第13話 外からの脅威



進化時に発生する圧倒的な眠気が激戦を終えたばかりの俺に対して襲いかかってきた。


何回もこなして慣れたはずのそれがいつもと異なる所は、いつもは選択肢で進化先を選んでからなものが突然来たということぐらいか。


今までと違って心の準備ができていないため以前よりも慌ててしまったが、それでも何とかフラフラの体に鞭を打って「しびれ草」の茂みに身を隠す。


進化時の眠気だけでなく、同格レベルの奴ら5匹を相手に長時間立ち回っていた俺は、多分とんでもなく疲れていたのだろう。


激戦を乗り越えたという気の緩みからも即熟睡に入ったのだった。


◾︎ ◾︎ ◾︎ ◾︎ ◾︎ ◾︎ ◾︎ ◾︎ ◾︎ ◾︎


ううーん。


一体どのくらいの時間が経過しただろうか。


だいぶ寝た気がするな。


まだ頭がぼんやりとする。


寝起きではっきりとしないので、ある程度普段の状態に回復するまでは、しばしぼーっとその場で待機して過ごした。


しばらく時間が経ち、思考力もそれなりに戻った気がするので、恒例のようになっている進化後の自身ステータス確認を行う。


元の世界でよくやっていたゲームにおいても、自身のステータスをチェックするという行為はこまめに行っていた。


長年の生活で染み付いたその癖が、この世界に来てもそのまま引き継がれているな。


うわー、これはまたすごいことになってるぞ。


前回の戦闘は自分と同格かそれ以上の奴らを五匹も同時に倒したためその経験値は計り知れないほど大きかったようで。


そのおかげで種族レベルもスキルレベルも共に大幅にアップしている。


まさか1回の戦闘だけで進化することができるレベルにまで到達するとは思っていなかった。


これはぜひ一個ずつ確実にチェックしていくとしよう。


そうして眺めて行く中で、レベルアップ時のログから今回の進化タイミングが唐突だった理由も判明した。


そうか、進化先がひとつしかない場合はその進化先に強制的に進化させられる仕組みなんだな。


俺はポイズン系統の進化ルートを開拓することが出来たが、他の奴らはどうなんだろうな。


今までの進化ではあまり気にしていなかったが、もしかしたらインフェリア自体も何らかの条件で外れるかどうか決まったりして・・・。


自然界のやつらってどうやって進化先選択してるのかなと思ってたけど、案外ほとんどのモンスターはそもそも複数の進化先なんて現れないのかも。


俺の体はリトルが取れて少し大きくなった。


それになんと言っても変わった部分は短い手とそこそこの長さの足が生えた点だろうな。


どうやら順調にカエルへの変態が進んでいるようだ。


さてこの微妙な足がどんなメリットを齎すのかというと、この新たに獲得した『陸棲(微)』というのが関係していそうだ。


『陸棲(微)』は短時間のみ陸での活動ができるようなので、活動範囲が広くなるのは単純に嬉しいな。


陸に興味はあるけれども、現状『しびれ草』の外へ出るということと天秤に掛けるとまだまだ活躍の機会は先な予感。


そして俺にとって1番の大問題は体が成長したことで、『早熟』スキルが『早熟(微)』へと変化してしまったことだ。


今回ステータスやらスキルやらが大幅に強化された中で、唯一のマイナスだろう。


効果はその名前からも分かる通り『早熟』スキルの純粋な下位互換。


幼体だけのスキルっぽくはあったし、いつまでも小さいままでいる訳にはいかないので、しょうが無くはあるんだけどね。


先程戦っていたカエルにはこの場所には不適応にでかすぎるっていう講釈をたれていたのに、その自分がすぐに進化してカエルになっていちゃたまらない。


しかし今のところ進化先を分岐させるような条件なんかも今のところよくわかってない。


暫くはカエルになりたくはないんだがな。


進化先が複数存在しない場合は勝手にカエルまで成長されていってしまうので、そうなるとこのまま何も考えずに種族レベルを上げていくのは危険だよな。


今後は種族レベルの方は上げるのを控えて、スキルレベルを中心に上げていくって言うのもありだ。


分岐では無い進化は新系統の能力が増えない分ステータス方面の値に対して、多めに振られるという特性があった。


今回の進化後の自身のステータスを見てみても、ついに3桁の大台に乗っていたことが確認できた。


ある程度敵が強くなってくると、こちらのステータスによっては攻撃が避けられないことやそもそも攻撃が効かないことがある。


