一話完結 ヒーローである為に


「符の扱いに秀でたものがあるな。ならお前は二班だ。

二班の目的は一班の支援・退路を断たれないよう防衛を行う。質問がなければ行け。

…最後に姫野。前に言ったお前の信念とやら。改める気はないのか。」


「はい。全くありません。あーしはあーしの考えが間違っているとは思えないし、あーしの目標の為にも信念を曲げる気はありません。」


「…そうか。ならお前は三班だ。三班は逃げ遅れた市民の避難誘導と討ち漏らした妖魔の各自撃破を行う。分かったら行け。」


「……はい。」


詳細な作戦内容の説明を受けるべく持ち場へ向かう背にため息をついて、名簿の名を目にもう一度浅くため息をついた


「ヒーローは期間限定、か。大人になってしまう前に早く気づいてくれるといいんだがな。」



~ 遡ること数週間



「いいか!俺の仕事はお前ら新人を全員生かして帰すことだ!

分かったのなら俺の命令を聞け!二度と勝手な行動をするな!!

お前の所為で、危うくお前の同期が二人死んでいたかも知れないんだぞ!」


「…じゃあ。じゃああの子は!見殺しにして両親だけ助けるのがアンタの命令だって言うの!!?

あーしは納得いかない。手の届くだけの命を救う。天照はそんな場所じゃない!

太陽の光を浴びる権利は誰にだってあるんだ!天照は救う命を選ばない!」


「それはお前らのようなちっぽけな新人のやることじゃない!

見たか!お前が持ち場を離れた。陣形が崩れた。だから二人が怪我を負った!

今頃はベッドで二人包帯に巻かれ、輸血パックの下かも知れんなぁ!!

それでも幸運だった!十分に訓練を積んだ二人だったからこそそれだけで済んだ!

お前は!妖魔に襲われ死に掛かったガキ一人救う為に!!一般市民と刀遣い。四人の命を危険に晒したんだ!!!


…もう一度だけ言うぞ。姫野。俺の命令に従え。二度と勝手な真似はするな。いいな?これは命令だ。従えないのなら今すぐに天照を去れ。

お前のような半端者に救える命は、ない。」


ドンと突き放した肩は数歩よろけてから立ち止まり、拳をわなわなと震わせる

下げていた目線がもう一度上がる頃にはその目に覚悟を宿してしまっていた


「…命令には従います。でも二つ。絶対に譲れないことがあります。

あーしにはキャプテンアメリカみたいな強い身体がある訳でも、ハルクみたいに変身できる訳でも、スパイダーマンのように超能力がある訳でもない。

でも。それでもあーしは助けを求める人を。助けられる人を見殺しにするようなことはしません。ヒーローは例え勝てない相手だったとしても。立ち塞がったらもう背中は向けないんです。だから、そんな命令はしないでください。

それと、あーしのヒーローを否定しないでください。


天照は。ヒーローは。アンタみたいに弱気じゃない。」


強い目をしたまま彼女は歩き去ってしまった。向こうは…医務室か。

あの子は、きっと。…長くない。



歩きながら考える。

あーしは絶対に折れ曲がらない。ヒーローは敵を倒せる武器を持った人じゃない。その背中に誰かを守る為に武器を手に取った人のことを言うんだ。

あーしは武器を持てない人の盾で。武器だ。

ヒーローになれるまで。何度頭を下げたっていい。強くなる為だったら嫌な奴に命令されるのもいい。でも、あーしは錆びない。絶対に曲がってなんかもやるもんか。

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