第2話 卵


元の世界に戻る方法を探すっていうのはいいとしてだ、はてさてどうしたものかね~。


なんといったって現在俺は絶賛卵状態なのだ。


自分自身でできることなんてほぼ無い。


精々身動ぎができる程度だろうか。


親っぽいカエルが襲われたように現在卵の俺等が狙われない保証など存在しない。


ただ食べられないことを願うばかりか。


そんな中ふと、俺の種って一体どんな生態なのだろうって思った。


先ほどの親ガエルの生態。


あんなカエル見たこと無かった。


というかそれを襲ったあの鳥も。


少なくともテレビや図鑑などではだ。


よくわかんない人類未発見の秘境とかに飛ばされたという可能性もあるが、既にオタマジャクシに転生するというあり得ないことが起こっている以上、地球ですら無いと考えた方が自然な気がする。


戻るための方法を探すという前に、これからは完全な野生環境で生き延びて行かなければいけない。


そして生きていくためには、自分自身がどういう生物になったのかは把握していた方が今後どのように行動するのかを決めることにも影響する。


とはいっても別に明確な答えが欲しかった訳ではない。


親ガエルと自分自身についての観察結果から推察するものだと思っていたからな。


しかしその瞬間、俺の視界に変な表示が現れる。


【インフェリアタッドポール】


なんだこれ?


いんふぇりあたっどぽーる?


俺の知っている単語が全然入っていないんだが・・・、これは英語か?


少なくとも、日常で使うような英単語ではなさそうだけれど。


これが一体なんなのかはわからないが、語感からしておそらく何かの名称だろうということが推測できた。


そしてそれが首を振って視界を動かしても追従してくることから、俺の目を中心として生成されていることがわかる。


そして一番大事なのは、これが一体何をトリガーとして出現したのかという所だ。


先ほどこの表示が出現する前、俺は俺の種族について考えていた。


つまり状況から考えるとこれは、俺自身のことを表わしている、いや正確にはこのオタマジャクシのことを表わしているのではないだろうか。


この推測を確かめるために、他のものについてもこれが見ることができるのか試してみる。


まずは周りの他の兄弟達についてだ。


俺と共に水中の草に産み付けられたオタマジャクシ達に視線を向けて、こいつらの種族について考える。


すると、


【インフェリアタッドポールの卵】


という表示が兄弟達1匹1匹ごとに出現し、視界を瞬く間に覆い尽くした。


っっ!


これはあまりに多すぎるぞ!!


そしてその情報量に脳の処理が追いつかなくなり、頭痛と吐き気を催したので目を瞑った。


慌ててこいつらへの表示を消しくれるようにこれを出している何かにむかって願う。


しばらく時間をおいて恐る恐る目を開けると、そこには依然大量のオタマジャクシの卵達が漂っているだけであった。


ふーっ、なんとか収まってくれたようだな。


まさかいきなりあのようなことになるとは。


少々びっくりしてしまった。


だが今の結果からやはり最初に立てた俺の推測が正しかったことが証明できた。


見えたのは一瞬ではあるが、俺の兄弟達を見たときに、そこには確かに『インフェリアタッドポールの卵』という表記があった。


どうやら俺の種族名はインフェリアタッドポールだというらしい。


しかし念じるだけで、名前が分かるとは便利なものだな。


とはいえ、これで異世界だということも確定してしまったのだが。


こんなものは絶対に地球にないし。


ともかく、これで周囲の情報収集もできるのではないだろうか。


そういった考えのもと、兄弟達以外にも色々と見ていると、【水】や【石】といった簡素な名称の表示結果しか出てこなかった。


そんなことはまあ見ればわかると言いたいところではあるが、単純にこれといった名称がないものに対してはこのような概念的な表示結果しか出ないのかもしれない。


そうして卵の中からしばしいろんなものの名称を表示させて遊んでいると突然、


【『鑑定』のLvが2になりました】


といったアナウンスがどこからともなく聞こえてきた。


なんだ今のは?


