成長
第10話 新スキル試し打ち
今回も進化時に発生する猛烈な眠気に襲われたので、以前よりも奥まった場所に位置する「しびれ草」の影に身を潜める。
一度経験したためか、その動きはスムーズに行われた。
そして無事に進化が終了して再び目が覚めると、以前とは異なり明確に違いを実感することができた。
体の色が進化前とは明らかに変わっているのだ。
鏡が手元に無いため、全身を見ることはかなわないが。
それゆえに正確に自身のことを把握できているわけではないけれど、見える範囲から推察するだけでもかなり変化しているのではないかと思う。
進化前の見た目を説明すると、ほぼ黒に近い体色の上に茶色の斑点が散らばっている感じで、俺自身が元の世界でも目撃したことのあるオタマジャクシにかなり近い容姿をしていた。
それが進化後になってみるとそれとは打って変わって、自然界ではなかなかお目にかかる事の無い全身白っぽい体色に紫の斑点になっていたのだ。
感想としてはかなり毒々しい見た目へと変貌してしまったなぁという感じ。
身体の色が白色って・・・。
こんなの思いっきり目立って集中的に狙われるとかないのか?
水面から射す光と誤認されることで下からの発見はされづらくなるのかもしれないけど、横とか上から見られたら速攻で見つかる可能性大だ。
あまりにも自然界に擬態できていなさすぎる。
小さくて非力な生物としては、隠れてやり過ごすというのが主な生存戦略なんだがな。
隠密行動をするときには今まで以上に行動には気をつけなければいけないだろう。
進化後のルート選択時の説明で、ステータスによるものは『鑑定』スキルによって見ることができるが、それ以外の部分では見ることが出来ない。
今回でいえば容姿の部分などは情報を得ることができないため、今後はこういうこともあると、念頭に置いておかなければいけないな。
ステータス上ではわからないこともあるっていうことがよく理解できる体験だった。
ひとつの教訓を得たことだし、うだうだ言っていたって戻れるものでもない、きちんと強くはなっている。
これは、割り切るしかないだろう。
それよりも進化した後のメリットについてもどんどん考えていくとしよう。
精神の健全性を保つためにも。
進化で新しく入手したスキルは『毒生成』か・・・。
まずは安定行動の『鑑定』を行う。
■『毒生成』スキル
自身のMPを消費し、体内で毒を生成することができる。
生成される毒の種類やその効力はスキルレベルに比例して増加する。
レベル1・・・微毒
攻撃した相手に対して『状態異常:微毒』を与える。
なんだ、また新しい状態異常が出てきたぞ?
微毒なんて、そんなの聞いたこともないんだが・・・。
名前的には毒よりも弱そうなんだが、そんな弱いスキル、進化してからわざわざ習得した意味なんてなさそうなんだけれど。
というか、今までよく考えずに『毒攻撃』スキルとかを使って来たけれども、そもそもこの世界における「毒」の定義って一体何なのだろうか?
元の世界でいういわゆる「毒」というものは人間などを始めとする生き物にとって有害な物質というか、そんな物の総称だったわけで。
一口に「毒」なんて言っても動物性のものであったり、植物性の物が存在していた。
俺でも知っているところで言うと、動物性で言えば「フグ毒」や植物性でいうと「トリカブト」なんかが挙げられるだろう。
また、毒と一口にいってもその症状もさまざまで、ヘモグロビンと結合して体に酸素が行き渡らなくなったり、神経の伝達を麻痺させて全身を動かなくさせたりと様々だ。
でも、ゲームなんかの中ではそんな物はいちいち登場しなかった。
当たり前だと思う。
そんな物を別区分で描写するなんて面倒くさいし、プレイヤー達が混乱してしまうだろう。
そして、もしかしたらこのゲームに似た世界でもそれは適用されるんじゃないか?
