199 集荷
本作品は群像劇です、目線、日時にご注意下さい
2/9 19:30
カランカランカラン
「こんばんわ~」
行商人は輸入元の店にて挨拶を交わす
「あれ?リッツさん今日は早いね~」
しっかりした体格の亭主が床をブラシで擦っている
ここは王都の北区
行商人はいつも通っている顧客先の店内、裏扉から荷物を持って来た所だ
入ってすぐの厨房がゴシゴシと良い音を立てながら泡立っている
「お掃除中でしたか」
「あぁリッツさん良いよ良いようちのにやらせるから、お~い!坊主一回手ぇ止めて裏の荷物お願いして良いか?」
亭主はブラシを立て掛け得意先である商人の持つ物資を片手で受け取ると店の奥、いや正確には店の入口に聞こえる様な声を上げる
「はい!すぐに、今すぐ向かいます」
若い声がする
「全然、いや全然そんな、今回少ないですし」
「あ~あ~良いの良いの頑張ってるとこ見てやって下さいよ、すぐお酒持って来させますから店の方で適当に座ってて下さい」
亭主は人差し指を立てながら物資を別室へと持って行く
「あ、え、あ~はい すみませんです」
(うん、まぁ、うん、、勉強になるなぁ)
力仕事も業務上やっているだけで得意では無い上に女の子とお酒のサービス
さらっと悪気の無い断りづらさも出して来るあたり流石水商売の経営者といった所だ
「降ろし終わったら今日収穫した分全部持って来いよ!」
「はい!」
「ごめんね、じゃあお願い~」
亭主の指示にテキパキと動く少年に笑顔で会釈をする
「はい!あ、リッツさんか、いらっしゃいませ、姉ちゃん今日は厨房の方だからマーヤさんが来ると思います」
「そっか~、う~んそれは残念だな~」
特別『姉』を贔屓(ひいき)にしている覚えも無いのだがしっかりと残念そうな表情を作る
裏口からぐるりと回り、正規の入口から店内へと入る
まだ開店前という事もあり客はおらず、椅子が上がったままの所もある
それ程何かを期待している訳でも無いし急なサービスを受ける側だ、見て見ぬふりをしてからカウンターに腰掛け待っている間に帳簿をつける事にする
(今日の分まででアレの分は回収出来た、もう少しかかると思ってたのにやっぱり凄いな~なんかグッズとか出せないものかな? チエさんとかに相談してみるか、、最近会えて無いけど新作とか書いてたりするんだろうか?)
ペンを置き、次は予定表に目を通す
(明日は午後にレイ様か、、午前中は休みにしちゃおう、ジンさんの所行ってからディーン王国)
(明後日は港方面だからついでに人員乗せてからドワーフさんの所にでも行っておこう、ギンさんまた値切ってくるかな~苦手なんだよな~)
ついつい苦手な顧客の事を考え渋い顔になるのだが
「あれ?開いてる」
後方、入口の扉が開き兎耳が見える
「すいません、早めに入れてもらっちゃいまして」
即座に表情を戻し、いつもの営業スマイルで迎える
「あ、リッツさんだ? そうなんですね~、え?じゃあこのままの格好で接客しても良い感じですか?」
「え?私、ぁ 僕は構わないですけど」
嘘である、サービスでも折角なので綺麗な格好で接客して欲しいものだ なので
「でも、他のお客さん来たら不味く無いですか?」
「ははは~嘘嘘、嘘だよ~はいどうぞっ、じゃあ少し待ってて下さいね~」
うさ耳の付いた人の良さそうな女性はカウンターに回り手際良く簡単なドリンクを作ってから奥へと引っ込む
(お洒落さんではあるけど、どうせならね)
少し待つと薄桃色の高級過ぎないオフショルダードレスを身に纏ったマーヤさんが軽いドヤ顔で登場した
追加でもう一杯飲んだあたりで亭主が小料理を二皿持って来た
そのまま仕事の話になり、いつもの配送依頼を受けたので勿論値引きをする
こういうやり方が『商売』である、がリッツも嫌いでは無い
単純に自分の利だけを考えたスマートでは無いやり方が嫌なだけだ
それから最近のお国事情を混ぜ、他愛の無い話をする
3杯程飲んで会計
席を立つと亭主、うさ耳、姉弟までがわざわざ外まで見送りをしてくれた
まぁ、暇な時間帯だったのもあったんだろう
帰る間際に廃棄になってしまう野菜が大量にあると聞いたので全て頂いておくことにした
いやいや、決して金儲けやリサイクル、、再利用とか勿体無いとかそういう意味では無い!
あくまで『土産』として
商品では無く
利になる『土産』として
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