第26話 空からの敵
周りには風による木々のざわめき程度の音しか存在しないため、自身の緊張によって昂った心音がやけに耳につく。
ヘビって確か元の世界じゃ、カエルの天敵として有名な生き物の代表だよな?
この世界でもその関係がそっくりそのまま引き継がれているかどうかなんて、そんなことは今ここでは分からない。
けれど、こいつが現れたこと自体が俺にとって完全な不意打ちだった。
「索敵」をちょこちょこ周囲に向かって定期的に掛けていたし、真っ白というこれだけ目立つ見た目なのにも関わらず、ここまで近づかれるまで気がつけなかった。
体色に関しては俺がどうこう言える立場では無いけれど・・・。
つまり言いたいのは、こいつが俺の感知能力をあっさり超えてくるようなやつということだ。
油断なんて出来るわけがない。
気をしっかりと引き締めて、その一挙手一投足を見逃さないためにじっと相手を見つめる。
ヘビには手も足も無いかもしれないが、ただの比喩表現として使っただけなので気にしないでくれ。
相手がいつ動くか分からないその緊迫感に生唾を飲み込む。
最初に睨まれた時、思わず身体が竦んでしまったが、今はもう大丈夫だ。
来るならとっととかかって来やがれと、内心を必死に奮い立たせて、何とか闘志を保つ。
緊張がピークに達っして、もしかしたらこの時間が永遠に続くかもしれないと思ったその時、白いヘビはドサリと地面に横たわった。
えっ・・・?
えっ・・・?
緊張の糸が急に途切れらた故か、目の前で起こったことに対して思わず混乱してしまう。
突然の事に動揺をしたものの、ひとまずこいつを『鑑定』スキルで見てみる。
『鑑定』をかけるのを今の今まで忘れていたことが、かなり自分がテンパっていたことを表しているな。
【ステータス】
種族:ホワイトスネーク《状態異常:衰弱》
性別:♀
HP:2163/4200
MP:4200/4200
SP:1154/4200
レベル:6
ATK:3500(-700)
DEF:3500(-700)
INT:3500(-700)
MND:3500(-700)
SPE:3500(-700)
スキル:
『状態異常耐性:レベル1』
『噛み付く:レベル8』
『巻き付く:レベル9』
『猛毒攻撃:レベル4』
『毒生成:レベル3』
『氷魔法:レベル5』
『隠密:レベル10』
『危険察知:レベル1』
『未成熟:レベルー』
『寒冷地適応 :レベルー』
『陸棲:レベルー』
《状態異常:衰弱》だって?
これがこいつの倒れた原因だろうか?
色々と見るのがお初なスキルや説明事項があったりして、色々ともっと詳しく見てみたくなるな。
【ホワイトスネーク】
寒い山々の中に棲息するヘビ型の魔物。
非常に音や熱に敏感な器官を保持していて、獲物を探し出すのを得意としている。
吹雪のような状況でも、埋もれた生き物達を見つけだす。
また、同様に隠密行動が得意であり、その気配の少なさから「雪山の暗殺者」の異名を持つ。その白く綺麗な鱗は見た目に反した強さと、発見が困難であることから、大変高値で取引される。
《状態異常:衰弱》
何らかの要因により、生物が弱っている状態のことを指す。
発現時はHP・SP、その他身体ステータスを減少させる。
状態異常が発現する要因は非常に様々であり、病気や環境変化、スキルなどが主に挙げられる。
蛇の皮や鱗と言ったものは、元の世界でも結構高値で取引されていたものだったからな。
この世界でもそうなのは、別段不思議なことでは無いだろう。
もし仮にこの綺麗な鱗を剥ぎ取るならば、今が絶好のチャンスなのだろうが、生憎とここは人が全く見当たらない場所だ。
そもそも俺自身がカエルだしな。
別にここでは金がなんの意味も持たないし、換金するような所にも当ては無いので、そんな事をやろうとは到底思わない。
人間の頃だったら金額次第ではやっていたかも知れないが・・・。
まぁ今は金目のものだのといったことは一旦置いておこう。
それよりも気になることは、こいつが《状態異常:衰弱》になった原因の方だ。
『鑑定』スキルで見た結果の説明文から推測することしか出来ないので、その要因が本当に合っているかどうかの確信は持てないが、こいつの衰弱の原因は単純にこの環境へ対応出来ていないのではないだろうか。
ここら辺の気候はジメジメムシムシといった、区分で言うと高温多湿気候に該当するものだ。
元の世界で置き換えると、赤道近くに存在するようなジャングルに近い様相をしている。
しかし『鑑定』スキルによって判明したこいつの本来の棲息地域は、一面真っ白の雪が降り積もった山々らしい。
どう考えてもこことは真逆の気候だ。
そりゃ急に寒いところから暑い所に来たら体調も崩すかもしれない、ということは納得出来る。
天気が暖かい日と寒い日が交互にくれば、俺だってきっと体調が悪くなるだろうからな。
ヘビは変温動物だから余計にその温度の変化という影響を受けやすいのかもしれない。
変温動物だったら寒いところの方がやばいんじゃないか、と一瞬頭を過ぎったがそこはファンタジーだし、でしか解決できないだろうな。
生態の説明でそう書いてあるのだから、そういうもんだと納得しよう。
問題は、どこから来たのかということの方だ。
高温多湿気候と寒帯地方の気候が一体どうやったら交わるというのか?
