自分たちの居場所
「はぁ、はぁ……し、心臓がバクバク言っちゃってます……」
「可憐は運動不足……お肉……ふくよか」
「ほら、馬鹿な事言ってないで早く行くわよ!」
俺たちは廊下を歩く。
すれ違う生徒達は何事か!? と立ち止まって佐藤さん達に見惚れてしまう。
やっと俺の心が落ち着いてきた。
歩きながら俺はみんなに……謝罪をする。
「みんな、俺のせいで巻き込んでしまって、本当にごめん」
ぽかっ、という音が俺の頭に響く。
それは全然痛くない優しいげんこつであった。
高橋さんが頬をふくらませる。……足が震えているのが見えてしまった。
「も、もう! 謝っちゃ駄目ですよ! だって、わ、私達は私達で考えて行動に移したんですから!」
未だ腕にひっついているギャル子も後に続く。
……ちょっと近すぎだよね!? ……でもギャル子の心臓の鼓動が早いのが分かる。
「そうだよ。うちらは好き勝手にしてるだけ。……それにアイツら私達が誰だかわからなかったんじゃない? ボッチ舐めんなよ! ははっ」
佐藤さんは俺の手をブンブン振り回す。ああ、気持ちが高ぶっているんだな。
「……田中。そういう時は謝罪じゃない」
そうだよな……俺だって逆の立場だったら……。
うん、
「みんな、ありがとう。本当にありがとう……おかげで助かった」
俺は心からのお礼をみんなに伝える。
みんな何故か顔を赤らめてしまった?
「う、うう、やっぱり祐希君の笑顔は……」
「ああ、やべーな」
「ふふ、田中……凄い」
みんなの空気が落ち着くのを感じた。
俺は和やかな空気のまま、とある部屋の前まで連れてかれた。
『文芸部』
ここは図書室にほど近い小さな部室であった。
……確かこの学校は文芸部員がいなくて、廃部だったよな?
ギャル子が偉そうに俺に告げた。
「ふっふーん! なんと、この空き部屋をゲットしたんだよ!」
「わ、私が手続きしたのに……もう! 鈴木さんったら」
「……ここ、私達で使う……私達だけの居場所」
佐藤さんが文芸部の扉を開け放つ。
そこは、意外と小綺麗に掃除された本だらけの部屋であった。
中央にソファーと机があって、壁にある本棚には沢山の本が置いてある。
ソファーには薄っすらと人影があった。
――光君?
光君は立ち上がって僕に告げた。
「――やっと連れて来たな。……これで文芸部が復活してこの部室も使える。ああ、とっととこの書類にサインをしてくれ。僕が担任に提出しておく。あっ、君らは文芸部の活動はしなくていいから。ここにいてくれるだけでいい」
光君が俺に近づく。良い匂いが鼻をくすぐる。
何故か光君はスンスンと俺の匂いを嗅いでいた。
「ちょっと、光! は、はしたないよ!」
「はっ、これは失敬」
高橋さんが俺と光君を引き離す。
……なんだこの状況?
光君は佇まいを正す。
「……学校という狭い世界だけを見るな。……ボッチの世界は広いぞ」
――広い世界?
そう言うと、光君は部室から立ち去ろとする。
「あ、待って、光君! 動画ありがとう!!」
小柄で可愛い光君は手を上げて答えて、颯爽と校内へと消えていった。
立ち尽くす俺を尻目に、ギャル子がソファーへダイブしていた!?
「いやっふー! ふっかふか! ねえ、ここってペット連れてきちゃ駄目?」
「……駄目に決まってる。可憐でお腹一杯」
――そう言えば、なんでみんな普通に話してるんだ? まるで……
「友達だったのか? みんな?」
本を取ろうとしていた高橋さん、弁当を広げようとしていた佐藤さん、スマホでわんこを見ていたギャル子。三人の視線が俺に集中した。
そして、高橋さんがゆっくりと口を開いた。
「……友達、というか仲間というか……じゃあ、お弁当を食べながら話しましょうか? 田……祐希君の話も聞きたいですし。私達、祐希君の状況はあまり分かってないから……佐藤さんが一番詳しいけど、ちゃんと聞きたいです」
「別に友達でいいじゃん! でもさ、昼休みじゃ時間足りなくない? とりあえずご飯食べよ! ほら、うちが作った肉じゃがだよ!」
「……む、私だって……ナポリタン作った」
「あーもう! 話が進まないです! じゃあ、今日の放課後、みんなで集まって……お茶会しながら話しましょ! ふふ、仲間とお茶会……」
俺は高橋さんのキラキラした目にたじろいだ。
「高橋さん、そ、そんな楽しい話ではないですけど……。まあ、今は色々忘れて、みんなでお弁当を楽しみましょうか」
俺たちはみんなでソファーに座ってお弁当を食べることにした。
ギャル子が佐藤さんのナポリタンをつまみ食いする。
佐藤さんは俺の唐揚げを奪い取る。
高橋さんはみんなのお茶を注いでくれて、温かい目で俺たちを見つめる。
――これがボッチ仲間……友達でいいのか?
俺はこの空間にいつまでも存在していたいと思ってしまった。
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