第28話 島の全貌
結論から言うと、懐かれた。
いや、懐かれたという言葉も、そうあって欲しいという俺の願望が混じったものだろう。
もっと正確に言うならば、・・・そう、従僕や奴隷と言った所だろうか。
あの日の俺は何だかその場のノリとテンションでヘビを助けることにした。
助ける細かい理由は他にいくつかあったが、あれは最終的には結局ノリとテンションだったな。
まぁそういう訳で、やつはあれから俺の事を自分を都合よく助けてくれる存在、と認識するようになった。
ヘビからすれば、別に助けられる理由も無かっただろうし、それも当然といえば当然だろう。
1度助け始めた手前、いきなり見捨てることも出来ず、体調が良くなるまで何度も何度もズルズルとお世話をしているうちに、段々と顎で使われるようになってしまったのだ。
ただその甲斐もあってか、ヘビに罹っていた《状態異常:衰弱》の方は無事に解くことができていた。
その原因は急激な環境の変化によるものだったので、こちらの環境に多少なりとも慣れるためにも、徐々に用意する氷の数を減らし、今では氷で身体を冷やし続けることにより、短時間であれば外を出歩ける程に回復している。
看病をしていったことにより、何となくではあるものの、《状態異常:衰弱》についてある程度理解することが出来た。
以前の『鑑定』スキルの結果より、《状態異常:衰弱》の要因と成りうるものがいくつか載っていたが、この感じであれば環境的なものが要因の場合は、元の世界の知識がかなり役に立ちそうだ。
今回のものだって、夏バテとかの対策を流用出来たしな。
ただし、攻撃やスキルとかの追加効果によって、発生するものに関しては注意する必要がありそう。
ヘビ程の強い魔物が伏していた様子からして、それだけで戦況が変わりかねない程強力な状態異常であることは間違いない。
その効果は「麻痺」に並ぶか、もしくはそれ以上と言ってもいいかもしれないような代物だ。
だがしかし、その部分については俺には『鑑定』スキルがあるおかげで、相手がそのような能力やスキルを持っていた場合、予め警戒することが出来る。
『鑑定』スキルのレベルが10になったことで、自分以外のスキルも見ることができるようになったからな。
本当に『鑑定』様々だ。
という訳でこれまで以上に周囲にあるものなんにでも『鑑定』を掛けていくことを、心がけよう。
さて、ここまでヘビからいいように使われていることに対して、文句しか言っていないように見えるかもしれないが、俺としても別にメリットが全く無い訳では無いのだ。
まずは単純に戦闘力。
これは非常に分かりやすい事柄だろう。
ヘビはハッキリ言って、俺よりも強い。
ある程度回復したとはいえ、それでも身体のコンディションが元の環境よりも当然悪いので、積極的に狩りや戦闘に参加したりすることはないが、それでも正直かなり助かっている。
自分よりも強いやつが加勢してくれる可能性がある、または自分にとっての脅威を取り除いてくれるかもしれないということがあるだけで心強いのだ。
そして、もうひとつの利点は俺の隠れ家を冷蔵庫化出来たことだ。
これにより敵を倒しすぎても、肉を腐らせるということもない。
それになんと言っても回復薬の保存が出来るようになったのだ。
以前までも多少は作り置きをしてはいたものの、『薬生成』スキルで生み出した薬は、常温では精々数日しかもたなかった。
だが、それらも冷蔵することによって長期保存が効くようになったのは、正に革命だろう。
長期保存ができるようになったということは則ち、大量備蓄も出来るようになっということだからな。
前みたいな足りなくなるという事態が無くなることだろう。
これ程こちらが便利に使っていても、その当の本人は冷蔵庫を作っているということなど全く自覚はなく、ただただ自分の身体を冷やすための場所を維持しているだけなのだろうけど。
とはいえ時折自分で倒した獲物を『氷魔法』によって冷凍していたりするので、冷やすことによって防腐され、長持ちさせることが出来るということは何となく理解はしているのだと思う。
という訳でなまじこのようにヘビの恩恵を受けているため、例えぞんざいな扱いをされていても甘んじて耐えているという訳だ。
さて、今まで幾度もヘビが一体どこから来たのか、ということについて疑問を抱いていたのだが、その答えは案外あっさりと知ることとなった。
その日はいつも通りに狩りをしに行こうとしていたのだが、突然ヘビが私に着いてこいといったような仕草を行った後、近くの木をスルスルと登って行ったことがあった。
身体を幹に巻き付けて固定しながら、流石はヘビといった感じで、なんの苦労も感じさせずに上へ上へとあっという間に高い所へ行ってしまった。
あまりに突然の無茶振りに気が動転したものの、もう既にかなり小さくなってしまったヘビの姿を見て、慌てて追いかけ始める。
とはいえこの世界に来て、オタマジャクシになってからこの方、木登りなんてしたことが無い。
というかなんなら元の世界で人間だった時から、木登りはそんなに得意ではなかった。
さて、どうやってこんな体で木に登ればいいのだろうか。
散々迷った挙句、俺は幹に手をかけて登って行くのは諦めた。
カエルの手足ではどうやったってその方法は不可能だ。
とはいえ、ここで追いかけなかった場合、後からヘビにどんなことをされるか分からない。
追いかけないという選択肢を取ることはできないな。
では、どうするべきか。
何とかして捻り出した方法、それは・・・幹を駆け上がることだった。
両脚に力を溜めてから、思い切り地面を蹴りつけ、枝のひとつまで飛んだ。
うおぉっ!
