第24話 二回目の集団戦



ザリガニは他の奴らと比べたら楽に倒すことは出来たが、決して弱い訳では無かった。


それでも余裕を持って勝利したということは、それだけ俺が強くなれているってことだよな。


とはいえ結構スキルを連発した影響もあってか、大分MPを消費してしまったな。


ちょうどいい機会だし、『薬生成』スキルのレベルアップにより先ほど習得したばっかりの「MP回復薬生成」を使ってみるか。


目の前で生成した、「MP回復薬」が水へ分散しないうちに、その中心へ向かって飛び込んだ。


『鑑定』スキルで自分のステータスを覗くと、MPの数字が少しだけ増えていた。


うん、そこまで期待していた訳でも無かったが回復量自体は微妙だな。


かろうじてスキルの使用MPよりは多いといったところか。


技は使用後にクールタイムがあることも考えると、その効果はかなり少ないと言えるだろう。


「HP回復薬」と同様にその生成方法からでは、戦闘中にサッと使うことが出来ない上、ここまでリターンが少ないとな・・・。


先程のような使い方でやっていくのは普通に考えれば難しいか。


やっぱりMPに余裕があるときに量産しておき、いざと言う時にMPの消費無しで回復薬を使ったり、自分以外の他人にも使用することが出来るっていうのがこのスキルの強みなんだろうな。


さて、気になっていた新技のお試しの方も済んだことだし、今日はもう寝るとするか。


ザリガニを食ったことで腹も大分膨れたので、暫くはご飯も要らないだろ。


そうして浅瀬の窪んだところまで少しだけ泳ぎ、ゆっくりと体を落ち着ける。


ここならば、周りが地面で覆われて視認性が悪いので、多少は敵からも見つかりにくい。


最近の寝床にしている場所だ。


普通の睡眠に対しては生物としての必要な機能ということなのか、『状態異常耐性』スキルは適用されない。


耐性スキルの経験値も貯まらないし、寝るとそれだけで敵から襲われるリスクが高くなるので、摂らないで済むならその方が良いのだが、全く睡眠を摂らずに活動し続けるというのはまず不可能だ。


しかし、進化の時のような強制睡眠と違って、敵から襲われたり、身に危険が迫っている時は『危険予知』スキルがちゃんと発動してくれるので、そこまで悪いものでも無い。


寝ること自体元々嫌いではなかったし。


それでも早めの段階で『危険察知』スキルを取得しておいて、本当に良かったとは思うな。


じゃあそういう訳でおやすみなさい。


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次の日、俺は陸に上がっていた。


進化が近づいていることをひしひしと感じているため、進化前の『早熟(微)』があるうちに、少しでも『薬生成』のスキルの経験値を貯めておきたいと考え、「HP回復薬」と「MP回復薬」をせっせと生産していたのだ。


他の魔物に見つかりにくいように木の裏の陰に穴を掘りながら、今までコツコツと倒してきたシジミの貝殻を器代わりにして保存をする。


『薬生成』スキルを今の俺が最大限活用するには、この方法が最善だろう。


あまり長い時間陸上では活動できない上に、手足が生えたとはいえあまり穴が掘るのが得意とは言えないので大変苦労した。


が、その甲斐あって「HP回復薬」はシジミ10杯分、「MP回復薬」は3杯分生成した(ちなみにシジミ1杯は貝殻の片側分のことである)。


これだけあれば、戦闘で大ダメージを負った時なんかに、水中からここまで辿り着くことさえ出来れば、なんとかなりそうだな。


では、いよいよ進化のための経験値を稼ぎに、今日の敵を倒しに向かうとするか。


【ステータス】

種族:ユニット・ギニャソポゴン・エロンゲテス

性別:♂

HP:850/850

MP:520/520

SP:750/750


レベル:15

ATK:840

DEF:840

INT:1000

MND:840

SPE:920


スキル:

『連携:レベル10』

『指令:レベル3』

『体当たり:レベル8』

『噛み付く:レベル6』

『防御:レベル1』

『水棲 :レベルー』


安定で英語が分からん。


これ俺の英語力が低いだけなのか?


今回はユニットって書いてあるから、きっと英語なの間違いないはずなんだけど。


同じクラスのやつで英語得意なやつだったら分かるのか。


俺もゲームとかでよく出てくる単語くらいだったら何となく分かるから、英語には自信あったんだけど。


誰でもいいから隣に来させて、意味が分かるか聞いてみたいな。


【ユニット・ギニャソポゴン・エロンゲテス】

小柄な魚型の魔物。

群れを作り、連携をして狩りを行う生態を持っという見た目と違って狩猟的なスタイルを取る生物。

一匹一匹の戦闘力は同ランク帯の魔物と比べると低いが、集団戦闘による追い込みは格上に対しても脅威。


これで集団戦というか、一対多の戦いは二回目だな。


一回目の同胞との戦いは、いきなり不意打ちから始まったからな〜。


今回はこっち側から仕掛ける形だ。


あと前回と比較して違う点を言うならば、ステータスと地形だな。


前回は全員俺よりもステータスが格上だった。


相手全員が身体ステータスが高い進化形態を選んでいて、俺がそうでは無かっただけだが。


それでも集団戦という一対一よりも余裕が無くなる状況では、単純なパワーによるゴリ押しはバカに出来ない。


今回は一応俺の方がこいつらよりも辛うじて上回っているが、それも圧倒的という程でもない。


加えて前のような利益のためにとりあえずで組んだチームと、生態的に連携することを前提とする魔物ではその連携の練度が違うだろう。


絶対に油断なんかできない。


しかも、前回での戦いは地形的に見れば、俺にとってかなり有利な状況だった。


「しびれ草」に囲まれた環境という閉鎖的な空間により、思ったように囲い込みや挟撃ができなくて、人数が多いという相手側のメリットを押し付けられにくかった。


そのおかげで、立ち回り次第で常に一対一を保つことすら出来たのだし。


今回はこちらにとってそのような地理的な有利はない。


だからこそこれは、純粋に俺があの時からどれだけ強くなれたかが確かめられるかもしれないな。


真っ直ぐに自分たちの方へと泳いでくるこちらに、相手側も気付いた。


一斉に周囲に散開し、いつでも攻撃できるように様子を窺ってくる。


さて、戦闘開始だな。


1匹が合図を出すことで、全員が行動を開始する。


さすが集団で連携して狩りを行うやつらだ、ものすごく迅速な動きだった。


今回俺が相対している群れは、五匹で構成されている。


この魔物の中では少ない群れだと思われるが、それでもパッと見隙は無さそうだな。


どこからでも、いつからでも攻撃出来るだろう場所に各々常に位置し続けることによって、俺は意識を常に散らされ続けている。


それはそれだけ警戒しなければいけない場所が多くなるからだ。


最初の攻撃は唐突だった。


俺の後方側に位置していたやつが、俺が何もリアクションをしないことに堪えかねてに突進してきた。


『鑑定』の結果からこうやって連携されることを想定できていながらも、勝負を挑んだ俺が背面からの攻撃程度対策をしていない訳が無い。


ましてや他の箇所からは何のアクションもない、ただの単独攻撃ではな。


『隠密』スキルにより習得した「索敵」は、戦場全体の把握にも大いに役立つ。


自分の周囲の状況を常に知れるということは、こうやって複数の敵に囲まれていても、いくらか心に余裕ができる。


そして死角からの攻撃だろうと、相手の動きが分かれば簡単に避けられるのだ。


1匹が攻撃を仕掛けたことで、慌てて続けざまに全部のやつが波状的にこちらへ向かってくる。


決して途切れることは無く、途中で仕切り直しも出来ない。


ひとつ救いであるのは、相手の攻撃手段が『体当たり』や『噛み付く』といった純粋な近接物理攻撃しかないという事だ。


めちゃくちゃ近づいてからの攻撃しかないので、相手のリーチさえ理解しておけばまだ対処が可能だ。


これが中・遠距離からの攻撃方法も有していたら、集中砲火を食らったり、連携の組み合わせが膨大になって処理しきれないといったことが起こったかもしれないがな。


更に言うならばそれらの『体当たり』や『噛み付く』といったスキルは、俺が今に至るまで散々お世話になってきたものだ。


その特性もよくわかっている。


『体当たり』スキルの方はまだしも、『噛み付く』スキルは完全に接触されない限り、そこまで警戒する程でもない。


スキルを使用した攻撃は外せばむしろ即隙に変わるので、向こうもなかなかやらないだろう。


一回でもまともにくらってしまえば、そのまま連鎖的にズルズルと食らってしまいそうではあるが、注意するとしたらそれくらいだろうか。


俺がスキルを用いた攻撃を意図的に誘発させて隙を作り、細かい反撃を繰り返したことで、相手側もスキル攻撃が意味無いどころか塩を送る行為だと気が付いたようだ。


しかしそうしてスキルによる攻撃を控えれば、それはそれで肝心の連携攻撃でも圧が無くなる。


そろそろこっちから攻めるとするか。


相手が今まで通り反撃を食らいにくい後ろに位置した瞬間を狙って、「後背蹴り」で吹っ飛ばす。


俺はこの戦いの最中に背後からの攻撃に対しては、一度も反撃をして来なかった。


そのせいで今の攻撃は完全に意識の外側を突いたのか、かなりキレイに決まったな。


仲間の一体が手痛い一撃をもらったため、そのまま連携が一気に乱れるのを警戒してか、奴らはその瞬間攻撃を中止して一斉に俺から距離をとる。


吹っ飛ばされた個体が戻ってきて、万全の態勢にしてから戦闘する方針のようだ。


今ので絶対に「後背蹴り」は警戒されてしまったな。


この戦闘ではもう同じやり方は通用しないだろう。


でも距離を取るっていう行為は、舐められたもんだな。


お前らは『鑑定』スキルを持っていないから、気が付かないのもしょうがないが。


俺はお前らと違って色々と遠距離攻撃も持っているというのに。


「ポイズンミスト」で毒の煙幕を張った上から、「ポイズンボール」や「ポイズンランス」を放っていく。


今まで「ポイズンミスト」は逃走時や牽制などという消極的な使い方しかしてこなかった。


しかし、こういった攻めのタイミングでもこの魔法は非常に強力なのだ。


視界を制限することでどこから攻撃が来るか分からないようになったり、お前らのような連携を売りにしている奴らにはその強みを潰すことにも繋がる。


また、「ポイズンボール」と「ポイズンランス」は攻撃のスピードが違っており、その緩急差が「ポイズンミスト」で余計に強調され対処を惑わせる。


『体術』スキルを警戒したようだが、俺の1番の武器は元から毒だ。


『毒魔法』は喰らえば単純なダメージだけでなく、《状態異常:毒》を与える。


そして《状態異常:毒》になれば動きが鈍る。


動きが鈍れば、お前らの最大の強みである連携が死ぬ。


これで完全に終わりだと今までの俺だったら言っていただろう。


もう油断はしないって決めたし、打てる手は全部やり尽くすことにしたんだ。


連携は捌けていたとはいえ、完全ではなかった。


波状攻撃を受ける度にダメージは蓄積されており、死に物狂いででここから反撃されたら危ない状態に陥りかねない。


毒で動きが鈍ったこいつらに『貪吸』を発動する。


減っていたHPやMPも僅かながら回復していく。


『噛み付く』の上位互換であるこのスキルは、相手に接触していなくても発動することが出来る。


もちろん相手に接触していた方が効果はでかいが、相手が近接攻撃してこないのならば毒とこれでハメ殺せることも可能だ。


これで完勝だ。


最後の一手まで手を抜かない、生き死にが掛かってるんだ。


大人しく俺の糧になってくれ。


一匹一匹徐々に力尽き倒れていく。


何とか悪あがきをしようとするやつも居たが、こういった群れで狩りをする生き物は当然数が少なくなれば当然弱体化する。


元よりこいつら一体一体は、身体的ステータスですら劣るのだ。


更にそこへ毒が加われば、とても脅威とは言えず、ひとつひとつ簡単にいなす事が出来た。


そしてついに最後の一匹も・・・。


全員が地に伏して戦闘が終了した事で、頭の中にレベルアップの音が鳴り響いた。




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