256 登山

本作品は群像劇です、目線、日時にご注意下さい



2/24 12:30


「そろそろランチにする~? ねぇ  ね~え」


「はぁ ふぅ  まっ、まって はぁ もうちょい、らしいから」


「むぅ!でもラフィ長い事「もうちょっと、あとちょっと」って言ってるわよ?」

幼女が頬を膨らませ眉を寄せる


「ふぅ はぁ、あぁぅ˝ん、そう!ソレナ」(ホントソレナ)

思い切り空気を吸ってから肩を揺らし、再び息を切らす


それでも精一杯愛想笑いを振り撒く三十路

それを見上げながら周りをちょろちょろとしているのは某館のお嬢様だ

二人は少し前の高台でキョロキョロと辺りを見回しているエルフを見上げ、、登山中だ


何回か時間を置きながら

何度も何度も確認をした


「大丈夫?」「まさか迷子じゃないよね~」「、、迷ってないよね?」「あの~」「ラフィさん?」と

しかし返って来た言葉は

「うむ」「問題無いぞ」「あぁ正規のルートだ」「どうした?」「おんぶするか?」ですはい


しっかり言う事を言う

と言うのは仲間内において良い事だ


・・・


って!いやいや違う、違うんスよ聞いて?

言いたい事はもっとだ、もっともっと沢山ある

だってまずよ?

気付いてると思うけども



片道三日もかかってんだわ! (かかるなら先に言って下さい覚悟とかもいるんですーお願いしますー!)



正直普通に考えたら頭おかしい、うんだってラフィだもんそうだよそうだったよ

だがその辺は本当に流石だよ姫様


食料やら水分の調達、その不安やストレスが全く無く

山や森での歩き方、休憩するペースなのか速度調整が上手いのか通常の登山とは倦怠感(けんたいかん)がまるで違う

声の掛け方とかその辺は人間性なのだろうが、、ニコニコして手を引いたりとかもう反則ナンデスヨネ



「お~い、大丈夫か~ロゼ~ジン殿~、もうすぐだ~すぐそこだぞ~」


その言葉を信じても良い物なのだろうか


、、と言うか「すぐ」の距離や時間の感覚?が違うんだきっと

遅い昼食を食べたのはこの後2時間以上歩いた後である







「むぅ、空いてはいるのだが礼儀としてな、出てしまっているみたいだ」

エルフが扉を閉め直し三十路の方に頭を下げる


「いやうん、家族でも自分ちに帰ったら勝手に居座ってるとか嫌でしょし全然!ラフィが謝る事じゃないし良いよ、待とうよ」


「すまないな、この辺で自由に寛(くつろ)いでいてくれ、私は今のうちに夕飯用の何かを捕って来るとしよう」

ウッドデッキの椅子を指差すと大剣を地に刺し、弓矢を手にする


ラフィはうきうきした様に楽しそうな表情を浮かべながら腕を捲(まく)り、颯爽(さっそう)と先程来た方角へと戻った


(ん~あれか?久々に会う親になんか良い物食わしたいって感じ?)

「本当に良い子だよな~、よっせと」

三十路は独り言の様に呟くと設置されているテーブルへリュックを置き直し、中身を覗く


「塩~はまだ大丈夫か、味噌だな、もっと持ってくりゃ良かったか、だけどなんだかんだでちょっとしたサバイバル感もあって楽しかったなぁ」

ここ最近、小さい子相手をしているせいか独り言が大きくなったような気がする


そして


「ねぇジン」

残り少ない調味料を整理していると腰元から服が引かれる


「ん~?」


「お腹いっぱいになったからあっちで日向ぼっこしてても良いかしら」


張本人だ

日向ぼっこ、、吸血鬼とは思えない台詞を並べ幼女が見上げている


「あぁはいはい良い天気だもんな~あんま遠くに行くなよ?」


「は~い」


ってかもうどっちなんだろうか

ロゼが本当は吸血鬼では無いとかなのか

それともヴァンパイア伝説とかがそもそも嘘なのか、、


(アレは夏場でも海とかで日光浴しちゃったりするんじゃないの?)


建物の裏側、眩しい西日の方へと駆ける幼女の背を目で追ってから軽く首を傾(かし)げ

再び荷物整理へと手を動かす


(、、しかし、あの車、動かせたら色々便利そうなんだよな~エバとか直せないもんかな?あ、ガソリンが手に入らないか?)






そんな考え事をする時間は




すぐに掻き消された






「いいいいい˝やああああああああぁあぁぁああ」



「キャーーーー」



「わああああああ」



!!?



「ロゼ!?」


悲鳴

三十路はその鬼気迫る声の方へと急ぎ、建物の裏を曲がる


そこに飛んで来たのは


大人の拳二個分程の虫

芋虫の様な、何かの幼虫の様な、、



それともう一つ



知った顔の生首だ

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る