第21話 これから
その必要があったとはいえ、いつもあっという間に陥落していたはずの眠気に、意外と簡単に耐えることが出来てしまい、呆然としていた俺を、進化時の通知が正気に呼び戻す。
この眠気絶対越えられないシステム的な制限かと思っていたが、そうでも無いんだな。
なぜ今回だけに限って耐えることが出来たのかは不明だが、とりあえずレベルアップと進化での変化を見ていくとしよう。
しかしそうして通知を見ていく中で、1つ気になったことがあった。
どうして『状態異常耐性』スキルのレベルが上がっているんだ?
しかもそれがゲンゴロウを斃した時のレベルアップではなく、進化後というタイミングで・・・。
スキルのレベルは、そのスキルを使用することで(俺は熟練度のようなパラメータがあり、それが蓄積するのだと勝手に考えている)段々上がっていく。
それ以外のパターンだと、別にそのスキルを直接使用していなかったとしても、スキルに関連した動きをすることであったり、また戦闘を行った時にもボーナスとして熟練度のようなものが入っていると感じる。
勿論、後に述べた2つの上昇量は、直接スキルそのものを使用した時よりも、ずっと少ないものではあるが。
とにかく、スキルのレベルが上がるきっかけというのは大体この3つの中に当てはまることをした時なのだ。
そしてここで問題なのは、今回の『状態異常耐性』スキルのレベルが上がったことに対して、タイミング的にそのいずれも心当たりが無いということ。
戦闘に関してのスキルレベル上昇は、一通り進化前に既に済んでいる。
『状態異常耐性』スキルと同時に今回14と10レベル以上も上がった種族レベルの方は、上限に至った故に進化前で溢れた経験値が入ったのかな、とまだ推測することができた。
しかし、スキルの方はそういったこともなく、別に上限で止まっている節は無い。
となると、『状態異常耐性』スキルのレベルが上がった要因は、まさに進化前から進化後の間のタイミングでしか考えられない。
まさかあの進化時に発生する強力な眠気も、「状態異常」のカテゴリーに含まれているのか?
そうであるならば不思議と今回の眠気に耐えられた理由も、『状態異常耐性』スキルのレベルが上がった要因にも説明がつく。
だとしたら、これからこのスキルのレベルがどんどんと上がっていくことになれば、この眠気にも完全に対抗出来るのか?
そうすれば進化のタイミングをいちいち気にしないで行動することが出来る!!
この世界にいったいどれほどの種類の状態異常があるかは分からないけども、その全てに対して耐性が付くっていうのは、『状態異常耐性』スキルとやらはとんでもないな。
やっぱり『早熟(微)』スキルを残しておいて実に良かったな。
こんな凄いスキルがあるのならば、まだまだレベル上げの補正は欲しいに決まっている。
今確認出来ている状態異常だけでも「毒」、「猛毒」、「麻痺」、それにまだ名称も分からないし、存在すると断言も出来ないが、「眠り」のようなものがある。
特に「麻痺」と「眠り」に関しては、罹った時点で体が動かなくなってしまい、状況によっては即詰み間違いなし、のかなり凶悪な状態異常だ。
むしろ今までそれらに対して防ぐ手段が無かったというのが大変恐ろしいと感じる。
この耐性スキルが最終的にどれほどの効果があるかは現時点では不明だが、そうだとしてそのリスクが少しでも軽減されるだけでその影響はかなり大きいものになるに違いない。
さて、『状態異常耐性』スキルについての感想はここまでにしておこう。
その他の部分で色々変わったところを見ていくとするか。
まずは身体ステータスだが、これはかなり上がったな。
今回の進化でようやく、ゲンゴロウの上位種やメダカの上位種並の身体ステータスにはなっただろう。
「ポイズンフロッグ」や「ポイズントード」と比べると、数値的な見方では明らかに見劣りはするものの、そこら辺は割り切っていくしかない。
なんせ最初の方の貧弱なステータスを知っているだけに、ようやくあのゲンゴロウ達に追いついたという、感慨深い気持ちがガッカリよりも強いように思う。
ステータスはあらゆる動きを取る上で影響がある。
これまでと環境が違うとはいえ、高くなった分、できることも増えたと思いたいな。
いや本当にマジであれだけのステータス格差の中、戦ってたよ俺。
次に『鑑定』スキル。
生まれた時から何故か所持していたこのスキルだったが、ついにレベルがMAXの10に到達した。
その際の効果は、相手のスキルまで確認出来るようになる、というもので・・・。
それすなわち、相手のステータスを全部丸裸にすることが出来るようになったということだ。
戦闘前に相手の手の内が大体予想できてしまうということで、こちら側が大分有利なのではないだろうか。
それは単純に何を警戒して、何を警戒しなくても良いかというのを明確に分かっているだけで、相手に対して優位に立ち回ることが出来るからだ。
普通はあらゆるものに対して対策などは取れない。
それでも大抵のゲームなんかでは、状況や流行りからある程度相手がやることを推測して対策を立てて行くものだが、例えどれだけ頑張ったとしても完封はまず出来ない。
予想される全てのことに対しての対応は、無理だからだ。
それが相手のことを最初から全部分かった上で立ち回れるなんて・・・。
ゲーマーとしてその状態はちょっとつまらないかもと思ったが、割とこの世界ではそれらが分かった上で理不尽な奴も多かったのでおそらくその心配はしなくて大丈夫だろう。
むしろ、相手のやることが分かっていると、油断をしないように気を引き締め直さなければ!