そういったことを考えると、ここらでステータス面が強化されたのも、案外悪くは無いのかもな。


こうしてみると、一番始めの頃のステータスと比較して、自分でもかなり強くなることが出来たではないかと思う。


また、今回『鑑定』スキルのレベルが上がり、ついに自分以外でも身体ステータスの数値が見ることができるようになった。


それによって、今まで以上に相手の実力を正確に把握してどのように戦うかや、また戦わないかという選択を取れる。


相手の数値の配分によって苦手なところから、攻められるというのはかなりこちら側にとって有利に戦闘を進めることが出来るだろう。


チキンなんて言わないでくれよ?


こっちは命が掛かっているんだからな。


普通にゲームをやる分には、そういった所を見極めるというのも1種の楽しみ方ではあるんだけど、さすがにそこまで冒険する気にはなれない。


さてさて。


それでは特に注目していた部分については見終わったし、あとは他のスキルもさらっと見ておくか。


『猛毒耐性』スキルはその名の通りで、単純に『毒耐性』スキルの強化バージョンだ。


『毒攻撃』スキルと対応していた節はあったし、納得の強化だな。


そして次に『体術』スキルに関してだが、これは割と当たりだ。


体を使った攻撃に対して補正をする、という意識的に使う場面以外でも恒常的な効果を発揮するものだったのだ。


そしてなんと『体術』スキルではレベル1とレベル3において、「武技」というある種の必殺技の様な物を習得することが出来た。


今までで言う『体当たり』スキルがいくつも、『体術』スキルに内包されているイメージ。


当然その詳細を確認してみたのだが・・・。


なになに?


「ぶちかまし」と「斧刃脚」かぁ~。


「ぶちかまし」の方が『体当たり』スキルの強化版のような物で、吹っ飛ばし量とひるませる確率が上昇したような技だった。


「斧刃脚」は脚を使った技で、発動させると脚を振り払って敵の動きを刈り取るといったものだった。


これらは使用時に大きなモーションを行う必要があり、隙も大きいがその分ダメージ量も多く稼げるようで、俺としては相手へのダメージリソースがひとつ増えた感じかな。


これは今まで毒系統の攻撃にのみ頼っていた俺にとってはかなり大きい。


『体術』スキル自体はパッシブスキルだけれども、これら二つの「武技」はアクティブスキルのようなもので、意識して発動することでモーションのアシストを受けられるようだ。


元の世界ではそういった武道のようなスポーツの経験がないので非常にありがたい。


まさか『体当たり』スキルのような一見弱そうなスキルががここまでのものに進化するとは・・・。


どのスキルもこのように化ける可能性があるのであれば、どのスキルも育てがいがある。


スキルの所持数にこのまま制限が無いようならば、このままどのスキルも平等に育てていきたいな。


さあ、まだまだあるのでどんどん行こうか。


『毒生成』スキルだがなんとレベル5にして「微毒」よりも効果が強力な「毒」を作り出せるようになった。


「微毒」では効果が弱すぎただけで、「毒」が『毒生成』によって生成出来るようになるだけで大分ダメージ量が上がるだろう。


もちろんその分「毒」を生成するには、「微毒」よりも消費MP量は大きいのだが、使い分けられると言うだけで偉いのだ。


《状態異常:毒》が高い確率で入るだけで、防御系の値が高い相手にはやりやすくなる。


兄弟五人を倒すことが出来たのも、『毒生成』スキルのおかげと言っても過言では無いだろうし。


『毒生成』スキルはレベルが上がることで、生成出来る毒の種類が増えると分かったことも嬉しい。


そして最後の進化したスキルである『危険予知』についでだが・・・。


効果内容を見てみると、「事前に自分に迫っている危機を感じ取れることがある」、みたいなことが書いてあるのだが、なんだかなあ~。


正直『危険察知』スキルの時点で、あまり活躍した覚えが無いスキルである。


元の世界とかでの出来事やゲーム含めてあまりイメージが出来ないスキルだ。


パッシブスキルではあるので、少しずつでもいいからレベルを上げていって、いつか少しでも活躍してくれることを祈るとしよう。


そして、次に新規習得スキルについてだが。


なんと言っても俺の大注目の的は『毒魔法』だ。


そう、魔法だ!!