初めてのできごとに、腰をぬかしそうになるほどびっくりしてしまった。


ぬかすような腰は現在ないんだけどな。


今のはゲーム的な知識に沿って考えるならば、いわゆるアナウンスというやつだろうか。


ゲームの進行上、ナレーターやキャラの台詞以外で状況を説明するための文章のようなものだ。


しかし、そのようなシステムが存在するならばはじめから説明しておいて欲しかった。


1人にも関わらずいきなりどこからともなく音声が聞こえたら、そりゃあびっくりするだろう。


地球であれば、完全にホラー展開まっしぐらに違いない。


だがまあここは異世界のようだし、そういうものだとして受け入れるしかないのだろう。


ふう、びっくりしすぎてアナウンスの内容が少し飛んでしまった。


アナウンスのリピート機能なんかはないのだろうか。


・・・ないよな、不便なことだ。


ええーと、『鑑定』のレベルがどうとか言ってたような。


『鑑定』か。


おそらくこの対象に向けて知りたいと念じると、表示がでるもののことだろう。


『鑑定』なんて能力自体を一体いつ習得したのかということは気になるが、ひとまず置いておくとしよう。


しかし、スキルにレベルか。


レベルについては俺が『鑑定』という行為をいろいろなものに対して複数行ったことにより上がったのだろう。


いわゆる経験値や熟練度といった名称で表わされる概念のことだ。


アナウンスに加えて、これらの事象。


もしかしたらこの世界はゲームの世界によく似ているのかもしれない。


実際の命の危険があるとはいえ、少なからずゲームの世界に行ってみたいと妄想したことがある身かして、わくわくを感じてしまうのを隠せない。


元の世界に帰る手段を探すことだけを探していたのだが、案外この世界も楽しめるかもな。


ゲームに酷似した世界と言うことは、こちらで生きる際にゲームの知識が生きる可能性も大いにあり得ることだし。


もちろん過信は禁物だけれども。


・・・。


よし落ち着いた。


ひとまずなんで『鑑定』が使えるかはよく分からないけれど、使えるならば使った方がいいだろう。


そうすればレベルも上がるだろうし。


スキルレベルが上がって損することはないだろう。


なんかの呪いとかでもあるまい。


とりあえずはレベルが2へと上昇した時の変更点の確認でもするか。


そこから今後の傾向とかも見れる。


【インフェリアタッドポール:♂】


前回の表示と比較して性別が増えている。


全く役に立たないって言うほどではないが、正直いらない機能のように感じてしまう。


『鑑定』はレベル2ではそれほど役に立つものではなさそうだ。


しかし、レベルが上がる事で表示項目が増加するということが分かった。


今後もしも、他にも情報が増えていくのならば有用と言って差し支えない。


絶賛卵状態である今他にやることもないし、ひとまずは繰り返し『鑑定』を行ってスキルレベルを上げていくことにしよう。


■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■


そして俺がオタマジャクシになってから3日が経過した。


特に正確に時間を測っている訳ではないが、おそらく間違っていないだろう。


水面の上の光の差し込み具合で、夜が明けたかどうかを判別しているだけだが。


印を付けて数えていないが、3日程度なら覚えてられるし。


それはさておいて・・・。


俺と兄弟達についてのことだ。


俺たちの卵はものすごくたくさんの量があり、隠れる気が一切無かった。


なので、もしかしたら他の生物に全部食べられてしまうのでは無いかと心配していたのだ。


だが俺が目撃したように親ガエルが武器にする程度の毒が卵の外側の部分には入っているらしい。


あの凶暴そうな鳥を完全に撃退していたのだ、なかなかに強力な毒なのだろう。


そしてそれを知っている生き物たちはこれを食べようとは思わないらしい。


しかし、全く居ないわけでも無いようだ。


毒に強いやつなのかは知らないが、時折数個をぱくついていくやつもいたのだ。


意味が無いと分かっていても、自分が食われないように必死に息をひそめてしまったくらいだ。


本当にあれは怖かった。


