第27話 看病
突如倒れたヘビが気になり、ある程度近くまで駆け寄った後に、先程一撃で伸された鷲の姿を思い出し足を止める。
攻撃されることを警戒して、恐らく尻尾が届かないであろう距離を保ったまま、『鑑定』でその容態を見る。
鷲との戦闘によって、『風魔法』などの攻撃でそこそこのダメージは受けているうえに、《状態異常:衰弱》による影響で、現在は地面に伏してはいるものの、HPの残量などを見る限りは特段命に別状はなさそうだ。
俺がもしも鷲の攻撃を何発もまともに食らっていたならば、普通に死んでいるか、そうでなくても瀕死なんだけどなぁ。
あれだけ工夫して立ち回ったところで、結局最後のトドメはこいつが持っていっちまうし・・・。
《状態異常:衰弱》に罹っていて、尚これだけの能力値を持つか。
しかもこいつスキルに『未成熟』というものを持っている。
このスキルの効果を見てみると、種族レベルやスキルレベルの上昇速度を上げる代わりに、身体的ステータスをダウンさせるようだ。
何となく『早熟』と似たような効果だな。
効果の上昇幅や、デメリットの有無などからして『早熟』の方が強力だが、それはまぁ以前の説明にもあったように、弱い種族が持つ特権とやらなのだろう。
類似スキルの差についてはそういうものもあるかということでいいとして、『未成熟』というスキル名や効果からしてこいつ、まさかこれだけ強いのに幼体扱いなのか。
幼体でこれだけのステータスだというのに、もしも成体にまでなったとき、一体どれほど強いのだろう?
下手したら今までに遭遇した、あのワニやカメみたいなやつらよりも強くなりそうだぞ。
俺なんか先程まで、遂にカエルに到達してしまったことにより、将来的に本当に強くなれるのか、ということについて散々悩んでいたと言うのに・・・。
その後に、こんな圧倒的な格差を見せられるなんて、普通なら心が折れている。
まったく・・・種族の違いっていうのは残酷だね。
生まれながらにして弱肉強食の強い方に立てるのは、何かこう上手く言えないけどずるいよな。
若干の嫉妬を含みつつ、かと言って今このヘビをどうこうするつもりは俺には無い。
先程の攻防を見る限り、戦闘で消耗した今の状態では鷲と同様に一撃で死にかねないし。
いや、なんなら全快状態でも安心できないな。
まさに藪をつついて蛇を出す、という事態にならないようにしなければ。
現状ぶっ倒れている向こうから攻撃してくる可能性が低いのならば、わざわざ危険を冒してこちらから仕掛ける意味もないだろう。
こいつの扱いをどうするか考えるのは、一旦後回しにするか。
それよりもまずは食事だ。
はぁ、なんだか進化してから群れた小魚しか食べてない。
量で言えば5匹分ではあったのだが、やはり体の小さなやつらを食べても、あまり食べた気がしない。
戦闘を経たことで、お腹もペコペコだ。
我慢出来ないのでそこに倒れている鷲を頂くとしよう。
本来こういうのは仕留めたやつに保有する権利が発生するもんだが・・・。
トドメを刺した張本人であるヘビは、現在そこで横になってぐったりしているし、こいつを倒すのに貢献した俺が有難くお肉を頂こうではないか。
羽を毟り、顕になったピンク色の肉に向かってかぶりついてから、ようやく気付いた。
この鳥って俺がオタマジャクシとして生まれる前に、こっちの世界のママさんが倒してたやつじゃないか。
もちろんその時マミーはペロッと一羽完食していたので、同じ個体では無いことは確定しているが、尾羽や鉤爪などの身体的な特徴からいって種族は同じだと思われる。
あの時の自分は卵だったため身体が動かないような状況であり、そんなところへ見たこともないくらい鋭利な爪が迫ってくる恐怖しかなかったけど、いざステータスを見てみたら案外こんなもんだったのかとも思えてくるな。
確かに格上ではあったし、最後はヘビに多少助けてもらったとはいえ、割と自分1匹でもどうにか戦える範囲内ではあった。
あの時は元の世界には居ない存在相手だからか、相当化け物に感じていたけれど、知らず知らずの内にそんなやつ相手にある程度戦えるまでに強くなっていたんだな。
やっぱり俺も順調に強くはなっている。
そういえばマミーはこいつ程度なら簡単に倒していたよな。
少なくともカエルからこれくらいは余裕を持って倒せるようなくらいにまで、強くなることができると、完全では無いものの証明されたわけか。
それによって、先程までの成長への不安が多少なりとも解消された。
とりあえず俺も歩く度に、ビクビクしなくてもいい程度には強くなりたいなー。
【メディシナルフロッグ:♂のレベルが上がりました】
【種族レベルが15になりました】
【ステータス】
種族:メディシナルフロッグ
性別:♂
HP:452/3800(+900)
MP:11/2697(+900)
SP:254/2578(+900)
レベル:15(+9)
ATK:2112(+450)
DEF:2112(+450)
INT:2407(+630)
MND:2112(+450)
SPE:2857(+630)
スキル:
『鑑定 :レベル10』
『状態異常耐性:レベル8』
『貪吸:レベル5』
『体術:レベル10』
『猛毒攻撃:レベル10』
『毒生成:レベル10』
『薬生成:レベル9(+1)』
『毒魔法:レベル10』
『隠密:レベル10』
『危険予知:レベル9』
『跳躍:レベル1』
『水棲 :レベルー』
『陸棲:レベルー』
と肉を食べていると、レベルアップが始まった。
今回の戦闘は俺自身がトドメを刺していない訳だが、それでも経験値的なものはどうやら貰えるようだ。
