第3話 今度こそ誕生
外へと出る前に、もう一度自身の身体を軽く動かしながら確認する。
身体をくねくねと捩らせ、最近形成された尾びれで水をかくなどの基本的な動作をやってみる。
うん、無事にかけそうだな。
まだエラも形成されたばかりなため、その形状は外に出っ張っている。
エラが邪魔で自分の身体が見にくいけれど、身体はきちんと動いているのが分かった。
さて確認も済んだし、そろそろ外へ出るとするか。
卵の殻にゆっくりと身体を強く押し当てる。
今まで俺のことを守ってきてくれた物だし、そこそこ固いのかなと思ったのだが、そんなことはなく、一瞬むにゅっと伸びた後あっさりと突き破ることに成功した。
そうして俺は新たなる生を受けたのだった。
いや、実際には卵の中にいる時から意識はあったのだから、そこらへんのところは微妙なのかもしれないが。
・・・そろそろ殻の中にあった水と外の世界の水との違いに身体が慣れてきたか。
それじゃあ、さっそく行動を開始していくとしよう。
外へ出る直前の俺のステータスはこんな感じだ。
■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■
【ステータス】
種族:リトルインフェリアタッドポール
性別:♂
HP:5/5
MP:2/2
SP:3/3
■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■
見て分かる通りの貧弱さだ。
先ほど誕生したばかりの生物にステータスは期待できないだろう?と言うかも知れないが、これでも卵だった時よりも上がっているのだ。
なんせ卵の中に居た時、まだ胚状態の自身の身体を『鑑定』してみたら全部1だったのだから。
さて、まず気になるのは種族だろう。
自身の種族の名前にはリトルが付いている。
これの理由として、自分は2通り考えられると思っている。
それはまだこの身体が子供だからという理由と、そういう身体が小さくしか成長しない種族であるという理由の2パターンだ。
種族名に入っていることから後者の方が可能性が高いのだが、生存競争において体格の小ささは基本的に不利になる。
できればこの予想は外れていて欲しいところだな。
とりあえずそれについては今すぐ正解が分かるわけでもないだろうし、いとまず置いておくとしよう。
次に、以前説明を飛ばしてしまっていた『二重鑑定』について解説していきたいと思う。
『二重鑑定』とは1回目の『鑑定』結果に対して、「項目毎にさらに『鑑定』をかけることができる」というものだ。
例えば、先ほど考えていた種族の部分について、『二重鑑定』を適用してみる。
すると、・・・
■【リトルインフェリアタッドポール】
カエル系統の魔物の最も基本的な幼少形態である。
弱い分環境に合わせた多種多様な進化先を持っており、育つ環境によって姿形が変わる生態を持っている。
同様に進化先を多数所持する魔物としてゴブリンやスライムが挙げられる。
このようにそれを説明するような文章が出現するのだ。
何もわからないような状況で、このように詳細な情報を取得できるというのは非常にありがたい。
他の所も『鑑定』してみたところ、HPは体力ゲージ、MPは魔力ゲージ、SPはスタミナゲージという大抵のゲームと同様の扱いがされていたため、それほど苦労せずに理解することができた。
さて、種族の『二重鑑定』の結果から分かることを俺なりに整理してみる。
まず、自分自身が正式に魔物であることが判明した。
普通の生物じゃないとは薄々感じてはいたけれど、まさか本当に魔物という扱いだとは思わなかった。
そして、最も俺が注目しているの部分が進化である。
この今の俺の姿である「リトルインフェリアタッドポール」は進化をできる・・・らしい。
詳細は不明ではあるが、どうやらこのオタマジャクシ種は数ある進化先の中から自分に合った物を選択することができそうだ。
どうなるか分からないという不安はあるが、その分自由度が高いと思われる。
その方が俺としてはありがたい。
こういう進化先を考えるのはどのゲームでも胸が踊るもんだ。
今の所は何も把握していないため考察にも限りがあるが、進化をするときにはよく考えていきたいと思う。
そして、どうやらこの世界にはゴブリンやスライムなんてのも存在するらしい。
ゴブリンやスライムはファンタジー系のゲームやお話からすると、定番の雑魚MOBだろう。
こんな世界なら居てもおかしくはないのか?