何もできなくてすまない、兄弟たちよ。


そのようないつまでも卵の状態ではそういうときに怖すぎる。


助かるための手段が運しかないなんて、それどんなくそゲー?って感じだ。


ゲームじゃないんだけどね。


それでいうならば世界っていつだってくそゲーなのかもしれないな、ハハッ(ブラックジョーク)。


はぁ~。


早く動ける状態になりたい。


俺を含めた兄弟達が最初はただの黒い球(多分授業で習った胚)だったのが徐々に尾びれが生えつつあるので誕生の瞬間も近いと思われる。


ただ、現在卵の俺達をできるだけ守ってくれている毒シールドの保護を失うのも、それはそれで怖い。


何かを取れば何かを失ってしまう、痛し痒しといったところだろうか。


一方『鑑定』の方についてはあの後も順調に経験値を重ね、無事にレベル5まで上げることができた。


しかし、ここまでの道程、はっきり言ってかなりきつかった。


レベル3までは比較的すぐに上げることができたが、そこから先が長すぎたのだ。


卵ライフは前世に比べると時間が有り余る生活だ。


だがそれでも途方も無いと言わざるを得ない。


スキルのレベルをあげるための行動をわかりやすいように、経験値と言い換えたとしよう。


一度『鑑定』したものの経験値を再度得るには一定以上のインターバルが必要であるという仕組みだった。


そのため、同じものを連続で『鑑定』しまくって経験値を稼ぐといったことができなかった。


1度『鑑定』したものからは2度と経験値を得ることができない、なんて場合よりも易しいのかもしれないが、それでもキツいことには違いない。


しかし、その分のリターンはあったと思いたい。


変更点としてはレベル3で視界全ての『鑑定』と個別ターゲティングでの『鑑定』をセレクトできるようになった。


これは非常に有能なアップデートだといえる。


いや、今までがゴミ仕様なだけというのもあると思うが。


今までは1回『鑑定』する事に視界が鑑定結果で覆われてしまい結果を確認しづらかった。


最初に兄弟達を一斉に『鑑定』したあれだ。


あれを行うと脳が処理オーバーし、頭がクラクラするのだ。


経験値を稼ぐ面では視界を一括っていう方がいいが、実践的なのは個別のものだろう。


1個1個やるには、対象の1つにのみピントを合わせて見つめ、それだけのことを考えなければならなかったので、この変更は本当にありがたかった。


次にレベル4の時の変更点。


これは『二重鑑定』だった。


最初は何も変化がなくて戸惑ったが、鑑定した結果をより詳しく鑑定できることだった。


まだ情報が不足している俺にとっては何よりもありがたいことであった。


この『二重鑑定』の詳細の説明についてはまた後でするとしよう。


最後にレベル5。


これはHP、MP、SPゲージの表示であった。


これによりステータスが存在することがわかった。


ますますゲームじみた世界だ。


ちなみに現状この3つのステータスが表示されるのは俺だけだ。


まだ俺以外のステータスを表示することはできない。


多分もっとレベルをあげたら見えるようになるんだろう。


今は願望でしかないが・・・。


だが自分で自分の体調を把握できるだけでも大きいので、最悪できなくても大丈夫だ。


なぜこのようなスキルを所持しているのかは不明だが、本当にあってよかったと心の底からそう思う。


有用そうなスキルだけにこれからも引き続き『鑑定』を随時実施して、レベルを上げて行きたいところである。


そして次の日。


いよいよ体にヒレが形成された。


これで身体は完全にオタマジャクシそのものになったといっていいだろう。


周りのオタマジャクシ等も着々と成長しており、時折身動ぎする姿が目に映る。


体が完成したことによって、卵を突き破って外へ飛び出せと本能が命じてくる。


今までの卵生活とのお別れは惜しいが、悔しいけどこのゲームみたいな世界にはやく挑戦してみたいという気持ちが勝る。


ふぅー。


さて、サバイバルスタートだな。


精一杯頑張るとしよう。


・・・でもあまりにクソゲーすぎる展開は止めてほしいなぁ。






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