第4話 初戦闘


俺の目の前に居る、俺とよく似た姿のオタマジャクシ。


身体の成長具合が変わらないし、棲息区域が被っていることからも俺の兄弟である可能性が高い。


そんな俺の兄弟は現在、こちらへ向けて猛烈に敵意を向けている。


俺と同様、辺りを探索してが、適当な獲物は居なかったのだろう。


どのくらい食事をしていないのかはよく知らないが、あのギラギラとした目を見る限りは相当お腹が空いているのだろうと簡単に想像がつく。


そして俺も死にたくはないし、ここらで食糧を確保しなければいけないのは変わらない。


異世界で初めてのまともな食事が共食いになりそうというのは忌避感を覚えるが、そんなことは選り好みできる状況では無い。


やるしかないんだ。


とはいえ、水深が深いところよりもマシとはいえ、この辺りにいるやつらも俺等からすれば十分に格上の存在だ。


幸い見える範囲にはいないが、そいつらに乱入される可能性もあるだろう。


つまり、勝つだけではだめだ。


迅速に、負傷無く勝つ必要がある。


その場合は俺のみの身体能力だけに頼った戦い方では無理だな。


あいつと俺の身体能力にそこまで差があるようには思えないし。


周囲の環境を利用していくべきだろう。


今はお互いに軽く牽制しあって睨み合うだけに留まっているが、もう時間は稼げそうに無い。


あまり凝った作戦は立てられないな。


動き出しで負けたら、本能部分で動けない俺の方が不利そうだ。


だったら先に俺から動くしかあるまい。


先手必勝、まずは・・・。


尾びれを水底付近で振り回し、砂を巻き上げて煙幕のようにする。


急にそんなことをされたことで混乱したのか、戦闘態勢だった兄弟にかなり簡単に接近することが出来た。


そしてそのまま先ほどのお返しとばかりに胴体に思い切り噛み付く。


歯もそんなに鋭くないので噛み千切るとまではいかないが、それでも相応のダメージはあるだろう。


なんせさっき同様の攻撃をくらった俺は、めちゃくちゃ痛く感じたからな。


なんならまだちょっと痛い。


しかしそれは必死に体を捩られ口を離してしまった。


ッやっぱり無理か。


振り切られた反動で身体が流れているところに、すかさず体当たりを当てられて、せっかく煙幕による不意討ちによって詰めた距離が離される。


うぐっ。


衝撃がさっき噛み付かれたところにも響いて・・・。


痛みにまだまだ耐性ができていなくて怯んだ俺に対して、今度はこちらの番だとばかりに再度こちらへ体当たりを行おうと向かってくる。


その体当たりを俺は冷静に見つめ、ギリギリまで動かない。


まだだ、まだ動いちゃだめだ。


そしてもうちょっとでぶつかると言うところで、俺はサッと横に身を翻す。


少しだけ出っ張ったエラにかすったが、無事ギリギリで避けることに成功した。


食欲に支配されて俺を倒すことだけに夢中になっていたのだろう、加えて俺が最初に巻き上げた砂によって若干視界が悪くなっていた。


だからこそ俺の後ろあった小さな岩に気がつかなかったのだ。


砂が晴れて、今更回避しようとしても、もう遅い。


あれだけ勢いよく突撃してきていれば、急に止まることはできない。


そのため、兄弟はそのまま岩へと衝突してしまった。


頭を思い切りぶつけたため、さすがにこれには動きを止める兄弟。


だがぶつかる直前で勢いを緩めていたから、精々軽い脳震盪だろう。


隙だらけとはいえ、あまり時間の猶予はない。


その限られた隙の中で、攻撃するとしたらここだろ。


そうして動きの止まった兄弟に俺は、今度は尾びれを狙って噛み付く。


今度は噛み付き続けるのではなく、何度もガジガジと歯を噛み合わせるようにして・・・。


脳震盪から回復した後は、再び身体を捩らせることで引き離れてしまったが、今度は別にそれでもかまわない。


なんせ尾びれを傷つけるという目的には成功したのだから。


尾びれの損傷は水中での機動力に直結する。


ましてやオタマジャクシには胸びれや背びれも存在しないのだから。


今の一連の攻撃で尾びれがびろびろになったお前では、もう逃げることもできないし、反撃も厳しいだろう。


これが、あの短時間でなんとか絞り出した、負傷を抑えて素早く倒す方法だ。


