第12話 急襲②
今まで集団で狩りをしていたときは余程うまくいっていたのだろう。
連中は思わぬ俺の反撃に対して動揺も勿論あるが、それ以上に獲物が予定通りに動いてくれないことに対して殺気立っていた。
そう世の中はうまくいかないもんだよ、なんて世の中をたいして生きてもいない俺が言うのもなんなのだが。
こいつらは恐らくまだまだ自分たちの方が絶対的優位だと思っているのかもしれないが、実際の所はそれほどでは無い。
俺と生まれた時期がほぼ変わらないことを考えると、生後間もないのではないだろうか。
あの卵の中の奴らならば、最短で生まれていたとしても、生後1ヶ月すら経ってないに違いない。
それで、カエルにまで成長しているのだから単純にこいつらの凄さを窺うことができる。
生まれてから日が浅いが故か、まだまだ圧倒的に経験不足なのと、これまでの集団リンチによる成功体験から、やつらはそれに気付くことはない。
このしびれ草の群生地域においてとある特徴を持ったやつらは少ない数しかいないというのは、最初に探索したときから気にはなっていた。
そしてこの環境について理解していくと共に、その理由も徐々に分かってきた。
そのとある特徴とは、2つ。
それは、群れを成す生態を持った生物と体が大きい生物ということである。
このしびれ草の群生地域に生息する生物のほとんどが俺と同じように一匹狼で、なおかつ俺と同等かそれ以下の体格を持つ生物ばかりだった。
例外でいうと群れる生物の方はグッピーのような見た目のめちゃくちゃ小さな魚型モンスターのみ。
体格が大きい方の例外は、ミジンコ野郎、ドジョウ野郎のおなじみの2匹に加えて、ゲンゴロウ型のモンスターがそれに該当する。
俺が先ほど急襲をかけてからは、展開することで隙を晒してしまうことよりも断続的に攻撃を仕掛けた方が良いと悟ったのだろう。
あれから次々と途切れることなく兄弟達は襲いかかってくるのだが、しかし中々俺の事を仕留められずにいる。
さっきからダメだしのようなものばかりをしているように見えるかもしれないが、俺はこいつらの生存戦略自体が悪いとはこれっぽっちも思わない。
元の世界でも「数は力」なんて言葉よく耳にしたものだ。
数は純粋な足し算によって発生する非常にわかりやすい力だ。
現に先ほどまでの俺は死にかけていたし、今も油断をすればすぐにでも死にかねない状況なのだから。
それほどの力が数の暴力にはある。
だがしかし、それはこの環境では決定打にはなりえないというだけなのだ。
先程からたまに攻撃は当たるものの、直撃では無いためダメージは微々たるものに留まる。
それは反撃の『吸精』スキルによる回復で直ぐに全快とまではいわずとも、ある程度補えてしまえるくらいでしか無い。
なぜ圧倒的な数の差で攻撃をくらい続けているにもかかわらず、俺が直撃をくらわないのか。
そうならないように立ち回っていると言えばそれまでだが、そこにはきちんとした理由が確かにあるのだ。
勿体つけているが、その内容は至極簡単で・・・。
それはこのしびれ草群生地域には集団で周りを囲んで襲えるほど、大きくて広いスペースは多く存在しないからの一言に尽きる。
そう、これこそがこの場所で群れる生物と体格の大きな生物がほとんど存在しない所以である。
「しびれ草」とは触れただけでも《状態異常:麻痺》を引き起こして、動けなくなってしまう可能性のある大変危険な植物だ。
身体が動けなくなるという事象は、自然界を生きる生物たちにとって、どれだけ危険なことなのかは簡単に想像できる。
格上相手でも勝ちをもぎ取りうるものでもあり、だからこそ俺らは外敵から身を守るためにここに棲んでいる。
だがその存在は普段俺らのような弱小生物を守ってくれると同時に、触れてしまえばその危険は俺らにだって平等に牙を剥いてくる。
「しびれ草」は何も標的を選んでいる訳では無いのだし、当然と言えば当然でしかない。
俺らは移動するときだって狭いところではなるべくあたらないように注意しなければならないし、寝るときや戦闘時でも同様に常に気をかけていなければいけないのだ。
しかしそれでもそのリスクを尚了承した上で、俺らは安全を確保するというメリットの方を重視してここで暮らしている。
そのような訳でわざわざ「しびれ草」に触れてしまう可能性を高めてしまうような体の大きな生物や、群れを作る生物はそもそもこの中では少ないというわけだ。
最初の襲撃を受けた場所こそ、例外的にそこそこ拓けた場所だったが、そこから適当に逃げていたとしてもある程度狭い場所に誘導することはできる。
一旦拓けた場所から逃れ切ってしまえば、数的有利はあってないようなものだ。
囲んで攻撃することはまず出来ず、限定的な1対1を繰り返すことになる。
そしてその1対1を相手する際にも、こちらの逃げる先を「しびれ草」の方向にしてしまえばどうなるだろう。
その動きは本能的に鈍ってしまい、俺への攻めは非常に緩いものとなる。
こちらはそこを悠々と反撃出来てしまえるわけだ。
そしてなんといってもカエル・・・、お前だ。
俺から見て、お前がこの集団において一番足を引っ張っていると言ってもいい。
お前にはもうこの環境は狭すぎるのだ。
レベル的に見て判断するに、おそらくこいつは進化したてなのではないだろうか。
まだまだ自分の体の大きさをあまり自覚していない状態で、俺との戦闘を始めたに違いない。
なんなら進化しての初戦闘が俺の可能性も十分有り得る。
ただでさえ環境的に不利な状況なのに、オタマジャクシだった頃の体と同じ感覚で動くなんて、どんなことになるか火を見るより明らかなことだ。
さっきからすでに俺から何かすることも無く、何回かしびれ草に体が触れてしまっている。