あまりに小難しい事過ぎると、言っちゃえば俺が考えすぎなだけかもしれないが。
つまり何が言いたいかっていうと、鑑定結果からも推察をしてみるとこの世界の「毒」はあくまでも「毒属性」でしかないのかもしれないということだ。
そこには明確にこういう成分で構成されていて、その毒はこういった症状を引き起こす、この物質はこれでないと解除できないとかそういったものもないのだろう。
現実だと特定の毒は解毒不可とかあったりもしたが、この世界なら「解毒薬」1個で片付きそうだ。
そしてこの考え方があっているならば、今後も他の「属性」と言う概念が出てきた時にも適用されるのだとまず見て良いだろう。
「属性」というのはあくまでファクターでしかないので、その「属性」を相克するものが存在するならば簡単に打ち消されてしまう。
いわゆるゲームでいう、相性補間。
火は水に強くて、・・・とかいうあれだ。
もしかしたらそういった相性のせいで『毒攻撃』スキルが通用しない敵が今後登場するかもしれない。
今の所ステータスの値が全体的に低すぎる俺にとって、『毒攻撃』はメインウェポンだ。
メインウェポンを封じられたときの対策についても、今から考えておかなければいけないな。
現状は進化時にしか基本的にスキルを選んで習得出来ないが、そういった時にそれを補えるスキルを積極的に獲得していきたい。
これからの行動指針が決まったところで、次の動きに入る。
まずは新しく入手したスキルである『毒生成』の使い勝手を試しておきたい。
確認事項としては、初めてMPを消費するスキルを入手したので、それがどんなものかをみるというのと、『毒攻撃』スキルとの差別化点を探っていく。
さすがに新しく習得したスキルが、前から持っていた『毒攻撃』スキルの下位互換とは思いたく無い。
「ぎゅあぁぁー!」
なんてことを考えながら「しびれ草」の合間をゆったりと泳いでいると、地面からドジョウのやつが飛び出し、襲いかかってきた。
前回の反省を活かして、今回はしっかりと地面にも気を配っていたので不意を突かれることこそなかったが、あまりにも遭遇率が低いので普通にその存在を忘れかけていた。
まあいいや、普段は地面に棲息していて弱い相手しか狙わないという特性も相まって、こいつはそこまでステータスもスキルも強くない。
まさに力試しにはちょうど良い敵だし、まずはこいつで試すとするか。
とはいっても以前は一撃でも貰うと一気にピンチになるという位にはステータスも俺より強かったんだが。
さすがに一度進化を挟んだ今はもう少し余裕が有るかもな。
それを試すためだけにわざわざ攻撃を食らいにいくようなことはしたくないけれども。
俺のステータスの中だとSPEの値が飛び抜けて高い。
とは言っても他のと比べてと言うだけで、数値的に見ればまだまだだが。
それでも同ランク帯の中ではかなり早い方ではないだろうか。
レベルも上がって進化もした今の状態ならば、相手の攻撃を一々事前予測しなくても避けることが出来るようになった。
少なくともこのドジョウ程度ならば。
ということはもう少し他の事に対してリソースが割けるということでもある。
まずは進化したあとの身体の動きを確かめるため、そうやって反射だけで何回か攻撃を避けた後にようやく『毒生成』スキルを試すことにした。
始めての作業なので先ほどよりも余裕を持って攻撃が避けられるような位置にまで下がり、スキルを発動させてみる。
すると発動した瞬間に、体の中心からなにやら暖かい力が少しずつ1箇所に流れていく様な気がした。
もしかして今流れて行ってるこの暖かい力のような物がMPなのか?