まさかこの島に極寒の雪山があるとでもいうのか?
そうなると今までこの島は元の世界の常識どおりに、赤道のような球状態の星の膨らんだ所に近い場所にあると思っていたけれど、そもそもその認識が間違っている可能性も出てきた。
もう何がなんだか訳がわからなくなってきたな。
この世界について地図も何も見ておらず、まだまだわかっていない事も多い以上、疑うべきなのはこちら側の常識の方なのかもしれない。
そうやって極寒の山について色々と考えにふけっていたその時、『危険予知』スキルが発動したことを察して咄嗟に身を捩る。
地面をゴロゴロと2回転ぐらいしてからすぐさま起き上がり、さっきまで俺がいた場所へ振り返るとそこには大きくてたくましい脚とそれに付随している鋭い爪が地面に深く食いこんでいた。
【ステータス】
種族:トライテイルイーグル
性別:♀
HP:3495/3495
MP:3212/3212
SP:2993/3000
レベル:12
ATK:3059
DEF:2428
INT:2876
MND:2245
SPE:3592
スキル:
『爪撃:レベル7』
『飛翔:レベル8』
『加速:レベル2』
『翼撃:レベル3』
『追撃:レベル1』
『風魔法:レベル3』
『隠密:レベル8』
『危険察知:レベル1』
『高所適応 :レベルー』
『陸棲:レベルー』
【トライテイルイーグル】
三本の長い尾羽が特徴的な猛禽類型の魔物。
上空から獲物を見つけると急降下し、相手が何も分からないまま、その鋭い爪で鷲掴みにする。
その後上空から地面に何度も何度も叩きつけて、仕留める。
奇襲がかなり得意な上に戦闘に非常に積極的で、クエスト中の冒険者が被害を受けることも少なくない。
あ、あっぶね~!
『危険予知』スキルがなかったら、あの爪をまともにくらっていたところだったな。
そうか、陸に上がってからは木陰とかから敵が現れることばかり警戒していたのだが、上空からの攻撃も警戒しなきゃいけないのか。
冷静に考えれば当たり前の事だが、すっかり水中での索敵に慣れきっていたようだ。
運が悪いことに俺とこのヘビが留まって居たところがたまたま木が開けた場所だったため、上空から発見されて狙われたようだな。
こいつも俺も体色が非常に目立つ。
草木に溶け込むことは絶対にない色合いだし。
見つかってしまうのもしょうがないと言えるだろう。
元の世界の野生のカエルやヘビは、そういうこともあって大半が緑か茶色をしていたはずだ。
初撃を躱されたことが気に入らないのか、羽の一本一本を逆立てながら、こちらを睨みつけている。
そう簡単には見逃してはくれなさそうだし、こんな開けた場所で長時間他の場所へ注意を向けていなかったというミスを犯したのはこちら側なので、ここは素直に反省してあいつと戦う腹をくくるか。
自分のステータスと見比べても格上であるし、初めての空を飛ぶ敵との闘いなので緊張するな。
さてどうやって飛行しているやつを倒せば良い?
もう少し枝が茂っている所に移動すれば、こいつの動きも制限することができるかな?
少し悠長に思案していると、向こうから透明な弾丸が飛んできたので、途中で中断して慌てて回避する。
そういや、スキルの中に『風魔法』っていうものがあったっけ。
そういや自分以外で魔法を使ってくる相手も初めてだ。
遠距離攻撃手段を持っていないないのならば、さっきいったような枝が密集して動きに制限のかかる場所への移動も選択肢としてありだったが、相手側には『風魔法』があるのでそれも難しそうだ。
あれだけは動きが制限されている状態でも関係なく撃てるし、なんなら枝ごと吹っ飛ばされて終わりだろう。
それに加えてこちらはさっき進化を終えたばかりである。
多少作り置きしていた薬で回復したとはいえ、万全とは言い難い。
体の使い方もこれまでとは全然違う。
いつもとは異なり全く身構えていないところに来られた上、状況に全然余裕が無いんだが!
これがゲームならば完全に一旦ゲームオーバーになって、もう一回やり直しが出来るけれど、この世界でそれじゃダメだ。
どうにかして打破しないといけないな。
鷲は俺だけではなくヘビに対しても攻撃を行っており、動きが鈍いヘビはそれに録な抵抗も出来ずに徐々に削られてしまっている。
ステータスだけ見たならば、その数値は鷲よりも上とは言え、さすがに衰弱が入った状態で戦うのは厳しいか?
ま、利用できるならば利用させて貰おう。
その分俺への攻撃量が減っているってことだしな。
まずはこの『風魔法』だけで一方的に上空から狙われ続けている状態から抜けだしたい。
そこで俺は「ポイズンミスト」によって周囲に煙幕を張る。
すぐに『風魔法』によって毒の霧は吹き飛ばされてしまうが、それでいい。
一瞬でも相手の視界から隠れる事が出来れば、『隠密』スキルを発動させることができる。
『隠密』スキルの「気配遮断」と「隠蔽」により俺の姿を見失ったやつは、一瞬戸惑ったようだったがすぐに冷静に俺の居場所を探ろうとしていた。
『風魔法』ってだけに居場所を探す魔法があるかも知れないし、『隠密』のスキルレベルもかなり高かった。
ということは「索敵」も使えるかもしれない。
それ以前に周囲一帯に攻撃されれば終わりだ。
最初からこれで逃げ切れるだなんて思っていない。
これは反撃をする為の時間稼ぎだ。
「ポイズンランス」をできるだけ多くの数同時に生成し、それを1つの大きな槍に束ねる。
そして『隠密』スキルがレベル10になったことで新たに獲得した技「狙撃」をここで使う。
この技の効果は遠距離攻撃の精度と威力を高める。
くらいやがれっ!
限界まで相手の頭に狙いを定めて、・・・放った。
姿を晦ます直前までやつの風の弾丸を打ち落とすのに「ポイズンボール」を使っていたので、MPが結構限界だ。
これでできれば決まって欲しいんだがな。
完全に意識外から放ったと思ったが、当たる直前に自分に高速で迫る物体に気が付いて、鷲は慌てて頭を捻る。
スガンッ!
鈍い音が鳴ると共に上空で羽ばたいていたやつが、ゆっくりと地面へ落下する。
【ステータス】
種族:トライテイルイーグル
性別:♀
HP:964/3495
MP:1382/3212
SP:2235/3000
っく、削りきれなかったか。
しかも「毒」の状態異常すら入っていない。
HPを3分の2削ったとはいえ、相手のMP・SPにはまだ余裕がありそうだな。
こちらのMPに余裕がない現状、これ以上魔法で撃ち合うのは無理だ。
となると近接を仕掛けるしかないのだが、まず魔法無しであの『風魔法』を潜り抜けられるだろうか。
「ポイズンランス」を受けて完全に俺の居場所はばれてしまったしな。
こっちの手持ちリソース的に、もう1回隠れるのも現実的じゃない。
余計ジリ貧になるだけだろう。
どうすればいいんだ?
先ほど攻撃を外したときも怒っていたが、今はそれすらも比較にならないほど身体全体を震わせている。
手痛い反撃を貰ったことだしそれも当然か。
カエルになってからは近接戦闘をこなしていないので、思い描いている動きとのズレとかも怖いなと、考えていたのだが・・・。
いきり立つ鷲の後ろから先程まで一方的に攻撃をされていた、ヘビが怠そうにのそりと起き上がり、そこ長い尾を鞭のようにしならせて地面に叩きつけた。
あっ・・・、という言葉が思わず心の中で出る。
怒りによって完全に俺にだけ意識を向けていたため、かなり綺麗に決まったなー。
地面に叩きつけられたあと伏せたままではあるもののまだ微妙に鷲のHPは残っていた。
だがそれとふっと白い息を吹きかけられると今度こそ0になった。
それにしても俺があれだけ苦労して必死に攻撃して何とか削っていたのに、弱っている状態かつスキルなしの攻撃であれかよ・・・。
あまりのあっけなさにしばらくぼーっとしてしまったが、ヘビも今ので体力を使い切ったのか再びぐったりとしてしまったので、大丈夫かどうか確認するために慌てて駆け寄る。
始めての飛行する敵との戦いで、色々と自分以外の要素に助けられはしたものの、また一つ戦いを切り抜けることが出来たということで良いかな?
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