第15話 更に強くなるためには・・・
こちらへ飛来する鱗の弾丸。
ステータスとはなんとも不思議なもので、元の世界ではあまり運動がお世辞にも得意とは言えなかった俺でも、軽々と避けることが出来た。
【ステータス】
種族:ヴァレルフイッシュ
性別:♀
HP:124/124
MP:44/44
SP:85/85
レベル:10
ATK:69
DEF:88(-24)
INT:57
MND:54
SPE:35
この世界に来てからレベルアップや進化を度重ね、最初と比べられないほど高くなった数値により、相手の一つ一つの動きがスローモーションに感じられ、その攻撃の合間を縫って敵に近づくことも容易になった。
恐らく当たれば脅威的な弾丸はその反面、自身の硬い鱗を飛ばす特性ゆえ、生身の肉体そのものを鱗の鎧からさらけ出すという諸刃の剣のような技だった。
その無防備になった部分を意図的に狙って攻撃を連発していく。
その動きを見る限り鱗を飛ばしてくる攻撃以外ではろくな攻撃方法が無いモンスターのようなので、近づかれればこうも呆気ない。
武技や魔法どころか、『猛毒攻撃』スキルを使わずとも勝ててしまった。
【ポイズンタッドポール:♂のレベルが上がりました】
【スキル『早熟(微)』が適用されます】
【種族レベルが5になりました】
【『猛毒耐性』のレベルが5になりました】
【『体術』のレベルが5になりました】
【『吸精』のレベルが7になりました】
【『猛毒攻撃』のレベルが7になりました】
【『毒生成』のレベルが7になりました】
【『毒魔法』のレベルが3になりました】
【『隠密』のレベルが3になりました】
【『危険予知』のレベルが3になりました】
【ステータス】
種族:ポイズンタッドポール
性別:♂
HP:270/270(+20)
MP:237/287(+20)
SP:209/268(+20)
レベル:5(+2)
ATK:162(+16)
DEF:162(+16)
INT:202(+16)
MND:162(+16)
SPE:277(+20)
スキル:
『鑑定 :レベル9』
『猛毒耐性:レベル5(+1)』
『吸精:レベル7(+1)』
『体術:レベル5(+1)』
『猛毒攻撃:レベル7(+1)』
『毒生成:レベル7(+1)』
『毒魔法:レベル3(+1)』
『隠密:レベル3(+1)』
『危険予知:レベル3(+1)』
『早熟(微) :レベルー』
『水棲 :レベルー』
『陸棲(微) :レベルー』
うーん、進化してからというものレベルが伸び悩んでいるな。
やはり『早熟』スキルが『早熟(微)』スキルになったということと、もうここら一帯の敵が格下ばかりということが理由としてあるのかもしれない。
今までの傾向的に自分と同格かもしくは格上、つまり命の危険がより高い時ほど大量に経験値を貰えていた印象がある。
少し前までこの帯域でも弱いやつが集まる「しびれ草」群生地の中でも最下層に位置していた俺が、今では有数の実力者になっている。
中々レベルが上がらない理由はそのせいであるのだろう。
もちろん貰える経験値が0という訳では無いので、着実に強くはなれているのだろうけど。
以前はカエルになって「しびれ草」群生地帯を出ていかなければいけないことを鑑みて、そのリスクからレベル自体をあげることに危惧を抱いていた。
しかし、その懸念は兄弟たちとの死闘後に現れた、あのナマズを見てからどうでもよくなった。
俺は確かにここら一帯内の生態系ピラミッドで言えば上位に位置しているが、それはあくまでもこの「しびれ草」の中の生態系でしかない。
ナマズだけでなく、いつ何時あのように「しびれ草」の外からモンスターがやってくるか分からないということが判明した中で、ちっちゃな世界のトップ層に立っただけで慢心なんかしていられない。
俺の今の生活スタイルは、「しびれ草」に完全に依存してしまっている状態だ。
何かに依存して生活していくということは、ものすごくリスクが高い行動だ。
なぜなら、その依存先が崩れた瞬間に簡単に共倒れを起こしてしまうから。
それはきっと元の世界でもそうだろう。
需要がある、儲けを期待できるからそれに特化するということはもちろん大事なことなのだけれど、それだけに特化しすぎてしまうとその需要がなくなった瞬間に潰れる。
たとえ需要が無くなった期間が一時的なものだったとしても、そのダメージは計り知れないものになる。
観光地が急に立ち行かなくなる、主な原因でもあるな。
ああいう所は観光客が落とすお金に依存しすぎているので、何らかの要因で一時的に客足がストップするだけでも影響がでかい。
だからこそ大手の企業ほどより手広く色んなものに手を出していたり、複数の取り引き先を作ったりしているのだ。