MPの項目があったから、もしやと思っていたがやっぱりあったんだなー、魔法。


これだけファンタジックな世界ならあってもおかしく無いと思っていたが、はっきりとあるとわかると興奮するな。


ちなみに効果はこんな感じ。


◾︎『毒魔法』スキル

毒属性を司る魔法。

毒を操り、毒を制し、その効果は周囲に害をなす。

レベルが上がる事に繰り出すことができる魔法が増える。

周囲に毒がある場合は、それらを直接操ることもできる。


レベル1:ポイズンボール


魔法類も『毒生成』と同様にMPを使用するみたいだ。


魔法というくらいだし、そりゃそうだな。


にしても説明の内容がひどいな。


まあ、毒に良いイメージなんて思いつかないし、実際の扱いはこんな物かも。


このスキルもレベルが上がるほどに使える技が増える仕様なんだな。


レベル1で習得することが出来る「ポイズンボール」は、毒の弾を作り出してそれを相手へ向けて射出する魔法のようだ。


毒が周囲にあればそれを利用して使用することも出来るって書いてあるけど、そんなの周りにねーよ!


ってひとりで突っ込んでから、そういえば『毒生成』スキルを用いれば自分で作れるのかと気付いた。


これにより今まで敵のすぐ近くまで接近してから散布するか、近づいてきた敵に対して牽制するぐらいにしか使う事が出来無かった『毒生成』スキルが、相手から離れた状態で生成してからの『毒魔法』スキルでその毒を用いて攻撃と言うことが出来るようになった。


使い方に幅ができる、これは戦略の考え甲斐が有るな。


これで一段と毒による攻撃が、強力かつ多彩になった。


種族の名前自体に「ポイズン」を冠しているだけあって、毒方面のスキルがかなり充実しているように感じる。


どんなゲームでも状態異常は非常に強力なファクターだ。


状態異常のおかげで格上に勝てると言うことも、ゲームとかでは特段珍しくは無い。


これからも毒を積極的に活用していきたいところだ。


よろしくお願いしますよ、「毒」様!


よーし、進化したてのほやほやで腹が減ったな。


進化する前に倒したあいつらをありがたくいただくとするかな。


どの辺に置いてあったっけなと、周囲を見渡していたその時、俺の背筋が何かを感じ取ってぞわぞわと粟立った。


今はオタマジャクシだからどうなっているか分からないけど、人間だったときならば確実に全身に鳥肌が立っているであろう。


慌てて周囲の気配を探り、何か大きな存在がこちらへとゆっくり迫ってくるのがわかった。


周囲に潜もうにも、俺の体色はこの環境では浮きだってしょうがない。


でもだからといって隠れないという選択を取ることは絶対に出来ない。


このレベルのやつ相手に、万が一でも見つかったらなんて考えただけでも恐ろしい。


俺は「しびれ草」へ触れるリスクも承知の上で、根元の地面を生えたばかりの手足で掘り起こし、僅かにできたその空間の中に身を潜り込ませる。


もちろん丁寧に体の上に土をかけ直したうえでだ。


こうでもしないと俺の体色じゃ、誤魔化しきれない。


呼吸の泡が外へ漏れることすら恐ろしくて、息を止めるくらいの気持ちで外の様子をうかがう。


どのくらい時間が経ったかは覚えていない。


それくらいに緊張が凝縮された時間だった。


息が限界になるかもと思ったそのとき、ゆっくりと目の前に大きなナマズがやってきた。


身体へぴしぴしと当たる「しびれ草」を一切気にもとめずに、とても優雅そうに泳いでいる。


【ステータス】

種族:エレキキャットフィッシュ

性別:♂

HP:4900/4900

MP:2700/2700

SP:3850/3850


レベル:89

ATK:2200

DEF:3950

INT:4400

MND:1250

SPE:2300


そいつは俺の目の前で停まり、俺の倒した兄弟達を一飲みで全て丸呑みしていくと、地面の俺には気付かずにそのまま通り過ぎていったしまったのだった。


【『早熟(微)』が適用されました】


【スキル『隠密』を入手しました】


【スキル『危険予知』のレベルが2になりました】







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