そしてMPだ。
もしかしてこの世界には魔法もあるのかもしれない。
あるのならば、一度くらい使ってみたいな。
・・・それにしても、考えることが多いな。
まだまだ始まったばっかだし、しょうがないか。
ひとまずの行動指針として、「進化条件の模索」や「周辺エリアの探索」なんかが良さそうだな。
だがその前に深刻な問題が発生してしまっている。
その問題とは・・・。
グゥ〜。
そう、非常にお腹が空いてしまっていることだ。
卵の時は全くお腹が空かなかったので油断していたな。
もしかして卵を突き破るのにかなりエネルギーを使ったのかもしれない。
正直に言って、かなりキツい。
それにしても、そもそもオタマジャクシって何を食べればいいのだろうか?
オタマジャクシについてなんて、たいした知識を持っていないぞ。
グゥ〜。グゥ〜。
まずい。
考えている間にも、さらにお腹が空いてきたな。
そろそろ限界も近い。
哺乳類以外の生物は、生まれた直後は栄養を既に保持しているためしばらくは食べなくても平気と聞いた気がするのだが・・・。
お腹が空きすぎて、頭も回らなくなってきた。
とりあえず一番近くにあるものは自分の卵の残骸だ。
昆虫やなんかは出生直後に卵の殻を食べると聞く。
もしかしたらこれも食べられるのか?
そう思い立ったがいなや、自分が先ほどまで居た場所の残骸にかぶりつく。
はじめてお腹の中にものが入ってきて、少しだけ満足感が芽生える。
しかし、まだまだ足りはしない。
それからも必死にバクバクと食らいついて、半分以上がお腹に収まった頃。
なんだか口の中が少しだけ痺れてきた。
うん?
なんだこの痺れ。
そういや親カエルが卵を鳥にぶつけて武器にしていたな・・・。
つまりはこれ毒ってことじゃないか!!
まずい・・・。
俺は毒を嬉々として食べていたようだ。
せめて食べる前に『鑑定』をしておくべきだった!
俺のバカめ、なんで食べる前にもっとよく考えなかったんだ。
考え無しだった自分を責めながら、俺さっそくこんな理由で死ぬのかななんて不安に思っていると、
【『毒耐性』がレベル2に上がりました】
というアナウンスが出た。
・・・。
どうやらこの痺れはやっぱり毒だったようだ・・・。
スキルの欄が見えていなかったから分からなかったが俺はどうやら『鑑定』の他にも最初から『毒耐性』スキルを所持していたようだ。
それが毒付きの殻を食べることで経験値が溜まりレベルがアップしたようだ。
まぁ、毒卵の中で過ごしていたんだから不思議では無いな。
スキルレベルが上がったことで、痺れも徐々に収まってきた。
結果としてはスキルのレベルを上げる機会にもなったし、良かったのか?
『毒耐性』なんて、死ぬ危険性が低い内に上げておきたいものだし。
それにしてもさっきの飢餓感はやばかったな。
とりあえず食べることだけに囚われた感じだ。
この身体は、人間だった時よりも本能に支配されやすいのかもしれない。
とりあえず思考が上手くまとまらないような状態にはなりたくないな。
もしも本能的な部分全般に弱いんだとしたら、食欲の他にも色々と注意が必要そうだ。
いろいろなことをなるべく我慢せずに、早め早めの行動が大切になってくるかもしれない。
そのためにも早めに安定的に食べられるものを探したい。
水草や自分よりも小さいくらいの生き物がいたらいいんだけどな。
そうして『鑑定』を使いながら周辺を少しずつ探索する。
【スコッピングタートル】
【ウォールフィッシュ】
【テラーアリゲーター】
ここらへんは、今のままでは無理ゲーすぎる。
勝てる気が一切しない。
初期装備でラスボス手前に来たようなものだ。
もしくは負け確イベント。
まず俺と比べて体の大きさが桁違いにでかい。
オタマジャクシの身体だから正確なことは言えないかもしれないが、今挙げた3匹は恐らく人間よりも遥かに大きな体躯を誇ると思われる。
俺の身体を全長5cm程度だと仮定して、すくなくともその100倍の5mは固い。
■【スコッピングタートル】
岩と見間違うほどの巨大な亀。その異常なほど発達した顎により近づいてきた獲物を一瞬で抉る。長い年月生きたものはほど大きく成長し、中には山と錯覚するほどでかくなったものもいるらしい。
■【ウォールフィッシュ】
壁のように伸びる身体一面に生えた鱗はのっぺりとした形状をしているが、非常にしなやかで頑丈である。並大抵の攻撃は通さないため、素材として重宝されることも。狙った獲物はその巨大な身体で押しつぶして圧死させる。
■【テラーアリゲーター】
弾力性のある皮膚は攻撃を弾き、強靭な顎により獲物を引きちぎる。夜になればなるほど体が大きくなっていくという不思議な生態を持っている。そのため、彼らに夜近づくのはやめておいたほうがよいだろう。
普通に書いてあることがやばすぎるだろう。
こっちの攻撃は効かないのに相手の攻撃力は高すぎて一発貰ったらアウトな状態だ。
俺が今いる池?湖?はどうやら奥に行けば行くほど、水深が深くなっている。
深くなっている方に行けば行くほどさっきみたいな奴らがゴロゴロいた。
水深が深い分大きい生物でも棲めるからという理由なのかもしれない。
あんなのはエサにはならないというかできないだろう。
とりあえず深い場所の探索は早々に諦めた方が良さそうだ。
やむなく俺はちまちま浅い方を泳いでいるものの、それでも自分よりも強そうなやつの方が多い。
一度死んだらゲームオーバーな状態では、必要も無いのにチャレンジ的なことはしたくないところだが・・・。
またさっきみたいな飢餓感に襲われる前に動きたいっていう思いもある。
多少強くても、思考力が残っている内に挑戦しに行ったほうが良いか?
とか考えながら泳いでいると、突如視界の横から黒い物体が衝突してきた。
ぐ、い、痛い!!
何者かに少しだけお腹を噛み千切られたようだ。
こんなのは小学生ぐらいの頃に、こけて膝の皮膚がずるむけたとき以来か?
必死に振り払い、囓られていた場所を見てみると、思ったほど深くは無い。
そうはいっても、傷口はジクジクと痛く、オタマジャクシの身体で無ければ、涙がぽろぽろと溢れていたに違いない。
怒り心頭の気持ちでぶつかってきた相手を見ると向こうもやる気満々で、というか最初からそのつもりだったのだろう。
既に戦闘態勢に入っていた。
なるほど・・・。
こんな自分よりも格上ばかりの環境で、この種は一体どうやって成体まで成長して繁殖していっているのだろうかと疑問に思っていたが、答えは簡単だったのだ。
【リトルインフェリアタッドポール】
そこにいたのは俺と同種。
生まれてからそんなに時間が経って無さそうだし、成長度合いから考えてもおそらく俺の兄弟だろう。
俺の親ガエルは子供をおそらく数十万を超えるほど産んでいた。
まさしくあたり一面がカエルの卵で埋め尽くされるレベルだ。
だからこそ、卵を食べるような輩が現れたとしても、全部を食べきることなんてできていないのだから。
単純にマンボウのように死にやすい生物だから(多分それも間違っちゃいない)と思っていたが、小さいうちのエサ代わりに共喰いしろってことなのか・・・。
くそ、いきなり共喰いを強制させるなんて異世界は随分と趣味が悪いようだな。
元の世界に住んでいた頃の倫理観では受け付けにくいな。
今喧嘩を売ってきた兄弟も生きるのに必死だろうし、なんの恨みもない。
しかしこっちだって死にたくはないし、食糧に困っているのはお互い様だ。
申し訳ないが全力で俺の糧にしにいくとしよう。
これは普通にやっても泥仕合になるだろう。
なんせお互いに生まれたばかりで、同じ種族だ、そこまで差は無いだろう。
そこを他の生物に狙われたらそれこそお互いに終わりだ。
ただ勝てばいいわけでは無く、その後に対応出来るように、なるべく俺はこいつに圧勝しなくてはならない。
そのためにはどうするのか。
身体能力でそこまでの差が無いのならば、人間の思考能力を持って知略で勝つしかない。
果たして、それが一体どこまで通用するだろうか・・・。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます