第23話 VSザリガニ
堅い甲殻、鋭いはさみ、高いパワー、どれも恐ろしい武器であることに間違いはないけれど、あのビル並みのでっかい蟹を見た後じゃ、やっぱり見劣りするんだよなぁ。
俺目掛けて振り下ろされて、地面にたたきつけられたはさみを横目で見て、心の中でそっとぼやく。
はさみが持ち上げられたあとの地面には、まるで人の拳のような跡が付いていた。
【ステータス】
種族:パンチングクレイフィッシュ
性別:♂
HP:1009/1824
MP:790/980
SP:828/1006
レベル:21
ATK:1075
DEF:1888
INT:784
MND:1099
SPE:760
スキル:
『泡 :レベル5』
『拳術:レベル4』
『はさむ:レベル7』
『防御:レベル2』
『水棲 :レベルー』
『陸棲(微):レベルー』
【パンチングクレイフィッシュ】
はさみが異常に発達して、大きな拳状に変化したザリガニ型の魔物。
その拳型のはさみは決して見掛け倒しではなく、岩をも簡単に砕くと言われている。
気性が荒く、非常に好戦的。
縄張り意識が強く、自分の周囲に他の生物が近づいてくると、積極的に攻撃を仕掛けてくる。
『鑑定』の結果じゃ誇らしいことのように言われているが、この湖内で気性が荒いというのはむしろ欠点ではないか?
こいつのステータスの数値を見る限り、ここら辺では正直下の方のはずだ。
なぜならこいつは俺と同じ程度のステータスでしかなく、それでは到底勝てないような相手ばかりだから。
俺が幅をきかせることが出来ていないのだから、当然こいつも出来ないのだろう。
縄張り意識が強いような生物がこのように窮屈で暮らしにくい浅瀬に棲息している時点で、他の場所で生存競走に負けて追いやれてしまったのが、嫌でも分かってしまうな。
他の説明も同様だ。
まるで、凄いことばかり書いてあるように思うが、実際のところそうでは無いと思う。
パンチで岩をも砕くと言っているが、スキル込みならば俺だって別にそれくらいのことはできるぞ。
元の世界の人間レベルが比較対象ならまだしも、その程度のことはこの世界では別に誇ることでもないのではないか?
防御面のステータスも高くはあるものの、シジミみたいなやつと比べれば一歩劣る。
それに関してはシジミがヤバすぎるのかもしれないけど。
シジミ相手には中々通用しなかった「ポイズンランス」でも安々と貫通できた。
ほら。
今もその「ポイズンランス」で攻撃した箇所から、空いた傷口から毒液が流れ込み、さらに《状態異常:猛毒》が入ったところだ。
ザリガニは毒の苦痛や攻撃を受けたことによる怒りで視野が狭くなり、辺りへしっちゃかめっちゃかにはさみを振り回しだす始末。
こんな化け物みたいにヤバいやつがたくさん居る環境の中で、気性を荒げてこうやって所構わず喧嘩売っていれば、そのうち全滅するんじゃ無いか?、と心配になる程だ。
やつが適当に振り回している中で、たまたま俺の上に降りかかってきたはさみを、『体術』スキルで会得した「斧刃脚」でかち上げる。
不意を付いたこともあってかザリガニの体が、その衝突によって軽く浮き上がった所で、露になったその柔らかそうな腹に向かって同じく『体術』スキルで会得した「掌底」をぶち込む。
まだまだカエルになりかけの小さな手から放たれたとは思えない程の衝撃波は、接触箇所からやつの内臓部分にまで浸透していき、堅い甲殻による防御を無視して大きなダメージを与える。
怒りやすい気性のせいで攻撃ばかりに比重が偏り、せっかくの『防御』スキルという優秀なスキルを保持しているのにも関わらず、同じスキルを持っていたシジミと比べて全然使いこなせていないなぁ。
シジミなら今の攻撃を危険だと事前に察知して、しっかり『防御』スキルを発動させて防ぎきっていたぞ、全く。
そうやって普段から守りのことを考えずにいるから、スキルのレベルも低いんってんだ。
俺だったら『防御』スキルなんて強力なやつ持ってたら、使いまくっている自信があるけどね。
向こうの攻撃は単調故に避けやすく、こちらの攻撃に対しては全く避けようとしない。
シジミと比べれば、よっぽど楽な相手だったな。
それでもまともに何発か喰らえば危なかったかもしれないけど。
