第7話 腹が減ったので戦います
透き通った体からは内臓が見え、身体の上の方には大きな二本の触手?触腕?があり、そこから下にはでっぷりと突き出た大きな腹を持つ。
こちらがじっと観察していることに気付いたのか、大きなギョロっとした目玉がこちらをじっと見つめる。
うん、超巨大なミジンコだな。
大きさは俺よりも2回りくらい大きい感じ。
元々オタマジャクシが小さいせいで、元の世界と比較してどれほどでかくなっているのかを説明しにくいが、元の世界だと顕微鏡で見ていたような生物が、肉眼でもそこそこハッキリと見ていたオタマジャクシの3倍以上の大きさを持つレベルと言えばわかりやすいだろうか。
さて、まずは・・・と。
【ステータス】
種族:グレイトダフィリア
性別:-
レベル:6
【グレイトダフィリア】
魔力を吸収することで魔物化し、巨大化になったミジンコ。
水中内の微量の魔力を吸収するだけでも生きることができるだけの生命エネルギーを確保することができる。
性格は温厚で争いを好まないため、安全な場所に身を置き穏やかに暮らしている。
こちらから手を出さない限りは、攻撃してこないようなやつなのか・・・。
すこし心が痛いが、サバイバルではそうも言っていられない。
まだまだ俺の鑑定では相手の能力自体は分からない。
こいつがどれくらい強いのか検証する必要がある。
まずは体当たりで試させて貰うとしよう。
やつの大きな横っ腹にめがけて、思いっきりスキル『体当たり』を行う。
スキルレベルも高くなったし、最初と比較して身体能力が上がった『体当たり』はかなりのスピードを誇り、ミジンコへと一直線に衝突し・・・、俺は思いっきりはじき飛ばされた。
痛たたたたたた・・・。
吹き飛んだ時の衝撃で頭がクラクラする。
まさか攻撃したこちら側が吹き飛ばされるなんてな。
こいつの体、めちゃくちゃ堅かったな。
透明で、内臓まで見えているので、てっきりその皮膜は薄いもんだと思っていたが、意外と堅く頑丈な殻に覆われていた。
そういえば学校の授業で、ミジンコはカニやエビと同じ甲殻類だって習った気がする。
そりゃそうだよな。
俺の進化前はおそらくこの世界でも生粋の最弱種だ。
一つ進化したくらいで、そのスペックが大きく変わるわけが無い。
進化しても『早熟』スキルが引き継げることが分かったのでそこは救いではあるが。
やはりここから強くなるためにはかなり道のりが長そうだ。
やつにも『体当たり』でのダメージは全くなかったというわけではないようで、攻撃してきた俺に対して怒りの感情を向け、腕から生えた触覚を振り下ろしてきた。
いやいやそれはさすがに悠長すぎるんじゃないのか?