MPの存在を初めて実感して、若干の感動を覚えつつ、その集中をスキルに戻す。
流れた力が体の外へ放出されると同時に、俺の目鼻の先には薄紫の物質が生成された。
しかし、そこから先には何も変化が無い。
やがてその生成された物質は水の流れによって、徐々に溶けてどこかへいってしまった。
・・・どうやら本当にただただ毒を生成するだけのスキルのようだ。
生成した毒を当てて攻撃するには、自分から何かしらのアクションを起こさねばならないらしい。
生成される場所はある程度操作することはできるが、体内・表皮とか以外だと身体からあまり離れた場所に生成することはできなかった。
そのため当てるようにするにはまずは近づく必要がある。
ただでさえ、毒の効力が弱そうなのに使い勝手まで悪いのだろうか。
新スキルに対して少しだけ落胆しつつもひとまず、ちゃんと当ててみるとする。
今度は攻撃を避けながら近づいていき、ドジョウの付近でスキルを発動させてみた。
再びおそらくMPであろう暖かいものが使用される感覚が有ると同時に、毒が生成されていく。
そして生成された毒をそのままドジョウの表皮へとぶち当てると、なんと一発で状態異常が入る。
それからも検証として、時間経過によって『状態異常:微毒』が解除されるたびに生成して当ててみたところ、なんと驚異の100パーセントの確率で状態異常が入った。
もちろんレベル1(微毒)なので、今まで使用していた『毒攻撃』スキルと比較すると数値だけならたいしたダメージではないかもしれ無い。
しかし、進化前に良く使用していた戦法である、『噛み付く』スキルからの『毒攻撃』スキルのコンボがせいぜい三回に一回くらいでしか状態異常を入れることができなかったことを考えると、それよりも効力が弱いはずの「微毒」が100パーセントで毒状態にすることができるのは普通に考えるとありえない。
詳しい数字についてはなんとも言えないが、相手に毒を当てる難易度がスキル頼みではない分、状態異常が入る確率が『毒攻撃』スキルよりも高くなっているのではないだろうか。
今はまだレベルが低いけれど、レベルが上がっていって、毒の威力や上がれば上がればかなりのダメージを稼いでくれるようになる可能性が高い。
そうなると『毒攻撃』スキルがSP、『毒生成』スキルがMPとそれぞれが消耗する項目が異なるというのもありがたいな。
結構今所持しているスキルを使用する際にはSPを用いるものがとても多いので、今現在でもかなり戦闘によっては枯渇気味であった。
今まで余らせがちになっていたMPを使えるというのなら、こっちとしては効率が良い気がしてくるのがゲーマーの性だ。
とはいえ結構スキルを使用したのに、『鑑定』によればまだ半分くらいあいつの体力が残ってるのが見て取れる。
今のままではまだまだスキル・労力とリターンが釣り合っていない気もするが、その有用性の片鱗は見ることができたし、これからに期待って感じだな。
さすがに進化して獲得したスキルが既存スキルの下位互換ということはなかったようだ。
『鑑定』のレベルが上がって体力が見えるようになり、終わりが見えるようになったのは良いけど、その分やる気的な面で少し萎えてしまうのも考え物だ。
いつ終わるか分からない恐怖と、減っている気配がない絶望感どちらがましだろうか。
人によっても意見が違うかも知れないが、ゲーマーにとっては永遠の議題かもな。
まあ、それは置いといて。
『毒生成』スキルの仕様について、現状は十分検証出来ただろう。
こいつの習性的に考えて体力的にもうすぐ逃げ出してしまうだろうし、『毒生成』のスキルレベル上げは気長にやっていくとして、ひとまずはこいつを倒すことに集中するとしよう。
『噛み付く』スキルと『毒攻撃』スキルのコンボを喰らいやがれ!
って、自分が想定してものよりもめちゃくちゃダメージが入っている。
・・・そうか!
そういや進化前に『噛み付く』は『吸精』スキルに、そして『毒攻撃』は『猛毒攻撃』スキルになっていたんだった。
ダメージが想定よりも入ったため動揺してしまい、その際に危険を感じたドジョウに逃げられそうになってしまったが、俺の方がSPEが高かったため無事に追いつけて倒すことが出来た。
ま、まぁ締まらなくはあったが最終的に倒すことができたんだし、よしってことで。
結果オーライって言葉が有るでしょう!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます