222 遺言

本作品は群像劇です、目線、日時にご注意下さい



2/16 12:20


とても晴れやかな昼時

木漏れ日が聖堂の窓を抜け室内に光が差す

反射し幻想的な雰囲気となったそこには涙を流し、嗚咽(おえつ)交じりの者達が行列を作っている


何十人、何百人、何千人と


数えきれない程の咽(むせ)び泣く声は大聖堂の外まで続いている



号外されてから二日が経つというのに





「、、ぅう、ごほ  こふっ、はぁ  けふ」


ベットで横たわる銀髪の少女?から久方振りの声が鳴る


「シエル様!シエル様!! あぁ良かった  本当に」

跳ねた髪の青年が急いで水を吸飲(すいの)みに移してから少女?の口元へと運ぶ

「どうぞお水です」


「ぁぁ、ん、、」



・・・



「ぅ˝ ぁ、あ ん、、何日、で 何時だ?」

巫女は少し声を整え、窓を見てから状況を確認する


「三日が経って16日のお昼を過ぎたくらいです」


「昼? そう、か」


「、、どこか強く痛む所はありませんか?」


「平気だ、色々やらね~とだろ」


「そう ですね」

従者はすぐ隣の棚へと手を伸ばし三枚のうち二枚の紙を手に取る

「どこからお話しましょう」


「ジジィは、死んだか」


「えぇ」


「治癒した後か」


「分かりますか?」


「何となく、、魔力の残りがある、ソレは遺言書かなんかか?」

体を起こさずにぼんやりとした瞳で従者の手元を見る


「はい、こうなる事は承知していた様です」


「そうだろうな」


「色々とありますが、どうします?まずはお身体でも拭きましょうか」


「、、ん」







「血が足りね~、けど喋るのだけでも怠(だる)いな、顎の力が入らん」


「そうでしょうね!」


顎の力とかそういう問題では無い


動かざること山の如し

身体を拭こうにも口以外を一切動かそうとしない、それは文字通り『一切』だ

寝返り所か足や腕、指でさえ傾ける事すらしない


全任せ!


堂々としたものである



「手紙、音読しろ」


「、、良いんですか?」


「どうせもう読んでんだろ」


「シエル様宛の物は目を通してませんよ」


「良い良いめんどくせ~」


配慮はしたつもりであった

だが天下の巫女様だ、、『あの時』にはもう察していたのだろう


シフは柔らかい布で丁寧に撫でながら言葉を選び、拝読(はいどく)を始める



手の甲を抓(つね)り、そして捩(ね)じられる


「いでででなんで、、って動けるんじゃないですか」


「良いから『そのまま』で読め」


「、、申し訳無いです、では僭越(せんえつ)ですが」


従者は拭いた布を畳み

下着を履かせ、肌着を整えてからもう一度水を飲ませ



ゆっくりと声を上げる





【親愛なる巫女シエル、それと信頼なるシフへ】


【許して欲しいとは言いません、いくら憎んでくれても構わない】


【君達は知的であり利口であり、私の希望である】


【言わずとも直ぐに真実に辿り着くだろう、そして正しい方向へと向かってくれる事を信じ、願っています】


【もう一枚の方に箇条書きではあるが知る限りの事、それと私達の罪を記しました】


【私の代で何も出来ず押し付ける形になってしまった事、ここで終わってしまう事を本当に申し訳無いと心から思う】


【怪我や病気、食べ過ぎに注意して下さい】


【あまりシフを困らせない事、強がり過ぎない事、もっと笑って過ごす事】


【偽りではありません、健やかでいる事を願います   愛しているよ、シエル】





「、、え˝~っと  この後はシエル様の幼い頃の事とかでぶはっ!」


「読んだら殺す」


それは既に裏拳が泣き顔の従者にヒットした後の台詞であった



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