『状態異常耐性』はさっき散々言ったな。
名前の通り、状態異常に対して耐性を得られるという効果のようだ。
これはぜひ積極的にレベルを上げたいスキルの1つだな。
次に『貪吸』スキル。
これは『吸精』スキルのレベルが上限に至って進化したもので、その効果は完全にその上位互換になっている。
敵と接触時にスキルを使用すると、相手にダメージを与え、その際になんとHPだけでなくMPも吸い取ることができるように強化された。
これでついにMPの回復手段もできたか・・・。
これはかなりでかいな。
最近習得したスキルの中にはMPを使うものも増えてきたので、すごくありがたい。
そしてHPと異なり相手のMPを減らすことは、相手への妨害にも繋がる。
こちらもどんどん使っていってレベルを上げていきたい。
次に『体術』スキル。
これは元々保持していたスキルだが、今回は新しい武技「後背蹴り」を習得した。
その詳細はバク宙のようなものを行いながら、後ろへ脚を振り下ろすような攻撃らしい。
ん〜、これはどうなんだろうか?
説明を見ただけでは使いづらそうだけども、貴重な後ろ方向への攻撃手段だし、動作が独特だから相手の不意も突けたりするのかな?
割と後ろへの攻撃っていうのは重要で、オタマジャクシの体の構造上前以外の攻撃手段が乏しい。
いざと言う時に役立つかもしれないので、一応頭の片隅には入れておくことにしよう。
次に『毒生成』スキル。
レベル10、つまりは『鑑定』スキルなどと同様上限に達して、ついに「猛毒」が生成できるようになった。
『毒生成』スキルによって生成した毒は、相手への状態異常付与率が高いので、こちらは単純にうれしい強化。
効果はシンプルながら、魔力使用量で他の「毒」や「微毒」の生成とも差別化できているし、このスキルのレベルはもう成長しないとはいえ、これからも使っていきたいな。
次に『毒魔法』スキル。
こちらもレベルアップで新しい魔法、「ポイズンスワンプ」を習得。
「ポイズンスワンプ」は字のごとく毒の沼を発生させる魔法のようだ。
範囲攻撃プラス相手からの攻撃を阻害しながら毒を与えると言う効果なのだが・・・、これ水中じゃ使えねーじゃねーか!
沼を作り出すというなかなか強力そうではあるんだが、使いどころ次第っていったところかな。
そして最後に『薬生成』スキルだな。
レベル1では「HP回復薬生成」を習得。
これは名前の通りHPを回復させる作用を持つ薬を生成できるみたいだ。
『毒生成』スキルと同様に、自分の体もしくはその周りに液体状の薬を生成するよう。
これも「ポイズンスワンプ」などと同じく、水中で使うのは厳しくないか?
