はじまり

第1話 異世界で誕生?


ある朝、そうそれはなんてことのない朝のことだった。


高校2年も半ばが過ぎ去り、いよいよみんながみんな進路というものについて考え出すこのごろだ。


夏休みが明けて、誰も彼も学生は健気に学校へと通うようになる。


かくいう俺もその有象無象の1人だ。


依然として外の気温は高いものの、真夏と比較すれば若干日差しにとげとげしさを感じなくなったような気がする。


登校時に暑さでだれるのに違いはないのだが。


そのせいか、どうしてもネガティブな思考が溢れてくる。


はぁー、全くなんで学校に行く必要があるのだろうか。


学生は学業に勤しむのが仕事だなんだと宣うものがいるが、そんなことよりも好きな物に好きなだけ熱中した方がよっぽど健康的だと思うんだがな。


うちの両親を見てみろ。俺が今現在学校で習っている内容を少しでも使っている所を一度も見たことがないぞ?


それどころか分からない所を聞きに行けば、そんなものはとっくの昔に忘れたと言う始末だ。


これでは勉強をする気も失せるというものだ。


そんな将来使わないようなものに時間を費やすのならば、俺は好きなゲームだけをやり続けたい。


その点夏休みの間は最高だった。


1日中ゲームをやっていることができた至福の時間。


たまに親からのお小言が入るが、とりあえず課題を終わらせていれば特に文句も言われない。


課題は夏休みの初日の方にとっとと終わらせて、思う存分満喫した。


後半にまで残していると、心残りがあってうまく没入することができないからな。


友人等から誘われる予定なども特になく、誰にも邪魔はされることはなかったし。


ソシャゲのイベラン上位を争っていたときは本当に、睡眠も削って頑張った物だ。


学生ゆえ、課金制限がある中、それまで必死に貯めてきた石を使用して走り続けるのはとてもしんどかったが、その分やりきったときの達成感もすごかった。


ソシャゲだけでなく、他にもいろいろな種類のゲームを楽しんだ。


しかしながら来年度からは夏期補修なるものが存在するらしく、俺の快適なライフを邪魔しようとしているらしい。


頼めばどうにか免除をしてもらえないだろうか。


免除してほしいなー。


学校についてからもそんなくだらない思考を続けつつ、表向きはしっかりと授業を受けている振りをする。


窓の方を向いていたり、ずっと下を向いていたりすると真面目に取り組んでいないことに気付かれやすいからな。


こういうときは黒板の方を見つめ、時折手を動かすようにすれば問題ないのだ。


この授業の先生は番号順に生徒を当てるので、自分の番号周辺でのみしっかりと受け答えをするようにする。


基本的には教科書に書いてある内容をそのまま進めているだけなので、どれだけ進んだかを把握しておけばこれといった支障はないのだ。


そういったわけで今日の15時から始まるソシャゲのイベントをどうやって攻略しようか、また課金したいなーなんて思いながらいると、なんか突然フラッシュバンっていうのだろうか?


あんな感じの光の暴流が目の前に広がって、俺の目の前がチカチカとする。


なんだこれ、だれかがふざけて変な物を校内に持ち込んだのか?


うぇ、何か気持ち悪くなってきた。


目の前がぐにゅぐにゃとしてて、まっすぐ立てない。


意識が完全に無くなる前にふと周りを見渡した。


どうやら周りのヤツらや先生もこの光で気を失っているようだ。


あれ、主犯のやつが居るんじゃ無いのか?


全員ももれなく巻き込まれてるように見えるぞ。


かといって他クラスとかの奴らでも無さそうだ。


もしもそうならば、面白がって全員倒れたこの教室内に入ってくるだろう。


しかし、微塵もそのような気配が見られない。


やばい、これもしかして何かとんでもないことが起こっているんじゃないのか。


ただのフラッシュバン程度でこんな数十人が気絶なんかするだろうか。


とりあえず、俺の想像の埒外の事態が発生している事だけはわかった。


くそ、ふざけんなよ!


俺が今回のイベントをどれだけ楽しみにしていたと思っていやがる!


発表直後からガチャ石を貯めまくっていたし、昨日の直前メンテもイベントのためと我慢したんだ。負けてたまるかー!!