蹴られた地面は僅かに陥没し、辺りには砂塵が舞っていた。
凄いパワーだ。
周りの景色が急加速によって一瞬で変化したため、危うく枝を掴み損ねる所だったな。
これは割と最近習得したばかりのスキル、『跳躍』。
これを用いて、木の枝と枝を足場にしてまるで忍者のように移動していくのだ。
このスキルはSPを使用するため、間に休みを何度も入れなければいけなかったものの、それでも着実に上っていくことは出来た。
とはいえ木の上でも戦闘になる可能性は十分にあるからな、ある程度戦闘を行える程度の余力は残しておかないといけない。
一応先行しているヘビが露払いの役割をしているとは思うが、そらを飛ぶ敵や隠れてやり過ごした敵が居ないわけではないだろう。
警戒して損は無い。
到着が遅れることによって怒られることはあるかもしれないが、それより死ぬ方がよっぽど嫌だ。
それにしてもこのスキル、扱いが非常に難しいな。
あまりの移動速度に、まだ意識が付いていっていない。
相手が動かない木だからまだ何とかなっているが、そうでなかったらとても使う気にはならないぞ。
だがもしもこの力が使いこなせるようになれば・・・。
鷲との戦闘時にネックに感じていた、空を飛ぶ相手への対抗手段、使い方次第ではあるが、これで解決出来るかもしれないな。
現状対空攻撃が魔法しかないため、MPが枯渇してしまった時点でどうしようもなくなってしまう。
是非とも使いこなせるようになりたいところだ。
ひとまず練習あるのみだ。
今回の木を登るという作業の中でも、一つ一つの動作を大切にしてスキルの扱いを上達させよう。
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はー、はー、疲れた・・・。
ヘビの野郎、とんでもなく上まで行ってやがった。
SP確保の溜め休み休みで登っていたこと+時折枝に棲息していた他の生物と軽い戦闘になったりしたことで、恐らくヘビよりも大分後に木の頂上に到達したのだろう。
上がってきた俺を少し怒ったような顔つきで、睨んでくる。
こっちは『跳躍』スキルの連続使用でただでさえ疲労が蓄積していっているのに、慣れない場所での戦闘はかなり精神的に消耗したんだぞ。
そこら辺のことは十分に情状酌量の余地があると、ヘビには提言したい。
息を整え、ようやくヘビの横に辿り着く。
そして、ヘビのそれまで見ていた景色が俺の目に飛び込んで来た。
ある場所ではどんよりとした灰色の積乱雲に覆い尽くされ、その中では常にピカピカと雷光が透けては見え続けている。
ここからかなり離れているように見えるのに、ゴロゴロとした空気を割るような音がひっきりなしに耳に届く気がした。
またある場所では地面からぐつぐつとマグマ沸き立ち、常に周りの岩や地面から煙を醸し出している。
溶岩の海が流れ、そこに泰然とそびえ立つ火山は地響きと共に岩の塊を吹き出している様が見える。
またある場所では竜巻やハリケーンなんていろいろな呼び方をされている、風の巨大な渦巻きがいくつもの場所で乱立し、周囲のものを根こそぎなぎ払っては収縮と膨張を繰り返している。
巻き上げられた大きな岩塊がみるみるうちに細かく砕かれ、塵となって流れていくのが見て取れる。
ここからでも見えるような岩塊だし、相当でかいものに違いない。
またある場所では氷山がそびえ立ち、吹雪が吹き荒れている。
一帯が白く染め上げられており、どんよりとした薄暗い気色が見受けられる。
一面真っ白で起伏の有無すら分かりにくいような環境だった。
またある場所では地盤に亀裂が何度も奔り、隆起や沈降が絶え間なく発生している。
かすかに見て取れる生物が地割れの中に吸い込まれていき、僅かに覗くその穴の深さに恐怖を覚える。
そして俺らが今居るエリア、前世でいう赤道近くの密林のような所に位置すると思っていた場所も、ほかの場所と同様に明らかに普通とは言いがたい現象が見て取れた。
こうやって上から見ることで初めてわかったことだが、木々の成長速度が異常だ。
元の世界の常識と照らし合わせれば、木とは通常年単位で成長する物であったし、更に言うならば数十年単位で大きくなっていくものと言う認識であった。
それがこのエリアではどうだろうか。
今見ている瞬間から遠くからでも地面から若木が生えてきてそのまま成樹といえるまでに成長していった。
木々は絶えず無限に生えてきているが、そのままあたりを埋め尽くすと言うことにはなっていない。
なぜならば生えた場所の周囲の木々はそのまま栄養を使い果たしたのかのように枯れていくのだから。
若木から一気に成長し、そのまま段々としなびて腐ってゆくというワンサイクルがあっという間に起こっている。