それを鑑みれば今の俺の状態が健全だなんてとても言えない。
現にナマズの登場によって、生活の安定性はあっさり覆されている事だしな。
このままただ「しびれ草」に頼る訳にはいかない。
なんとか外でも生きられる位の強さは保持したいな。
しかし、普通に戦っているだけでは肝心のレベルが上がらない現状。
中々気分が乗らず渋っていたが、そうも言っていられないな。
やるしかないか・・・。
【ステータス】
種族:キラーウォータービートル
性別:♀
HP:533/533
MP:96/96
SP:388/388
レベル:7
ATK:256
DEF:486
INT:100
MND:156
SPE:294
この地帯での最強の一角。
ミジンコ以上の硬い外骨格に加えて、その後ろ足のバタ足による加速を用いた場合はかなりのスピードを誇る。
その高いDEFに加えて、他のどのステータスも低くはない。
何回か探索中にこいつの戦闘場面に遭遇したことがあり、その戦法は大体把握している。
こいつの戦法はとにかくゴリ押し。
ここら一帯に棲息しているほとんどの生物達の攻撃は、こいつにとっては脅威足り得ない。
どんな攻撃をも跳ね除けながら加速で接近していき、有効距離に入った瞬間両腕の鋭利な爪で引き裂く。
狙った獲物は逃すことはなく、獰猛にでどこまでも追いかけていく。
体は大きいが「しびれ草」の影響が少なく、問答無用で突っ切って来るのも恐ろしいポイントだ。
今までだったら完全に避けていた相手だ。
でもそうも言ってられなくなってきた。
正直強さ的に同格以上の相手を見つけるのは大変だ。
この環境下ではこいつ以外にそう沢山いるとも思えないし。
だからいつかは相手にしないといけないと感じてはいた。
少なくともこの「しびれ草」の中ならば、戦いを邪魔される可能性は低いし、そういった面でもレベルを上げるなら中で相手を選んだ方が良いから。
だがやっぱり恐いな。
ナマズとかから逃れるためにレベルを手っ取り早く上げるには、結局はこうして同格以上の相手と戦って命を危険に晒さなければいけないのだ。
格下だけを狙って、順調にレベルを上げればいいんじゃないのかと、心のどこかで自分の弱い部分が囁く。
でもダメだ。
いつだって最悪を予想しなければ、一発クリアは出来ない。
絶対に抗えない無理ゲーな状況より、少しでも可能性のある道を選択したい。
そこで、負けるなら単に俺がそこまでだったと言うだけの話。
だから挑まなければ。
さて、ゲンゴロウ型の魔物か・・・。
ゲンゴロウって見た目的にもかなり厳ついよな。
元の世界だと田んぼの中とかにいるイメージだ。
その生態はバリバリの肉食で、普通にオタマジャクシとか小型の水棲生物達の天敵だった気がする。
でもあくまでもここは異世界、元の世界の常識は当てはまらない。
オタマジャクシでもゲンゴロウを倒せるということを証明してやるとしよう。
こちらから探したということは当然、相手方にはまだ気付かれていない。
貴重な先手、目立つ容姿でもあるし、慎重に行動しなくては。
俺は『隠密』スキルの能力の1つ、「気配遮断」を使いゆっくりと背後に回る。
この「気配遮断」は、あくまで気配を消すだけなので、相手の視界に映らないようにしなくてはならないが、先手を決めるにはこれ以上ないだろう。
そしてある程度の距離まで近づき、息も整ったところで同じような甲殻を持ったミジンコにも有効的だった武技・「斧刃脚」をお見舞いしてやる。
俺の脚がやつに当たる瞬間、ここで『隠密』スキルがレベルアップしたことで新しく習得した能力が効果を発揮する。
◾︎『隠密』スキル
レベル3:「不意打ち」
相手が自身の存在に気付くことなく攻撃を当てられた場合、その攻撃によるダメージ量に対して補正が入る。
かなりの衝撃が迸り、あの高いDEFを誇るゲンゴロウにも無事にダメージが入った。
この環境下では、これまでろくにダメージというダメージを受けたことが無かったのだろう、その味わったことの無い痛みに相当悶えている。
そしてゆっくりとこちらに向き直ると、口元を大きく開いて鋭い爪を頭の上に掲げた。
カンカンって感じだな。
完全に戦闘モードに移行したようだ。
こりゃ、簡単に許してはくれなさそう。
そもそも許しを請おうとはしてないけどさ。
さすがにミジンコの時とは違って、外骨格を砕くまではいかなかったな。
「不意打ち」の能力まで上乗せされていたというのにさすがだ。
だがあのDEFに真正面からダメージを入れることが出来た、これはかなりでかいぞ・・・。
続けて追いかけてくるゲンゴロウから逃げながら、「ポイズンボール」を次々に放っていくも、一向に毒が入る様子は見られない。
って危ないな!