せっかく楽しみにしていたゲームのイベントが、よく分からない物のせいでスタートと同時に始められないかも知れないと思いふと怒りがこみ上げてきた。


今にも落ちそうになる意識を根性だけで必死で繋ぎ止める。


もう俺以外のやつはクラス全員意識を失っているようだ。


光との格闘は虚しく、終わりも見えてこない。


長い長い格闘の末、ついに俺の意識もプッツンと途切れてしまった。


■ ■ ■ ■ ■ ■


【全員の魂魄こんぱくをラスティアへ転送開始します】


【・・・】


【・・・】


【エラー発生】


【1名魂の過負荷による欠損・損失を確認】


【このまま転送することは出来ません】


【魂魄を修復しますか?】


【はい/いいえ】


【はい⬅/いいえ】


【修復しています。しばらくお待ちください】


【修復しています。しばらくお待ちください】


【完全に修復することは出来ませんでした】


【・・・】


【・・・】


【モンスターの魂魄へコンバートします。本当によろしいですか?】


【はい/いいえ】


【はい⬅/いいえ】


【コンバートを開始します】


【・・・】


【完了しました】


【ラスティアに転送を行います。本当によろしいですか?】


【はい/いいえ】


【はい⬅/いいえ】


【転送を開始します。転送には時間がかかります。しばらくお待ちください】


【□□□□□□□□3%】


【■□□□□□□□14%】


転送が開始されるのを確認した何かはそれまで見ていた画面から目を離し、一息ついた。


その転送を行ったものは、うまく転送することができなかった1つの魂を見つめていた。


うまく転送出来なかった魂のことを不憫に思ったそれは、彼に一つだけスキルを与えることにした。


■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■


異なる世界に送り込まれた魂魄達は、別々の光となり方々に散っていく。


散っていった魂達は様々な場所で妊婦の腹の中へ入り込んでいった。


しばらくお腹の中を動き回っていた魂だったが、やがて動かなくなり、完全に腹の中の赤子に定着した。


しかし散っていた魂の中から一つだけ、明らかに人が住んでいなさそうな遠く離れた離島へと行き着く。


雷が降り、暴風が吹き溢れ、その他にも激流が奔る川や、雪崩が散発的に起こる氷山などどれか1つだけでも地球では大災害と呼ばれるようなものが恒常的に発生している。


そんなありえないほどの過酷な環境が、なおかつ一つの場所に集約しているというずいぶんと奇妙な島であった。


大きな鳥、恐らく猛禽類であろう鳥に襲われそうなお腹の大きなカエル。


その皮膜は透けていて、いくつもの黒い小さな粒々が見て取れた。


その中の一つに、1つだけ変な方向に散っていた魂が入り込んだ。


■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■


はっ!俺寝てた!?


くそっ、古典の白鳥先生は居眠りすると漢文をノート10ページ写すとかいう苦行を科せられるのに・・・。


放課後にそんなことをやっていれば、イベントの順位はとてもではないが挽回できないだろう。


まだ、バレてないか?


自分で寝ていることに気付いたってことは、まだバレていないよな?


いや、白鳥先生は、寝ていた本人が気がつくまでは放置するタイプだ。


もしかしたら、もう気付かれているかも・・・。


いや、そんな可能性の話をしていてもしょうがないだろう。


今俺にできることは、寝ていたことを気付かれていないことを願って、ゆっくりとさも勉強をしていましたっていう振る舞いをすることだ。


もう、それにかけるしか方法は無い。


なんてことを考えていたが、どうやら様子がおかしい。


筆記用具がない、椅子がない、机が無い。


教科書や鞄すら無い。


これでは勉強していた振りができないではないか。


いや、それどころじゃない。


どうやらここは教室では無いようだ。


周りに居たはずの他の生徒や、先生、黒板なんかも見当たらないのだ。


ゆっくりと辺りを見渡すと、そこには黒い粒々が大量に浮かんでいるのが見受けられる。


材質はいわゆるゼラチンっぽい感じ。


ぶるんぶるんってなってる。


しかもよーく観察してみると、それらはかすかに動いている。


うわぁー!


気持ち悪いっ!!


気持ち悪いっ!!


気持ち悪いーーっ!!


なにこれ!?


集合体恐怖症であれば、発狂物だぞ?


突然周りに、変な黒い●のやつらに囲まれて正気を失いかけたが、時間を掛けてゆっくりと平静を取り戻す。


そうしてしばらく見つめていると、どうやらそれが自分の知識に照らし合わせるならオタマジャクシであるという結論に至った。


透明なゼラチン質の中の黒い丸には、目や小さな尾びれがあり、その姿はオタマジャクシとみて間違いないだろう。


なんでオタマジャクシ?が俺の周囲にあるんだろう。


ていうかでかすぎだろう。


1個1個が俺の身体と同じくらいの大きさだぞ?