そんなに時間が掛かっていたら頭のクラクラが回復しているぞ。
さすがに俊敏性なら俺の方に分があるようで、その攻撃は余裕で躱す。
普段温厚故攻撃することにあまり慣れていないということもあるのかな。
その攻撃はへたしたら兄弟達よりも遅いんじゃ無いかと思う。
それにしてもやつをどう攻略するべきかな。
単純な正面戦闘では勝てる気がしない。
というよりろくなダメージが与えられないと思われる。
やはり『噛み付く』スキルに『毒攻撃』スキルを乗せることで、『状態異常:毒』を与えるしか方法はないか。
再びミジンコが触覚を振り上げた瞬間に俺はやつの後ろに回り込み、思い切り『噛み付く』。
【ステータス】
種族:グレイトダフィリア『状態異常:毒』
性別:-
レベル:6
・・・よし、一発で相手を毒状態することが出来た。
これは運がいいな。
どうやら『噛み付く』スキルは相手の装甲を完全ではないが貫通することができるようだ。
これは『毒攻撃』スキルの有用性がかなり高まったな。
どういうことかというと、『毒攻撃』スキルの仕様自体、相手への攻撃時に毒が相手の体内に侵入した後に、『状態異常:毒』になるかどうかが判定されている。
これは皮膚から吸収したり、口から直接摂取したりと手段は別に何でも良い。
だからこれまでの『毒攻撃』単体での使用した場合だと、こいつのように堅い敵には俺の攻撃は阻まれ、そもそも毒状態にすることができなかった。
戦闘中に口にぶち込みに行くっていうのは普通に難易度高いしな。
しかし、この『噛み付く』と同時に使用することによって、そういった場合でも『毒攻撃』による判定を行わせることができるということだ。
定期的にダメージを与えることができる、『状態異常:毒』は非常に強力で、格上相手でも十分に勝機を見いだせるものだ。
だが大抵格上の敵というのは堅いというのは相場で決まっており、これまでは『毒攻撃』が弾かれた時点で絶望的だった状況だった。
それが、『噛み付く』が通れば相手に毒を付与できる可能性があるとなっただけでかなりの差になるのだから。
そうして俺はその後も相手の攻撃を避けながら『鑑定』で相手の毒状態が継続するように定期的に『噛み付く』で攻撃をする。
もちろん自分のSPを見て、底をつかないように管理に気をつけながらな。
それを繰り返しながらも、何とか倒した時にはこっちは疲労困憊だった。
思っていた以上にこいつがタフだったな。
戦闘はあまりしない種族だったし、生き残ることに特化したステータスだったのだろう。
察するに、攻撃や素早さが低い代わりに体力や防御力が高いタイプだな。
そして長い間戦っている時に気がついたのだが、どうやらSPは腹が減っている状態だと回復量が減るらしい。
時間が経つにつれて回復量が減っていったときは非常に焦った。
今回の戦闘において、『毒攻撃』スキルや『噛み付く』スキルの使用は、俺の戦闘における生命線だったからな。
ここが尽きた時点でミジンコ相手にどうしようもなかった。
元々少しお腹が空いていた状況からの戦闘だったのだから余計にきつかった。
今度から長期戦闘をすると分かっている場合は腹いっぱい食べてから戦闘をしないといけないな。
そういった面でも、事前に相手のステータスでも分かっていればいいんだが・・・。
チラッ。
期待してますよ?『鑑定』くん。
う、そろそろ理性を保つのも限界だな。
最初に経験した飢餓感に今にも襲われそうだ。
色んな意味でギリギリの戦いだったので、無事に倒すことができて本当に良かったな。
そうじゃなければ、これだけ疲弊した上、それを回復するための食糧も何も無いところだったのだから。
【リトルタッドポール:♂のレベルが上がりました】
【スキル『早熟』が適用されます】
【種族レベルが9になりました】
【『噛み付く』のレベルが7になりました】
【『体当たり』のレベル6がになりました】
【『毒攻撃』のレベルが7になりました】
【『危険察知』のレベルが2になりました】
今回も無事にレベルアップのアナウンスが聞こえたが、その内容を確認するよりも早く、この自分よりもかなり大きなミジンコに食らいつく。
ゲーマーとしては真っ先に確認したいところではあるが、この身体になってからは生理的な欲求に引っ張られることが実に多い。
今回も腹の虫が催促して仕方がなかったんだ。
だからゲーマーならまずステータスを優先しろよとか言うなよ!?
お前等もこの身体になってみれば、俺の言うことがイヤでも分かるはずだ。
殻は堅くて食べられないので殻と殻の隙間に身体ごとねじ込んで、そこから身を引きちぎるように食べていく。
こういうときに手があればと、今更ながらに人間だったときと今を比べてその不便さを嘆く。
この身体のせいということもあってこいつはこのくらいのやり方でないと食えないな。
しかしすごいよこの体。
兄弟達を倒して食べた時も思ったが、自分の体の大きさ以上の物を食べても大丈夫なんて、人間の頃には全く考えられないことだな。
半分ほど食べ切ったところで、理性が多少戻ってきて、ようやく『鑑定』でステータスの確認をすることにした。
ミジンコは少しだけ格上みたいで、進化した後の種族でもレベルがかなり上がったから見るのが非常に楽しみである。
では改めて見ていくこととしよう、『鑑定』!