その貰える経験値の量が1人で倒していた時と同じ分なのか、ヘビと俺の二等分や、それぞれの貢献度によった配分なのか、は判別がつかないが。
とはいえ今更証明することも不可能だ。
とりあえず貰えるだけ良しとしようか。
上昇したステータスについては後で見るとしよう。
その後も鷲肉を心ゆくまで堪能した。
うーん、たべたたべた。
このお肉、こっちの世界で食べたものの中で、一番好きな味かもしれない。
単純に俺が肉が好きってだけかもしれないし、そもそもカエルに味蕾がどれほどあるか知らんけど。
今まで食ってきたものは、元の世界ではまともな食材では無かったからな。
ここに来て割と純粋な鳥肉を食えて、少し感動した。
肉は1度で全部を食い切る訳ではなく、ある程度は残して、俺の隠れ家?に持ち帰る。
これがトード系統への進化だったら、『溜め込む』スキルによって自身の胃の容量よりも多く食べることも可能なのだろう。
そして、そこにぐったりとしていたヘビも運び入れた。
先程は食事を前にひとまずの放置をしたが、なぜわざわざ俺の拠点に運び込んだかというと、それにはいくつかの訳がある。
まず1つ目は、《状態異常:衰弱》というものに対しての興味関心だ。
俺が今まで見た事のある状態異常と言えば、「毒」、「猛毒」、「麻痺」くらいなもの。
そしてそれらは、時間経過で比較的治るものだった。
しかし《状態異常:衰弱》については、どうやら当てはまらないらしい。
鷲との戦闘前から、俺が食事を終えるまでにかなり時間が経過しているが、その症状は一向に収まる気配は無い。
今後俺自身が《状態異常:衰弱》に罹る可能性は、十二分にある。
それを見越して、どういう風に対処すれば治る、または症状が軽くなるのか、ということをこいつである程度見ておきたい。
自分自身のことでは無いから、気持ち的に楽に色々と試せそうだしな。
次の理由は、こいつの生態について気がかりなことがあったから。
こいつの生態についての説明は、はっきりいって違和感ありまくりだ。
以前にも少し触れたが、こんなジャングルみたいな場所と、一面真っ白な雪山という言葉は、俺の中では到底結びつかない。
だが『鑑定』スキルがこんな所で嘘を吐く必要も無いだろう。
つまり、何かしらの要因でそんな場所からこいつはここまで来たということだ。
その何かについて、僅かでもいいから情報が欲しい。
この世界は恐らく元の世界とは別の世界だ。
そして俺はこの世界についての情報は、ほぼ無いと言っていい。
ひとつひとつ手探りでやっているような状態だ。
だからこそこいつの存在はこの世界のことについて知るきっかけになるかもしれない、と思ったんだ。
後単純に俺に同じ事が起こらないとも限らない。
そうなれば極寒の環境で動けなくなるのは、俺だ。
雪山からこっちに来ることになる要因まで、特定出来るのが1番良いだろう。
そして最後に、故意かそうでないかは不明だが、こいつは俺の事を助けてくれた。
だったら1度でいいから、義理を果たしてやろうじゃないかと思った。
最後の最後で理由がそれかよ、と思ったかもしれないが、助けてもらったのにあの場所でそのまま放置というのも、なんだか釈然としなかったのだからしょうがない。
今まで散々兄弟を食ったりしたが、やはりそういう考え方は中々抜けないようだ。
さてと、こいつを連れてきたは良いものの、どっから手をつけたものか・・・。
とりあえず先の戦闘で負ったであろうダメージを、お互い回復させるために、『薬生成』スキルでコツコツと作成し続けた残りの「HP回復薬」を与えることにした。
さすがにヘビと出会う直前にも薬を消費していたため、俺もヘビも全快になるほどの在庫は無かったが、それでもある程度までは回復することは出来た。
薬を直接口に持っていく間のヘビはと言うと、何をするでもなくただこちらのことを、じっと見て来た。
威嚇行動などをしてくる様子も無いことから、こちらの行動が危害を加える気は無いと分かっているのだろうか。
確かにこちらがする行為に対して、抵抗する様子は見られないのは良いのだが、とはいえヘビにこんなにもガン見されると流石に背筋が冷える。
やっぱり相手が圧倒的格上というのもあるけど、何より顔が怖い。
ふぅ、飲ませた薬の効果によってHPはある程度回復したはずだが、それでもヘビが起き上がる様子は無い。
心做し先程よりかは顔色自体良くなってはいるが、それでもまだしんどそうだ。
『鑑定』を薬を飲ませた後にも使用して、様子を見ているが、ステータスから《状態異常:衰弱》の文字は消えない。
単純にHPが回復して体力的に余裕が出来ても、「衰弱」は治らないのか。
やはりそれを引き起こしている、根本的な要因に対して手を打つ必要がありそうだ。
そうなるとこいつの場合の根本的な要因は、恐らく体温調節が上手くいっていないことだろうか。
もっと言うなら環境に対して適していないということなのだろうが、今はもっとシンプルに考えたい。
要は元々棲んでいた環境に対して、この場所の温度が暑すぎるのだ。
元の世界で言う夏バテに近いものか。
まずはその夏バテに対する基本的な対処を基準に考えていくとしよう。
夏バテに対して行われる事として代表的なもので言えば、水分補給としっかりとした食事、あと体温を冷やすことだろう。
・・・この中では1番体温を冷やすことが効果がありそうだよな。
『鑑定』によれば、こいつ自身『氷魔法』という、氷属性の魔法を使えるようだが、それで自分の体を冷やすことは出来ないだろうか?
