第14話 成長の実感



はぁはぁ、行ったのか?


何だあれは?


あのレベルに、あのステータス。


まさか、「しびれ草」の外のモンスターなのか?


あの肌がビリビリ震えるような感じ。


野生の本能なのか否か、人間だった頃の時よりも相手との実力差が肌で感じられるようになってきたのかもしれない。


これから食べようと思っていたものが横取りされたことなんてまるで気にならないな。


とにかく逃れることが出来て本当に良かった。


あの前兆に感じたビビッとした何かは、多分だけど『危険予知』スキルのおかげなのだろう。


『危険予知』さん役に立つかどうか分からないなんていって、本当にすみませんでした!


いやはや今回の件はこのスキルが無かったらどうなっていたか分からないな。


それにしても、これで「しびれ草」の群生地内であっても決して安全な訳では無いということが分かった。


いつからか俺はこの環境における敵はある程度のステータス以下のやつしか居ないと錯覚していた。


だが、よく考えればそりゃそうだよな。


この「しびれ草」の中ですらゲンゴロウやミジンコみたいに、ある程度しびれ草を無効化できる生物達が居るんだ。


外に棲息している生き物の中にだって、そういうことができるやつらがいたっておかしくないに決まっている。


「しびれ草」に棲んでいるような弱い奴らをわざわざ襲ってくるということは、恐らくは外に棲息する生物たちの中ではあまり強くない部類なのではないかと推測できる。


以前にも説明をしたように、この中に棲息している生物達はそのほとんどが小さな身体である。


そんな相手を食べても腹は大して膨れないというのに、わざわざ襲いに来るって言うのは、まあそういう事なのだろう。


1種の生存戦略と考えるのが妥当だ。


他の外の生物達相手にエサの獲得競走で負けるからこそ、効率は悪いが相手に狙われにくいエサを食べに行くように進化したと考えられる。


しかし、それでも今の俺ならば余裕で瞬殺されるくらいの能力差がそこには有った。


あいつも外の世界でも生き延びれるくらいには能力もあるのだろうし。


・・・うん、あれが「しびれ草」の外の世界の最底ラインクラスだとしたらとんでもないな。


ここの環境の特性を考えると、カエルにまで到達した時点で、「しびれ草」の外へと出ていかなければいけないことになるだろう。


でないと俺自身があの兄弟みたいなことになりかねない。


外で通用するために、最低どれだけは鍛える必要があるのか、その指標としてやつの力は参考になるかもしれないな。


果たしてそれがいつになるのか、今の段階では全然検討もつかないが。


ひとまず、過ぎ去ったことだ、自分が助かったことに対して喜ぶべきだし、そんなのはステップを何回も踏んだ先にある事だろう。


今はあの災害のようなものに明確に対処する術は無い。


気持ちを切り替えて、腹を満たすためにも、奪われた食べ物の代わりを狩りに行くとしよう。


ついでに、せっかく『鑑定』スキルのレベルが上がって敵の身体ステータスが見ることができるようになったので、ここに棲息しているやつらの身体ステータスを改めて確認していく事としよう。


でもあいつがまだここら辺に居たら嫌なので、念のためもう少しだけ待機しておくとするか・・・。


◾︎ ◾︎ ◾︎ ◾︎ ◾︎ ◾︎ ◾︎ ◾︎ ◾︎ ◾︎ ◾︎


これまで相対してきた奴らのステータスを確認してきて、非常にびっくりした。


兄弟達を倒したことで、自身のステータスが相当上がったのは理解していたのだが、それにしてもこれは予想以上だな。


なんと、この「しびれ草」に囲まれた環境下の生物たちの中で言えば、俺のステータスは既にかなり上位であったのだ。


俺の例から言ってスキルの要素が戦闘力に大いに関わってくることも理解はしているので、所持スキルが見えない現状、明確に相手の実力が測れる訳では無いが。


しかし、しかしだ。


身体的なステータスだけでもある程度の相手の強さというのが分かることもある。


今までもスキルやら戦術やらでそこそこうまく立ち回れていた俺が、肉体面のスペックですら勝るようになってしまったのなら、ここではもはや敵無しなのでは?


先程のやつにあれだけびびっておいてなんだが、これなら十分に力を蓄えていくことに行動規範をシフトしていくこともできそうだ。


そうして調子に乗った俺は、「しびれ草」の合間を泳ぎ、進化前も食糧や経験値としてお世話になっていたあのミジンコを見つけ出す。


せっかく新規習得した諸々のスキルも、ここらで試し打ちをしておきたい。


頑丈なコイツには、その練習台になってもらうとしよう。


まずは『体術』スキルの武技を繰り出してみる。


ミジンコのステータスは防御面に寄っていて、今までは《状態異常:毒》以外で削ることがかなり厳しかった。


だからこそ、こいつとの戦闘はかなりの時間を要し、積極的に狙うのはスキルレベル上げの時ぐらいだったのだが。


それが進化してからどの程度通じるようになったのか・・・。


俺は高いSPEを活かしてミジンコに急接近をし、そこから武技「斧刃脚」を放つ。


【ステータス】

種族:グレイトダフィリア

性別:-

HP:86/86

MP:15/15

SP:46/46


レベル:8

ATK:17

DEF:138

INT:14

MND:29

SPE:8


いつの間にか俺のATKはこいつのDEFとほぼ並んでしまっていたようで、武技で威力が数倍に膨れ上がった攻撃を真正面から受けたミジンコ野郎は軽々と吹っ飛んでしまった。