お前の負けはもう決定的だ、諦めてくれ。


それでも必死に抵抗されるが、捨て身のカウンターとかを警戒していれば、さすがにもうやられることはないだろう。


そこから相手が機動力が下がっているのを活かして、縦横無尽に駆け回って振り回しながら噛み付き攻撃を行って、全身にチクチクとダメージを与えていく。


結果的に最初に宣言したように余裕を持って勝つことが出来た。


何度も何度も俺に噛みつかれ、徐々に弱っていく姿に心を少し痛めた、ここは元の世界ではなく、そのような考えでは生き抜いていけないと自分に言い聞かせる。


全身の小さな傷口からじんわりと血が水に染みだし、力なくふわふわと漂うようにして動きを止めた兄弟に、謝罪と感謝の気持ちを持って食す。


絶対お前の分まで生き抜いてやるからな、念じながらこの世界に来て始めてのちゃんとした食事を行った。


これが命を頂くということなのかな。


なんだか今までなんとなくで使っていた「いただきます」という言葉を、心から実感することができたかも知れない。


なんにせよ、共食いというのは気分の良い物では無いことに変わりは無いな・・・。


割り切っては行かなければいけないことではあるけれども、受け入れるのには時間がかかりそうだ。


【リトルインフェリアタッドポール:♂のレベルが上がりました】


【スキル『早熟』が適用されます】


【種族レベルが5になりました】


【『鑑定』のレベルが7になりました】


【『毒耐性』のレベルが4になりました】


【『噛み付き』のレベルが3になりました】


【『体当たり』のレベルが3になりました】


【『毒攻撃』のレベルが2になりました】


ちょ、ちょっと待てくれよ!


なんだか一気に色んなスキルのレベルが上がっていないか?


こんなことは初めてだ。


『鑑定』スキルに至っては、今まで頭が痛くなるがその分経験値が大量に入る視界全体を鑑定するやり方をしても尚中々上がらなかったのに、今回のアナウンスの中で一気に2つも上がっている。


あまりの情報量の多さに思わず混乱しかけた。


ゲーム画面のように、アナウンスが視覚化されているわけではないので余計にそう思う。


なんにせよ色々と能力が上昇したことには変わらないようだし、ひとまずは『鑑定』を自分にかけて何か変更が無いかを確認してみる。


すると、


■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■


【ステータス】

種族:リトルインフェリアタッドポール

性別:♂

HP:7/9(+4)

MP:6/6(+4)

SP:3/7(+4)


レベル:5(+4)

ATK:5(+4)

DEF:5(+4)

INT:14(+4)

MND:5(+4)

SPE:7(+4)


スキル:

『鑑定 :レベル7(+2)』

『毒耐性:レベル4(+2)』

『噛み付き:レベル3(+2)』

『体当たり:レベル3(+2)』

『毒攻撃:レベル2(+1)』

『早熟 :レベル-』

『水棲 :レベル-』


■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■


という表示が出てきた。


なんかめちゃくちゃ『鑑定』でのステータス内容が増えている。


とりあえず新しく増えたスキル欄を更に鑑定していくとしよう。


■『鑑定』

物の情報を閲覧することができるスキル。

その対象は生物・非生物を問わない。

レベルが上がるほど、見ることができる情報量が解放される。


・レベル1:物体の名前を表示

・レベル2:物体の性の表示

・レベル3:個別鑑定の表示

・レベル4:多重鑑定の表示

・レベル5:自身のHP・MP・SPの表示

・レベル6:自身の身体パラメータの表示

・レベル7:自身のスキル欄の表示

・レベル8:???

・レベル9:???

・レベル10:???


■『毒耐性』

毒属性を含んだダメージを軽減するスキル。

耐性スキルの1種である。

また《状態異常:毒》になる確率を減少させる。

耐性の効果はスキルレベルの高さと比例する。


・ダメージ量=本来の毒属性攻撃ダメージ×(1-0.05×毒耐性レベル)