いや、出来ないのだろうな。
そんな簡単な事だったら、もっと早くに自分自身で思いついてとっくに実行しているはずだろう。
俺自身『毒魔法』を使っていて、あまり自身に影響を感じないし。
耐性スキルがあるから、という可能性も無くはないが、それにしてはそれ系のスキルのレベルが上がるタイミングが合わない。
もしかしたら自分のMPを消費して繰り出した魔法では、自分自身に対しては効果が薄いのかも。
考えれば考えるほど、その可能性が高そうに思えてくる。
そりゃそうか、自身で発動した魔法が自身にも影響を与えるレベルならば、誰も気軽に魔法なんて扱えなくなってしまうだろうし。
とにかく自分のことは冷やせないということで進めよう。
ヘビ自身の体力が少なそうな中で、闇雲に魔法を使わせて余計に消耗させることは出来ない。
となると他の手段を探すしかない。
元の世界で実際に身体を冷やす時にはどうしてたっけ?
確か涼しい部屋で凍らせたペットボトルを血管の太い場所、例えば脇の下や膝の裏とかに挟んで徐々に冷やしていくんだよな。
涼しい部屋・・・は用意できないし、氷枕とか氷嚢って、あっ!
水辺なら近くにあるじゃないか。
そして魔法で自分自身を冷やすことは出来なくても、魔法で凍らせたもので間接的に冷やすことはできないだろうか?
薬を飲んで空いた貝の容器をいくつか手にして、水を汲んで運び込む。
そして、それに対して『氷魔法』を使うように訴えかける。
俺のやろうとしていることが伝わったのか、ヘビは目の前に置かれた水に向かって魔法を使い、それらはみるみるうちに凍っていった。
そしてそれらをヘビの周囲に並べ立てることで、空間が少しひんやりとしたものになった。
昔ながらの冷蔵庫って、確かこういう感じだったよな。
ってか、寒っ!
そういや今の俺はカエルなんだから、寒さに弱いんだった
やばいな、こりゃこんな所に長いところ居られないぞ。
でも、これなら行けそうだな。
ある程度氷が無くなって温度が戻るまで、しばらく俺は外に出て待機だな。
にしても一体どうなっているんだろうか。
水が軽く凍るレベルの温度ってそれ0度近いっていうことなんだが・・・。
本当に身体を冷却しても平気どころかそちらの方が都合が良いって、どういうことなのか理解できない。
そもそも寒い地方に棲む生物が気温で夏バテや熱中症を起こすのは、主に厚い毛皮なんかのせいで熱の放射をできないからであって、決して体温を低く保つためではないんだぞ。
だから寒い場所に棲息している生物は魚類以外だと鳥類や哺乳類といった恒温動物ばかりなのだから。
そういった動物の中で暑さに弱い動物は毛皮のせいだけでなく、皮下脂肪が多いと言うことも理由に挙げられるのだが。
逆に言えば、ペンギンなんかのように比較的暑い地方に行っても平気な動物が寒さに強い理由は、身体の表面に油をコーティングして水分が着くのを防ぐことで、体温が下がることをしのいでいるため、暑い気温の場所でも大丈夫なのだが。
て話がそれてしまっているが、つまり何が言いたいのかというと変温動物なのにも関わらず体温を零点近くまでに下げる生態には興味が尽きないということだな。
ゲームの中での世界観やフレーバーテキストに対しても、昔から読み込むタイプのゲーマーだったので、もっと詳しく知ってみたい所もある。
物理法則や基本的な化学反応とかなんかは魔法以外は地球とほぼ変わらないっぽいし、どこからどこまで同じで違うのかで、取れる戦法もあるからな。
さて、そろそろ一旦戻るとするか。
これで《状態異常:衰弱》を治すことは出来ればいいのだが・・・。
そうして1度ヘビの様子を確認するために、俺は冷えた隠れ家の中に入っていった。
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