177 潮騒

本作品は群像劇です、目線、日時にご注意下さい



2/11 12:30


「いや~それにしても凄かったですよね~」


茶髪の青年が今しがた昼食を終えた所だ

飽きもせずに来店時と同じ事を言っている


「ほんとあっちにいたんなら運が良かったと思うよ? 俺も近くで見たかったな~」

亭主は食後のコーヒーを淹れながら若い行商人の相手をする


「けどリッツ、キーロに会えてないんでしょ?意味ないじゃん」

ツインテールが自分用の昼食をテーブルへと置き、あからさまに口を尖らせる


「だってキーロ君だとは思わないですよ、あと近いって言っても宿から見えただけですし」


「なんで走って見に行かないかな~」


「えぇ、夜にあんな丘の方へなんか誰も行きませんって」


「も~つっかえないな~」


可愛くぷいっとした訳では無い、明らかに不機嫌

目の前の鉄板の上に乗っかっている鶏肉の塊、ソレにフォークを上から刺し、そのまま豪快に口へと運ぶ


亭主に「今日は自分で作ってみろ」と言われた彼女の昼食だ


「ワ、ワイルドですね~   アルちゃん最近私に対して当たりが厳しいんですけど、ジンさん何か知りません?」

リッツがカウンター越しに耳打ちをする


「ははっ、まぁアレだよ、乙女心なんじゃね?」


リッツにはコーヒー、アルには照り焼き系の追いソースをテーブルに置いてやり頭をポンポンと撫でる



(しかしなぁ、異世界はこうも感覚が違うのか、やりづらくなってなきゃ良いけど)

ジンは洗い物に手を付けながら本日不在である巫女らのテーブルに目を移す



リッツの情報、と言うかまだ噂話程度なのだが


昨日打ち上げられた20発程度の歪な花火

こっちの世界の人には刺激が強かったのか、町の方では「星を落とす為の兵器」と噂されているらしいのだ

いや、刺激が強いと言うだけでは無い



【今から二十年程前、東の国に巨大な光が放たれた事がある】


【原因はとあるウィルスを死滅させる為と言われている】


【その国は現在  不死者が蔓延る『死者の国』と呼ばれている】



コレだろう



見た事の無い物、現象に今度はどんな兵器を開発したんだろうかと注目されているのだ


むしろ他国からしたら尚更の騒ぎになりそうなものだがその辺はリッツがまた色々と聞いて来るだろう



(俺からしたら魔法があるんだから火薬くらいでな~、、ってか火薬あるのか)



カランカランカラン



とエバが取り付けてくれたドアベルが鳴る


「お!?いらっしゃいませ~、どうもお久しぶりですね」


「ももむぐ、むぐ  いっいらっしゃ」

アルが口を抑えながら入口の方を向けずに声だけを出す

「いや、良いってご飯中は休憩と一緒だから」


「あれ?こんなところで! 奇遇ですね~」


(おいリッツ君さらっとこんな所っておい)


「あぁ君は商人の、、同じ方角だったのなら頼んでしまえば良かったね」


「本当ですよ~、自分みたいなのはそれで生計を立てているんですよ?全然使ってやって下さいよ~  あ!ジンさんコーヒーをお出しして下さい、お代は私が」


要件も何も分からない状態で「それで」と言う辺りと咄嗟のゴマスリドリンクは流石の商人と言った所か

席を立ち、隣の椅子を軽く引き「ここへどうぞ」とばかりの顔である


(すげぇな、見習った方が良い系? ってかこの人そんな凄い人だったの?)


「では、一杯だけご馳走になります」


青い髪をツンツンとさせた騎士は会釈(えしゃく)をするとその席へと座る


「ここへ来たと言う事はご依頼か何かですか?」


(俺が居る意味! まぁ、知った仲なんだろうし任せるか)

リッツに先を越され、淡々とコーヒーの準備だけに集中する


「えぇ、此処に吸血鬼退治のプロが居ると耳にしたものですから」



その言葉にギルド内の雑音が一瞬止まった、そんな気がした



「これを」

早々に騎士は亭主の前に一枚の封筒を出す




・・・・・・




手紙の、依頼内容を要約するとこうだ


まず、ディーン王国東側に魔界に通じると言われている穴があるらしい

その穴を守護するかの様に館が一つ建っていて長い間吸血鬼の住処になってしまっているとの事

王国だけの力では制圧し切れずにいる為、ギルド側でなんとかならないものか、、と



討伐対象はその館の当主




ロゼッタ・F・Y 




その額




生死問わず 5億

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る