【メディシナルタッドポール:♂のレベルが上がりました】
【『早熟(微)』が適用されます】
【種族レベルが38になりました】
【『状態異常耐性』のレベルが7になりました】
【『貪吸』のレベルが4になりました】
【『薬生成』のレベルが5になりました】
【「MP回復薬生成」を習得しました】
【『体術』のレベルが10になりました】
【「ヘッドパッド」を習得しました】
【『毒魔法』のレベルが10になりました】
【「ポイズンレイン」を習得しました】
【ステータス】
種族:メディシナルタッドポール
性別:♂
HP:1251/1560(+40)
MP:565/1607(+40)
SP:466/1528(+40)
レベル:38(+2)
ATK:1082(+30)
DEF:1082(+30)
INT:1122(+30)
MND:1082(+30)
SPE:1537(+40)
スキル:
『鑑定 :レベル10』
『状態異常耐性:レベル7(+1)』
『貪吸:レベル4(+1)』
『体術:レベル10(+1)』
『猛毒攻撃:レベル10』
『毒生成:レベル10』
『薬生成:レベル5(+1)』
『毒魔法:レベル10(+1)』
『隠密:レベル9』
『危険予知:レベル9』
『早熟(微) :レベルー』
『水棲 :レベルー』
『陸棲(微) :レベルー』
シジミやザリガニといった少しだけ格上の相手を、幾度か倒してきたこともあってレベルも順調に上がってきたなあ。
そもそも格上しか周りにいないと言えば、それはそうなんだけども。
「しびれ草」の頃のようにぬくぬくとした環境で格下相手に、経験値稼ぎとかが出来ないのでしょうがない。
そういえば言い忘れていたのだけれど、「メディシナルタッドポール」へと進化した際に、以前と少しだけ姿が変わっていた。
「ポイズンタッドポール」の時は、体色が白のベースに紫色のラインが入ったと言う感じだったのだが、さらにその紫のラインに重なるように新たに緑のラインが加わったような状態になった。
緑と言っても黄緑のようなものではなく、どちらかというと、抹茶に近いような色だ。
うん、そもそも白ベースの体色があれなので、目立つということ自体は全く変わらないがな!
今までは「しびれ草」が周りに生い茂っていたから、その目立つ体色をあまり気にしなくても大丈夫だったのだけれど・・・。
これからはそういうわけにはいかない。
今まで以上に行動に気を付けなければ・・・と思っていたが、意外なことにその問題は割とあっさりと解決することが出来た。
それは、『隠密』スキルで新たに入手した「隠蔽」があるからだ。
「隠蔽」の効果説明をざっくり言うと、自分以外の相手から何かを隠すことかできる技のよう。
説明自体がアバウトだが、その分効果の適用範囲も広く使い勝手が良い、そして強力だ。
SPを常に消費してしまうというデメリットこそあるが、「気配遮断」と組み合わせればほぼ確定で、相手に認識されていない状態からの攻撃によってダメージが上昇する「不意打ち」を決めることが出来る。
さらに「隠蔽」は単純に何も無いかのように隠すだけで無く、ある程度の偽装も出来るようなのだ。
それによって姿を別の魔物に変えてごまかしたり、まだ出会ったこと自体は無いが相手が『鑑定』のようなこちらのステータスを覗き見ることが出来る手段を持っているような場合は、その見たステータスの誤魔化しも出来るらしい。
あることを全く何も無いかのように振る舞うことは鋭い相手だと難しいけど、そうやって偽装する方はバレにくいし、かなり色んなことに使えそうだ。
なんて便利なスキルなんだろう・・・。
これで「しびれ草」の外に出た後の今の状況でも、見た目の派手さをそこまで気にする必要が無くなったな。
こんな便利な技がレベル8で習得できるなら、次に何か新しい技を覚えると思われるレベル10では、一体どんな技を会得することができるのだろう。
期待が高まるぜ。
そして俺の1番注目しているスキル、『状態異常耐性』も種族レベルと一緒に順調にレベルが上がっているな。
このスキルのレベルを上げるには、わざと相手の状態異常を食らう必要があるのではないかと最初は思っていた。
だがそれはかなりリスキーな行動だ。