【ステータス】
種族:リトルタッドポール
性別:♂
HP:28/28(+12)
MP:25/25(+12)
SP:16/26(+12)
レベル: 9(+8)
ATK:19(+8)
DEF:19(+8)
INT:32(+12)
MND:19(+8)
SPE:39(+24)
スキル:
『鑑定 :レベル7』
『毒耐性:レベル7』
『噛み付き:レベル7(+2)』
『体当たり:レベル6(+1)』
『毒攻撃:レベル7(+2)』
『危険察知:レベル2(+1)』
『早熟 :レベルー』
『水棲 :レベルー』
おおー、ステータスの数値の伸びが進化前よりも伸びてるな。
やはり進化して上位種族に上がるとレベルが上がったときの、能力値の上昇量が多くなるんだな。
進化のメリットの1つなんだろうな。
生まれたときからこの上昇量に差があったら、そりゃ普通にやったら勝てないよな。
こういうところが上位下位種族の差ってところだろうか。
次にスキルの方なのだが・・・、今回の戦闘では『噛み付く』スキルと『毒攻撃』スキルを多用したので、なんと2つもスキルレベルが上がっている。
今まで一気に2つも上がる事が無かったから、相当今回のでスキルの熟練度が上がったんだろうな。
この両方のスキルは今時点での俺のメインウェポンであるので、そのメイン武器が強化されるということは単純に嬉しい。
レベルが上がったスキルを眺めていて、一番謎に感じたのは『危険察知』スキルのレベルも上がっている事だな。
今回の戦闘ではむしろ格上相手に向かって嬉々として飛び込んで行った感じだったんだが、本当に『危険察知』なんて働いていたんだろうか?
種族レベルの方が8つもレベルが上がったから、その際の経験値ブースト分だけでレベルアップした感じか?
スキルレベルがまだ1で低かったから必要な経験値も比較的少なそうだし。
まあ、ここはあんまり気にしててもしょうがないところだろう。
とりあえず『危険察知』のスキルレベルが上がったことで特にデメリットはないのだから、今はそれで良しとしておくか。
いくら自分の身体の大きさを超えて食べられるようになったとはいえ、やはりそれなりの量を食べるにはそれなりの時間がかかる。
ミジンコは戦闘でお腹ペコペコ状態であった俺から見ても大変ボリューミーであり、全て食べ終わる頃には夜半になっていた。
今日は一日で戦闘を4回も行ったため体はクタクタだ。
尾ヒレを動かしながら水底の方にゆっくり向かった後、「しびれ草」の影にそっと体を落ち着けた。
体はとても疲れているけれど、人間の時みたいに眠たいっていう感覚はない。
体のみを休ませながら、意識ははっきりとしていた。
意識を失うことは自然界において、最も危険なことのひとつだろう。
それを本能的に察知していて、身体がそうしなくてもいいように最適化している。
進化の時は強制ぽいけど、それ以外は絶対に眠らなくてもよいのだろうな。
体の感覚を地面に向かって投げ出しながら、今日のことを改めて振り返った。
急に人からオタマジャクシとなり、混乱とかもあって生きることに必死になっていたが、今落ち着くとやはり少しだけ恐い。
これからどうなるんだろうっていう不安もある。
きっとまたそんなこと考える間もないくらいに、これからまだまだ生きるのが大変になっていくんだろう。
でも元の世界と比べて、とんでもないくらいに濃厚な1日だった。
そしてそれはなんだか充実感を俺に与え、なんとしてでもこの世界で生き抜くことを決意させる。
これからの生存率を少しでも上げるためにどういう相手にはどのような戦闘が有効かなど色々考えて、そうやって異世界で初めての夜は更けて行くのだった。
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