やつの振り下ろした爪先が、俺の身体スレスレを通り過ぎていく。
呑気に考察をしている余裕がないっ!
爪の攻撃範囲広すぎだろ。
身体が大きい分一歩もでかいし、脚も長いから攻撃が伸びるし。
それが大きいやつの特権ってのはわかってるけど、相対すると羨ましくなってくるな。
『毒魔法』スキルによる安定した遠距離攻撃が無かったら、とても挑もうとすら思えないほどだ。
でもこの程度の状況は、簡単に予想出来ていた事だ。
それなのに事前に対応策も何も無しに、攻撃を仕掛けるわけがないだろ。
油断しすぎなんだよ、その防御力は過信しちゃいけないってさっきの「斧刃脚」で分からなかったのか?
さっきの技も、武技の威力と「不意打ち」の補正でやっとという程度ではあるが、ちゃんとダメージは入った。
ゲンゴロウも無敵なんかでは決してないのだ。
ならばダメージを着実に与えていければ、確実に勝てる!
スキルレベルが3になったことで、技を新しく習得したのは何も『隠密』スキルだけじゃない。
◾︎『毒魔法』スキル
レベル3:「ポイズンランス」
毒を槍状に変化させ、相手に飛ばして攻撃をする。
装甲を持った相手に対して、攻撃が貫通することがある。
魔法で生み出された槍状の毒は、ゲンゴロウに向かって飛んでいくと、その硬質な外骨格を貫通しながら突き刺さっていく。
そう、これが今回ゲンゴロウに挑んでいけた理由だ。
この魔法があれば、ゲンゴロウ相手でも攻撃がきちんと通用する。
長いリーチともやり合える。
『毒生成』スキルで生成した毒だ、状態異常に罹る確率は高い。
今回の攻撃でもちゃんとゲンゴロウに《状態異常:毒》を付与することが出来た。
ダメージをどう入れるかが対ゲンゴロウでは一番の壁だったので、毒が入りさえすればこっちのもんだ。
また、「ポイズンランス」によって空いた穴を狙って攻撃することも可能になった。
その箇所は他の部分と比べて、明らかに防御力が低いだろうし、どんどんダメージを与えたいので積極的にそこを攻撃したい。
しかし、さすがにレベルアップによって覚える技なだけあってか、「ポイズンボール」よりもMPの消費がかなり大きい。
そう何度も連発出来るような技ではないな。
使うタイミングはよく厳選しなければ。
やつの振るう爪が何度か身体を切り裂き、少なくないダメージを受ける。
ジクジクとした痛みが身体を奔り、血が水中に傷口から染み出していく。
思わず身体がその痛みに怯みそうになるものの、それでもやつに向かって攻撃をし続ける。
ちょっとでも攻撃の手を止めれば、すぐさま殺されるだろうから。
そして「ポイズンランス」で空いた穴に向かって何度目かの『猛毒攻撃』スキルで攻撃した
これはかなり大きい。
いい感じで行けてると思ったその時、ゲンゴロウは急に追いかけ回すのを止めると、口を大きく開きだした。
一体何をするつもりなんだと警戒していると・・・、なんと周囲に向かって消化液を撒き散らし始めた。
おいおい、無差別かよ!
到底避けきれないぞ、こんなの。
慌ててその範囲外に逃れるも、少し浴びた箇所がジュワァと爛れてしまった。
そこからは近づくことすら出来ずに、ただ遠巻きに見つめるしか無かった。
ただ、《状態異常:猛毒》が効いているおかげで直接攻撃はしていなくても、徐々にHPが減っていってることが『鑑定』スキルからも見て取れる。
そのままゆっくりとHPが底を突いて、消化液を散らすスピードが落ちていくまで、俺は何もすることが出来なかった。
そうして俺の目の前で、ゲンゴロウは完全に動きを止めたのだった。
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