第31話 1つ目のレシピ
「成長促進」の効果を見て、何も考えずさっそく俺はそのレシピを作成しようと思い、そこで思い切り躓いてしまった。
そう、使用MP量の問題である。
他の効果を選択していない、単体効果での『薬毒錬成』にも関わらず、「成長促進(大)」レシピの使用MP量は、なんと驚異の「20000」であった。
今の俺の最大MPが4000弱程度であることを考えると、ざっとその5倍以上だ。
これじゃ、使えるようになるのがいつになるのか到底分からない。
強くなる速度を早くするためにこの薬を作成するのに、強くなるまで使えないのは目的と手段が入れ替わってしまっているだろう。
状態異常付与の系統の中でも割と使用MP量が高めそうな「麻痺(強)」ですら、単体の付与効果だけであれば、その数値はデフォルトであれば「2000」に留まっている。
そう思えばいかに「成長促進(大)」の要求する、MP量がすさまじいかがよく分かる。
いや、まぁ「2000」も決して低くはなく、それどころか相当高いと言えるんだけどね。
現状でも絶対に《状態異常:麻痺》にできる確証が、"絶対"という訳ではなのに回復分を含めたとしても、戦闘中にたった2回しか最大でも使えない訳だし。
だが「成長促進(大)」の場合は、その更に10倍。
やはり経験値の増幅といった破格の効果は、使用の制限が厳しいものなのか?
こんなことならあえて成長を遅らせることで、『早熟』スキルをもっと堪能しておくべきだった。
いやでも種族のレベルが上がらないと、それはそれで身体的なステータス値が伸びないので、今のようなやつらを相手にしていたらキツくなってただろうしなー。
はぁ、いつまでも後からじゃどうしようも無いことを言っていてもしょうが無い。
・・・・・・。
一応どうにか使い物にならないかと、カスタマイズ調整により使用MPを落とすよう色々と試してみた。
まずは俺が使うことが出来さえすればそれでいいので、薬の効果対象の範囲を自分だけにしてみた。
これに関しては、基本的に仲間が居ない俺だからできることだ。
回復薬とかならまだしも、「成長促進」は現状ヘビには必要なさそうだし。
対象を種族どころか個人にまで絞り込むことで、これによりかなり消費MPを減らすことが出来た。
そしてさらに戦闘前に予め摂取すれば継続的に飲む必要はなく、また自分自身で服用すれば良いので、形状も1番消費量を抑えることが出来る固体にしてみる。
持続時間に関してはあまりに短すぎても、せっかくレシピを作った意味が無いのでデフォルトからいじってはいないが、これでかなりの使用MP量を減らせたのでは無いかと思う。
そして最終的な数値はというと・・・、なんと「5000」にまで減らすことに成功。
最初に比べれば4分の1と、かなり減らすことが出来たものの、それでも俺の最大MPよりも多いという結果になってしまった。
これでは仮に、今それでレシピを登録したとしても、レベルが上がってMPが増えるまでのしばらくの間、せっかくのレシピを死蔵してしまうことになるだろう。
他にも様々な魅力的な薬を生成することができるようになる、この『薬毒錬成』というスキルの貴重なレシピ枠を、そのように腐らせておくのは非常に勿体ないように感じる。
また、おそらくこのスキルも他のスキル等と同様に、使用すれば使用するほど熟練度が蓄積し、スキルのレベルがアップすると言う仕組みになっている、と思われる。
そうなると、レシピ数とスキルレベルが連動する仕様を持つ関係上、ただでさえ沢山スキルを使わなければいけない状況なのに、現状使用できないレシピを登録した場合、一定のMPに成長するまではスキルレベルが上げられないというジレンマに陥ってしまうだろう。
さすがに『薬毒錬成』のスキルレベルが上がるのが遅れるのは、出来れば避けたい・・・。
かといって、ここで妥協して効果を落とした「成長促進(小)」や「成長促進(中)」に逃げたくはないしな。
あきらかに下位互換であることが分かりきっている物で簡単に妥協できるほど、俺は賢く生きられない。
それにただでさえレシピの最大数は限られているのだ。
もっと他にも作成したい薬や毒だってたくさんある。
「成長促進(小)」と「成長促進(大)」といった感じで、『早熟』スキルの代わりでしか無いものにレシピの枠を2つも使ってしまう事態だけは、絶対にありえないだろう。
それが「微毒」や「猛毒」などのように、戦闘中使い分けることに意義があるようなものならばまだ良かったが、「成長促進」の効果はきっとその類では無い。
ともなれば、ここは戦闘で役に立つものを先にレシピに登録しておくことで自らの戦力増強を図り、レベルアップの速度自体を早めるのが一番効率が良いのでは無いか?