『毒生成』スキルの方は『毒魔法』があったからこそ、水中に溶け出さずに操作できた。
それに目的が相手への攻撃だけではなく、牽制などにも使用できるというのも。
1度体外で生成からしようという、ツーステップを踏まなければいけない上、直接の操作も行えないとは・・・。
クソ、高い期待を抱いていただけに少し残念な仕様だと感じる。
このスキルは本来瓶などの器に注いで、適宜使用していくスタイルなんだろうな。
一度薬を作成して保管しておけば、いざと言う時に魔力を温存しておきながら、体力回復を図れる素晴らしいスキルだ。
・・・拠点が陸上でなおかつ、俺が人間だったならばの話になるがな。
現状ではそこまで有効的な使い方は思いつけない。
戦闘後のゆっくりとした状況で、能動的に体力回復を狙えるくらいか。
少なくとも戦闘中に咄嗟に回復とかはまず無理そうだ。
「ポイズンスワンプ」といい、『薬生成』といい、今後陸上の方が有効的なスキルも増えてきそうだな。
しかし、『陸棲(微)』がどれくらいの効果があるのか未だに確かめられていない。
『鑑定』スキルによれば少しの間、陸上での活動が出来るようになるとのことだったが、その少しがどれくらいなのかが、いまいち分からないしなぁ。
「しびれ草」を追われてしまった訳だし、他の拠点探しがてら地上の偵察に出るのも、ありかもしれないな。
そんなあれこれ思考を巡らせていたが、激闘の連続や進化時のエネルギー消費なども相まって、酷くお腹が空いてしまったので、ひとまずはゲンゴロウをいただくとしよう。
いかなる理由があるとしても、殺してしまったからには責任をもって命を頂こう。
あれほど俺やメダカの攻撃を弾き続けた装甲は、今はもう見る影もないほどにぐしゃぐしゃで、ひしゃげた部分から簡単に剥がすことが出来た。
いただきます。
そうしてむき出しになった肉に向かって、思い切り食らいついた。
■ ■ ■ ■ ■
ゲンゴロウを食べ終え、辺りには外骨格の残骸が残るばかりになると、俺自身のMPとSPもそこそこ回復していた。
そこで『薬生成』スキルで「HP回復薬」を自分の前面に生成し、その中に突っ込んでいく。
水中のため多少拡散したものの、何とか大半を身体に浴びせることが出来た。
直接飲むいわゆる経口摂取よりは効果が落ちるものの、このような形でも回復効果は適用されるようだ。
現状で『薬生成』スキルを利用する時は、このやり方で使っていくしかないな。
何度かそれを繰り返すことによってひとまず安心出来る程度には体力が回復したので、これからどうしていくかを考える。
何より一番大事なのは住処だよなぁ。
今までの暮らしは「しびれ草」に頼り過ぎていたんだ。
俺はまだまだ「しびれ草」の外側に棲息しているような奴らとまともに闘えるほど強くはない。
ましてや、あの庇護が無ければおちおち眠ることすら出来ないかもしれないのだ。
そうなると、敵に襲われても比較的逃げやすい場所がいいな。
・・・そうだ!
あそこなら比較的襲われにくいし、逃げやすいんじゃないか!?
そうして俺が新しい拠点に選んだのは、水面と陸地の境目付近にある浅瀬だった。
まだまだ陸地の魔物の強さは確認できていないけれど、水中のやつらよりも弱いなんて決めつけられない。
ただここなら陸上から襲われにくい上に、いざとなったら水中に逃げ込める。
そして水中の生物からも、同様に逃げる算段が立てやすい。
最初の方に見たやつみたいな体が大きな生物は、そもそも浅瀬なんかにまで来たら動きが鈍くなるし、それ以外が相手でも最悪陸地に逃げ込める。
まだ完全なカエルでは無いものの、大分オタマジャクシから抜け出しつつあるからこそ出来る芸当だ。
一般的な生物はどちらか一方以外では動きが鈍るはず。
これは俺が両生類ならではの強みだ。
とはいえまだ陸に行ったことがないから、ある程度探索しないといけない事には変わりはないけど。
陸地に上がった時の逃走経路をどう取るか、俺自身の陸地での移動スピードは如何程か、『陸棲(微)』スキルではどのくらいの時間陸地に滞在できるか、など最低限これらを検証してみた。
これくらい分かっていないといざと言う時に、逃げきれないだろうし。
・・・という訳で実際にやってみた。
検証してみた結果、陸地での滞在時間はあくまで体感だけど、約三十分くらいかな。
普通のオタマジャクシならば、まだエラ呼吸をしているためもっと短いと思う。
これは魔物だからスゲーなのか、スキルとしてそれを可能にしてるのがスゲーなのか・・・。
まあそこら辺の考えても仕方が無いところは置いておいて。
次に移動スピードだが、当然水中よりも遅かった。
まだ陸上での行動に慣れていないので、練習すればもう少し早くなるかもしれないけど、大体水中での移動速度の半分ってとこかな。
逃走経路に関しては、今回の一回の探索ではまだ不安だ。
これからも、何回かに分けて確認していこう。
「しびれ草」を飛び出しての生活は、やっぱり不安でドキドキするなぁ。
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