第8話 2日目スタート



ようやく空が明るみ始め、日の光が水面から差し込んできた。


眠ってはいなかったものの、身体は十分に休まったと思う。


さて、そろそろ活動を再開するとしようか。


いやー、何もしないは何もしないで、結構しんどいものだ。


ただただ夜が明けるのを待つというのは気が遠く感じてくる。


今まで、徹夜をしたことはあるもののそれはゲームとかそういうことをしながらだからな。


ただ起きているだけというのははじめてだ。。


・・・くそ元の世界のことを思い出したから、改めてゲームをやりたくなってしまった。


ふぅ、いかんいかん。


しっかりと気を引き締め直して、今日も生き抜いていかなければいけないんだから。


寝床にしていた「しびれ草」の根元から這い出て、周囲の探索を開始する。


まだこっちの探索は、昨日このエリアに入ってから早々にエンカウントしたミジンコと長時間戦闘していたので、肝心の探索はあまり出来ていないのだ。


なので今日はしっかりこの辺りの調査ができると良いなと思っている。


自分自身が『状態異常:麻痺』になってしまってはたまらないので、「しびれ草」の葉には当たらないようにしっかりと気をつけながら、慎重に進んでいく。


敵に奇襲をかけられた場合にも、「しびれ草」に当たらないように、避ける方向には気をつけなければいけないので、常に周囲に対して警戒する必要があるのだ。


これだけ常時気を遣っていると精神的な面でも疲れてくる。


いわゆる気疲れだな。


ここに棲息している生物たちは、「しびれ草」に周囲の安全を担保して貰う代わりに、こうやって神経をすり減らしているのかもしれない。


にしてもそこそこの距離を泳いだのだが、この群生地を抜け出す気配すらなかった。


思っていた以上にこの「しびれ草」の区域は広いのだな。


おっ、ここで他のモンスターを発見した。


【ステータス】

種族:ソードテール

性別:♂

レベル:5


【ソードテール】

尾びれが発達し、するどい剣のようなものへと変化したメダカ型の魔物。

一般的な魔物と比較して、かなり小型のモンスターであるが、その剣状の剣の切れ味は決して侮ることはできない。

尾びれの形は固体毎に異なり、雄しか持ってない。

求愛行動にも影響し、より鋭い剣を持つ個体が雌の個体によくモテる。


身体の大きさはほぼほぼ俺と変わらないくらいの大きさだ。


体格的にはあまりだけれど、ステータスの説明を見る限り、割と強そうに思える。


果たしてどのくらいの強さを持っているのだろうかと推察をしようとしたところで、ちょうど目の前でそいつの戦闘が行われ始めた。


まさにこいつの戦闘力を測る絶好の機会ということで、ありがたく見学させてもらうとしよう。


相手は鱗の1枚1枚が逆立っていて、まるで全身肩パッドを身につけているような魚だ。


『鑑定』スキルによるとどうやらあの鱗を弾に見立てて飛ばし、戦うモンスターらしい。


飛び道具をつかうやつなのか・・・、こっちに来てから初めてみたな。


体格的には俺の2周りほどは大きく、その見た目のいかつさも相まってそこそこ強そうに感じる。


当然俺とほぼ同じ大きさのメダカからして見ても、かなりの体格差があるのだが果たしてどうなるのか。


一体どのような戦闘を繰り広げるのかと興味津々に観ていると、戦闘に動きがあった。


まずは相手の魚が『鑑定』の結果通りに鱗を次々にメダカへと飛ばして攻撃をしかける。


それに対してメダカは身体を最小限の動きでずらし、弾のような鱗を躱していく。


まるで武道の達人みたいだ。


そうしてある種の舞踏の様に華麗に避けながら徐々に接近していき、相手の近くに来たその瞬間のことだった。


やつはそこで身を捻り、自身が持つその剣のような尾を振るった。


すると・・・。


攻撃にも使用することができる、いかにも硬質そうな鱗にで身体を覆った魚は、その瞬間に真っ二つになっていた。


おいおい、切れ味おかしいだろ。


あんな抵抗なくすっぱり切れるなんて・・・。


しかもここは水中だ、日本刀とかでもああは切れないはずだ。


はっきり言って異常だろ。


あれもファンタジー的な何かなのかも知れない。


毒を当てることができれば、あいつにも勝てなくはないかもしれないが、さっきのあの身のこなしからしてまず当たるかどうかすらわからないな。


真正面からの戦闘ではまず勝つのは無理と判断してもいいだろう。