そして自身の最大MP量を5000以上にしてから、それから改めて「成長促進(大)」のレシピを作れば良い。
『薬毒錬成』スキルによる別のレシピを使い続けることにより、その頃にはきっとスキルレベルが上がることで、レシピの保持数も増えているはずだ。
今から最大MPを4000から20000まで持っていくのはかなりキツそうだが、5000ならまだ現実的な気がする。
それでも今の成長ペースを考えたら、大変だろうが。
となると、やはり一番最初に作成するレシピはこれじゃないか?
そうやって、俺が記念すべき1つ目のレシピに登録したものとは・・・。
「麻痺薬(強)・ガスタイプ」
使用MP:2250
《状態異常:麻痺》といえば、俺が今までで最もお世話になってきた状態異常と言っても過言ではない。
「しびれ草」の中では常にそれによって助けられてきた。
そして、だからこそその恐ろしさというものも、よく分かっている。
また、敵の動きを止められるということ自体が、先ほどのナマズを倒したときにもやってみせたように、俺の能力構成とも非常に相性が良い。
何よりレベルを効率よく上げるためにも、ジャイアントキリングが必要になってくる。
そうした上で敵の動きを、確実に止められるような効果が欲しかったのだ。
しかし、単純に強力な状態異常ではあるが、その分『毒生成』スキルで生成したものとは違い、毒ではない。
つまり「麻痺薬」は今までの「毒」と異なり、『毒魔法』によって操作することが出来ず、その分敵に当てることが難しくなる。
なのでより戦闘中で命中させる可能性を上げるために、形状を「気体」に変えた。
使用MPは若干増えてしまうが、それはまあ必要経費と割り切るべきだろう。
とりあえず次にやりたいこととしては、この「麻痺薬」がどれくらい使えるのか、というのを実戦を通して確かめることだ。
いきなりぶっつけ本番で強いやつ相手に効くかを試すのは怖いし、使用感だけでもわかっておきたい。
それにしても、なんでもいいからとにかく薬や毒を携帯するためのアイテムが欲しいな。
今現在、薬や毒の容れ物として倒した貝型のモンスターの貝殻を用いているが、あれはそこそこ大きいので持ち運びには不向きだ。
なんせ俺の体とほぼ同じ大きさだし。
さらに、これから『薬毒錬成』スキルによって気体や固体のものも作っていくと思われる。
そうなると、やっぱり貝だけでは保管に限界があるだろう。
『薬毒錬成』によって創り出したレシピは、その性質上今までの『毒生成』スキルや『薬生成』スキルよりも、消費するMPの量が桁違いに多い。
出来るならば余裕がある時に生成し、ストックしておきたいところである。
贅沢を言えば、持ち運び用に肩から掛けるようなポーチや、気体や液でも簡単に保管できる瓶詰めみたいな密閉容器なんかがあればいいんだけどなぁ。
そこまでの贅沢はさすがに叶わないだろうけど、近いうちにそれらになるべく近しいものを確保したいぜ。
そうやって『薬毒錬成』というあまりに革新的で強力なスキルに気を取られて、長々と考え込んでしまっていた結果、すぐ近くまで来ていたヘビに気がつかなかった。
ちょっとびっくりはしたが、目を見つめて言いたいことを必死に理解しようとすると、どうやら先程倒したナマズをいらないのか?と聞いているっぽい。
ヘビが指した方向を見やると、少し離れたところに腹が僅かにかじられているナマズが、地面に横たわっていた。
本来ヘビは獲物を丸呑みするイメージがあるのだが、こいつはそんな事一切ない。
どうやらこいつには倒したナマズを陸地に引き揚げる作業やらなんやら、を丸々やらせてしまったようだ。
倒したナマズを一緒に食べるのだと思ったものの我慢できずに先に食べ始めてしまい、このままでは完食してしまいかねないというところで、いつまで経っても来ない俺に気付いて一応確認をしに来たようだ。
珍しくこちらのことを気にかけてくれたのかと軽く失礼なことを考えたら、『念話』スキルにより少し想念が漏れてしまったのか、睨まれてしまう。
いや、本当に感謝してますよ?
ありがとうございます!!
ヘビに飯について聞かれたことで、それまで考え事をしていて紛れていた俺のお腹が、途端にぐぅーぐぅーと鳴って空腹を主張する。
慌てて貴重な食糧を摂取するために、急いでナマズところに向かい、口を大きく開けてその身にかぶりつく。
うん、うまい。
肉質もぷりっとしていて、感触は適度な弾力を保っている。
何より脂が乗っている。
元の世界でもナマズは昔から人間に食べられているほどのものであるし、カエルであるこの身体では少々の泥臭さなんかも気にならない。
きっと唐揚げなんかにしたら、たいそう美味いだろうなぁ。
唐揚げか・・・。
・・・。
そういえばこいつのステータスを見ていた時に思ったことがある。
それはこいつのレベルが、今まで見てきたモンスターの中でも飛び抜けて高いということだ。
そこら辺も何か要因あったりするのかな?
とはいえ、ステータス自体はそう高い訳では無い。
あの頃は確かに高いと思っていたステータスではあるが、実際には下の上といったくらいのステータスでしかないのでは無いだろうか。
一応『鑑定』スキルで死骸を見ておこうか。
⬛︎エレキキャットフィッシュの死体
エレキキャットフィッシュの死んだ姿
いや、まあそうなんだけどね。
そんなことはわかりきっているので、さらに情報を得るために『鑑定』を掛け「二重鑑定」を行う。
⬛︎エレキキャットフィッシュ
ナマズ型の魔物。
体内に発電器官を所持しており、電撃をひげから放出したりすることができる。
また《状態異常:麻痺》に対する耐性も所持している。
戦闘以外に食事をすることでも、経験値を獲得出来、あらゆる環境でも稚魚の状態からある程度すぐに強くなる生態を持つ。
なるほどな、1種の生存戦略といったところか。
食事だけでもレベルを上げられるのは羨ましいな。
ある程度のレベルになるまではできるだけ戦闘を避け、上がってから安全に立ち回ると言ったことも出来るだろう。
これが食べられるものが限られる種ならともかく、元の世界と基になった生物の生態があまり変わらないなら、ナマズは雑食のはずだ。
その食事も食べ物を拘らなければ、困ることもそうないに違いない。
そういった方面に進化して、種としての繁殖力を高める生物が居る、というパターンもあるんだな。
反面、食事という行為だけで上げられてしまうため、強くなりすぎないように、あまりステータスの伸びも大きくないのかもしれない。
これだけレベルが高いにも関わらず、進化もしてないみたいだし。
メリットがある代わりに、きっとデメリットもあるのだろう。
それにしても面白い。
種族によってスキルから生態まで、こんなに違うのか。
こうやって生態を知ることで何かを得られるのかな?
毎回じゃないにしろ戦闘パターンなんかも知れるかもだし、これで情報収集していくのはありだ。
そもそもカニの時点でもっと注意深くあらゆるものの情報を『鑑定』していこう、と決めたのにもう疎かになりぎみだった。
今一度自分を戒めるためにも、生物の生態を調べようと再決意しよう。
さてまずは早速生成した「麻痺薬」をぶつける相手を探さなくては、と考えていた俺の前にひらひらと粉っぽいものが降りかかってきた。
???
なんだこれ?
と思った次の瞬間俺の隣で先程まで一緒にナマズを食べていたヘビが、突然身体を痙攣させて倒れてしまった。
一体何が起こっているんだ。
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