ひとまずここを抜け出さないとな・・・。


そうしてこの卵をかき分けようと手を伸ばす。


手を・・・。



そうして俺は自身の身体を見つめると、そこには周囲の黒い丸と同じような身体がそこにはあった。


は?


・・・!?


俺、オタマジャクシになっている!?


これっていわゆる転生っていうやつだよな・・・。


何度見直してみても、自分の体はオタマジャクシであるという現実は覆らず、夢と思いたくて頬を抓ろうとするも手足がないことを否が応でも突きつけられ、余計に落ち込む事になった。


ふざけんなよ!なんでよりによってオタマジャクシなんだよ。


人間に転生させろよ!オタマジャクシじゃゲームが出来んだろうが!


そしてしばらく考えていた後オタマジャクシの向こう側に景色が見えることに気がついた。


それは皮膜だった。


外側が見えるほどの透明度の高い皮膜。


皮膜は呼吸に合わせて、伸びたり縮んだりしていた。


状況的に考えて、これは俺や俺の周りにいるこいつらの親ガエルの身体なのだろう。


このカエルなぜか身体の中心部の紫色の石があるようだった。


まるで宝石のような質感。


あんなのが身体についてるカエルなんていたっけ?


疑問が押し寄せる中、皮膜越しに空からカエルに向かって爪をつき立てようとする大きな鳥が迫ってくるのが見えた。


おい、やばい、狙われているぞ!


あんな鳥見たことないけど、とにかくやばい!


お前が死んだら、お前の中にいる卵である俺すら死ぬことになるんだぞ。


何もできないで巻き込まれて死ぬなんてやだ。


せめて死ぬならゲームをやりながら死にたい・・・。


うぅ、カエルが大きな鳥に勝つところなんて想像できないし、どうすればいいんだぁっ!!


爪がもうじき接触しそうで、もうダメだと思ったその瞬間、親ガエルは大きく跳躍し、華麗に鳥を躱した。


気付いていたのか、こいつ。


そんな素振り見せてなかったからてっきり気付いていないのかと思っていた。


しかし気持ち悪い。


跳躍したことでカエルの腹の中は激しくシャッフルされた。


酷く揺れた腹の中で、必死に外の様子を見つめる。


今のは攻撃をたった1回避けただけだ。


まだ油断はできない。


死ぬかも知れないのに、グロッキーになっている暇はないぞ。


奇襲を避けられた鳥は怒り、再び翼をはためかせながらカエルに向かってくる。


カエルはそれに対して、鳥に向かって口から何かを吐き出した。


その何かは鳥に当たるとはじけ飛び、その中の液体に当たった鳥は酷くもがき苦しんでいた。


・・・もしかして今吐いたのって卵かよ。


こいつ子供武器にしてんのかよ。


しかもあの反応、この卵毒があるのか?


こんな生物見たことない。


もしかしてここって地球ですら無いのか・・・?


鳥を仕留め終えたカエルはそのまま丸呑みにする。


そして腹を満たした後、水辺に残った卵を植え付けていくのだった。


危ねー。


一応産んではくれるのか。


あのままお腹の中にいたらそのうち俺も武器にされてたのかな。


とりあえず、今の現状として俺自身がオタマジャクシであるということからは逃れることはできそうにない。


さて、その場合はどうするかだよな。


ワンチャンこれが全部嘘・夢とかいう展開はねーかな?


死んだら元の教室に戻るみたいな。


・・・なさそーだな。


こんだけ質感がリアルな夢なんてそうそうないだろ。


頬をつねってまで確認はできていないけど。


とりあえず覚悟だけは決めとくか。


・・・しばらくはゲームできないなんて(泣)。


というか戻る方法ってそもそもあるのかね?


まずは探さないといけないんだけど、この姿でどうやって探せばいいんだろうか。


■ ■ ■ ■ ■


彼はまだ知らない。


そこは人が住む場所から遠く離れた場所。


島の外には激しい海流が絶えず起こり、五つの厳しい環境が入り乱れる上に、超凶暴なモンスターが絶えず発生する、今まで誰一人として生きて戻ったことのないようなおとぎ話として語られているような島であると言うことを。


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