後々それが自分の助けになると分かっていても、おいそれと出来るものでは無い。
下手したらそのまま不利になって、死ぬかもしれないのだ。
ましてや周りは格上ばかり。
そんなハンデを負っていては、とても勝てない。
だがもう身体は大分カエルに近づいて来ている。
『早熟(微)』スキルが適用されるのも後少しだ。
そうなる前に少しでもスキルの経験値を稼ぎたいけれど、他の方法はないかと模索することにした。
そこで『状態異常耐性』スキルの基となった『毒耐性』・『猛毒耐性』スキルがどのようにレベルアップしていたか考えた。
1番よく上がったのは同種を食べていた時だよな・・・。
それ以外でも食事で主に上がっている気がする。
と、そこで気が付いた。
俺、食べる相手を毎回毒で倒してる、と。
それもそうだよな、人間に置き換えたら毎回猛毒に浸したご飯を食べてるようなものなんだからさ。
そりゃレベル上がるよ。
どこの仕事人だよってくらいな過酷な修行スタイルだよな、あくまでも人間基準で考えたらの話だけど。
成体になるまでにカンストするのは厳しそうだけど、これである程度の経験値は稼げているのではないかな。
さて、今回のレベルアップで『体術』と『毒魔法』がカンスト、そして『薬生成』がレベル5になってそれぞれ新しい技を覚えることが出来た。
『体術』と『毒魔法』はもはや俺の主力武器、長らくお世話になっていたし、むしろようやくカンストかぁという気持ちである。
『体術』で最後に習得した技、「ヘッドパッド」は文字通り相手に向かって頭突きを繰り出すもののようだ。
効果は一定の確率で相手をひるませることがあるというような、いつもの『体術』の技全般に付いている物で・・・。
これまでの技の傾向から考えると、きっと『体術』の技はそれぞれ繰り出す部位とか攻撃範囲で差別化しているんだろう。
最後に習得するには微妙すぎる気もするが、むしろ「掌底」が便利すぎるだけだ。
そう思うことにしよう、なにせ今までたくさんお世話になってきたんだから、『体術』さんに文句なんて言っちゃいけないし、言うわけがないよね。
一方、『毒魔法』で習得した「ポイズンレイン」は詳しく見たところ、かなり強力なものだった。
周囲一帯に毒の雨を降らしてDEFやMNDの値による耐性を無視して、「毒状態」を付与するといった技だった。
これがあれば耐性系のスキル持ち以外であれば、どんな格上に対しても毒の状態異常を入れられるってことになる。
もちろんこんだけ強力な効果なので制限が色々存在する。
まずは多大なMPを消費する。
最大MPの50パーセントという割合方式で消費MP量が決定され、これはレベルが上がってMP量が増えていったとしても、負担が大きいことを意味する。
MPを大量に使う故に、使用するタイミングも非常に重要になるだろう。
戦闘が長引けば使用するだけのMPが残っていないかもしれないし、序盤に使うとリソースがカツカツすぎて押し負けるかもしれない。
そしてさらに広範囲に無差別で、ということなので敵味方関係なく攻撃してしまう仕様だ。
それに関しては、一人だから何の影響も無いけどね・・・。
べっ、べつに寂しくなんて無いんだからね!
・・・本当だよ?
ゲフンゲフン、ぼっち論争は置いておいて、話を戻そうか。
他に「ポイズンレイン」の特徴を言うと、この魔法には攻撃判定が無いと言うことだ。
最初に習得した魔法、「ポイズンボール」ですら攻撃判定があるというのに。
それに雨という形式のため、「ポイズンスワンプ」などと同様水中での運用も難しいな。
そのほかにも細かい制約はいくつかあるが、大まかなところで言うとこんなところだろう。
今まで自分より圧倒的な格上には目をつけられたら為す術が無くそこで終了だったのだが、これがあることでどうにかダメージを与える手段を得られたな。
毒を入れただけでは勝てる見込みは少ないかもしれないが、それでも対抗手段があるのと無いのとじゃあ、天と地ほどの差がある。
常に強敵相手には切れるように立ち回りを考えなきゃ。
ふぅ、着々と強くなれている気がする。
ひとまず、このままの調子で強くなるぞ!
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