あっ、今もまた当たった。
しかも今度はしっかりと《状態異常:麻痺》まで貰ってしまったようだ。
急にカエルの手足がピクピクと痙攣し、体が脱力した感じになって水中をぷかぷかと漂う。
ただでさえこっちが数的には不利な状況なのに、そんな隙をむざむざ見逃す訳もなく、すかさず目の前のオタマジャクシの方を無視して攻撃に転じる。
他の奴ら相手でも、『体当たり』スキルを有効的に使用してしびれ草に向かって飛ばすことで、何回か《状態異常:麻痺》にさせる事にも成功。
最初にあったような圧倒的アドバンテージなんて物はすでに無く、それどころか『吸精』スキルを所持している俺の方が既に逆転しているまであった。
作戦なんて言うほど高尚な物では無いが、まあこれが一番勝率の高い戦法だったのでは無いだろうか。
《状態異常:麻痺》によってやつらが動けない間に、『吸精』スキルによる回復と『猛毒攻撃』スキルによって更に《状態異常:猛毒》が入れば、それだけで時間が経てば経つほど更に俺にとって有利になっていくのだから。
ちなみにだが先ほど例外で挙げた生物達がどのように「しびれ草」を回避しているかを一応説明しておくと、
ゲンゴロウやミジンコ等は厚い外殻を持っており、そもそも「しびれ草」が体に触れること自体をそこまで問題視していない生物だからだろう。
「しびれ草」の麻痺付与が引き起こされるかどうかの判定は、葉が身体に直接触れること。
簡単に言うなら人間の場合は、服とか靴に当たっても問題ないっていうこと。
以前ミジンコと戦ったときも関節部以外では毒状態の判定が厳しかった。
つまりはそれと同じ事なのだろう。
ドジョウの場合は普段地中に潜んでいるので、しびれ草の葉に触れる機会がそもそも少ない生物だしな。
グッピー達はまず他の生物たちに比べても段違いで小さいので小回りの性能が段違いであり、群れてもあまり影響が無いしなんなら少しの損失なら全然気にしないタイプな気がする。
といった感じだな。
このような例外的な生物達のように群れを形成している生物・身体の大きな生物達は、何らかの形でしびれ草に適応しなければこの環境では生きていけない。
集団で狩りをすれば相手よりも優位に立てることにいち早く気付き、徒党を組んでいたこいつらは兄弟達の中でもかなり頭が良いに違いない。
しかし、徒党を組むことのデメリットを考慮できていなかったことが今回の敗因だろう。
まぁこいつらに今後を与える気はさらさらないのだが・・・。
なによりも俺を最初の奇襲で仕留めきれなかったことがこいつらの最大のミスだ。
あの場面だけで言えば、普通にピンチだったからな。
この「しびれ草」の群生地域という環境の中でも最初の拓けた場所による1回目の奇襲は非常に有効的だ。
後ろ側から襲いかかる奴らの存在がターゲットに気付かれないのであれば、囲んで襲うという集団の利もきちんと生かせるからである。
しかしこいつらは俺の『毒生成』スキルで生成された毒にびびってしまい、それにより俺に立て直す時間を十分に与えてしまった。
あのとき毒の煙を無視して攻撃を続けられていれば、きっと俺は敗けていただろう。
最後まで残っていた「タッドポール」が、俺の『猛毒攻撃』スキルを受けて最後の断末魔を上げる。
ふうぅー。
全く一時はどうなることかとも思ったけれど、なんとか勝てたな。
まさにギリギリの勝利。
一歩間違えていたら、即死亡だった。
冷静に状況を分析して、それに則って行動できたことがこの結果に繋がったんだと思う。
今回ばかりはさすがにもうダメかもしれないって、何回も頭をよぎった。
やっぱり俯瞰的に見て行動は、スポーツとかにおいても大事って言うけれど、こういう自然界でも大事なんだなと深く実感することができた。
今後もこういう風なことができるように心がけよう。
まずは無事に勝てたことを喜ぼう。
【リトルポイズンタッドポール:♂のレベルが上がりました】
【スキル『早熟』が適用されます】
【種族レベルが30になりました】
【種族レベルが最高になりました】
【進化先がひとつしかありません】
【進化先が自動で選択されました】
【ポイズンタッドポールに進化しました】
【種族レベルが3になりました】
【『鑑定』のレベルが9になりました】
【『毒耐性』のレベルが10になりました】
【『毒耐性』が『猛毒耐性』に進化しました】
【『猛毒耐性』のレベルが4になりました】
【『体当たり』のレベルが10になりました】
【『体当たり』が『体術』に進化しました】
【『体術』のレベルが4になりました】
【『吸精』のレベルが6になりました】
【『猛毒攻撃』のレベルが6になりました】
【『毒生成』のレベルが6になりました】
【『危険察知』のレベルが10になりました】
【『危険察知』が『危険予知』に進化しました】
【『早熟』が『早熟(微)』になりました】
【ステータス】
種族:ポイズンタッドポール
性別:♂
HP:190/250(+175)
MP:200/267(+195)
SP:178/248(+175)
レベル:3
ATK:146(+100)
DEF:146(+100)
INT:186(+120)
MND:146(+100)
SPE:257(+165)
スキル:
『鑑定 :レベル9(+1)』
『猛毒耐性:レベル4(+3)』
『吸精:レベル6(+3)』
『体術:レベル4(+3)』
『猛毒攻撃:レベル6(+3)』
『毒生成:レベル6(+3)』
『毒魔法:レベル1』
『危険予知:レベル1』
『早熟(微) :レベルー』
『水棲 :レベルー』
『陸棲(微) :レベルー』
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