296 巣窟
本作品は群像劇です、目線、日時にご注意下さい
2/25 13:30
「ちっ、ロクなもん出しやがらねぇでやんの」
珍しく手ぶらでは無い巫女が袋を片手にくだを巻く
その少し後ろでは多少気分の和(やわ)らいだ二日酔いの若者が松明(たいまつ)を灯している
「しょうがないですよ、友好関係であっても急にお邪魔している様なものですし、そもそもどちらかと言えばお願いしている側な訳で」
「クソ、さっきのヤツにたかるべきだったか」
「あ~まぁ言いたい事は分からんでもないのぉ コレがあるからまだ良いんじゃが」
先頭の赤鬼は後ろを振り向くといった事はせず
片手に持ったもう何本目になるのか分からない小瓶を逆さに振る
口を開け、覗く様に最後の一滴を待ってから
「あっしも思っとたよっっと!」
前方へとぶん投げる
その投擲(とうてき)は
ブン
と素振りをした様な音では無く
ボッ!
とガスに火が付いた様な音
そんな音に近しいと思ったのは恐らく
その後の擬音も爆発音に近かったからだ
剛速球が命中、直撃したソレから鈍(にぶ)い音はせず、綺麗に パァァァ と言う具合の高い音が鳴った
かと思えばドカンと破裂音
少しだけ遅れて
「ギャアア」
「ギィイィ」
「ギャアギャア」
濁った汚い声がした
「気を付けて下さいね? 数だけじゃなく武器持ちもいるかもですから」
バルは状況を特別詳しくは確認せず、灯った松明を前へ放ると休まず次の物に点火を始める
雑に見えるその行動は二日酔いだからとかそういった訳では無い
忠告はするものの、、心配がいらないからだ
「カカカ、こんなん虫らに比べたら脅威(きょうい)のきょの字にもならんっっちゅうの」
カセンはバルの投げた灯(あか)りを追い、その『瞬間』だけで周辺にいた二体の敵をパーで張り倒し、地に着けた
俗に言うエイリアンの様な姿をした相手をそのまま掴み、振り回し、周囲の者を蹴散らすと次の目標へと目を向ける
追加とばかりに投げられた松明、それと敵側
続けて五回程同じ様に飛んでは跳ねてが繰り返された
あっという間だ
確認取れる程に篝火(かがりび)が増えた時には既にその鬼と対峙している者はいなかった
多少の火の粉と煤(すす)を払い、新しいモノを開け
「んっくんっく くあああああ」
美味そうに呷る
舞台は変わらずの炭鉱内、だが少し深い場所まで来ている
一行は自ら案内役を買って出てくれた?ギンのおかげで早々にドワーフ王の元へと到着出来た
、、そこまでは良かったのだが
環境の違いやら考え方の相違(そうい)もあってか、簡単な説明だけでは分かってもらえず
昼を過ぎた
中々に話がまとまらないので
「ふぅ、では私はこちらにいる間だけでも貢献出来る様に動こうと思います、後はこの者から詳しい話を、、」と巫女は従者に押し付け部屋を出た
というのも、種族全体的にドワーフは少々頭が固い傾向にありどうにもこうにもテンポが悪い
しかしながら王都の賢人であるルク王からの紹介だ、手柄の一つでも付ければ首を縦にも振るだろう、、と住み着いてしまった魔物の討伐を志願した形だ
話を後ろで聞いていた案内人は上機嫌に巣窟(そうくつ)を記した地図を渡して来た
ニヤけ顔にはイラっとしたものの一礼を済ませ、退室する
その際にドワーフ王から「すまないな昼を過ぎてしまった、ワシの分だったのだが向かいながらにでも食うと良い」と手渡されたのが兵糧丸(ひょうろうがん)の様な物が入っただけの袋
仮にも王の昼食、、期待を裏切られた様な気分といった所だ
巫女は美味くも無い塊を頬張りながら赤鬼の元へと向かう
「ご苦労、褒美だ」
「お~お~なんじゃなんじゃ、文句言いつつ結局食うとるんか けどあっしはいらんぞ?」
「コレはさっきのが最後だ もう入ってない」
手を叩(はた)き、袋をほん投げる
「全員分食ったんかい!」
「まぁ落ち着け、もっと良い物だ 有難く思え」
少女?は外套(がいとう)の内ポケットから何かを取り出し、コロンと赤鬼の手に乗せる
「、、、あ~、シエルよ? 一回馬車に戻るとか言うとったんはこんなもん持って来る為じゃったんか?」
「なんだ? いらねんなら返せコラ」
「食い物くれるのも珍しいから頂きたいのも山々なんじゃが、食すでも中身だけにしとくべきだとは思うぞ?」
赤鬼は摘まんだソノ褒美?を眺め苦笑いを浮かべる
「はっ馬鹿か?流石に食わね~っつの むぐむぐ クッソ食いにきぃしジャリジャリする ペッ! けど此処のモンよりは美味ぇぞ」
キャラもキャラだ、今更おバカキャラを狙っている訳では無い
巫女が噛み砕いては ペッっと吐き出しているのは港で土産用にと頂いたシジミやアサリの様な小さな食用貝だ
新鮮な物を丁寧に砂抜きしてあるのでジャリジャリする筈が無いのだが
そりゃそうだ
正に生食、殻ごとガリッ、、いや、バキン!! と噛み潰し、モゴモゴしてから器用に割れた外部分だけを吐きだす
ミスったら内頬、口内の肉を持ってく勢いだ
ソレを当たり前かの様な顔で三つ四つと続けている
「ぷふ あっはっは、なんじゃろうなぁ シエルはやっぱり食べ物系だけはどうもアホじゃのぉ」
「ぁ?」
「まぁまぁ、新鮮ですし刺身としてだと思えば大丈夫、、かどうかは知らないですけど、とりあえず進みましょうか」
間に入りつつ話を進め、バルは思った
今回の外れ枠、もしかして俺かな?
帰ったら亭主には優しく接しようと決めたのであった
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