178 立役

本作品は群像劇です、目線、日時にご注意下さい



2/11 19:30


「ぁ?魔界だぁ?」

銀髪の少女?の口の周りは昨日と同様、青海苔まみれである


依頼を済ませた巫女を筆頭に従者、エルフ、王子が帰還したのはつい先程の事

やたら泥だらけのエルフは赤鬼が風呂に連れて行き、巫女は繋ぎのポテチをつまんでいる



ちなみに本日の依頼はドワーフ達からだ

場所はここギルドから南西に位置する炭鉱、住処(すみか)にもなっているらしい

救援要請だったので念の為シエルも向かったのだがなんて事はない、ただの人員不足だったらしい

聞けば万年人手不足で少しでも手伝いが欲しかったんだとか

(まぁ確かに、救援の割に「来れる時ならいつでも良い」という部分は気になっていた所ではある)

正直小狡(こずる)い依頼の頼み方だが聞いていたカセンは「ドワーフらしい」と言っていた



「ったくこっちはペコペコのクタクタなんだ、アホらしい事言ってないでさっさと飯作れ」


「まぁクタクタって言っても怪我人なんか居なかったのでシエル様は見学してただけなんですけどね、、いだだだだ、いや、本当の事ですよね」

巫女は従者の足を踏みつけ、立ち上りついでにカウンターからフライパンの方へと手を伸ばす


「ダメダメ、待て待て待てってばもうちょいだから」

つまみ食いを華麗に躱(かわ)しながらジュワジュワと音を鳴らし、亭主は仕込んでおいたホワイトソースにチーズをぶち込み溶かしていく

「ってか繋ぎでポテチ食べてるでしょうに少しはじっとしてなさいな、アルこの海苔巫女様にご足労かけちゃったみたいだから酒でも注いでやって~ あ、エバはそれ茹でちゃって良いよ」

テキパキと手を動かし、軽口を入れながら口も動かす



「ふぅ魔界、ですか、そんなもの聞いた事無いですよね」

バルが手と軽く顔を洗い終わり着席する


「魔族がいるんだから魔界もあるのかな~ってジンと話してたけどそういうんじゃないんだ~?」

ツインテールがシエルのグラスにお酒を注ぐ


「んっくんっく、、はっ、んなもんあったら異形どころじゃねぇだろが」

速攻で口の中の塩分を泡立ったソレで飲み干し、再度アルの前に置き直す


「まぁそれもそっか~」

もう一杯だけ注ぐとそのまま瓶を置き、ジンの手伝いに戻る


「やっぱり罠でしょうかね?」


「十中八九そうだろうな」


「う~んでもさ~今日来たのって騎士団の人だよ?あたしリッツと会う前にあっちでお話したし、もしそうだとしたら変じゃない?」

疑いから入るバルとシエルの会話にアルがしっくりしない顔をしている

「だってさ~王子様を守るべきポジションの人だよ?わざわざそんな嘘の依頼なんか持って来る?」


「あぁ、しかも王からの依頼で五億だろ? あからさま過ぎんだよ」


「え?ど~ゆ~事?」


「嘘では無い、吸血鬼は居るって事ですよ」

従者が横から少し困った様な顔でフォローをする


「ディーン王国の東側なんて禁止区域だぞ、大橋を渡れば『死者の国』  相手は吸血鬼たかが一体の分際で五億だ?クソが!あのおっさん 相変わらず全てが胡散くせ~んだよ」

シエルは不機嫌そうに瓶ごと口へと運ぶ

(魔界なんてものがあってたまるか、他に何か狙いがあるに決まってんだ)



以前にも軽く聞いた話だ

東の国、今は死者の国と呼ばれている

流行り病だかウイルスが原因で滅んだとか、、

亭主が巫女の顔を伺いつつ考えをまとめていくが


「ほ~れほれぇ~綺麗になったぞ、アル~あっしらにも酒よこせぃ!」

「あぁぁカセン殿、大丈夫、大丈夫だ自分で 一人で出来る~」

赤鬼がエルフの髪をわしゃつかせながらカウンターを通り過ぎ、子供の様に座敷の方へと向かう



・・・



「ったく大事な話してんのにお前らは~、一気に空気変えやがって」

料理をしながらもしっかり聞いていたので邪魔をされた感は否めない

「何?カセンは今日そっちで飲むの?」


「お~そうするかの、ん!なんじゃなんじゃ?シエルはま~た何を難しい顔しとるんじゃ」


「ぁ?」


「吸血鬼の話が出たんじゃ、罠だろうが何だろうが向かうんじゃろ?」


流石、といった所だろうか

カセンの中では昼間ニールの口からソレを聞いた時にはもう決まっていたのだろう


「、、ちっ、偉そうに、ったりめ~だ 明日の夜出るぞ」


「え、明日!」


「夜なんだ?」


急に決まってしまった予定にジンは頭の中で献立を、アルは寝るタイミングをフル回転で考える



そんな中



「む?明日も発掘作業か?」


エルフだけは何も分かっていない
















(う~んまだ、あそこには向かって欲しくなかったのですが)




(頃合いも頃合い、なのでしょうか?)




一人外を見つめ、一度だけ軽く息を吐く


窓に付いたその結露はまるで戸惑いが浮かんでいる様に見えて少し癇に障った



ポケットからハンカチを取り出し


その雫を綺麗に拭い取る



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