244 重鎮

本作品は群像劇です、目線、日時にご注意下さい



2/21 18:30


「はっ!」


「やぁあ」


「たぁっ!」


ここは王都の北区

まだ年端も行かない、中学生程の少年が木剣を振り回している


「はぁ、だぁああ、、ぁあ?あれ」

近づく馬車に反応し剣を壁に立て掛け

「こんばんわ」


いつものやり取りの様に馬車から降りた顧客へ丁寧に頭を下げる


「やぁ、素振りとは精が出るね休憩中?」


「はい!リッツさん今日早く無いですか?」


「うん、ちょっとね今日はお願いがあって、コウさんもういるかな?」

店の方に指をやり確認を取る


「はい、旦那さんは厨房で仕込み中です」


「あ、もうお仕事中か~手伝わなくて良いの?」


「いや~褒められるどころか休憩中は仕事するなって怒るんですよ」


「良い上司だね~」


「仕事中はすっげぇ厳しいですけどね」

少年は苦笑いを浮かべながら人差し指を口元にあてる


「ははは良い事だよ、仕込み中って事は裏から入った方が良さそうだね」



本来、ソコソコに考える営業マンであれば『早過ぎる』という事も避けるべきである


そんな事は重々承知の若い行商人は真剣な表情で


裏手へと回る



カランカランカラン



「こんばんわ」


「あっれ!?リッツさん?今日は一段と早くないかい?」

しっかりした体格の亭主が仕込みの準備をしている


「すいません!本日は折り入って大事な、急ぎのお話がありまして」


いつもならば何かしらの商品や手土産を持っている筈の手元を見ると亭主は少し顔色を変える

「どうしました?何かうちの商品トラブりました?」

亭主は作業台周りを雑に片づけるとささっと手を拭う


「いえ、まぁトラブル~、と言いますか大事件と言いますか」

茶髪の青年は少し言いづらそうに


だが言い回しを考えているとかそういった利的な事では無いと訴えかける様な真剣な目付きで亭主を見る


「、、どっちだろうね、リッツさんには良くしてもらってるけど、限度はあるよ?」

一瞬怖い表情が見え隠れした、が察したかの様に軽い笑顔を浮かべる


「すいません、ありがたいです!でも直接現金とかでは無くて、、その、商品を、ですね、、自分に売って頂けないでしょうか、今、すぐに!」


青年は深く腰を折り


頭を下げた



・・・



長く感じる


短い時間の沈黙


リッツの握る拳が脂汗で湿り出した辺りで声がした




「いや無理無理、駄目だよ」




咄嗟、歯を食いしばってみたが手が出される事は無かった



「何があったのか知らないが、ごめんね?いくらリッツさんでもそっちの商売は別だ、リッツさんは運ぶだけ、そういう規約だろ?」


「はい、ぁ、ですが」

「コレはコレ、ソレはソレだ、客先で何か言われたんなら上手くスルーして下さいな」

遮(さえ)ぎられた言葉は優しく、だけど重い


しかし、簡単に折れる訳にはいかない


「いえ、客先とかじゃないんです、ましてや何処かで取引して、その、確実に儲けるとかって算段がある訳でも無いんです」


「、、どういう事?」


睨みを利かせる亭主を信じつつもリッツは生唾を飲む


「コウさんから購入した商品、武器の類は寄付に使います」


「は?」


「いえ正確には未来への投資、とでも言いましょうか、、力になりたい人達がいまして」


「あ~分かってはいると思うんだけどさ?うちに流れて来るのは正規のものじゃない、言わば邪(よこしま)な方法で回って来る物だ」

「十分理解しています」


「だったら尚更の事、ソレを使って綺麗事を並べても相手さんも浮かばれないと思うよ?」

「自分は必要悪だと思っています、、力になりたい人達にも理解してもらえると思うんです」


「それは難しいんじゃないかぃ?」


先程からの言葉、台詞の言い回しは軽い

その割に合わない表情と声のトーン

そういった所がまだ若いリッツには凄味に感じ、圧力となる


(マズイな、このままでは埒(らち)が明かない上に関係性もおかしくなる)


最後の切り札


若い行商人は白状する


「いえ!その人は、その人達の中に頭の冴える方がいらっしゃいまして」


「頭が冴えるとかそういう事じゃないんだけど」


「う˝っ、あの、位も高い方が」


「、、それは逆にマズイ場合もあるんだよ?」


「いや!それがですね?役職の割に結構酷い事考える」




「巫女様がおりまして」




一言だった




思っていた商売人としての交渉では無い所


一言で重鎮(じゅうちん)の重い腰が動いた


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