279 醜態
本作品は群像劇です、目線、日時にご注意下さい
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「しかしすっげぇ事考えんな~」
亭主はわざとらしさのある表情を浮かべ、じゃれる様に若者の脇腹を突く
なんだかんだ女子連中には出来ないちょっかいだ
「やめて下さいよ~ ふふ」
「ははっくっそ~富豪め! 儲かったら少し分け前くれよ~?」
本気で言っている訳では無い
だがこれには商人も素の顔に戻った
「え、何言ってるんですか? 言ったでしょう?」
「へ?」
「投資だって」
「 マジで?」
咄嗟の事で黒い目を大きくし、心の中では喜んだが声のトーンに少し間を置いた
「火薬代は使わなかった分も含めて王様から頂いてます、ですからジンさんに対しての請求なんてしません なんならおつりが出ますよ?」
「え~、へっへ いやでも、なぁ」
(そりゃ欲しいは欲しいけど)
自分で念の為仕掛けた罠みたいなもんだ、棚ぼたとまでは思っていない
だが情報を吸って信用し行動したのは全てリッツな訳で
店内増築の金額だってそうだ、流石に気が引ける、、
それと
別の情報を吸おうと嗅ぎ分けた様なリッツの視線に耐え切れなくなった
とりあえずは厭(いや)らしい顔を見られない様にと厨房へ逃げ込み、品定めの振りをしてカウンターで身を隠すのだが
「来週にでもまた食材の山をお届けしますね」
流石である
ソレなら受け取りやすいと、嫌味の無い
本当に営業マンの鑑(かがみ)というやつだ
「はぁ、マジで優秀だよな~勝てる気しないわ、何?人生二回目とかなん? ほんと若くして死なない様に気を付けろよ?」
こっちの連中に元ネタなんて分る筈も無いので軽い嫌味、いや、こんなの
捨て台詞にすらならないのだが
悔しさもある訳で、、
他愛無い会話で分かるさ
一応グレーな会社で中間管理職まではやってたんだ
本当にこの青年は優秀だ
年齢にしては擦れてる癖にひねくれていない
発想しかりそれに伴う行動力に加え度胸まであると来たもんだ
正直、心情
戦闘能力が無い組として
能ある、爪を隠せていない賢明な、懸命な青年に
本当は心からエールを贈りたい筈なんだが
恥ずかしながら
嫉妬している
・・・
「ん~なんか他に役立てそうな話あっかな~なんか、、俺も負けない様に考えるかな~」
亭主は思ってもみない小言を溢し、逃げ込んだ先で寸胴の中身を覗く
「あ、やっべそっかもう鶏ガラ無くなってたか どうすっかな」
違う事に没頭しようと、独り言のつもりだったのだが
「にん、じゃない ジン! 何か無くなったのかしら? ガラ? 何だったら我がぁ」
ロリっ子と目が合った
「あぁいや大丈夫大丈夫、気にしないで」
すぐに面倒臭そうなのから目線を外し、煮立たせきってしまったスープの素をかき集める
「まだ焦げてないし勿体無いからな~」
最近増えた独り言をまたも呟き
革手を使い空になった寸胴を床へと置く
それに応(こた)える様に
「ふふん、じゃあこれは私が洗っておくのよ」
「おまっ!」
「駄目!!」
幼女が両手で抱える
より速く
カン!
と良い音を鳴らし寸胴が横に蹴られる
そしてそのまま
「バッカじゃないの? あっついままなんでその辺に置いちゃうの!?」
手に持つドリンクを溢したツインテールが怒鳴る
「え、あ、いや だって その、、すまん」
情けない顔で倍近く離れた、バイトを始めたばかりの様な小娘に頭を下げる
「ご、ごめんなさい、あの、私 お手伝いしようと 思って」
その下では吸血鬼があうあうと口を曲げながら未成年者を見上げている
「違っ!ロゼちゃんに怒ったんじゃなくて」
余計に気まずいってもんだ
「そう、そうだよロゼが謝る事じゃないんだって」
「カカカ、なんじゃあ過保護じゃのぉ」
空気を読んだかの様に赤鬼が転がった寸胴を拾い保存庫から顔を出す
「まぁ悪い事してないんじゃから謝らんでも良いとは思うがもう作業後じゃろ? カンカンって訳でもあるまいしちょっとくらいあちちってなって覚えるもんじゃろが」
「だって!? ロゼちゃんまだこんな小っちゃいんだよ?」
「あっはっは、でっかいのがやったら間抜けなだけじゃな」
アルの頭をペシペシと二度程撫で、ロゼに向かい膝を折る
「ほれ、頑張って磨くんじゃよ」
焦げてるとかでも無く、軽く洗うだけなのだが
「ま、任せるのよ! ちゃんと、みがく? かくんだから」
取っ手を掴み洗い場へと向かう
そこにまたも空気を読んだ、、訳では無いのだが
一連の流れをカウンター越しに眺めていた巫女が口を開く
「なんかてめぇら見てると年齢の概念無くすな」
その後ろでは従者が
ソレお前言う? みたいな顔をしていた
尚
この一件以降ギルドの寸胴には
鳥『柄』のペイントがされたとか
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