■『噛み付き』

相手に対して噛み付いて攻撃したときに、補正をかけるスキル。

補正量はスキルレベルの高さと比例する。

属性を付与した攻撃と併用することも可能。


■『体当たり』

相手に対して突進して攻撃したときに、補正をかけるスキル。

補正量はスキルレベルの高さと比例する。

『体当たり』が成功したとき、稀に相手を怯ませることがある。

怯ませる確率もスキルレベルの高さと比例する。


■『毒攻撃』

自身の攻撃に対して毒属性を付与させるスキル。

毒属性を付与できる部位は、保持しているスキルによって異なる。

属性ダメージ量はスキルレベルの高さと比例する。

相手を《状態異常:毒》にすることがある。

相手を《状態異常:毒》にする確率はスキルレベルの高さと比例する。


■『早熟』

あらゆる場合において、得られる経験値量を上昇させるスキル。

戦闘を行った場合に一番増加量が多い。

低級種族モンスターの幼体のみが保持している。


■『水棲』

水中において自由に動き回ることができるようになるスキル。

多くの場合、水棲生物が保持している。


スキルを一通り鑑定してみたが、毒周りについてもう少し詳しく知りたかったので、更に『二重鑑定』してみる。


ゲームによって毒の扱いは割と違う。


だからこそ、なんとなくで理解しておいてそれがいざというときに足を引っ張るのはイヤなのだ。


■「毒属性」

この世界で定義されている属性の1つ。

相手を弱らせる効果を持っている。

この属性で攻撃された場合、《状態異常:毒》にすることがある。


■《状態異常:毒》

一定時間の経過毎にダメージを与える。

「時間が経ち、対象が耐性を獲得する」または「解毒薬を摂取する」ことで回復することがある。

「HPの量が多い」や「レベルが高い」ものほど《状態異常:毒》に罹る時間は短く、毒状態にもなりにくい。


なるほどそういうタイプの毒か、大体理解出来たと思う。


そしてどうやら『鑑定』のレベル7で自分のスキルが見えるようになったようだ。


これまで今までアナウンスのみでしか把握することができなかった時と比べて、スキルについて管理がしやすいようになった。


そして今まで二重にしか鑑定出来ないと思っていたが、何重にもできるみたいだ。


先ほどできるかなと思って「毒属性」の説明の中で出た、《状態異常:毒》についても『鑑定』することができた。


そもそも今までやる必要が無かったから特に困りはしなかったが、これで目の前の情報について不足はしないだろう。


とりあえず、便利な分にはいい。


今は気にしていても無駄だ。


一番の問題はこいつ。


『早熟』。


経験値と熟練度に大幅ブーストをかける限定スキルなんて、ゲーム上で考えるならばかなりの優遇扱いだ。


特にスキルのレベル上げについては、大体序盤の方は特に気にしなくても良いが、後半になるに連れてとてもしんどくなる。


育成系方面ではまさにチートに近い。


どおりで中々レベルの上がらなかった『鑑定』のレベルが上がったはずだ。


なんなら、今回の戦闘以前の『鑑定』レベル上げもかなり短縮されているのか?


となると1ヶ月も経たないうちに『鑑定』レベル7まであげるのは相当やばいのか。


なんせ一気見を含めた熟練度分をおおよそ四倍分ブーストしているんだからな。


・・・いやでも、低級モンスターの幼体にのみって書いてあるし、典型的な〇○だからこそぎり許せるっていうレベルではあるのかもしれない。


弱いモンスターがちまちま成長していたらそれより強いモンスターに簡単に潰されてしまうだろう。


『早熟』がとんでもない代物であると感じているのは、俺が転生者でゲーム的思考を持っていることと、何故かは分からないが俺が『鑑定』なんていうスキルを初期搭載しているからだ。


説明文的に幼体を脱してしまったら消えてしまうのだろうか・・・。


それまでに熟練度を上げて是非ともスキルレベルを少しでも上げて起きたいところだけれども・・・。


・・・・・。


ちょっと待てよ。


この『早熟』スキルは俺だけの特典っていうわけじゃないんだよな。


雑魚MOBの幼体なら等しく持っているということが、『鑑定』結果からも見て取れる。


俺はまだほんの少ししか散策していないが、この場所に今のところ俺と同格以下の生物は、同種以外確認できていない。


そんな中で俺がレベル上げできる相手といえば何だ?


さっき経験したような同種同士との戦闘だけに他ならないのでは無いのか?


そして俺の兄弟達は、俺と同様に等しく『早熟』スキルを所持していることがたった今判明した。


俺は先ほど1回だけ、たった1回だけ倒しただけでレベルが5まで上昇した。


数値的に見ればたいした上昇量じゃないと思えるかも知れないが、相対的に見れば5倍だ。


つまりたった数回の勝利数が、同種同士では大きなステータス差になる。


くそ!


俺の最適解は生まれてすぐにどの兄弟よりも早く、他の兄弟を倒してある程度まで強くなることであったのだ。


全く、転生したてでどんだけ鬼畜な要求だよ。


俺は人間だった時の倫理観的に捕食対象からいつの間にか兄弟達を外してしまっていた。


だが俺はもうとっくに人間じゃないのに。


ここは自然界だ。


ここでは同種食いや、共喰いはよくある事象のひとつなのだ。


先ほどまでまだあっちから敵対してきたからという言い訳を心のどこかでしていた。


サバイバルを舐めすぎていた。


同じ種族なのに、元人間だからってオタマジャクシを見下していたに等しい。


あれほどの数のオタマジャクシが一度に生み出される意味をもっと考えるべきだった。


マンボウの事例をなまじ知っているだけに、外敵や死因が多いのだと勝手に思っていたことが仇になったか。


もちろんそれもあるしれないが、ここが異世界であり、レベル制の世界で、『早熟』を持っているのならば話が違ってくる。


お互いがお互いの成長するための素材なのだ。


数十万匹の中でたった数匹残るだけでも、きっと種として存続するならば問題無いのだろうから。


もちろんこの仮説が間違っている可能性もある。


ほかの種族で俺と同格以下のやつもいるかもしれない。


でも俺と同格以下だとしたら、そいつらも『早熟』を持っている可能性がかなり高い。


となるとどのみち時間が空けば空くほど俺が不利になることに違いはない。


何が「お前の分まで生きるから」だよ、感傷に浸っている場合じゃないぞ?


何様のつもりだよ、全く。


ほとほと自分に呆れてしまう。


もう俺は人間だった時の感覚を一旦捨てなきゃいけない。


それがやれないで、自然の厳しさを偉そうに相手に語る資格なんてないだろう。


そうして、 俺は自分が生まれて来た場所へ急いで向かう。


少しでもレベルを上げて生き残る確率を上げるために。


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