木が一気に成長して枯れるということが急激に起こって何も周囲に悪影響が無いはずも無く、分かるだけでも周りの木々のまとまった倒壊や水分の枯渇による土壌の荒廃、腐蝕が起こっている。
そしてその一部が俺が元々生まれた湖のような場所に、流れ込んでいるのが分かった。
それでも一向に収まる気配は無く、更に酷くなり続けている。
俺らが登っているようなバカ背が高い木が何本かポツポツ生えていて、それだけはこの影響を受けていないが、それ以外の植物は程度の差はあれ常に動いている。
そしてそれらの異常な現象・気象は島の中心部に近づくほど、より活発化していっているように見える。
木々が生えては枯れる現象が、島の中心近くではおよそ五分ほどで一つのサイクルが終わると言えば、そのヤバさが伝わるだろうか。
それは他のエリアでも同様で、中心部ではどのエリアでもおおよその生物が暮らしていける環境じゃない。
もしもあんな場所で生きていける生物がいるとしたら、それは一体どんな化け物だよ・・・。
そして今まで見た目のインパクトが凄い島内にだけ気を取られていたが、島を囲む海も十分にやばいな。
テレビとかの資料映像でも見たことの無いような、超巨大な渦潮があちらこちらで起こっていて、それによって発生した激しい海流が島の海岸に何度も打ち付けられている。
打ち付けられた拍子に飛び上がった波は、海岸近くの土地をガリガリと削り引き込みながら戻っていった。
仮に船があんな所にノコノコと出向いたら、一瞬で木っ端微塵だろう。
海岸に近づいたらそれで終わりってやばすぎやしないか。
そして俺がこの島の中で何よりも気になった場所、それは・・・島の中心地だ。
中心部に近づけば近づくほどどのエリアも気候や環境が激しくなっているのにも関わらず、その複数のエリア同士が最も接近しているはずの中心地は、むしろ何も無かった。
地面も真っ平らで、水や草花、石ころすらない。
他の場所が異常なだけに、逆にそこの異質さが際立って見えている。
ありえない、ありえなさすぎるだろうこれ。
この島以外の場所のことを知らないから確定とは言えないが、この場所はあきらかにおかしすぎる。
俺外輪部とはいえ、今までこんな場所で暮らしていたのか・・・。
衝撃の事実に頭がクラクラする。
ヘビがどこから来たのかという疑問についてはひとまず解消したな。
辺り一面鬱蒼としたジャングルのような場所で、雪山のゆの字もないと思っていたが、そんなことはなかったようだ。
ヘビはまず間違いなくあの吹雪がやまないあのエリアから来たのだろう。
どうやって来たのかについてはまだ解決しちゃいないが、そっちの答えはとりあえず出た訳だ。
こっちの世界の俺の姿がカエルにしろそうじゃないにしろ、この島の中じゃあ一番生きやすそうな環境であるこの森林エリアに、生まれることが出来たのはラッキーだったな。
島外に生まれた方が良かったのではという意見は、まだこの島以外を知らないのでひとまずしまっておこうか。
さて、ヘビが自身がどこから来たのか教える為だけに、わざわざ木を登った訳もなく・・・。
まず俺の方をじーっと見つめて、その後生まれ故郷である雪山を振り返る。
そんな動作をいくらか繰り返していた。
えーっと、もしかして私の事をあそこまで連れて行けって仰っていますか?
いーや、無理無理無理無理!
もしこいつを元の場所に戻すとしたら、絶対に中心地に近づかなければならない。
エリアとエリアの間にはかなりの幅の川が流れており、泳ごうにも流れが速すぎる。
つまり横方向に向かってエリアを移動するのはかなり厳しい。
あれを泳げるようならば、地続きの場所を通ってもあまり変わらないだろう。
つまり先程ボヤいたような、あの環境に適応出来るような化け物になれってことですか?
確かに《状態異常:衰弱》が回復した今でも、短時間しか動けないヘビが単独で戻るというのは、難しいかもしれない。
そして小間使いのような扱いを受けている俺が、その付き添いを命じられるのも分からなくは無いが・・・。
一体どれくらい強くなれれば、あんな環境でも大丈夫なんだ?
現状、皆目見当が付かないぞ。
とはいえ俺もこっちの世界で特に目的は無いんだよな。
今は生きるのが精一杯というのもあるけれど。
それにゲーマー目線で言えば、あの中心部の違和感・・・、あそこには何かありそうだという気もしてくる。
んー、カエルじゃなかったら思わず後ろ髪をガシガシとかいていたことだろう。
ただ強くなるというのでも良いが、やはり何かしらの目的が無いと、モチベーションが上がらないのはある。
とりあえず出来るかどうかは置いておいて、しばらくの目標はヘビと共にあの中心地付近を目指す、ということにするか。
とはいえ、まだまだ先は長そうだがな。
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