっと《状態異常:睡眠》になる前兆だろう。
こっちの準備もそろそろいいかな。
まだ一回しかこの魔法は発動させたことが無いから、むしろ少し臆病になって余裕を取りすぎたかも。
残念だがお前は俺を執拗に状態異常にかけようと追いかけていたが、俺の狙いはそうさせることでお前をヘビから引き離すことなんだよなぁ。
だから、寝ているヘビとの距離が離れた今、もう遠慮はいらない。
「ポイズンレイン」。
『状態異常耐性』のレベルが高いお前が「毒」に罹るなんて、今までに無い体験だろう?
お前の状態異常の効きにくさを『鑑定』で確認した後から、ずっと「ポイズンレイン」を当てることを考えていた。
「ポイズンレイン」は相手の耐性などを無視して、問答無用で相手を毒状態にするかわりに、大量のMPを使って辺り一帯を無差別に毒まみれにする魔法。
『跳躍』スキルはただの移動手段だ。
多少使いこなせるようにはなってきたが、まだまだそれで空中戦が出来るまでになったなんて、自惚れてない。
攻撃し続けたのは、万が一にでもお前が狙いに気がついて逃げないようにするため。
そのまま放つことも考えたが、ただでさえ環境のせいで弱っているヘビに対して毒状態にしてしまうのは致命的すぎるからな。
ヘビとバディを組んだせいで「ポイズンレイン」が発動させづらくなってしまったのは、この魔法のデメリットかもしれない。
MPとINT以外は他の奴らと比べてたいしたことの無いお前が、《状態異常:猛毒》になってHPがガリガリと削られている上に、動きがヘロヘロになったらどうなるかなんて自明の理だよね。
『跳躍』スキルによって再びちょうちょへと急接近をし、さっきは外しまくっていた武技を今度はきっちりと当てて、ちょうちょを地面へと叩き落とす。
そして、その後何度も何度も攻撃を重ねて、無事倒すことが出来たのだった。
はー、やっかいなやろうだったな。
こういうタイプの敵も今後出てくるのかも知れない事を、念頭に置かなければ。
いつもだったら倒した魔物は食べてるのだが、こいつは見た目の色がきつくてまずそうだし、なんだか食欲が湧いてこない。
ひとまず放置しておいて、寝ているヘビをとっととたたき起こすとするか。
【メディシナルフロッグ:♂のレベルが上がりました】
【種族レベルが33になりました】
【『跳躍』のレベルが5になりました】
【ステータス】
種族:メディシナルフロッグ
性別:♂
HP:3965/5600(+500)
MP: 456/4497(+500)
SP:1822/4378(+500)
レベル:33(+5)
ATK:3012(+250)
DEF:3012(+250)
INT:3667(+350)
MND:3012(+250)
SPE:4117(+350)
スキル:
『鑑定 :レベル10』
『状態異常耐性:レベル9』
『貪吸:レベル6』
『体術:レベル10』
『猛毒攻撃:レベル10』
『毒生成:レベル10』
『薬生成:レベル10』
『薬毒錬成:レベル1』
『毒魔法:レベル10』
『隠密:レベル10』
『危険予知:レベル9』
『跳躍:レベル5(+1)』
『水中高速移動:レベル2』
『念話:レベル4』
『MP高速回復:レベル3』
『水棲 :レベルー』
『陸棲:レベルー』
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