第6話 フェンリルがペットになりました!

 もう長くない。

 フェンリル デルタは思った。

 300年前。本来闇を浄化し光の魔力を放つはずの【起源の宝珠】が突如闇の魔力を放ちはじめ、聖獣の森を闇の魔力に染めていった。

 森の動物達は魔物と化し、強い力を持つと言われる聖獣達もすぐにモンスターへと化すことはなかったが、300年という長い年月の間に侵食され、一匹、また一匹とモンスターになってしまったのだ。


 そして聖獣フェンリルであるデルタもまた、闇に呑まれモンスターに変わり果てようとしていた。


 この300年、何度も宝珠の闇を払おうと様々な試行錯誤はした。

 けれど闇にそまった宝珠は光を放つことはなく、その地に生える木々や聖獣達を闇属性の魔物へと変貌させてしまったのだ。

 森を守るフェンリルが故、森を出ると言う選択肢は彼にはなかった。


 ――いや、今思えば、外で手掛かりを探そうという思考回路までも闇に侵され鈍ってしまったのかもしれない。まったくそのような発想が浮かばなかったのだ。


 薄れゆく意識の中で、何か奇妙な魔力を感じ、その場に行ってみれば、人間の男と女がいた。

 男は気を失っているようだが、女は起きている。


 魔の森に人間がくるなど何百年ぶりだろう?

 【起源の宝珠】が闇の魔力を放つようになってから人間はこの森には来なくなっていたのに。


 ――ああ、殺して貪り食いたい――


 デルタは思い、よだれを垂らした。

 そして気づく、思考がモンスター化していると。

 どうやら我ももう長くないようだ。

 自分とともに無事だった兄弟達はせめて闇に呑まれず無事にいてくれるといいのだが――


 この森に居る限り、その願いは届かないだろう。

 恐らく弟のベガもアルもそう遠くない未来に魔物化してしまう、もしくはもう魔物化しているかもしれない。


 デルタの意識が薄れゆく中、目の前の人間の女がステータス画面を開きながら叫ぶ『指定』と。



□■□


「う、上手くいった?」


 私は黒い靄がはれた、銀色の狼を見ながらつぶやいた。

 あの後、銀の狼にスキル【指定】を使ってみたのだけれど、でてきた選択肢は


 ▽▽▽


 ●フェンリル・デルタの呪いをときますか?


 ▶はい いいえ


 △△△


 だったので、速攻「はい」を押した。

 そうしたら、銀色の狼の黒い霧が晴れ、銀色狼がふるふると震えてる。こ、これはどういうことだろう?

 そして銀色の狼が私を見た後


「キャン!!!!」


 可愛い声をあげながら、私に尻尾を振った。


 も、もしかして……助かった……のかな?

 私がへなへなとその場に座り込めば、銀の狼は嬉しそうに顔をすりすりと擦り付けてくる。

 なんだか友好的になったからきっと大丈夫だよね?

 私がおそるおそる背中を撫でれば銀の狼は嬉しそうに尻尾を振ってくれる。

 うん、可愛い。


 そして突然目の前にステータスウィンドウが開く。


「へ?」


 私がそのステータスウィンドウを見れば


 ▽▽▽


 フェンリルデルタをペットにしますか?


 ▶はい いいえ



 △△△


 と、出た。


「君、私のペットになってくれるの?」


 と私がおずおずと聞けば、ワンちゃんは「わんっ!!!」と嬉しそうに吠えた後、キラキラした目で私の事を見ている。


 確かフェンリルってファンタジー系では超強い狼だよね?

 その子がペットになってくれるなら森での安全も保障されるかも?

 

 私がデルを見れば、気持ち先ほどより小さくなっている感じもする。

 どこからどう見ても普通のワンちゃんだ。

 でも、一人よりもずっと心強いし、仲間になってくれるなら、なってもらおうかな?


 私はでてきた「はい」ボタンを押せば、


 ▽▽▽


 フェンリル【デルタ】レベル400が貴方のペットになりました



 △△△

 

 と、表示される。


「ええっ、凄い!レベル400!?」


 私がデルを見れば、デルはちょっと得意そうにふふんと言う顔をして尻尾をパタパタ振っている。

 うん。こう見ると本当に……ワンちゃんにしか見えない。

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