今はこいつと戦わない方が良さそうだ。


幸いなことに戦闘を終えたばかりで、ゆっくりと食事している。


こちらの存在には気付かれていないようだ。


なるべくゆっくりと動き、静かにその場を後にする。


ほかの場所よりも強さのレベルが落ちるとはいえ、どうやらここも気を抜いて良い場所ではなさそうだな。


油断をしていたわけではなかったが、改めて生存競争の過酷さがわかる。


そして引き続き探索をしている中で邂逅したのは、地面から急に襲い掛かってきたドジョウだった。


!!!


急にくるなよ、心臓が飛び出るかと思っただろうが。


【ステータス】

種族:ディグローチェス

性別:♀

レベル:4


【ディグローチェス】

戦闘力はそんなに高くなく、臆病な性格のため普段は地面に隠れて過ごしていることが多い。

自分の攻撃力でも倒せそうと判断した相手が近くを通った時に、不意討ちで襲いかかることで、獲物を捕らえる。

かなり堅実な生態をしており、中々姿をあらわさないため研究が進んでいない。


ムカッ!なるほどね。


俺のことが倒せそうだから襲ってきたわけか。


でもたしかに、たまたま急襲を躱せたからよかったものの、そうでなかったら結構やばかったな。


格下の兄弟からの『体当たり』で死にかけてたくらいだしな。


普通に兄弟達よりもレベルの高い、こいつの攻撃を食らっていたら大ダメージ間違いなしだろう。


ここでこいつの存在を知ることができたのは大きいな。


地面の下にも敵が居るということが知れて、今後はそれに注意を向けて行動することができる。


でも、こっちのことをなめてくれたお礼はしっかりとしないと悪いよな?


自分でもまだまだ弱いとは思っているけれど、だからといって面と向かってお前弱いなと言われて平然としていられるほど、ゲーマーのメンタルは穏やかじゃないのだ。


まずはこいつの鼻頭に向かって『体当たり』をお見舞いする。


うん今回は前のミジンコの戦闘と異なり、反動で吹き飛ばされることもなく、しっかりとダメージを与えることができた。


ドジョウはそれに対して呻きながら、体をびくびくさせて悶えている。


いやいや、それはあまりにも隙をさらしすぎだから。


おそらく格下から反撃を食らったことに動揺しすぎたのだろう。


徹底して常に自分より弱い相手しか狙っていなかったからこその致命的な弱点だな。


ぬるま湯に浸かりすぎると、想定外の事態に対応が遅れる。


そんな隙を到底見逃すはずもなく、すかさず前回も使用した『噛み付く』スキルと『毒攻撃』スキルのコンボを当てる。


さすがに今回は一発で毒状態にすることができなかったので、さらにもう二発追撃をお見舞いしてやった。


よし、今度はちゃんと毒状態を入れることができたな。


そこでダメージを貰いすぎたと判断したのかドジョウは、慌てて地面に潜り俺から逃れようとする。


これはまずい!


せっかくここまで手傷を負わせたのに、そのままむざむざ帰すなんてできる訳がない。


スキルを撃つのもただではないのだ。


1回でそこそこのSPを消費するので、その分腹が減る。


だからこそここで逃すことは許容できない。


こういう場面ではやはり『噛み付く』スキルよりもノックバック効果の付いている『体当たり』の方が使い勝手がよい。


相手が起き上がりそうになるたびに、『体当たり』スキルで再びダウンさせるというだけの嵌め殺しになった。


この戦法は恐らくミジンコのような防御力の高い相手や、ある程度のレベル差がある相手には通じなかっただろう。


ドジョウのステータスがあまり高くないからこそ、できたことだな。


相手がはなから逃げ腰だったというのも大きい。


ミジンコ・ドジョウとの対戦を経験してこの場所に生息している生物たちならやりようによっては十分に戦えることが分かった。


食料確保とレベル上げも兼ねて、しばらくはここで生活していくのが良さそうだな。


【リトルタッドポール:♂のレベルが上がりました】


【スキル『早熟』が適用されます】


【種族レベルが12になりました】


【『噛み付く』のレベルが8になりました】


【『体当たり』のレベル8がになりました】


【『毒攻撃』のレベルが8になりました】


【『危険察知』のレベルが3になりました】


【ステータス】

種族:リトルタッドポール

性別:♂

HP:34/34(+6)