体格的にはまだまだ2まわりほどの差があり、ミジンコの方が明らかに俺よりも大きいので、元の世界の物理法則を知っている分その光景にはすごく違和感を感じてしまう。


というか、こいつのDEFは3桁台だったのか、そりゃあ硬いわけだ。


武技の威力などに感心していたところで、フラフラとしながら、吹っ飛んでいたミジンコが戻ってくる。


その姿をよく見ると、俺の足が当たった所の甲殻が一部剥がれ落ちてしまっている。


こりゃスゲー威力だな、「斧刃脚」は。


この場所に来たばかりの時に、こいつの堅い甲殻が破れないからといって、わざわざ殻と殻の隙間を狙ってチクチク『噛み付く』スキルと『毒攻撃』スキルを繰り返していたのが馬鹿らしくなってくるほどだ。


さて武技の使用感はこんなものか。


腹も空いたままだし、サクサク進めるとしよう。


今度は甲殻が剥がれた部分に対して『猛毒攻撃』スキルを直にぶっ込むことで、《状態異常:猛毒》にした。


中身がむき出しになったことで、その分状態異常が入りやすかったんだな。


装甲で状態異常の入りやすさが変化するので、そういうものなのだろう。


そういえば最近分かったことなのだが、状態異常が入ると敵のステータスが下がることが判明した。


これが毒系統の状態異常だけなのか、というかそもそも他に状態異常が存在するのかは分からないが(俺的にはあると睨んでいる)、とにかく下がるのだ。


そういうことは鑑定時の説明内容の中できちんと表示していて欲しいものなんだがな。


元の世界でも毒を受けるイコール体調が悪くなるので、そのような図式自体は分からなくは無い。


毒系統の状態異常はスリップダメージに加えて、デバフ効果があるなんて強すぎる。


こちら側が使う分にはありがたい限りではあるけれど。


と、ぼーっとしてる場合じゃなかった。


猛毒を浴びて、順調にダメージは積み重なっているが、元々の体力量が多いからか、やつはまだ倒し切れていない。


次に行こう、次に。


そうして『毒生成』スキルにより、普通の毒を生成する。


微毒の時よりもMPを多めに消費するとあるが、レベルアップで全体のMP総量が増えたこともあって、全然気にならない位の差だろう。


ところで、今までは『毒生成』スキルで生成された毒で相手を攻撃するにはかなり近くまで接近しなければいけなかったんだけれど、新たに獲得したスキルによってそれは解消されたのだった。


俺は『毒魔法』スキルで生成された毒に対して「ポイズンボール」を発動して、弾状態へと変形させる。


そして、魔法によって変形した弾をミジンコに向かって複数射出した。


動きがただでさえ遅いやつに避ける術は無く、「ポイズンボール」は次々に着弾していく。


前までは一向に減る気配が感じられなかったやつ自慢の多量なHPが、みるみるうちに削られていくのが見て取れる。


そうやって大して苦労することも無く、あっという間にミジンコが倒すことが出来てしまった。


・・・あまりにもあっけなさすぎるだろう。


以前は半日かけて一体を倒していたのに。


こんなに簡単に倒せてしまうなら、動きも遅いしただのカモでしか無いぞ。


【スキル『早熟:微』が適用されます】


【『毒魔法』のレベルが2になりました】


【『隠密』のレベルが2になりました】


もうミジンコを一匹倒しただけでは種族レベルが上がらないようだ。


ちょっと感慨深くはあるなぁ。


というか今のアナウンスで気付いた。


新しいスキルをいつの間にか習得しているぞ!


◾︎『隠密』スキル


自身隠密行動にたいして補正が掛かるスキル。

そのスキルレベルに応じて、隠密行動を補助するアクションが行えるようになる。


レベル1:気配遮断


毒と隠密ってもはやアサシンみたいなスキル構成だな。


『隠密』スキルもレベルが上がると共に使用できる技能が増える仕様のようだ。


『体術』スキルと同じタイプだと見て、まず間違いない。


効果自体はパッシブなので、特に意識的に発動させなくても、スキルの熟練度が上がっていってくれるのはありがたい。


名前だけでも分かるほどに、有用そうなスキルなのでなおさらだ。


スキル確認を十分に終えたあとは、ミジンコをむしゃむしゃ食べる。


うん、味はやっぱり不味くはないんだよな。


これが味覚の変化なのかどうなのか微妙なところだけれど。


なんせミジンコなんて食べたことないからね。


食べ終えたあとも引き続き獲物を探していたのだが、如何せんナマズが来たあとなので、どいつもこいつも警戒して出歩いてないようだ。


うーん、どうにかしてもう一匹くらいは今日中に見つけたいんだが・・・。


ん?


この地面何かここだけ掘り返されたような跡が残ってる。


もしかしてと思い、MP消費の少ない微毒で作成した「ポイズンボール」をその場所に向かって打ち出してみる。


するとそこからなんとドジョウが飛び出してきた!


いや、なんとなくは予想してたけどまさか本当に居るとは。


以前までは近くに来ただけで襲いかかってきたので、これだけ接近しても出てこないからこっちの勘違いかもと思ったよ。


【ステータス】

種族:ディグローチェス

性別:♂

HP:38/38

MP:34/34

SP:36/36


レベル:7

ATK:22

DEF:35

INT:35

MND:19

SPE:34


ステータスに大分差がついちゃったから、格上と認識して襲ってこなくなっちゃったんだな。


見た目の感じは精々足が生えたぐらいしか違いがなさそうなんだが、こいつには何かそういうのを感知する器官みたいなものがあるのかね?


それはそれとして、なんだかこいつに俺が強くなった認められたみたいで少し嬉しいな。


だってそれはドジョウが襲うのを躊躇うほどに俺が驚異的であるってことなのだから。


しかしお腹が空いている中での、格好の獲物であることに変わりは無い。


大事なエサとしては別のことなので、しっかり倒させて貰った後美味しく頂きました。








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