部室


 いつも通りの朝の時間に文芸部に着くと、そこにはギャル子が寝ている姿があった。

 あどけない寝顔は警戒心が全く無かった。


 俺はギャル子の身体の上に、タオルケットをかけてあげてソファーに座る。

 

 すかーすかーっと寝ているギャル子を見る。


 ――普段よりも綺麗に見えるのは何故だ? 意識してしまったのか?


 俺は特に何をするわけでも無く、ギャル子を見つめる。


「――いつからだったんだ? ……俺の事を好きって」


 隣から声が聞こえてきた。


「……多分、出会った時から。ギャル子は田中に話しかけられて喜んでいた」


「おわ!? さ、佐藤さん!?」


 ――えっと……佐藤さん? なんでそんなに突然現れるの!? というか質問に答えてるよ!?


 佐藤さんもギャル子の事を凝視していた。その眼差しはまるで妹を見るような温かい空気であった。


「……鈴木は可愛い。……凄く魅力的。おっぱいボインボイン」


 佐藤さんは自分の胸に手を当てる。……気にしてるんだな。


 ギャル子が身動ぎをする。

 寝ぼけた顔で身体を起こし、周囲を見渡す。


「ふわぁ……、ねむ。……祐希、もう少ししたら起こして……、ってなんで二人で私の事凝視してるの!? こ、怖いよ」


 佐藤さんがギャル子に近づいた。

 そして、何故か頭を撫でてあげていた。


「――鈴木。頑張った。……私は鈴木の事が好き」


「え、ちょっと、何? 瑠香、どうしたの? ま、まさか私が祐希に好きって言ったのバレちゃったの!?」


 佐藤さんは首をかしげた。


「……ん、今鈴木の口から聞いた。祐希を見て大体察せたけど」


 ギャル子は叫んだ。


「んっ、のおおぅぅぅぅ!! なんで私は自分からバラしてるの!! いや、今日言おうと思ってたけどさ!! もう、私のバカ!」


「鈴木、よしよし」


 佐藤さんは俺を指差す。


「――鈴木。田中の事が好きってモロバレ。……そんな鈴木が大好きで、幸せになって欲しい……けど、私も欲張りだってわかっちゃった。そんな自分が嫌いになりそう……」


 ギャル子は佐藤さんの手を取る。


「瑠香……。いいの、我慢しなくて。だって、うちら友達でしょ? 後腐れないっしょ! 大丈夫、どんな事があってもこの先ずっと友達だよ! ほら、瑠香も勇気を出して」


「鈴木……ありがと」


 佐藤さんはトコトコと俺に抱きついてきた!?

 柔らかい女の子の感触が広がる。


 ――なんでだ? 以前胸に飛び込まれた時と……違う? この感情は……。


 佐藤さんは顔を上げて、上目遣いで俺に言い放った。





「――私は田中と結婚する。――田中、好き……」





 俺の思考は停止してしまった。

 胸からこみ上げてくる感情を抑えられない。


 ギャル子はこちらを見て、赤面していた。


 俺は……思わず強く抱きしめそうになってしまう身体を抑える。


 ――なんだこの選択肢は? 俺は二人からどちらかを選ばなきゃいけないのか?



 ギャル子も立ち上がった。


「わ、私だって負けないんもん! ゆ、祐希をメロメロにするわ!!」


 ギャル子まで飛び込んできそうになった時、部室に新たな気配が出現した。




「……うぅ、私だけのけものでずるいの。……私だって祐希君の事は好きだけど、弟みたいな感覚だし……」


 本を抱えた高橋さんが現れた。

 高橋さんは流し目で俺に囁いた。


「ねえ、祐希君、年上のお姉さんは嫌?」


「鈴木」


「うん、瑠香」


 二人は俺から離れて高橋さんの元へと向かった。

 それは獲物を狙う肉食獣のような鋭い目。


 二人は高橋さんの身体をくすぐり始めた。


「あ、あは、や、やめれ……ひゃっ、く、くすぐったいの!! ひゃんっ、だ、駄目!? わ、分かったわ……じょ、冗談は言わないから! ゆ、許して……」


 高橋さんの悲鳴が部室に響いた。




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