217 狂乱

本作品は群像劇です、目線、日時にご注意下さい



2/12 23:30


「はは! あはははは、はははははは」


見えない位置から嬉しそうに燥(はしゃ)ぐ声が聞こえる


「最後の最後まで凄いね~ほら、あと三十分だよ? 十二時越えたらどうなっちゃうのかな~」

幼さの残る高い声が意地悪な台詞を並べる

「こんなに出来るとは思わなかったなぁ、本当にありがたいよ、、あれ!もしかしてさ?」

閃いた表情で手に持つ球体を頬に寄せ

「その首輪外したら四つ目もいけちゃったりのするのかな?」



悪魔が笑う



「ァ˝˝ァ˝ゥ˝  ァ˝」

死んではいないその小さな身体

人の形をしたその獣から言葉が出て来る事は無く


乾いた口内からはカハーカハーと漏れる息、それと血の混ざった泡

栄養剤や水分、強心剤から増強剤、様々なモノが投与され唾液が少しだけ分泌されたらしい

先程まで引っ繰り返っていた眼球が戻ると虚ろな眼差しで青い扉が開くのを確認した


「、、ッ  ァァ˝」

喉から詰まった血の塊が剥がれ、痙攣と共に床へ落ちる

「オ˝ ァエ˝   ゴロ˝ズ  ブッ  ゴモオ˝ウゥ」

再び鮮明な血液が耳鼻から流れ、溢れ出る様に開いた口から垂れ流す


「うわっ汚いなぁ」

辛うじて全てを躱(かわ)せずに飛沫が長めの白衣に跳ねた


少女の皮を被った悪魔はソレを拭う事はせず

軽蔑(けいべつ)したかの様な眼差しで顎を引き、眉間に皺(しわ)を寄せる


「もう時間無いんだよ? ほら!どうすんの!?」


煽(あお)るその言葉はこんな時でさえも純粋な獣を奮い立たせる


「、ゥア˝ッ   ァ˝ァ˝   ァ˝˝ァ˝」


赤子や子供が激しく泣く様には声が出ず

ただただ醜い音を撒き散らす


「ふふ、そう?頑張るんだ? じゃあほら!外してあげるからさっ!」

悪魔の手にした糸がフェリスの喉を締める


「ガッ  グヴゥ˝」


縛られた糸は徐々に上へと上がり、首吊りの体勢になる


「ごめんね~、このままだと絶対僕の事食べちゃうでしょ?急ぐから死なないでね」


ガチャガチャと首輪部分に何かを取り付けると鼻歌交じりに部屋を出る


「ヴッ ァ˝  ッア˝」

その本体はバタバタと足掻く事も出来ずに、出来る限りの酸素を取り入れる



・・・



「じゃあ動かないでね?いくよ~」

それ程時間はかからず、すぐに音声のみが聞こえ始めた


有無を言わさずに仕掛けられた何かが音も無く喉元で可動する



ほんの数秒後



カラン



地に落ちる音がした



「どう?開放的? 取れた感想とかある?」

部屋のどこかからは変わらず愉快そうな声が響く





その時だ






ゴゴォゴガアァアアアアアアアアア!!!






雷が落ちた



地下、奥深くの部屋だ

そんな筈は無いのだが直撃した部屋は瞬時に爆発した



ドン!



ボン!!



ドカン!

と辺りの機器が綺麗に大破し炎が舞い、床が割れ始める

強固な壁、天井が次々と崩れ、悪魔の声も聞こえなくなった


その原因、咆哮(ほうこう)を放った口からは辛うじて風の通る様な音がする


「ィ˝  ロ˝」


今は希望の名を吐き出す事すら叶わない

だがこの機会を逃すかとばかりに震える足に力を込め、立ち上がる


巨大化出来る程の力など残っている筈も無く

弱弱しい手足、首元から力が抜けていくのが分かる


今も尚、藻掻(もが)く程に絡まる糸を引きずりながらフェリスは走り出す


願う様に


涙を流しながら

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