MP:31/31(+6)

SP:18/32(+6)


レベル:12(+3)

ATK:22(+3)

DEF:22(+3)

INT:37(+5)

MND:22(+3)

SPE:48(+9)


スキル:

『鑑定 :レベル7』

『毒耐性:レベル7』

『噛み付き:レベル8(+1)』

『体当たり:レベル8(+2)』

『毒攻撃:レベル8(+1)』

『危険察知:レベル3(+1)』

『早熟 :レベルー』

『水棲 :レベルー』


よしよし、順調にレベル上げも進んでいるな。


今日のご飯も調達できて、レベルも上がって、実に調子がいい。


SPもそこそこ消費したことでお腹もペコペコだし、早速朝ごはんとしてありがたくいただくことにする。


むしゃむしゃ。


うん、地面に常に潜っているからか、それともドジョウは元々そういうものなのかは分からないけれど、ちょっと泥臭いということを除けば普通においしい肉だ。


自分はこの時すべてがあまりにも順調で、調子になりすぎていたのだろう。


異世界に来てから苦戦と言うほどの苦戦はしておらず、危機意識が下がっていた。


さっきのドジョウにたれていたことが、まさにかえってきたのだ。


なまじ理性がある分、うまくできているつもりになっていた。


ゲームでも調子の乗りすぎはよくないと、日ごろからよく経験していたはずだったのに・・・。


そうしてご飯を食べた後再び探索してみると、ここら辺一帯には大体15種類くらいの生物たちしかいなさそうだった。


これだけ自然が豊かな場所なのにも関わらず少ないなとは思ったのだが、弱い生物達の中でもさらにある程度淘汰されてしまうのだろうな、と納得もした。


その見てきた中だと、ドジョウとミジンコはかなり下の方だった。


ドジョウは普段は地面に潜っていて、自分より強い相手には中々出てこようとしないし、わざわざ探さないといけないのは面倒くさいので、強い奴らも狙わない。


ミジンコの場合は戦闘能力が高くないのだが、その分耐久力が高いのでここらへんの近辺に棲息している生物たちでは倒すのに苦労するのではないだろうか。


そのくせ性格は穏やかで向こうから襲いかかってくることはないのだから、こちらもわざわざ攻撃する必要性が見いだせないし。


そのような形でそいつら2匹は生存政略的に生き残っているように思う。


ほかにも俺よりも小さい魚がいたりしたんだが、そいつらもドジョウやミジンコのように何かしらの生存政略を持っているのかもしれないな。


それとは反対に環境の上位だったのは今日の最初に出会ったメダカとゲンゴロウみたいなやつだ。


この2種類の生物だけは積極的に自分から単独で狩りに向かって獲物を捕食していた。


これは食物連鎖の天辺だからこそできることで、通常は好機を狙ったり、群れで生活したり、相手の強さを見定めたりなどする必要があるからだ。


メダカはその鋭い斬撃で、ゲンゴロウは分厚い鎧をまとった上に鋭い牙と顎で、それぞれ他の生物を圧倒していた。


あれらにはまだまだ勝てないだろうと思う。


しばらくの間は俺でも勝てることができそうな、ミジンコやドジョウといった環境の下の方の相手を少しずつ倒していくって感じで、食料とレベル上げを両立していく形にしていくことにしよう。


ゲームだったらここらで冒険してもいいかもしれないが、この世界は現実だ。


ドキドキわくわくは少ないかもしれないが、とにかく手堅くいきたいな。


とりあえずの目標はこの「しびれ草」の群生地でも、肩を切って歩けるくらいには強くなることだな。





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